ネオンテトラは勇躍す 47
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-回想- -2003年12月-
俺はさんざん悩んだ末に、この件に介入することに決めた。
いわゆるオールドメディア、この時代だとまだオールドじゃないが、とにかくテレビを中心としたメディアが、この先どんどん金を持っている連中に都合の良いプロパガンダを垂れ流して、世論を誘導していくことは、わかっている。
そして、それを阻止出来る分水嶺と言って良いのが、ここなのだ。この件で、大手テレビ局の一角を切り崩すことが出来れば、流れは大きく変わる、はずなのだ。
とは言え、歴史を大きく変えることは、今までの経験上、おそらく出来ない。
俺が死なない、ギリギリのラインを狙っていかなければならない。
俺は今世の人生を、とても大事にしている。
家族も、仲間も、大好きだ。
だから世の中のことなど放っておいて、楽しく生きたい。
歴史に抗って苦しい思いもしたくない。
だが、結婚する時に決めたから。
出来ることをやろう、と。
なので、【シクリッド】のVIPルームに、蒲田さんと牛丸さん(牛窪 源一の偽名)を呼び出した。
メグにウィスキーのセットを頼んで、水割りを使ってもらい、そして追い出した。
これは誰にも聞かれたくない話だったからだ。
「【預言者】殿に呼び出されるとは、何とも光栄でごさいますな」
水割りを傾けながら、軽口を叩く蒲田さんをスルーして、俺は切り出した。
「蒲田さん、手短に話します」
「おお!神託ですかな?」
「そう受け取ってもらっても構いません」
「おお!【預言者】殿からお言葉を頂けるとは……
末代までの語り草に致します」
「牛丸さん、大袈裟です。
そして語らないでください。
これは、お二人の心にしまっておいて頂きたい話です」
「承知しました」
「……蒲田さんと、牛丸さんが切り込もうとされている会社がありますよね?」
「ええ、まあ」
「私の助言を受け入れて、あまり派手に買い進めていませんよね?」
「そうですね、慎重に進めています」
「結構です。
……が、年明けから、買い進めて良いと思います」
ぐ、ちょっと息苦しくなって来た。
「ほう。
それは先日、2004年の中頃に勝機がある、と仰っていたことと、関係がありますかな?」
「……はい」
実はあの時、そこまで考えていたわけではない。
派手に買い進めたら、危機感を感じた【ラジオジパング】は、【ツキテレビ】の株を放出し始めるのだ。
それが正しい歴史だ。
そして2004年を逃すと、やはり遅かれ早かれ株は放出されてしまう。だから、2004年しか可能性はないのだ。
そういうつもりで言った。
「……来年の中頃までに、
……蒲田さんは最低でも15%を保持すべきだと思います」
「なるほど。
詳しくは言いませんが、来年から動けば、何か我々にとって都合が良いのですな?何となくわかるような気もしますが」
「……はい」
敵は株主総会まで間がないから、動くに動けんのよ。
そこで仕留める!!
「岸谷さん、だ、大丈夫ですか?」
牛丸さんが、怪訝な顔で覗き込んできた。
「はは、大丈夫、です」
息苦しさに視界がパチパチする。
抗ってるなぁ、俺。




