第九話
二話目です。読んでいない方は先に八話からお読みください。
「う、らあっ!!」
ザシュッ! ガガガガッ!
大量の堕者に襲われる悠。しかし、逃げるわけにはいかない。そもそも逃げる手段がない。
皆を連れてきたからには、殿を全うしなければならない。
だが、さすがに多すぎる。今、何十体斬った? 何分間ここにいる? 気が狂いそうだ。
既に突破した明日香が〈祝福領域〉を発動させてくれているため、傷はつかない。
ちなみに、この間絶えず〈インフィニット〉を発動させている。終わらせた後の反動が恐ろしい。
無限のエネルギーを力に、生命力に変換し、狩り続ける。東京の堕者を狩るにはそれ相応のエネルギーが必要だ。
そして、剣を振り続けると気が付いたことがある。
「! チッ。もしかして、武器の連続攻撃は、三回までなのか?」
「グオオオオオッ!!」
「おらあっ!」
三回武器を振ると、少しの時間拒否されるように攻撃が効かなくなる。
一体に集中していたら他の堕者にやられる。
その時、視界の隅に口を大きく開き、こちらへ突っ込んでくる腐死者を捉えた。
―――腐死者に噛まれたらアウト―――
澪の助言を思い出した悠は、優先をその腐死者に移す。
絶対噛まれない。
「グアハハハハ!」
「ッ! 妙に力強いな! 堕者くらいはあるぞ!? もしかして、変異途中か!?」
「フハハハハ!!」
「やかましいわ!」
変異途中。つまり、繁殖力の高い腐死者の力と、戦闘に特化した堕者の力、二つを持っている害悪野郎のことを表す。めんどくせえ。
相手の爪をディヴァルにて受け止め、胴体を三回切り裂く。「ア゛アア……」という呻き声を残しながら光となって消えた腐死者。そう、三回斬ってしまったのだ。
〈空間認知〉に引っ掛かっていた背後の腐死者に攻撃ができない。
ガブッ!
「あ、ぐぁっ」
急いで振り払い、斬りつけるが、もう力が残っていなかった。視界が霞み、体に力が入らない。
〈インフィニット〉の力を全て抵抗力に変換するが、圧倒的な速度で細胞が蝕まれてゆく。
全身、とてつもない苦痛に苛まれるが、さらに出力を上げて迎え撃つ。
が、抵抗虚しく、全身が奴に塗り替わっていく感覚を覚えた。
「う、がぁ……うおああああああああああああっっっ!!!!!!!」
手を見ると、腐っている。体が刻一刻と腐死者へ近づいているのだ。
〈インフィニット〉のエネルギーを、抵抗力と再生力へ変換。対応を試みるも、あっけなく抵抗は突破され、〈インフィニット〉の無限エネルギーを生成する場所まで到達。
最後まで足掻いてやる! そう思い、ずっと〈インフィニット〉を行使。しかし、阻害される。
チッ。諦めねーぞッ、最後まで!
しかし必死の抵抗虚しく、俺の意識はどんどん黒く塗りつぶされ、やがて、完全に意識を断った。
『……コアノ汚染ヲ確認。〈プレジュディス〉ノ獲得……成功。混成ニ移行……完了。〈支配〉ノ干渉ヲ確認……獲得ニ失敗。再試行……失敗。再試行……成功。混成ニ移行……完了。ディープスリープヘ移行……完了。オヤスミナサイマセ』
倒れている悠の体から、無機質な機械音声が響き、周辺の堕者たちは皆停止した。
【沙紀サイド】
「あ、明日香。どう? 反応ある?」
「うん。まだある。生きてる。傷ついた瞬間に治してるよ。にしてもすごいね。結構離れてるのに、生きてるかが分かるんだから」
「……沙紀。手を止めないで。私だけは辛い」
「わっ、ごめんごめん!! よいしょーっ!!」
あの包囲網を抜けた後、スーパーの外から援軍に来る堕者達を狩り続けている。
澪も、遠・中距離は弓として、近距離は剣として扱い、上手いこと狩っている。
……それにしてもあの弓の破壊力何なの。バゴォンッ! って音鳴ってるんだけど。しかも大体二、三撃だし。
私? 私はハンマーを振りまわしてるよ。
今は生体反応と「おらあああああっ!!」って声があるから生きてるってのが分かる。
でも、あの数となればさすがにマズイ。消耗戦になればいつかは悠が負ける。だから、ちょくちょく包囲網を削っていってる。
「悠、大丈夫だよね? いくらなんでも心配になってきたよ」
「……大丈夫。何度も修羅場を潜ってきた彼なら、きっと生き残れる」
「だよね! 四方を囲まれていようが、風穴を開けられようが、結局生きてるのが悠だもんね!」
「なにそれ知らない。でも、彼の持つ武器はそこそこ強いみたいだし、大丈―――ッ!」
「ど、どうしたの!?」 ドゴオンッ!
