第八話
……翌日
俺達は、最大の難問を前に苦しんでいた。
クソッ……なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだ……ッ!
「食料が、なぁ~いっ!!!」
「な、なんだってー(棒)」
「……棒読みしてる場合じゃない。節約しても、あと二日分しかない。海翔、ふざけないで」
「はい。さーせんした……」
普通に見落としてた……食糧不足。全員持ち寄っていた食料だが、遂に底が見える。
チッ……どうしたもんかな……あれしかないか……
「んー白崎ぃ。ここ、東京っしょ? まだ余ってるだろうから、市街地から奪ってきたら?」
「採用……と、言いたいとこだが……」
「何か問題あんの?」
「ああ。澪」
澪へと視線を送る。澪は国利と頷いた。
「ん、東京中……世界のどこかしらに漂ってるこの瘴気。これは、食材の腐敗を進める。残ってるものがどれだけあるか……保存食くらいしか残ってないと思う。消費期限が今日、十月七日の三か月後くらい……大体一月になってるものなら食べられるはず」
「ん~、それくらいなら残ってるか? まあ、なんにせよ奪うしか道は無いか……農業の道って言っても、瘴気が払えないとな……」
「もうちょっとで完成しそう。でも、もうちょっとが遠い。ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。澪は十分な活躍してるしな。ゆっくり進めてくれればいい」
「……んっ!」
だが、農業という点は消えたな。やっぱ盗むしかないのか……
なんか、どっかに商人みたいな奴いないかな……
こんな世界で旅商人してる奴はいないか……
仕方ない、行くか。
「決めた。エレクテレス集めと食料奪取を並行して行おう。と言っても、ここら辺の堕者は強い。ステルスプレイが基本だが、見つかったら全力で叩き潰す」
「「「「「了解!!」」」」」
「で、今回は俺、沙紀、澪、小柳の四人で行く。異議はあるか?」
「「あるっ!!!」」
ここで、海翔と稲盛から不満がとんできた。十中八九アレだろう。
「……おう。今俺も口出して気付いた。俺以外女子じゃん。だけど、今回このメンバーが必要なんだよ。それで、お前達には残ってしてもらわなきゃならないこともあるしな」
「でもぉ~、ってか、必要な理由ってなんだよ!」
「そうだそうだ!!」
「一つ。俺はみんなを巻き込んだ責任があるから、こういうことをしなければならない。二つ。今回は、いつもよりも危険が多い。そんなところだから、未来を視てくれるやつがいてほしかった。三つ。困ったときは無敵状態の破壊神。どうだ?」
「ぐぬぬぬぬぬ……反論できぬ……」
「じゃあ、俺たちが残る意味は? することねーじゃん」
「まず、稲盛には“ポーション”を作ってほしいんだよ。ほら、〈毒薬〉で。人を癒す特性を持った毒だ。で、海翔はその手伝い及びこの国の守護を頼みたい。こんなこと頼めるの、お前達しかいないんだよ。お願いできるか?」
「ぽ、ポーション……!」
「俺しか頼れるやつがいない……!」
「「よっしゃ任せろぉ!!」」
「おお、ありがとう!! (フッ。ちょろいな……)」
さあ、そうと決まったら、レッツゴー!
