ネオンテトラは始動する 11
-1994年5月-
サークルへは、20人の新入生が入会してくれた。
うちの大学は基本、掛け持ち自由なので、どれだけ居着いてくれるかは謎だが、来年以降もサークルが存続出来る規模になったのは、嬉しい。
部室は連日女子でいっぱいなので、俺は写真サークルの方に居ることが多くなった。今日も隅で少年ジャンジャンを読んでいる。
内容は知ってることが多いんだが、読み直してみると、意外と面白い。
「岸谷〜、麻雀しようぜ」
「やだ」
「岸谷〜、女子大との合コン行かない?」
「行かない」
「岸谷〜、」
「やだ」
「何も言ってないやん」
この写真サークル、特に写真を撮りに行ったりとかいう公式の活動はない。勝手にやれ、スタイルである。
緩くて嫌いじゃないんだけど。
ネオンテトラに誘ったメンバー以外、特に縁のあるメンバーもいない。同学年、あるいは先輩の男たちは、チャランポランに見えて、社会人になると結構しっかりサラリーマンをやる。
そして疎遠になっていくので、仲良くしても仕方がない。
仕方がないってのも、言い方がアレだが。
起業家でもいれば、支援してやるんだが……
「そうか!」
突然立ち上がった俺に視線が集まるが、変人で通っているので、すぐに興味をなくす。
ベンチャーキャピタルだ!
これまで株式の運用でずっとやっていくつもりだったが、起業家の支援を事業にしよう。
この時代、起業はあまりメジャーな選択肢ではないが、居ないわけじゃない。ITバブル以降、新しい会社が数多く出来るはず。
悪くない。
「フフフ」
周りが気味悪そうに、こちらをちらちら見ている。
気をつけよう。
「岸谷くん、一緒に帰ろ」
有希が顔を出す。
「おう」
微妙に羨ましそうな空気を感じつつ、部室を後にする。
「新入生の方はどうだ?」
「うん、良い感じじゃないかな。皿橋さんが張り切ってるよ!」
「だろうな」
鼻息を荒くする皿橋を想像して、笑いが込み上げる。
「夏の合宿までに、自分の選んだ会社の株価の流れを追う、っていう課題を出すみたい」
「なるほど」
エア投資か。
株価は新聞や銀行でチェック出来るし、金も時間もかからない、良い課題だ。
「そういえば、新入生に、岸谷くんのことをよく聞かれるよ?」
「え、俺?」
「謎の会長ってことで、みんな興味津々だよ!」
「うーむ」
「岸谷くん、見るからにお金持ってそうだし、謎の存在らしいよ」
「そうか」
ちなみに俺は、カバンも含めて全身ハイブランドのカジュアルウェアだ。腕時計は100万位のスポーツタイプ。
髪は目立つよう金髪にしてある。
週二でジムに通って体型維持もしている。
こういうのは、引かれない程度にハッタリをかましておくのが大事なのだ。見た目が大事。必要経費だと思っている。
そもそもが資産運用のサークルなのだ。
トップが貧乏くさいんじゃ、夢も希望もない。
駐車場に着いたので、車の助手席を開ける。
「ありがと」
俺は車で通っている。
車種はラーバー社のNINIという小さめの外車だ。
赤いボディに、白いラインが二本走っていてかわいい。
これも、ハッタリ演出の一つ。
中古車だけど、レトロ感の大事な車だ、問題ない。
「今日泊まってく?」
「うん、夕飯作るね」
「それは嬉しいね」
有希がはにかむ。
窓からの風が、心地良かった。
外車に乗ってる人、なんか羨ましかったです。