「マズいっ。武器の重大な欠陥を忘れていた!」
「な、なに?」
「あの化け物たちにダメージを与える機構を組み込んであるとは言った。それで、その機構のうちに、使用者のエネルギーを使う機構がある。それのせいで、一部の武器は、三回までしか連続攻撃ができない!」
「……ってことは……」
「……四方を囲まれている状態だったら一方的に負ける可能性がある」
「そんな……」
その瞬間。
『う、があっ、うおああああああああああああっっっ!!!!!!!』
「「!?」」
スーパーの奥の方から雄叫びが聞こえた。悠のものだ。
バッと明日香の方を見ると、焦ったように言う。
「大変なんだけど! 生命反応が急速に弱くなってる! それも突然!」
隣の澪からハッという息を飲み込む音が聞こえた。
「……一気に減った? それとも……」
「だんだん、緩やかに。だけど急速に減ってる! ああっ! もう、ほとんど感じない!」
「行こう! 私たちも! 急がないとっ!」
「分かった。すぐ行こう」
そう言い、私たちは駆け出した。さっきのスーパーに戻る。
すると、だいぶ減っているが、まだまだ大量の堕者が悠を取り囲んでいた。
だが、何か様子がおかしい。全員、一切動いていない。どうした?
そう思いつつ、しっかり弓で一発かます澪。意外といかついんだけどこの娘。
澪の放った矢は、包囲網の一体に直撃。バゴォンッ! という強烈な音を鳴らすが、誰も動かないし、こちらを見ない。
「……沙紀、どう? 反応ある?」
「んー、無いかな……誰もこっちに反応してない。なんでだろ。もしかしたら、このまま中心に行って悠攫える?」
「うっほ。めっちゃいかつい作戦考えるじゃん! しゃー、やってみよう!」
「沙紀、明日香……分かった。やろう。でも、私の眼に、一瞬でも不可能な未来が視えたら即座に引き返すこと」
「「了解!!」」
せっかく相手が止まっているのだ。即座に侵入し、即座に離脱する。
そして、三人が中心で見たのは、うつ伏せに倒れている悠と、歯から血が流れている腐死者であった。
「エレクテレスがないってことは、こいつ生きてる! 一応倒しといて!」
「了解!」ドゴオンッ!! ドゴォンッ!!!
「でも、私の〈リカバリー〉に反応は無かったよ!? ど、どうしよう!」
「……〈リカバリー〉が反応しなかったということは、死んでいない。堕ちたならば、すでに体が腐死者になっているはず。一体なぜ……? いや、まずは離脱が最優先」
「分かった! 悠は私がおぶるから、帰ろう!」
「……できるだけ早く。帰って精密検査をする」
…………
「……ッは! っと、ここは……ッ! 頭が! いったぁい!」
目を覚ますと、俺の部屋の天井が見えた。俺は今まで何をしていたんだ……? たしか、スーパー行って、食材探して、澪に呼ばれて、堕者に囲まれて……ッ!
思い出した。俺は腐死者に噛まれて、堕ちたんだ……そう思ったのだが、体を見ても、鏡を見ても腐っている場所は無い。鎧のようにもなっていない。
どういうことだ?