…………
【東京都・旧市街地】
「あー、うん。多すぎる。なんだこの量」
「……今までに見たことない量。スーパーにこれほど集まっているとは」
「あれだね。何も考えずに突撃したら確実に死ぬやつ。落ち着いて行かないと」
「うへへへへ~。突撃ぃ! 突撃だぁ!!」
「しねーよ。〈空間認知〉に、周辺だけでも三十体ほど引っ掛かってる。やっぱ、完全ステルスだな……」
「棚に隠れて進んだらバレない?」
「音を出さなかったら行けるんじゃない? 取り敢えず、挑戦……っぐむ!?」
途端に、沙紀の口が塞がれた。澪によって。
皆、何事かと、バッと振り返るが、澪は人差し指を口に当て、「静かに」と言った。
その左目は蒼色に光っている。ということは……
ダスッ、ダスッ、ダスッ、ダスッ……
目の前を堕者が通り過ぎて行った。幸い、気が付かなかったようだが。
六人の緊張が解け、一瞬で力が抜ける。
「っぶね~……澪、ナイス」
「ほんとにありがと~! このままだったら私のせいで、みんなを殺しちゃうところだったよ!」
「ん、このために私は呼ばれた。悠の〈空間認知〉も完璧じゃない。意識を向けなきゃ認識できないから、突然のことはこちらで対処する」
「任せた」
…………
生きている食料がなかなか見つからなかった俺たちは、二手に分かれ、効率よく探すことに。
俺と小柳。澪と沙紀。
ぶっちゃけ、こうしたら“沙紀と小柳で無敵の破壊神大作戦☆”が意味なくなっちまうが、仕方ない。俺と澪が一緒じゃ意味ないからな。
……というか、なんだこの広いスーパー。嘗めてるだろ。
一瞬、大量の堕者に囲まれたときはどうしようかと思った。まあ、すぐ散ってったけども……
にしてもなぁ……なにか、寿命の長い食べ物は……だめだ。知らねえ。こういう時は……
プルルルルル……プルルルルル……ピッ
『あいよ~。海翔でぇっす』
『おう、海翔。悠だけどさ。保存の利く食材って何かある?』
『ん~……ジャガイモ?』
『却下』
『だったら、知らねえ』
『まっ、そうだよな……いきなり保存の利く食材聞かれて思い浮かぶやつはいねえわ』
『だなw』
『ん~、分かった。それじゃ』
『頼むぞ』
ピッ
……頼みの綱が切れた。ちくせう。
「なあ、小柳さぁ、寿命の長い食べも―――」
「知らねー」
「ですよね~」
命綱切れた。やべえ。
結構マズイ。これは、澪に瘴気を払う装置さっさと作ってもらって、農業とか畜産とか始めた方が早い気がする。
その時、澪から連絡が。
『もしもし、悠? 聞こえる?』
『ああ、聞こえる。どうした?』
『……もしかしたら、食料を持ってるかもしれない人を見つけたかも』
『は!? マジ!?』
『うん。でも、連絡が取れない。私のは、普通の端末だから』
『あー、だから、俺の時計を使いたいってことか』
『そう。悠のなら使えるはず』
『了解。今どこだ?』
『入り口付近。でも、堕者と腐死者が近くにいるから気を付けて』
『了解。ってか、腐死者もいるのか……初めて見るわ』
『大丈夫。武器無しでも、肉体戦でいける』
『繁殖力に特化したやつね……分かった。慎重に行くから、少し遅れるかもしれない』
『待ってる』
プツッ
ということで、入口まで戻ることに。
時計の機能Ⅲ、マップ機能を使い、元来た場所へ戻る。
すると、確かに戻ってこれたのだが、大量の堕者共が集まっていた。
……一部、体が鎧化してないやつがいるな。あれが、堕者じゃなく腐死者か。初めて見るかも。
だが……多すぎる。
「なあ、小柳。俺たちがさ、この中をバレずに突破できると思うか?」
「ふっふっふ……無理!」
「だろうな」
何故こんなに一か所に集まってんだ。多すぎだろ。
棚の陰に隠れようも、そこに堕者達がいる。ダメだ。澪達のところに行けない。
はー、どうしたもんかな。
【澪サイド】
三十分前……
「……沙紀は、悠のことどう思ってるの?」
「ふぇっ!? ふえぇっ!? え、えっとー……それは、どういう意味? いいやつか、クソ野郎かってこと?」
「違う。普通に、想っているかってこと」
「なにか漢字が違う気がする! 気のせい!?」
「気のせい」
なんだろう、この気持ち。今まで味わったことが無い感情。
