ネオンテトラは勇躍す 34
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「ああどうも!東京都の岡本です」
「経産省の西川です」
「初めまして、岸谷です」
「この度は、こうして若い起業家たちと、身近にお話できる機会をくださり誠にありがとうございます」
「いえいえ、費用の補助を頂きまして、こちらこそありがとうございます」
受付で、いかにもお役人、といった二人と名刺交換する。
今回の懇親会は、東京都と経産省から補助金が出ているので、実質タダで開催出来ている。
他にも、中小のベンチャーキャピタルからも協賛の申し出があったが、補助金だけで十分だったので、ロハで参加させてあげた。
タダより怖いものはないのだ。
アコギな投資をしないように、気を遣ってくれると有難い。
俺の今日の装いは、中島屋が選んでくれたぼちぼち上等なグレーのスーツに、プタラというイタリアのアパレルブランドのサングラス。腕時計はレトリック社のモンテカルロ。
この腕時計、金持ちアピールする時は、とても頼りになる。
靴にこだわる人もいるようだが、俺は綺麗に磨かれてさえいれば、それほど気を遣う必要はない、と考えている。
さすがに靴のクオリティがわかる人は、そうそう居ないからだ。費用をかけるには、コスパが悪い。
こういう場は、そこそこ金持ってますよ?という、わかりやすい格好をしていかないと、信用してもらえない。
TPOを弁えるのも、トップの務め、というわけだ。
というか、今回の俺の役目はそれしかない、と言っても過言ではない。顔を出す事が大事、と言う事らしい。
集まった女性起業家の卵は、40人くらいか。
立食形式の懇親会は大盛況なようで、何よりだ。
まあすでにウチの投資プログラムで起業していて、セミナーを受けに来ていた人もいるようだな。
「あー、テステス。
みーなさま!!お待たせいたしました!
株式会社【ブラックエンゼル】の皿橋と申します!
本日は、弊社主催の経営セミナーに参加いただき、誠にありがとうございました!」
さも当然かのように、さらっとMCを始める皿橋。
強い。
「この懇親会には、東京都と、経済産業省の方にもお越しいただいております!後ほど、女性起業家に向けた公的補助のお話をいただきますから、よーく聞いてくださいね!
それから、弊社の他にも、皆様に興味を持っている会社様も参加しております!是非この機会に、お話ししてみてくださーい!!」
拍手と歓声が上がる。
懇親会の運営は、【パシフィックキッチン】に丸投げした。
皿橋たちの日当くらいは頂いているが、中抜きはしてないからね。
なんかエビとオリーブが爪楊枝に刺さったようなやつをつまみ食いする。
うんうん、なかなか美味い。
【パシフィックキッチン】の仕切りは確かだね。
「岸谷さん、ご無沙汰してます!!」
「おや、青山さん。
今回は引き受けて頂いて、ありがとうございます」
大袈裟な握手を受ける。
30代後半、見事なツーブロックに、日焼けした肌。
暑苦しい濃い顔つきに、信じられないほど白い歯。
ブルーに縦縞のタイトなスーツ。
メーカーのよくわからんキンキラキンの腕時計。
誰あろう、【パシフィックキッチン】の社長、青山さんだ。
悪い人ではないのだが、豪太郎とは別の意味でヤバい、ギラギラ系の人だ。
とは言え、見た目に反してブラックな経営はしていない。
親分気質というか、部下に見栄を張るタイプで、末端に至るまで待遇はそれほど悪くないらしい。
こまめに現場に顔を出して酒を奢ったりするようだ。
時折、バイトの女の子を口説いてお持ち帰りすることもあると聞くがね……。
上場したなら、慎重になって欲しいものだ。
「いえいえ、こんな有意義なイベントを仕切らせて頂いて、願ったり叶ったりですよ!」
お世辞抜きで、そういう側面はあるのかもしれない。
【パシフィックキッチン】は、アメリカからドーナツ屋やらホットドッグ屋やらライセンスしてもらって、輸入しては手堅く小金を稼ぐ小規模な会社だったが、ウチと関わるようになって、経営が軌道に乗り始めたらしい。
【Lang-Lang Cha】や【シリコンズゴールド】の成功で、今年の初めにJASDAQに上場。別事業の居酒屋のチェーン展開も、上手く行ってるらしい。そして、こういった公的機関が絡む案件は、売上というよりは宣伝効果、つまり株価にヒットする。
ここいらで何かニュースバリューの欲しい青山さんとしては、なるほど願ったり叶ったり、は言い得て妙と言う事だ。
「いつもお世話になりっぱなしです」
「本日は奥様は?」
「今日はあいにくと来ておりません」
「そうですか。
いつもお世話になっておりますので、よろしくお伝えください!」
【パシフィックキッチン】と言えば、妙子だからな。
タイトな交渉となりがちな利益配分の交渉なども、基本的には妙子が前面に立って話をしている。
青山さんは見ての通り、一筋縄ではいかないエグみの強い相手なのだが、妙子にかかるとあら不思議。
平和裡に、かつウチに有利な形で交渉をまとめてくる。
我が妻ながら、なんと恐ろしい。
揃いのスーツのツーブロッカーズを引き連れて、颯爽と青山さんは去っていった。
やっぱ何かヤダ。