「おっ、おはよう! 悠! 今回は短かったねー。一日で目を覚ましたよ!」
「お、おう、沙紀……俺は、どうなったんだ? つっても、お前らにも分からないか……」
「だから、これから悠は精密検査に移りまーす。パチパチパチ!」
「は? 精密検査?」
「うん。澪が徹夜して作った精密機械。いろんなことが分かるんだよ! すごくない!?」
「あ、ああ。それはすごいが……その、澪は大丈夫なのか? そんな徹夜とかして……」
「ダメかも! なんか、私達じゃ分からないことを呟きながら機械弄ってたから!」
「……なんか、すげえ申し訳ないな。じゃあ、その精密検査とやらを受けてみるか。安全面は大丈夫なんだよな?」
「まー、稲盛が実験た……協力してくれて、安全面は保証されてるかな! さあ行こう!」
「いま、実験体って言おうとしたよな!? ううん……ま、いっか……」
というわけで、混乱した脳のまま医療室的な場所へ向かう。
そこは、結構な量のベッドと、白い機械、謎の液体など、色々置いてあった。まるで病院だな。ベッドとかも、色々『分解』してから組み立てたんだろうな。
そんなことを考えながら観察していると、白い機械の傍で澪が待機していた。
「ん、待ってた。この精密検査専用機械―――『アルケイド』を使って、今の悠の体を調べる。それも精密に。超素能力まで調べるから」
「了解っす。俺は何をすればいい?」
「簡単。ここに立って」
「ここか?」
澪に指を指され、マンホールほどの大きさの台に立つ。ピピピッという音が鳴り、数多の光にさらされる。バーコードを読み取っているような感じだ。
そうすること、約三十秒。結果が出た。
「ん……健康に問題は無し。精神的な問題も無し。何か変わってるところも無―――ん?」
「どうした? 何か悪いことでもあったか?」
「……いや悪いことではない……悪い?」
「何があったんだよ?」
「……悠の超素能力が変質している」
「……は?」
…………
「第一回! “悠の超素能力について探ろうの会”!!」
「わーどんどんぱふぱふ!」
「ひゅーひゅーどーん!」
「やかましいわ」
別に、第一回も何も二回以降ないでしょ……? 今回で終わらせたいし。
だが、本当におかしいんだ。超素能力が変質するなんて。
「ん~澪ちゃん。超素能力が変質することってあるの?」
「無い。超素能力は、その人が本来持つ力を十全に発揮した先に得られる人知を超えた力。だから、変化することが無い。だけど、今回の悠は違う。明らかに強くなっている」
「どんなのになったんだ? 俺達まだ見てねーんだけど。悠の能力は、〈空間認知〉、〈可能性平衡〉、〈インフィニット〉の三つだったよな? まあ、四つ目は置いといて……」
「そう。でも、検査の結果は、〈絶対空間認知〉、〈可能性現滅〉、〈インフィニット〉に変わっていた。能力解説を読む限り、かなり強くなって」
「へえ、どういう能力になってたんだ?」
アルケイドは、従来の超素能力を測定する機械よりも正確な解説がでてくる。
〈絶対空間認知〉は、【指定した全空間を認知する】。
〈可能性現滅〉は、【可能性を同一世界に展開させる。状態異常にかかる未来をあらかじめ消去する】。
つまり、今までの完全上位互換だ。
「……〈絶対空間認知〉はまだ分かる。だけどさ、〈可能性現滅〉ってなんだよ!? 状態異常にかかる未来をあらかじめ消去するって? 意味わかんねえんだけど!?」
「海翔、落ち着け。俺が一番混乱してる。だって、俺噛まれたじゃん。腐死者に。なのになんで生きてんだよって感じ」
「それはこちらでは分からない。だから、これから実験する」
「「「「「実験?」」」」」
「稲盛。悠。こっちに来て」
「えー、俺嫌な予感しかしないんだけど……」
「あー、そう言うことね。稲盛の毒で俺が状態異常にかかるかを調べるのか」
「そう。じゃあ、どうぞ」
「えぇ……? いいんだな? 悠。めっちゃ苦しんでも知らないからな……?」
「ああ、大丈夫だ。極論、〈インフィニット〉でどうにかなる」
「そうか。じゃあ、行くぞ! 〈デッドリー〉!」
紫色の、お手本のような毒が生成される。みんな、「うっ!」や、「空気が重くなったな……」と呟いているが、俺は特に何もない。
直接触れると一瞬だけ体に強烈な倦怠感が襲ったが、今はもうない。
「……自動で発動して、特に疲れもない。悠が状態異常にかかりそうになった瞬間、その可能性を片っ端から消していった。それが〈可能性現滅〉」
