ネオンテトラは始動する 1
初投稿です。
諸々拙い部分もごさいますが、どうか生暖かく見守っていただけると幸いです。
-1994年4月-
「ファイナンス&インベストメント同好会【ネオンテトラ】に入りませんか〜?」
横浜の、とある山を切り拓いて出来たその名も【山野辺大学】。
新入生に向けたサークル勧誘が、盛んに行われている。
歴史は古いが一流に二歩ほど届かないクラスの私立大学である。
ミッション系で多少オシャレ感が漂う関係から、両家の子女や小金持ちに人気がある。
俺は岸谷 順也。
国際交流学部 国際経営学科 3年だ。
今年度から新設された、F&I同好会の会長をしている。
「岸谷先輩!
結構反応良いですよ!」
チラシ配りをしていた、文学部 英語文学科 2年の皿橋 直美が、息を弾ませた。
ショートソバージュの茶髪でタレ目の、良い後輩である。
テンパりやすいのが玉に瑕だ。
反応は悪くないか。
そりゃそうだろうな。
人を集める為に、奮発したんだから。
年二回の合宿は伊豆と千葉の一流ホテル。
新歓コンパはイタリアンレストランを貸し切り。
そしてなんと全員タダ。
サークルなんて、体育会系を除けばどこも似たり寄ったりだ。
後年のイベサーの走りである、テニス系サークルなんかは、ヤリモクサークルが紛れ込んでいるふしがあるのだが、その他は、割と和やかに放課後の交流を楽しむ集まりでしかないのだ。
オシャレなお店でタダ飯を食えて、タダで旅行出来る特典付きなら、食いつきも良いだろう。
これを嘘じゃないかと疑わない辺り、この時代の大学生の危機意識の無さが窺える。嘘じゃないけどさ。
明らかにチャラいサークルに、人が集まるのも致し方ないか。
いや、それは現代でも変わらないか……。
まあいいや。
ちなみに、大学から出る補助金なんて、5万程度のもので何の意味もなく、このサークルの費用は全て、俺のポケットマネーから出ている。
「何人くらい集まりそう?」
会長らしく、ちょっと様子を見にきただけの俺だ。
「この感じだと、10人くらいはイケるんじゃないですかね?」
「悪くないな」
「すごいですよ!
新しいサークルで人が集まるか、超不安だったんですから!」
ま、俺も不安だった。
素直で感情が全部顔に出る皿橋、こいつが、ファイナンス&インベストメント同好会「ネオンテトラ」の代表である。
この時代、資産運用の概念自体、ほとんどない。
長閑に草を喰む家畜よろしく、庶民は知識を与えられていないのだ。
ともあれ、このサークル設立は、未来への布石だ。
二度目の人生を歩む、この俺の。
この頃の大学は、かなり、自由だったようです。
大学自治というやつですね。