ネオンテトラは勇躍す 40
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「経営陣の総退陣と、
阿武隈取締役の社長任命を提案します!!」
ざわざわと会場がどよめく。
創業者一族の牛窪 源一。
30そこそこの、若き資本家だ。
立ち上がり、あらかじめ提出していた議案を口上した。
出席者たちの注目が集まる。
最前列に座っていた幹水は苦々しい表情を浮かべ、壇上の鶴岡は困惑していた。
「鶴岡社長、並びに取締役の3名は、【ラジオジパング】が【ツキテレビ】の33.7%の株式を所持しているにも関わらず、それを有効活用せず、明確なガバナンスの欠如を晒しー」
昨年と同じだ。
源一さんが一人で気を吐き、賛同者がいない。
空虚な時間。
源一さんの言うことにも、一理ある。
むしろ、正論なのだ。
株主のことなんか、これっぽっちも考えていないのは事実なのだから。
鶴岡は、ため息をついた。
「牛窪様の提案に賛成の方はいらっしゃいますか?」
司会の無機質な声が響く。
静寂に包まれる会場。
「……それでは、過半数に満たない為、本件はー」
「ちょっと待ってくれませんかね?」
手を挙げて立ち上がった人物に、注目が集まる。
(そんなバカな!)
鶴岡は、口はぱくぱくしながらも、声を上げなかった自分を褒めてやりたくなった。
目のぎょろぎょろしたスーツの男。
蒲田 茂。
元通産省の大臣秘書官にして、【蒲田ファンド】の総帥。
「牛窪さんの仰ることは、いちいち何をとっても正しいと思います。【ラジオジパング】のガバナンスを改善し、利益率を高めることは、すなわち株主の利益に繋がるものです。
私は賛成しますよ」
会場からどよめきが起こる。
【蒲田ファンド】は、株式の18%を取得している大株主だ。
今回の株主総会での動向が世間からも注目されていた。
(誰だ!【蒲田ファンド】は動かない、なんてでまかせを言ったのは!面目丸潰れじゃないかっ!)
鶴岡は、舞台袖にいる秘書を睨みつけた後、幹水に目を向けた。苦虫を噛み潰して入念に味わい尽くしたような顔をしている。
(だが、源一さんの株と合わせても、28%だ。反響は免れんから、改善案の提示と取締役の首が一つ二つ飛ぶかも知れないが、大勢に影響はない)
鶴岡は何とか胸の動悸を静めた。
(しかし何故?高値でTOBしろという圧力か?)
「……蒲田様、ありがとうございます。
他に賛成の方はいらっしゃいますか?」
予想外の展開に面食らいながらも、司会は進行を続ける。
会場からちらほらと手が挙がった。
中小の投資家や、個人投資家だ。
大勢に影響はない。
「宜しいですか?」
一人の外国人が声を上げた。
「はい、お名前を」
「【AB&XYインベストメント】のウィリアムです」
会場がざわめく。
米国の有力な投資会社である。
鶴岡と幹水の顔色が変わる。
そこは【ラジオジパング】の株式を5%所持しているのだ。
「弊社もミスター牛窪の提案に賛成致します」
鶴岡の背中に冷たい汗が流れた。
だが、まだ慌てる時間じゃない。
「な、なるほど!
他にどなたか……」
「そ・れ・か・ら。
まだ話は終わっておりませんよ」
ウィリアムは、たっぷりと時間を使って、足元に置いていたアタッシュケースを掲げた。
「私は、米国を中心とした投資会社や個人投資家から、合計283通の委任状を預かっています。これが何を意味するか、もうお分かりですね?」
「何!?」
思わず鶴岡は立ち上がった。




