ネオンテトラと新時代 50
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【シクリッド】VIPルーム
「やあ、よく来てくれた」
俺は、我妻紫帆に座るよう勧めた。
おずおずと座る紫帆さん。
やや上気しているように見えるが、そろそろ肌寒いからね。
先週、木戸さんや上山さんのお相手をしている時に、紫帆さんが【シクリッド】を訪ねて来ていたと、メグから聞いた。
というか、あの後大変だった。
メグは俺と紫帆さんの関係を勘繰って、なだめるのに苦労した。
が、最終的にはこってりと搾り取られて許された。
何を搾り取られたかって?そりゃ皆まで言わないが。
翌日は燃えカスみたいになったよ。
「先週はすまなかったね。
ちょっと立て込んでいて」
俺もソファに腰掛ける。
「いえいえ、私が押しかけちゃっただけなので……」
あの時は紫帆さんも大概な状態だったからわからなかったけど、改めて見ると、この子はカワイイ。
なんだろうなぁ、華やかさが違うんだよなぁ。
メグが気にするのもわかる気がする。
「その後どうですか?」
メグの用意してくれた野苺の柄のティーセットで、紅茶を淹れる。高級ダージリンだそうだが、俺は紅茶には疎いのでよく分からない。
紫帆さんは、ミルクと砂糖をたっぷりと入れて、ミルクティーにするようだ。俺はストレートで頂く。
うん、香りは良いけど苦い。
「はい。ジュンヤさんの仰る通り、社内で何か変わった事はありませんでしたから、仕事に支障はありませんでした。
それはそれでどうかと思いますが……」
まあ、そうだよな。
あの業界はある意味、狂ってるんだ。
「それは何よりです」
ちらりと部屋の出口の方を見る。
何故だろうね?雪村が立っている。
「あ、そうだ。
まずはこれを……」
と、紫帆さんは紙袋を差し出してきた。
「あー、貸しっぱなしだったね。
わざわざありがとう」
俺のオータムコート。
地味に不便だったんだよね。有難い。
紫帆さんは、もじもじと言い出し辛そうにしている。
何だろう?
とりあえずリラックスして貰わないとな。
「ここはね、俺がお世話になっている女性の店でね。
こうして、たまに融通を利かせてもらってるんだよ」
お世話してる、でしょ。
と、雪村が呟いた気がしたので軽く睨む。
と、ため息をついて視線を下にして素知らぬ顔をしやがった。
「は、はあ。
メグさんですか?」
「うん。
よく気がつく、素晴らしい女性だよ」
「でも、オーナーだと伺いました」
「ああ、それはなんというか……
そう、ニックネームみたいなものだ。
気にしないでくれ」
「はあ」
「みんなおふざけが好きでね。
俺も困っている」
本当の事である。
「……何があったか、聞かないんですか?」
「ん?」
「あの日、何があったか?
気にならないんですか?」
「気にならないと言えば嘘になるが……
こうして我妻さんがー」
「紫帆でいいです!!」
「……紫帆さんが元気な顔を見せてくれているんだ。
それだけで十分じゃないか」
なんか紫帆さんがうるうるしてる。
対応を間違った?俺ミスしました?
チラッと雪村を見たが、特に何の反応も無かった。
「……聞いてもらえませんか?」
「いいよ」




