ネオンテトラと新時代 39
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「紫帆の奴、ノリ悪いよなぁ!
わかるだろそれくらいよぉ」
「はは、全くですよね。
レギュラーに抜擢してあげたのに、何考えてるんでしょ」
木下から見ても、紫帆はノリが悪い。
お約束というものを全く理解していない。
ここは陣内に抱かれて然るべき場面でしょうに。
ついでに俺もお願い出来ませんかね。
「俺がな!
エボ川のエロ親父が自分で手を出した癖に、今更アキに纏わりつかれて面倒くさいって言うから、アキを下ろして俺が紫帆をねじ込んでやったんだ!
わかるよなぁ?
恩には報いないといけないよなぁ?」
「仰る通りです!
わかってないですよねぇ!」
「そうなんだよ、分かってねぇよなぁ、ったくよぉ!
せっかく男好きする顔と身体持ってんのに、自分の武器を使わねぇって、どういうこと?
揉み心地も良かったぜぇ?」
鷺ノ宮は、飲み会で味見した紫帆の胸の感触を思い出していた。直にではなかったが、下着越しでもわかるハリと柔らかさ。ありゃあ、脱いだらなかなかのものだろう。
反応もウブで良い。
その辺が、アキとかと違って良い所なんだよ。
「え、ドサクサに紛れて何やってんすか。羨ましい!!
紫帆ちゃん、割と社内で人気あるんですからね。
気をつけてください」
「俺が抜擢してやったんだ。
それくらい当然だろ。
そうだ、おまえも今度やってみろよ。
意外とあいつ喜ぶぞ?」
「本当ですかぁ?
お薬の影響じゃないっすか?」
「そうだよ!薬!
おまえちゃんと薬入れたよな?
量、足りてなかったんじゃねぇの?」
「ちょっと、勘弁してくださいよ。
いつも通りの分量、キッチリやってますから」
「うーん、そっかぁ。
まあ、しゃーねぇな。そういうこともある」
よくある事である。
いつの世も、ノリの悪い奴は一定数いる。
若いタレントなんぞ、それこそ幾らでもいるし、星の数ほど湧いてくる。煌びやかな世界に憧れる光しか見てない世間知らず。あるいは、スポットライトを浴びるためなら、何だってやる奴。
代わりは幾らでもいる。
女性アナウンサーとて、例外ではない。
多少、頭は回るのかもしれないが、鷺ノ宮から見れば全部一緒だ。テレビという甘い蜜に群がるアリだ。
出たいんだろう?テレビ。
だったら、跪け!媚びろ!俺を喜ばせろ!
昔の上司もそうだった。
何ならもっともっと酷い。
俺は優しい方だよ全く。感謝して欲しいね。
「紫帆ちゃんどうします?
少しお休みしてましたが、今は普通に出社してます」
「ノリの悪い奴はいらねぇな。
ゴールデンからは干せ。
色々ナレ取りとかあるだろ、適当にやらしときゃいい。
そのうち心を入れ替えるかもしんねぇし」
殊勝な顔して、俺に媚び売って来るのが楽しみだ。
未来のお楽しみが一つ出来て、鷺ノ宮はニヤリとした。
今回の失態を取り戻すのは大変だぜぇ?
「そっすね。
やっときやーす。
それはそうと、タレント発掘オーディションの最終選考者が挨拶に来てますよ」
「おい木下、そういうのは早く言えよ!」
木下のケツに強めのサイドキックを喰らわせる。
さてさて、誰が俺を喜ばせてくれるのかぁ?
おじさん待ちきれないぜ。
鷺ノ宮の脳裏に、もはや紫帆のことは1ミリも残っていなかった。波にノれない人間は、この業界じゃ生き残れない。
「初めまして、ゼネラルプロデューサーの鷺ノ宮です!
一年後、ドームコンサートのステージ、その真ん中に立っているのは君かな?君かな?いや君かなぁ?
さあ、番組を盛り上げて、輝かしい未来のチャンスを掴んでください!!」




