ネオンテトラは勇躍す 30
4-30
-2003年10月-
「というわけで、この子がストーカー被害に会ってるんです」
渋谷の明治通り沿いに、【シャインガレット】の入っているビルがある。その7階がオフィスだ。
今日は、青木さんに呼ばれて、【シャインガレット】の会議室にやってきた。
青木さんと、一人のスタッフが居て、非常に困った表情をしている。
この手の話か……。
ストーカー事件は、1990年代後半から社会問題となるほどに凶悪化してきた。別れ話でモメて、男が付き纏うケースが多いが、女性側が知らないパターンもあるのが特徴だ。
古くは痴情のもつれで片付けられていたものに、ストーカーという言葉を当てはめて分類化しただけなのかもしれない。
警察が判断に困るケースが多々あり、事件になるのを止められない場合がある。
ともかく、現在ストーカーに付き纏われている【シャインガレット】のスタッフが、青木さんと共に座っている。
「一方的に想いを綴った、気持ち悪い手紙が定期的にポストに入っているし、部屋の前に花束が置いてあったこともあります。夜道も誰かに後をつけられているような気がします。
……ほんとに私、怖くて怖くて」
こちらが知らないパターンか。
こういう奴は、相手にされないとそのうち実力行使に出る。
今は大丈夫だとしても、危ない。
この子は、園田 絵里奈。23歳。
【シャインガレット】から、某家電メーカーの受付嬢として派遣されている。
あまり浮ついた所がなく、お金を貯めて地元の福岡でカフェを開くのが夢なんだそうだ。
綺麗に切り揃えられた前髪に、ストレートのロングヘアー。
やや丸顔でぱっちりとした瞳に、ぷくりとした唇。
均整の取れた見事なスタイル。
こちらを見上げるような上目遣いの眼差しが、何となく大人しそうな印象を与える。
内面はよく知らないが、外見だけで言えば、清楚系のそそるタイプだ。
綺麗どころの多い【シャインガレット】でも、受付嬢としてエース級の人気がある。
はっきり言って、俺も好きな感じだ!
全男子が好きなやつだ!
好きだよ!悪いかよ!
おくびにも出さないけどね!妙子がいるからね!
「しばらく様子を見ようかと思っていまして、横浜のビジネスホテルに一週間ほど避難させます。その間仕事も休むことになりますが、問題ないでしょうか?」
「ああ。それで良い」
それで俺に承認を貰いに来たわけね。
青木さんの権限でやっちゃって良いんだけど、お堅いなぁ。
「では、園田さん。
書類に記入して貰いますので、少々お待ちください」
「はい。ありがとうございます」
青木さんが会議室を出ていくと、当然、俺と園田さんの二人きりになる。これは、気まずい沈黙が流れるパターンだ。
その前に手を打たないと!
「大変だったね。
まあ、しばらく気分転換すると良い」
「はい、ありがとうございます。
……あの、社長?」
「ん?」
何をモジモジしてるんだ?
「あの、良かったら、たまにで良いので、社長にも様子を見に来て欲しいんですが……」
「ああ、心細いかもしれないよな。
わかった」
頬を染めて言われると、期待して良いやつなのかな?って勘違いしてしま……
あ!
これ、安請け合いしちゃいけないやつ?
「良かった!!
お待ちしてますね!」
「あ、ああ」
しまったーー!
青木さんがいないタイミングを見計らって、というのも考慮すべきだった……。
こんな可愛い子に、はにかみながら言われたら、そら即答しちゃうって!
ズルいって!
いやいや、俺の考え過ぎ、ってセンも捨てきれない。
本当に心細いだけかもしれない!
そうだ!きっとそうなんだ!!
可哀想にっ!!
「あら、どうしたんですか社長?
難しい顔して」
青木さんが書類を持って帰って来た。
怪訝そうな顔をしている。
「あ、いや。何でもない」
「それでは園田さん、いくつか書類にサインしてくださいね」
「はい」




