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ネオンテトラと新時代 45

5-45


 「次のナレ撮り、紫帆ちゃん?」


「はい、3本まとめて撮っちゃいますー」


「ふーん」


 【ツキテレビ】報道班のディレクター、田代 秀俊(たしろひでとし)

12年目のプロパーで、新人時代は将来を嘱望された優秀なテレビマンだった。

しかし、持ち前の正義感から局としての報道姿勢に異議を唱えた為、経営陣に睨まれて衛星放送に飛ばされていた。

が、経営方針の転換により、少し前に地上波に戻ってきた。

元が優秀であり、上からガタガタ言われない環境で伸び伸びと番組制作を行っていた為、ディレクターとしての手腕は抜きん出ている。

現在、報道班のエースとして扱われているが、田代自身、自分の扱いの変化に戸惑っているような状況だ。



 【ツキテレビ】の報道班は、昔ほど大事に扱われていない。

昔はニュースの重要性が高く、何のためにテレビを見るかと言えば、ニュースを観るためだった。

しかし時代と共にバラエティ番組が台頭し、数字を稼ぐようになる。視聴率が評価基準の【ツキテレビ】において、次第に報道班はお荷物扱いされ始め、キャスターやコメンテーターが私見を述べるニュース番組やワイドショーに活路を見出すようになる。

しかし視聴率を取るためにバラエティ色を取り入れ始め、またスポンサーや経営陣の意向に沿って偏向報道へ傾き始めるのに、そう時間はかからなかった。

今やニュースの体裁を取ったプロパガンダであり、社内でも冷笑の対象になるほど。


そんな時だ。

牛窪 源一が彗星の如く現れ、【ツキテレビ】の報道体制の改革に乗り出したのは。

源一は、改革の一丁目一番地は報道である!とぶち上げ、

【報道が変わる!日本が変わる!】

をスローガンに、積極的に人事に介入し、経営陣もそれを良しとした。



 秋の番組改変で、いくつか番組編成に変更があったが、本格的には3月末に大きな改変が行われるだろうと予測されている。その他の番組は継続となったが、会社から出る指示は劇的に変化した。

キャスターやコメンテーターに出ていた偏向指示は影を潜め、テロップなどの表示も、無駄に誤解を煽るようなものがなくなった。事実を公平に伝え、追跡取材をこまめにするようになったのだ。


 例えば。

とある与党議員に収賄の疑いがある、と週刊誌に載ったとする。根拠は状況証拠だけであるが、国会で野党が質問をしたとする。この議員が誰かにとって都合の悪い人物であった場合、ニュースにどう出るかと言えば、

【〇〇議員に収賄疑惑!!】

である。

コメンテーターは難しい顔をして、

『政治家の汚職は、目に余る物がありますねぇ』

と、事実かどうかもわからないのに、既成事実化する。

これが新聞各紙、テレビ各局で行われた結果、その議員は無実である可能性が高いのに、次の選挙で落選することになる。

茶番も良いところだが、2020年代になってSNSが活況となる前は、それが国民の知る作られた真実だった。



 【ツキテレビ】は、この偏向報道の茶番に加担しなくなった。

怪しいコメンテーターを起用することも無くなった。

無駄に大学教授や弁護士を呼ぶことも無くなった。

無礼でデリカシーのない突撃取材、圧迫感のある囲み取材もしなくなった。

余計なモノを省いて、報道の本来あるべき姿に立ち戻ろうとしていた。


 まだ環境が変わって数ヶ月であるが、田代には報道班としての誇りがむくむくと湧いてきている。

突撃取材をせずに、正面から礼儀正しく独占取材を申し込む。当然ほぼ断られるが、ポツポツと今までメディアを毛嫌いしていた人からの独占取材が取れることもある。

ニュース番組では編集したものが放送されるが、衛生放送の深夜にノーカット版が放送された。

偏向報道されないとわかると、取材に応じる人が出てくるのは道理なのだ。


 偏向報道に加担したくなかった人々は、両手を挙げて歓迎したが、そうでない人間もまた存在する。

メディアを、自分の好き放題出来るオモチャだと思っている者たち。

そういった属性の者たちを、源一は容赦なく左遷した。

そして、今まで日陰に置かれていた者たち、田代のような有能な者たちを呼び戻した。



 そうすると面白くないのは、一連托生と結託してきた他のテレビ局やメディアだ。

上層部の方では、ある意味事故のような形で異分子が入ってきちゃったね、という同情の思いが強い。

いずれまた元に戻るさ、という大局的な考え方だ。


 しかしその下の層や、広告代理店は即座に腹を立てた。

すぐに動き出し、まずは公然とスタッフの引き抜き工作を行った。

しかしそれは、大筋で失敗に終わる。

源一はそれを見越して、懸賞金付きの通報システムを作っていたのだ。

引き抜きの証拠を持ってきたら何十万、音声が取れたら何十万、といった具合だ。

そして集めた証拠を美味しくニュースとして取り扱ったり、週刊誌に流したり、弁護士を介して警告を発したりした。

それが無くとも【ツキテレビ】の報道スタッフは、真実を曲げずに報道できる期待感に抗えなかっただろう。


 次に彼らはスポンサーの引き揚げ工作に取り掛かった。

そう簡単にはいかないが、徐々にその毒は【ツキテレビ】に食い込んでくるはずだ。

そしてさらに、記者クラブで爪弾きにした。

実に中学生っぽい嫌がらせだが、それなりに効果はある。

今現在、源一を悩ませているのは、そのあたりの対応だ。



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