今まで、人と話すなんてことしなかった。なぜなら、皆離れていくから。
自分で言うのも変だけど、幼少期から私は天才だった。
小学校時点でリーマン予想を解こうとした。
中学校まで上がると素粒子について勉強し始め、三年になると、大学のダークマターの研究を手伝った。
高校生で、完全に孤立。話してくれるのは研究所の人たちだけになった。一年で腐死者やエレクテレスの研究に混じって、二年の最初、つまり一学期でほとんど研究は完成した。
しかし、夏休み。大厄災は起きた。
つまり、人と接していない。まだ、幼稚園の頃は表情豊かだったのだろうか。
あの時も、人と喋ることはできるが、“友達”というものがいなかった。
だから、みんなをすごく大切に思っている。
しかし、違うのだ。悠だけは。
友達だというのに、何か違う感情を抱いている。
明らかに異質な存在に対する興味だろうか。強大な力を有するための嫉妬だろうか。
本人にもそれは分からない。
ただ、昨日。澪は、みんなが寝てから、全員の部屋を巡った。
そして、何を思ったのか悠の布団へもぐりこんだ。
彼の温かさを感じながら、眠りへつき、誰よりも早く起きては研究を始めたのだ。
自分でも何をしたのか、何がしたかったのか分かっていない。だから、この感情が何なのかも分かっていない。
だから、沙紀に聞いてみる。
「で、どう思ってるの? 好きなの? 嫌いなの?」
「……誰にも言わないでね。ふぅ~…………私、悠のことが好きなの。まだ言葉に出せてないけどね。ほんとは夏休みに告白するつもりだったんだけど、ほら、この惨劇でしょ? だから、諦めた。でも、国が完成して、平和が訪れたら告白するつもり」
「………………そう」
「あっ、誰にも言わないでね! 言ったらひき肉にするからね!」
「ん、分かった。というか、すぐひき肉にするとか言わない。だから破壊神って言われる」
「うっ、すいやせん!」
「そう」とつぶやいた時、澪の胸は痛んだ。
なんで? ここは応援するべきのはず。だけど、やっぱり心の奥では素直に応援できないのだ。
悠が自分以外の女子と話していると、どうしても体に、拳に力が入ってしまう。なぜだろうか。
昨晩、トランプ中に聞いた、「悠って、彼女いるの?」に対する、「いたらよかったのに」という回答に、心底安堵した。なぜだろうか。
……結局、自身の感情に解を見出せないまま、悠たちと合流することに。
ついさっき、研究所にいた頃、私の部下となって働いていた同級生を思い出したのだ。あいつならば何か持っていてもおかしくない。リレイスについても手伝ってくれるだろう。
……別に、パシリにしていたわけでもないし、するつもりもない。自分からパシられてただけ。私は何も悪くない……うん。
彼は元気にしているだろうか。というか、彼も友達か。部下として扱っていたために忘れていた。
そのまま歩くこと数分。澪は違和感を感じ取っていた。
澪が周りの雰囲気に違和感を持った瞬間、沙紀も同じように反応した。
「あれ? 澪。これ、包囲されてる?」
「……〈プレディクション〉」
近くでうろついていた堕者たちが一致団結して私たちを包囲してきたというのか。こんなに突然。何の前触れも無かったというのに。
そして、このままの未来を視る。結果はあまり……いや、だいぶ良くなかった。
「……ど、どう?」
「……まだ確定はしてないけど、このままじりじり包囲網が狭くなって、私達は殺される。そんな未来を視た」
「う、うそっ……」
そう呟きながらも、沙紀は〈身体強化〉をかけ、プルヴェイズを握りしめる。殺る気満々だ。
澪も、武器、エリエルを準備。エリエルは、ただの弓ではなく、弓剣。近距離も対応できる。
まあ、本職であるハンマーや直剣には負けるけども。
その瞬間、澪に絶対的な本能が働いた。〈インステイント〉だ。
首を捻り、寸前で槍を回避した。いや、薄皮は斬られてしまった。じんわりと痛む。
背後から襲ってきた槍は、堕者の物。
すぐさま振り向くと、槍を引き戻し、沙紀に刺そうとする堕者の姿が。マズい。
「……ッ!」
「えっ!? こっちに来―――」
バキンッ!!
