ネオンテトラと新時代 36
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我妻 紫帆です。
部屋に帰ってお風呂に入って、一息つけました。
破れたワンピースは、もう廃棄。
お気に入りだったのに!
だんだん身体の熱さもひいていきました。
これは……薬を盛られましたかね?
なんて、なんて汚い奴ら!!
「こりゃー、干されるなー」
誰に言うでも無く、呟きます。
バラエティ班の最高権力者、鷺ノ宮さんの意向?を無視した、ということになるんでしょう。私はレギュラーを降ろされ、新人に混じってロケのドサ回りですかね。
最悪、地方局に飛ばされるかも。
「もーダメだー」
そんなしょーもないことより!
未だに、顔の火照りが引きません。
『君、大丈夫か?』
と、声をかけてくれたのは、私より年上に見える、素敵な人でした。戸惑いを隠せない表情が、今となっては何とも恥ずかしく、そして可愛いと思ってしまいます。
そして、怯える私に、コートを
ファサッ
ですよ!
大事なことなので、もう一度言いましょう!!
ファサッ
です!
ちょっと奥さん!事件です!!
王子様は実在しました!!
そう言えば、彼のコートをそのまま掛けて帰ってきてしまいました。なんか良いしつらえで、すごく高そう。
くんくん。
シトラス系の良い匂いがしますね。
今度返しに行きましょう。良い口実が出来ました。
確か、高そうな腕時計もしていました。
私でも知ってます。成功者の象徴、レトリック!
イヤらしく見えない自然な着こなしが、上流感を感じさせます。多分あれは、かなりの金持ちだね。
紫帆様の目は誤魔化せないよ。
そして、
『怖がらなくて良いから』
なんておいおい!私は小動物じゃないから!
どこかの谷の姫姉様しか言っちゃダメだろう!
カリッと噛むぞ!!
この小動物は暴れん坊だぞぅ!!!
「ハァハァ」
柄にも無く、ちょっと興奮してしまいました。
「ジュンヤ、あなたは誰なの?」
言ってみただけです。
再び顔が熱くなってきました。
やだ、呼び捨てなんて、なに舞い上がっちゃって。
「あ、会社に連絡しなきゃ」
パンツ一丁にタオルを首から掛けたスタイルで、ガリンコ君というアイスキャンディー片手に、ガラケーをぽちぽちして上司にメール。
ジュンヤさんの言う通り、明日と明後日は休みます。
女性アナウンサーの体調不良というやつです。
ずっと働き通しだったし、バチは当たらないでしょう。
私は何の為に、こんなに必死になって働いてきたのだろう……。
はぁ……。
「そう言えば、あの子はジュンヤさんの何なんだろう?
コズエさんだっけ。部下?恋人?……不倫相手?」
かなり可愛い子。
私より年上かな?
上品で、髪も綺麗に巻いているし、何より賢そう。
物腰から上流階級のオーラを感じました。
とても親しそうでした……。
何だかモヤモヤします。
「紫帆、あれはただの部下よ、そうに決まってる!!」
両手をグーに握りしめて、そう思い込むことにしました。
ダイニングテーブルの上には、ジュンヤさんから貰った、謎めいた【シクリッド】のカード。
「渋谷のお店なのね……」




