ネオンテトラと新時代 21
5-21
引き続き、曽良岡妙子です。
一日経ちましたが、やはりメグちゃんが心配です。
私は今、先輩のラーバーで、沼津に来ています。
ちなみに先輩には、知らせていません。
私は知らせた方が良いかと思いましたが、悠華ちゃんが、
「お館様に、下々の瑣末な出来事を知らせるなど、ワシらの無能を晒すようなものじゃ」
なんて言うものだから、売り言葉に買い言葉と言いますか……
「じゃあ、私たちで見つけますよっ!」
なんて言ってしまいました。
まぁ、知らせたところで、何の役にも立ちません。
伊豆半島には、歴史的な巨木が何本もあります。
その中で西伊豆と限定されているとは言え、探索範囲は、伊豆市、修善寺、土肥、沼津、西伊豆町など、かなり広範囲に渡ります。
有名なところで言えば、土肥にある2本の見事なクスノキでしょうか。
私たちは、土肥を中心とアタリをつけて、悠華さんと、なんか有能そうな手の者に土肥を、その他の人間で周辺を当たることにしました。
みんなそれぞれ仕事があるので、使えるのは今日だけです。今日一日で、見つけてみせます!
私が目指すのは、河内の大杉です。
沼津の、河内西浦という山の中にある大杉。
幹周り10mを超える、まさに巨木です。
西伊豆の巨木と聞いて、最初に思い浮かんだのが、この杉の樹でした。
沼津から車で30分は優に掛かるアクセスの悪い山奥にあるので、期待値は高くありません。
が、私には、何か確信めいたものがありました。
ガタゴトとラーバーが悲鳴を上げながら、狭い林道を進みます。小さい車なのは、こういう時に便利です。
「この辺かな」
少し開けたところに車を止め、森の中へ。
山道のようなものを、15分ほど歩く事になります。
ちゃんとハイキング可能な服装で来ていますし、靴もスニーカーです。
サクサクと落ち葉を踏みながら、森を進みます。
まだまだ残暑が厳しいのですが、この荘厳な森は、不思議と清涼な空気を私に与えてくれます。
胸一杯にその空気を吸い込むと、心が洗われるような気持ちになります。
もしメグちゃんに会えたら……
私はどんな顔をして、何と言うのだろうか?
わかりません。
そう考えると、何だか怖くなってきました。
森の中に、突然開けた空間が現れます。
その中心に、驚くほど大きく、そして天をつくような、雄大な杉の木が鎮座しています。
河内の大杉。
自然の神秘が生み出した、複雑な形状の巨木。
心が真っ白になるような、全てを洗い流すような、神々しいオーラを感じます。
私は、ドキリとしました。
果たしてその根元に、目を閉じて、ちょこんと座り込んでもたれかかっている、メグちゃんが居ました。
それはまるで、森の妖精のようでした。