「あ~、これが【状態異常にかかる未来をあらかじめ消去する】ってことか~。なるほどね」
「……なんか悠がどんどん化け物になっていくんだけど……人間やめてない?」
「やかましい。その分代償がでかいからな。あんまり能力使えないし」
「でも悠。さっきの〈可能性現滅〉は自動発動で疲れも無かったろ? 便利じゃん」
「まあ、そうか。堕者との戦いに役立つかは分かんないけど、力はあっても困らないしな」
「……普通に考えて、私達六人って最強じゃね? ほら、化け物がいるし、破壊神がいるし、毒使いがいるし、疾風がいるし、預言者がいる。あと、この私! 癒し手がいるからね!」
「俺一人だけランクが低くね? 毒使いって。気のせい?」
「気のせい! それに、対人戦最強でしょ?」
「まあ確かに」
というわけで、“悠の超素能力について探ろうの会”は『俺が化け物になった』で落ち着いた。少し納得いかないが、まあいい。
その後、なけなしの食料をみんなで分け合い、晩飯だ。
食料がないとなってからさらに一日が経った。もうだいぶマズイだろう。
もう、腹が減ったら谷口の〈リカバリー〉でデスホイミしかないのか……
「あぁ、そうだ。悠、頼まれてたポーション。完成したぞ」
「!? マジで!? さすが、やればできる子稲盛!」
「これ褒められてんの? 煽られてんの?」
「褒めてる! 見せてくれ!」
「ちょい待ち」
すると自室から、試験管に入った緑の液体を持ってきた。鮮やかだな。メロンソーダみたいだな。
ちなみに俺、メロンソーダ嫌い。
「これ。見た目的にもだいぶポーションじゃね? と思ってる」
「完璧。効果は?」
「一回試したけど、飲めば、その時の怪我を治してくれるな。直接かけてもいいかもしれない」
「なるほどな。よし、見せてもらおう。誰かやってくれる人~。俺がやったら、何かデメリットあっても無効化されるし」
「んっ、じゃあ俺やりてぇ!」
「よし、海翔どうぞ!」
「うぃ」
開理は、自身の武器であるガレルにて腕に傷をつけると、小林のポーションを一口で飲んだ。
すると、腕についていた傷はスウッと引いていき、最後には跡形もなく消えた。
「おおおお~っ! 完璧なポーションッ! お前すげえよ!」
「だろ。もっと崇めろ!」
「やっぱいいや。普通のことだわ」
「おいこら」
だが、本当にすげえな。これを持ち歩いとけば、結構堕者と戦えるな。
さすが毒使い。
「……悠。食料の件。私の部下に連絡させて」
「ああっと。そうだったな。じゃあ、電話かけるか?」
「うん。貸して」
俺の腕時計を貸すと、端末を操作し、電話をかけ始めた。
三回ほどコールをすると、応答してくれた。
『もっしも~しっ! どちら様ですか~』
『……亮太。私、澪』
『ああ~、真白さん! え~! 久しぶりっすね!』
『……うん。久しぶり。今、君は何をしてるの?』
『各国を旅する旅商人です! 意外と楽しいですよ?』
『旅商人……』
澪はこちらをちらりとみると、コクッと頷いた。
ビンゴのようだ。
会話内容はこちらでは聞こえないからな。それよりも……
澪が、真白さんと呼ばれたのが気になるが、今は触れない。
『今、どこら辺にいるの? 旧日本であれば助かるけど』
『おぉ~! ちょうどいい! 俺今関東付近! 真白さんはどこ?』
『……東京に建国した、リレイスっていう新しい国にいる。まだ全世界には発信していないけど』
『えー、建国? ってことは、真白さん以外にも誰かいるってこと?』
『うん。また紹介する。それより、食料持ってたりする? 今、食料不足でピンチだから』
『そりゃあ旅商人だから、商売用にも自分が食べるようにも食料は持っとかないとだし、結構持ってる』
『! 少し分けてくれる?』
『いいよ~! すぐ行くから!』
プツッ……
「どうだった?」
「多分大丈夫。今、旅商人をしているらしい。だから、食料を持ってるって」
「なるほどな。というか、お前の喋ってた内容的に、まだ国として機能してないから認識されてないっぽいな。もっと国として周りに認知してもらわないと」
「まだまだ機械とかも揃えないとね! さあ、がんばろー!」
「「「「「おー!!!」」」」」
「……まあ、まずは食料問題が解決するかだよな」
「「「「「あ……」」」」」
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