澪が、エリエルで堕者の槍を弾き、胴が開いた堕者へ、沙紀が〈ラヴェージ〉付きの強烈な一撃を叩き込んだ。
堕者は光となって消え、足元にエレクテレスが残った。それも二つ。
「……堕者の強さに応じて落とすエレクテレス量が変わる?」
「増えるのかもね。じゃあ、強ければ強いほど大量のエレクテレスが……!」
「倒せればの話。敗走したら無理」
「だよね~」
そんな話をしている間にも、包囲網は狭くなっている。
離脱を図るも、どの方向にも堕者がいる。〈プレディクション〉にて常に未来を視ているが、いまだ確率は一パーセントに満たない。
ここは、〈限局〉を使うしか……しかし、〈限局〉クラスともなれば、数回使うだけでぶっ倒れてしまう。この数の包囲網を抜けるには足りない。
沙紀も難しい顔をしている……ことは無く、ハンマーを振りまわし、準備運動をしている。
もしかしたら沙紀は脳筋かもしれない。
その間、澪はずっと〈プレディクション〉を発動させていた。脳の神経回路にとてつもない負担がかかるが、そんなこと言ってられない。
そのまま未来を捉え続けること数分。
視えた。一筋の未来が。
視えた。常識破りの未来が。
「うおおおおおおおっっ!!!!!!」
「きゃあああああああっ!?!?!?」
「「悠! 明日香(ちゃん)!」」
悠が、小柳をお姫様抱っこしたまま私たちのところへ駆けてきた。なんと、堕者の頭や肩を踏んで。
「ええええっ!? なんでここ来たのっ!? 慎重に来るって話はどこにいったのっ!?」
「……沙紀、落ち着いて。いくら自殺志願者が目の前にいても、落ち着かなきゃダメ」
「そ、そうだね。ひっひっふ~、ひっひっふ~」
「なにか違う」
「はっはっは~! 驚いたか?」
「……とても驚いた。まさか、堕者たちを踏みつけながらここに来るとは思わなかった。でも、どうするつもり? 周りは堕者達が囲んでる。さっき悠は〈インフィニット〉を使って強行突破してきた。精神的な疲労と肉体的な疲労でもう使えない。どうするの?」
「小柳がキーマンだ」
「明日香が? さっきとんでもない悲鳴上げながら、涙目でお姫様抱っこ解除されたけど」
「明日香ちゃん、足が産まれたての小鹿みたいになってるんだけど」
「ぐすん。人生で一番怖かった。突撃する前に、『足滑ったら死ぬから、覚悟しとけよ』って言われたから」
「……いや、なんかスマンな。っと、話を戻すぞ。お前達にはこいつの〈プロンプトリー〉で無敵になりながら突撃してもらう。小柳は最大で三人同時にかけられる。だから、澪、沙紀、小柳の三人でここを抜けてくれ」
「……悠はどうするつもり? まさか、死―――」
「んなわけないだろ。まだやることは残ってんだからな。小柳に〈リカバリー〉をかけてもらって、残って暴れる。んで、お前達が包囲網を抜けてから〈祝福領域〉を発動してくれたらワンチャン生きれる。だから、小柳が完全にキーマンだ」
「……分かった。頑張ってよ! 〈リカバリー〉!」
一瞬、俺の体が銀色に光り、その光は俺に内包された。
一度までならば死が許される祝福だ。
「よし。じゃあ、頑張れ」
「ん、あなたに神の加護があらんことを。〈分岐点〉」
「! これは……」
「完全な二分の一ではないけれど、〈限局〉によって疑似的に生死を二分の一に分けた。それを〈分岐点〉によって『生きる』道を選択した。これで、あなたが死ぬ未来はない……と思う」
「お前……それ、とんでもない負担がかかるんじゃ……」
「大丈夫。それより、気を付けて。いくら進化したとはいえ、腐死者に噛まれたらアウト。〈リカバリー〉も効かずになすすべなく堕ちるから」
「……了解。じゃあ、行ってくれ。俺の決心が鈍る前に」
「分かった。じゃあ、明日香。やろう」
「了解。行くよ! 〈プロンプトリー〉!」
女子組の全身が黄金に発光。制限時間は十秒だ。沙紀が先導して走り、道を開けている。
堕者たちが攻撃を加えるが、全て効かない。
そして、十秒経った時には、全員包囲網を脱していた。
後は……
「「「悠(白崎)……」」」
数多の堕者達の中心にいる悠が脱出するだけだ。
悠は、稲盛を連れてくればよかったと、とても後悔しました。
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