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ネオンテトラと新時代 29

5-29


 「ワシの仕事を取り仕切っておるのは、この岸谷殿と新垣殿じゃ。岸谷殿は、世間では【預言者】と持て囃されている天才投資家でな。

何か良い案を持っているのではないか?」


何故みんな、ハードルを上げていくスタイルなのか。


「そうですね……」


 先ほどざっと社内を見渡したところ、男くさい職場だなぁという印象と、雰囲気が暗い事以外は、特に違和感はない。内装も必要最低限、無駄な経費を使っているようには見えない。

社長が経費を使い込んでいるパターンもあるが、悠華さんの知り合いだし、まぁそんな世渡りが上手いように見えない。

調べればわかることではある。

シンプルに収入が足りていない、と判断して良いだろう。


「折角のご縁です。

投資家目線で、少し鎌切さんにお聞きしても?」


「ええ、何なりと」


「御社の株主構成は?」


「ええと、どうだったかな。

確か、私が80%、創業メンバーの取締役二名がそれぞれ10%ずつ保有しています」


悠華さんに予め聞いたところによると、大学のプログラマサークルの仲間で立ち上げた会社らしい。

出せる手持ちの金の比率で、適当に作った感が否めない。

まあ、鎌切さんがリーダーで間違いないのだろう。


「出資は受けてらっしゃらない?」


「融資は受けてますが、出資は受けていません」


「なるほど。

御社の重要な意思決定は、鎌切さんが行っている感じですか?」


「最終的には私になると思いますが……

見積もりはみんなでやりますし、基本は相談して決めています」


「不躾ですみませんが、役員間の仲は良いですか?」


「……最近は少し、喧嘩することもあります。

会社がいよいよ危ない状況なので……」


それ言っちゃダメだろう。

仕事くれる可能性もあるんだから。


「お金の問題を抜きにして、普段はどうですか?」


「うーん、まあみんなエンジニアですからね。

風通しは良いです。

給料も一緒にしてますし」


「なるほど」


本来的には、責任の重い社長の報酬は、周りよりも上であるべきだとは思うけど、まあいいか。


流石に負債額まで聞くのはアレかな。

たぶん一億は行ってないだろう。


【バタフライアクセス】の抱える【ミンナモ】案件の保守運用の発注先が欲しいし、買収を検討しても良いが。

多分悠華さんは、そうして欲しいんだろう。

知り合いみたいだし。



 「【バタフライアクセス】は、【ミンナモ】さんのウェブプロモーションやキャンペーンのためのシステムをよく組んでいます」


「はい」


「最近その運用数がバカにならない数になって来てまして、どこか外部に保守と運用を頼めないかと考えていました」


「!

それでは!?」


「ええ、御社に発注しても良いかと考えています。

ただ、額は大きくはないですよ?

多分、毎月2〜300万程度の継続的発注になると思います」


「いや!

継続するお仕事を頂けるのは、大変有り難いです!

単発の大きな仕事より計画しやすいですし!」


「悠華さんも問題ないよね?」


「うむ!マンティヌス氏なら安心して任せられるぞ!」


「おお!」



「……しかし」


「し、しかし?」


「弊社も大事なお仕事を託すわけです。

現在の御社の経営状況だと、リスキーに感じます」


「むむ、確かに……」


確かに、じゃなく!

そこは反論しないと……。

本当にこの人、営業向きじゃないな。


俺は気付かれない程度に、小さくため息をついた。


「そこでどうでしょう?

【ブラックエンゼル】からの出資を検討してもらえませんか?」


「出資……ですか?」


「ええ。

私としては、【バタフライアクセス】の大事な仕事を安定してお任せしたい。

その為に、御社には安心して仕事の出来る状態になってもらわなければならない。

そこで、御社と業務提携、という建て付けで、株式と交換でまとまった額の出資を行います。

もちろん、お仕事も出します。

経営のサポートもしましょう。

それで経営基盤の安定を図って頂きたい」


「な、なるほど……」


「すぐに我々を信用は出来ないでしょうし、我々も御社のことをもっとよく知った上での判断にはなりますが、悪い話ではないと思いますよ」


「マンティヌス氏!

岸谷殿は信じて良いぞ。

むしろ喜ぶべきじゃないかの」


「は、はぁ。

ゆうかりん様がそうおっしゃるのであれば、間違いはないのでしょうが……。

少し検討する時間をいただいても良いでしょうか?

他の役員とも相談したいので」


「ええ、構いません。

三日待ちます。

我々もパートナーとなる企業を探していますし、御社もお急ぎでしょうから」


「承知いたしました。

十分です」


「ご連絡は、新垣にお願いします」



 【プロトコントル】を出たら、もう外は薄暗くなっていた。大きく伸びをする。9月だから、さすがに日が暮れてくると、少し過ごしやすくなるな。


「岸谷殿、会社を買い取るかと思ったが、違ったか?」


不思議そうな表情を浮かべる悠華さん。


「私もそう思ってました」


新垣もか。

わかってないなぁ。


「俺は別にどっちでもいいんだ。

【バタフライアクセス】の負担を軽減出来ればね。

ただいきなり、会社を売りませんか?と言われて、気分の良いものではないだろう?男には妙なプライドがあってね。

どう足掻いても死ぬ、とわかっていても、だが断る!と言ってしまう時があるんだ」


「ふむ、分からんでもない」


「だろ?

だから、ひとまず出資だ。

それで上手くいくならそれで良し。

おいおい、経営が嫌なら、完全子会社になってもらうでも良いし」


「そんなものか。

まあワシは、マンティヌス氏の助けになるならそれで良い」


「俺もそう思ってるよ」


「うむ!」


ニカッ、と笑う悠華さん。


「そう言えば、女の子の会社以外に出資するの、初めてじゃないですか?」


「そんな事ない……くも無いか」


「岸谷殿は、むっつりスケベじゃからの」


「ああ!?」


「カッカッカ!!」


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