ネオンテトラと新時代 43
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「むむむ。
いや確かに、筋は通ってますが……
あまりにも冷えた目線ではないでしょうか?
政治家には、理想を胸に、日々頑張っている先生もいるのですよ?」
「はい、それは否定しません。
私が申し上げたかったのは、民営化が良い事か悪い事かはわかりませんが、民営化して欲しくない人と、民営化して欲しい人、どっちが多いのかな?という考え方もあるのではないか?という事です」
「岸谷さんの弁を借りるなら、民営化した方が、新しい利権獲得者が増える分、賛成派が多数となりますね」
「そういう見方もあると思います。
既得権益の保持者、そして将来利権の椅子を狙える可能性のある人全員を対象とした場合、賛成派が多数となるかと思われます。
ただ、決めるのは国会です。
政治家の皆様に限って言えば、賛成派と反対派は拮抗しているように思われます」
上山さんは腕組みをして考え込んでいた。
寝ているわけじゃないよね?
「……岸谷さんも、何らかの旨味を得たいと思いますか?
それが得られるなら、郵政民営化に協力しますか?」
こちらを探るような目。
政治家だなぁ。
「上山さん!
それは岸谷さんに失礼でしょう」
「酒の席での話じゃないか。
腹を割って話をしましょう」
そうだな。
確かに民営化利権に加われるなら、莫大な株式売却益が見込めるかもしれない。直接やらないまでも、銀行や証券会社、投資家に話を持ち掛ければ、返しきれない恩を売ることも出来るだろう。
悪い話じゃない。
だが……
「私はしがない一投資家です。
こうしてお二人とお話をするだけでも、体の震えが止まりません。そのような大それた事、考えたこともございませんよ」
「ガハハ!そうかね。
まあそういう事にしておこう」
上山さんの探るような目線は、すぐに雲散霧消した。
そして木戸さんは、ジトっとした目で俺を見ていた。
え、大それた事なんかしてませんよ?
ラジオ放送局の買収騒ぎに介入したりなんか、してませんからね?
素知らぬ顔をするしかなかった。
元より、件の民営化に介入する気はない。
確かに利権を手にすれば、利益は計り知れない。
だが、俺は金に困っていないし、権力にも政治にも興味がない。リスクを冒してまで欲しいものではない。
俺の頭には、妙子とメグを筆頭に、悠華さん、青木さん、皿橋に新垣……様々な人々の顔が去来しては消えていった。
まっすぐで、人が良くて、曲がった事が大嫌い。
彼女たちを失望させることが、何より恐ろしい。
俺は小さく肩をすくめるのだった。
「先のご質問ですが」
民営化が成るのか否か、である。
「どちらに、より強い思いが乗るのか。
それ次第という気が致します」
普通のことを言うしかなかった。




