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114/200

ネオンテトラは勇躍す 26

4-26


-2003年8月-


港区台場。

湾岸地域の埋立地であるが、古くは、幕末に江戸幕府の砲台が置かれていた、海上の要塞跡地である。

今は臨海副都心として、ビルや商業施設が立ち並び、公園、港が併設された繁華街となっている。


その中に、一際目立つビルがある。

ビルの中央に四角錐の輝くクリスタルを模した、鏡面展望室を持つ、【ツキテレビ】社屋。

ツキウサギグループの中核企業である。


その社屋の中に、【ラジオジパング】というラジオ局が入っている。【ラジオジパング】は、本来有楽町に本社社屋を持つが、いまは建て替え中であり、グループ企業の【ツキテレビ】に間借りしている。


【ラジオジパング】は、時価総額1,200億ほどの上場企業であるが、歴史的な経緯もあって、時価総額6000億を超す【ツキテレビ】の株式を33%所有している、筆頭株主だ。


このねじれた親子関係は、投資家界隈では有名で、いつか敵対的買収の餌食になるのではないか?と囁かれていた。

実際、【蒲田ファンド】を筆頭に、海外の投資家が水面下で株式を買い集めていることは、明白であった。


ハゲタカのように肉に喰らいつくのには訳があって、いずれ【ツキテレビ】がねじれ解消のために、高値でTOBするであろう、という読みがある。

安く買っておけば、それだけ確実に儲かるのだ。



「【蒲田ファンド】による、市場での当社株式の買い付けは、鈍化しているようです」


「そうか、良かった」


秘書の低い声での報告に耳を傾けるのは、【ラジオジパング】の社長、鶴岡 万太郎(つるおか まんたろう)

初老の優しげな男である。

ラジオのことが大好きな、収録ディレクターからの叩き上げで社長になった男だ。現場からの支持も高い。


「資金が尽きたのでしょうか?」


「わからん。

でも、大事にならずに済みそうだ。

一時は【ツキテレビ】の株式を放出しようか、なんて大騒ぎになったもんだがな」


「注視は必要かと思いますが、今の所10%にも満たない様子。これなら放置しても、大丈夫ではないかと」


「そうだな。

こっちは目の上のたんこぶである、創業者一族の面倒で手一杯だ。これ以上面倒は抱えたくない。

引き続き定期的に報告してくれ」


「承知いたしました」


「はぁ、俺はラジオの事だけ考えていたいよ」



 【ラジオジパング】の創業者は牛窪 嘉之助(うしくぼ よしのすけ)と言う。既に逝去しているが、その直系の孫が、牛窪 源一(うしくぼ げんいち)

【ラジオジパング】の株式を10%保有している、大株主である。正義感の強い、鶴岡からすると扱いにくい若者であり、先日の株主総会では、【ツキテレビ】担当の取締役の解任提案をしてきた。

一瞬社内がざわついたが、特に味方する勢力もおらず、先頃グループを引っ掻き回している【蒲田ファンド】も静観していた。

鶴岡を含めた経営陣は、【蒲田ファンド】は買い集めた株式を高値で売り抜けられたらそれでいいもの、と判断した。

ある意味で言えば、味方だ。

コーポレートガバナンスの改善を行えば、それでいいのだ。


取締役会で提案を否認することも可能だったが、内心はともかく、理由としてはガバナンスの改善を求めるものであり、至極真っ当なものだったことと、味方がいない事を内外に示す良い機会だと考え、株主総会に議題として挙げた。


かくして、6月の株主総会では、源一の声だけが虚しく響き、経営陣との力の差を示すこととなった。

牛窪一族を排除したい【ツキウサギグループ】としては、目の上のたんこぶではあったが、こうやって徐々に力を削いで行けば良い、と考えた。


経営陣の中には、牛窪一族の息が掛かった者、あるいは同情的な者を、緩衝材的に配置しているが、数年内にこれも排除することが可能だろう。


グループをざわつかせた事件ではあったが、長期的目線で考えると、悪くない話だったのだ。




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