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17/200

ネオンテトラは始動する 17

-1994年8月-


「うわー!海が綺麗!!」


「砂浜が気持ちいい!


下田の海水浴場。

湘南と違い、下田まで来ると、さすがにあまり人がいない。


下田の、ビーチまで3分の高級ホテルに一泊二日、ネオンテトラの夏合宿には、予想以上に参加者が多かった。

仕方がないので、横浜から運転手付きのプライベートバスをチャーターした。車3台くらいで適当に行けるかと思っていたのに。

もう怖いものなどない。



総勢20人の、色とりどりの水着を着たメンバーが、きゃいきゃい騒いでいる。こういうのを役得、というのだろうか。


中でも、新垣の黒の紐ビキニが圧巻だ。

小麦色の肌にダイナマイトボディが、白い砂浜によく生える。

ビールのジョッキでも待ってくれたら、ポスターの完成だ。

ここは日本で合ってるか?


有希の上品なチャコールグレーのワンピースもかわいい。

俺は確かに天使を見た。

有希は何でもかわいいのだが。


が、どうしても目が逝ってしまうのが、曽良岡のクリムゾンレッドの柄モノの、パレオ付き三角ビキニだ。

相変わらずズルい、ズルいぞ妙子!

セレクト自体は可愛い方向なのだが、メリハリのあるセクシーな体型をカバーしきれていない。

ごく自然に、可愛いとセクシーを織り交ぜてくる、その小悪魔加減があざとい。そして本人に自覚がない!!

あまり見ないようにしよう。


……皿橋は、まあいいか。


一年も、まあいいか。



俺は、ビーチパラソルの下で荷物番をしている。

アロハシャツに海パン、サングラスで、地元局のラジオを聴いている。家族で海水浴に来たパパ気分だ。


海では、有希と新垣による水泳対決が盛り上がっている。

みんなのために持ってきた、デカ目のクーラーボックス(運転手と二人で運んだ)から、ラムネを拝借していると、


「せーんぱい、何飲んでるんですか?」


妙子だ。

両手を膝について、覗き込んでいる。

その屈み方は、青少年には目の毒だぞ。

セクシーな女芸人がやって一世を風靡した、

いわゆる、でっすーの!ポーズだ。


俺は思わず右手で顔を押さえてしまった。


「ラムネ。おまえも飲むか?」


「わぁ、良いなぁ!私にも頂戴?」


クーラーボックスを開けようとすると、


「これで良いです!」


と、俺の手からラムネをひったくった。


「あ、こら」


「えへへー」


だから両膝ついて、両手で飲むな!

そして、そんなにぐいぐい飲んだら溢すって。

ていうか、何でこっち見ながら飲んでるんだ?器用だな。

言わんこっちゃない、可愛い唇から溢れ出した俺のラムネが、妙子の胸に流れて……

いかんいかん!!

平常心!平常心だっ!!!


おい今、俺のラムネ瓶をペロっとしたな!!

艶めかしくな!俺のラムネ瓶をな!!


ほんと一回、ぶん殴ってやろうかな。


「仕方がないな……」


「ウフフ!」


動揺を悟られてはいけない。

ま、妙子に自覚はないんだけどな。


こういうことを天然でやってくるので、気を抜けない。



「かいちょー!!

荷物見てますから、会長も泳いできたらどうですかー?」


一年達だ。

水泳対決は、新垣の勝利で終わったらしい。


「よっしゃ!

有希、あそこの浮島まで対決だ!」


「今やってきたばっかだし。

それに、直美ちゃんとお昼聞いてこなきゃ」


タオル片手の有希と、オモチャみたいにコクコク頷く皿橋である。


「はーい!

じゃあ私がお相手しまーす!」


「じゃあ妙子ちゃん、お願いね!」


二人は去っていった。


「お、おい……」




「じゃあ、いくぞ!」


「はーい!」


「1、2、3!!」


……遅い。

そうだ、こいつは運動だけは、からきしだった。

泳いでるのか、溺れてるのか、よくわからん。

適当に合わせて泳ぐ。

気持ちいいな。


ともあれ。

もうすぐ浮島、というところで、妙子の動きが止まった。


「どした?」


「足つった……」


アホー!!

どこまで鈍臭いんだ!

すでに、足のつかないポイントまで来てしまっている。

ええい、仕方ない。


「妙子!ゆっくり掴まれ。絶対にしがみつくなよ!」


左手で妙子の脇を抱き、右手側で泳いでいく。


「ごめんなさい……」


「いいから」



無事に浮島に辿り着き、妙子を上げて、俺も上がる。


「ふう、びっくりしたぜ」


「だって、先輩が先に行くから焦っちゃって……」


足先を揉みながら、膨れっ面をする。

先行ってないけどね!合わせてたけどね!


「大丈夫か?」


「うん」


「そうか」


砂浜の方が、ざわざわしている。

誰か様子を見に来るようだ。


「先輩、……妙子、って呼んでくれましたね?」


「!!」


しまった。

咄嗟に前世の癖が……。


「……すまん」


「あの……なんか……嬉しかったです……」


潤んだ瞳で上目遣いをするなぁ!!

破壊力が過ぎるんだ、ほんと。


------------------------------

『妙子、俺、お前のことが……』


『私も、出会った時からずっと……』


『これからずっと、妙子、って呼んでいいか?』


『……うん……恥ずかしいけど……嬉しい』

------------------------------


いかんいかん!!

瞬速ゴールインする未来を幻視してしまったわ!!


どうすれば…どうすれば…


「お昼は何かなー」


「……」


滑った。



「どうしたんですか?」


ざばっと、顔を出して、新垣が様子を見にきた。


「ごめん、私、足つっちゃって」


「えー?ちょっと大丈夫?」


「うん、先輩に助けられちゃった、ウフフ!」


「ならいいけど」


「もう大丈夫だよ!」


「ゆっくり帰ろ。先輩も見ててくださいね」


「おう、わかった」


新垣が、意地の悪そうな顔をした。


「先輩、変なとこ触らなかったでしょうね?」


「アホ、俺は紳士だぞ!」


「本当かなー?妙子ちゃん、大丈夫だった?」


「ウフフ、大丈夫だよ」


新垣、おっそろしいこと言うよな。

妙子はこういう時、真に迫った悪ノリをかます事があるんだ。


後3話で第一部は終了予定です。

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