ネオンテトラは勇躍す 39
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-2004年6月-
【ラジオジパング】の定期株主総会は、毎年、有楽町のとある貸会議室を使って行われる。
「今年は株主、結構来るらしいね」
「うーん、【蒲田ファンド】のせいで、なんか注目度が上がってるからね……。一般の個人投資家が、増えてるみたいだよ」
放送機材や段取りのチェックをしているのは、いわゆるIR関係を取り仕切る、管理部門のスタッフだ。
「数年前までガラガラだったのにね」
「こっちまで緊張してくるよなー。
ま、いつもの通り、役員を再任して終了だけどな」
「毎年毎年、めんどくさいよね。
準備してるこっちの身にもなって欲しいよ」
「【蒲田ファンド】の動きは?」
ネクタイを締めながら、社長の鶴岡は、秘書に尋ねた。
「この3ヶ月で急速に株を買い進めてまして、持ち株比率は15%を超えています。しかし、特に当社に何かを要求することもなく、今回の株主総会にも、特に提案は無いようです」
「うーん。不気味だよな」
「あの金の亡者は、高く売れると思って、買い進めているだけでしょう」
「なら良いんだが。
源一さんの動きはどうだ?
万が一蒲田と繋がっていた場合、面倒事にならないか?」
「源一さんは、例のとんでもない提案をしてきてはいますが、昨年同様、衆目環視の中で力の差を見せつけてやれば良いのです。仮に蒲田が力を貸したとしても、過半数には到底及びませんから、大丈夫です」
「とは言え、合わせると30%近くにはなりそうな勢いだ。
そろそろ考えないとなぁ」
「そうですね。
源一さんと蒲田以外の大株主は、多くても数%、また全て海外の投資家になります。
彼らも蒲田同様、高く売れればいいハイエナですから、我々を脅かすとは思えませんが、そろそろ【ツキテレビ】との話し合いを再開しましょう」
【ラジオジパング】と【ツキテレビ】の歪な株式持ち合いの解消については、数年前から話し合いが行われてきた。
しかし、これを行うには、どうしても500億から1000億の資金を【ツキテレビ】、あるいは懇意の金融機関が捻出しなければならない。
【ツキテレビ】単体で用意できない事もないが、【ツキテレビ】もまた上場企業であり、巨額の資金を動かすには、株主が納得のいく理由が必要になる。
一昨年から昨年にかけて、【蒲田ファンド】が急速に株を買い進めていたため、
「これ以上買い進められるようなら、一部でもいいから【ツキテレビ】の株を放出しよう」
と、鶴岡は周囲に話していた。
しかし、【蒲田ファンド】はピタリと動きを止めた。
その為、この話はウヤムヤになり、今日を迎えたわけである。
しかし、ここ数ヶ月で思い出したかのように動きを再開したので、【ラジオジパング】経営陣を戦々恐々とさせている。
鶴岡としては、とっとと【ツキテレビ】の株を引き取ってもらいたいのだが、【ツキテレビ】側としても、それなりに準備が必要なのであった。
この株主総会には、幹水さんが来ているはずだ。
これが終わったら、すぐに相談しよう。
幹水 司は、【ツキテレビ】の絶対的権力を握る社長である。
【ツキウサギグループ】の中心的人物で、創業一族である牛窪一族を、経営から追い出した張本人でもある。
巌のようにどっしりと構えた強面の人物で、経営畑出身。
現場上がりの鶴岡としては、色々な意味で少々苦手なタイプなので、必要以上に仲の良い間柄ではないが、直近の問題に対しては、協力して当たらないといけないと考えている。
「あー、気が重い」
独りごちながら、鶴岡は会場へと歩いて行った。




