ネオンテトラは勇躍す 17
4-17
-2003年5月-
-京都-
町家①
河原町から東山付近に、五軒の町家は点在していた。
花明院が吟味して選んでくれただけに、状態が良く、京都の中心に近い場所にあった。
「うむ、なんとも風流だな!」
「ほんと、素敵なところね!ウフフ!」
そのうちの一軒に、俺と妙子は来ていた。
ちなみに凛子は、ゆかりさんに預けてきた。
親がいなくても、ニコニコしている図太い子なので、実に安心出来る。
「ここはウチが思うに、一番ええところや。
この柱の趣が、他とは違うんよ!」
と言って柱に頬ずりしているのは、奏蔵兄妹の妹の方、小梅だ。
やや吊り目で黒髪ボブショート。
純和風な趣の中に、薄く茶色い瞳がミステリアスである。
草色の雲取花柄の二部式着物に、藍の前掛け。
高級旅館の仲居さん、といったところか。
所作の美しい小梅が着ると、実に雅である。
「うん、それはわかったから、中を案内してくれ」
「ほな、付いてきて」
町屋とは、間口は狭いが、奥行きが驚くほど深い、昔の日本家屋である。うなぎの寝床、などと呼ばれる。
「この辺りがリビングや。
キッチンはこっち、向こうが応接間になってます。
ここが奥庭。んで、二階は二部屋あって、寝室になってます。二階からは、通りも見物出来ますよって」
原形の遺構は残しつつも、キングサイズのベッドや、システムキッチン、洋式トイレなど、最新のリフォームがなされていて、和風でありながら、とてもラグジュアリーな空間になっている。
「いやー、すごいな」
としか言えない。
「そうやろ?
楓ちゃんが、えらい気合いを入れて監督しとったからなぁ。
もちろんウチも手伝いましたよ?
はよう、見せたかったんや」
花明院家の雅なセンスは、流石である。
「もちろん、他の家も負けず劣らずええ感じになっとりますよ?」
「うん、これなら、海外のお客さんも、きっと喜んでくれるんじゃないかな」
「そうね!
トニーさんの一家がどんな顔するのか、楽しみ!」
【Jettmax】のCEO、トニーさんは、妙子が声をかけたところ、二つ返事で予約してくれたのだ。
奥さんと子供二人と、今月末に一週間ほど滞在するとのことだ。
「気が早いなぁ。
まずは泊まってもらって、満足できるか試してみて」
「ああ。小梅ちゃん、ありがとう」
「こそばゆいわぁ。
使用人なんやから、小梅と呼んでもろてええよ?」
「使用人て。
小梅ちゃんは、【花蓮峡】に、なくてはならない人だよ」
「フフフ、お上手やなぁ。
その手管で、奥様も籠絡されたんかなぁ?」
「そうかもしれないわね?」
「おいおい」
なんか怖い顔してたよね?今。
妙子の目が怖かったんですけど!
「では、邪魔者はそろそろ退散させてもらいます。
玄関の電話で、いつでも【花蓮峡】に繋がりますんで、御用の際は、気兼ねなく電話して下さいね」
「わかった」
ちなみに、他の家には、【皿橋/新垣】、【花明院/二戸/真鍋/宮下】、【最上/雪村/大迫】、そして【マキ/メグ/悠華/ソフィー】という組み合わせになっている。
おいおい、宴会トリオはどこから湧いて出てきたんだ?
呼んでないんだけどっ!!
俺は今夜の宴会でスパークするであろう面々を思い浮かべて、頭痛がしてくるのだった。




