第七話
「どどどど、どどっど、どうしよ!? 堕者来たんだけど!! 今はこの拠点に近づけさせちゃダメだよな!?」
「落ち着け今は悠も澪も動けない。だから俺達で迎え撃とう。一応、稲盛は残って二人を見守ってやってくれ。何があるか分からない」
「りょ、了解!」
「こやっち、紅月さん。行こう。二人の気をそらさせちゃ駄目だからな」
「行くぜよ~行くぜよ~!!」
「肉片にしてやる!!」
「お前ら……ありがとう。頼んだぞ!」
「……必ず完成させる。だから、お願い」
外で暴れている堕者を倒し、二人にメステリウムを作ってもらう。
悠と澪も、みんなを信頼し、期待しているからこそ、安心してメステリウムが作れる。
この信頼こそが、六人の強さに直結している。
【海翔サイド】
「さ~て……あいつだな。さっきの雄叫びは」
「うっわ。旧市街地で会ったやつよりも圧倒的に強そう。大きいし、大きいし」
「とりあえず大きいんじゃんw。それと、鎧じゃないけど体が堅そう。腐死者段階だったらまだ人間に近いのに、堕ちた瞬間にこんなに厳つくなるのなんなの? ほんとに」
「こやっちキレんな。それより、どうする? 真っ向からいくか、奇襲をかけるか」
「奇襲って……私、ハンマーだから機敏に動けないよ?」
「ん~、だったら、こういうのはどう? えっとね……」
話し合うこと一分。作戦が決まった。あとは、決行するだけだ。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってら。頑張って走ってよ」
「任された」
その瞬間俺は勢いよく走り出した。俺に気付いた堕者が持っていた直剣を振り上げ、こちらに狙いを定める。しかし、すでにそこに俺はいない。
〈俊足〉、〈レスタリア〉の併用により、無限に走る俺。堕者も反応し、攻撃を仕掛けてくるが、0.1秒ほど遅い。
堕者の周囲一メートルを駆け続けているが、攻撃が仕掛けられない。攻撃のために少しでも減速したら殺られるからだ。そこで、あいつの出番。
「っしゃあっ! 行くよ、竜前君!」
「任せた!」
勢いのまま、離脱をする俺。堕者は声に反応し俺の方を向くが、すでに届かない場所まで逃げている。そして、気が付かぬうちに〈身体強化〉をした彼女が懐まで潜り込んでいた。
「吹っ飛べ! 〈ラヴェージ〉!」
「オゴオオオッ!!!!」
ドゴオオオッ!!! という強烈な音を残し、ハンマーを振りぬいた沙紀。
先ほどの堕者は目にもとまらぬ速度で飛んで行ったが、今回の堕者はどうか。
答えはこうだ。
「! キャッ!」
「オアアアアアッ!! フンッ!!」
「……マジか。紅月さんのアレを喰らって吹っ飛ばないとか、耐久力ありすぎだって……というか、紅月さん大丈夫? 相手の攻撃喰らってない?」
「大丈夫。ハンマーを挟んだから……それに、遺伝子確立をしている私達なら、死ぬまでは何発喰らってもいいからね。回復もしてもらえるし」
「ふっ、任せなさい! この私に! 私に!!」
「だが、どうする? アレを喰らって余裕なら、結構きついぞ……」
「あっ、無視っすか。そうっすか」
「ごめんね。で、あれ以上の威力となると……〈デストラクション〉と〈最終殲滅時間〉……でも、発動させるには少しのタメが必要だし、〈最終殲滅時間〉でも、近づく前に斬られちゃうし……ほら、開理にも反応できるんだからさ」
「確かに……」
「えっとさ~、私に考えがあんだけど」
「なに?」
「私の、〈プロンプトリー〉を発動させた状態で、〈最終殲滅時間〉を発動させたらいいんじゃない? そしたら、即時回復、つまり無敵なんだからさ。一方的にボコれるよ? まあ、〈プロンプトリー〉にもタメは必要なんだけど」
「……分かった。俺が時間を稼ぐから、それまでに二つとも発動させてくれ」
「「了解!!」」
……さて……ずっとこっちを見ている堕者だが、いつの間にか体に赤色の線が浮かび上がっている。剣をブンッと振ると、結構離れているというのに風を感じた。
明らかに出力が上がっている。
覚悟を決めるしかない。
「〈イフェット〉!」
無限の体力で無限に加速する。終わった後の反動なんぞ知ったことか。数十秒だけこいつを足止めすればいいのだ。
先ほどよりも出力も反応速度も上がった堕者だが、こればかりは反応できない。速すぎて目で追えていないからだ。
「今だな!」
「!?」
ガキンッ!!
しかし、海翔が何度斬りつけようとダメージは一切通らない。皮膚が硬すぎて刃が通らないのだ。
だが―――
「まっ、こんだけ稼げたら十分だろ」
二人に目をやると、ハンマーを担ぎ、獰猛な笑みを浮かべながらこちらに駆けている沙紀の姿があった。
【沙紀サイド】
「まだ……まだだ。もっといいタイミングで……海翔が時間を作ってくれるから、最高のタイミングで叩き込んで」
「分かった。こっちの準備は出来たよ。後は、そっちのタイミングに任せる」
「ふっ、この私に任せなさい」
海翔が加速を続け、堕者が一切反応できないようになったその時。
堕者の意識が完全に海翔に向いた。
「「今!!」」
谷口が〈プロンプトリー〉を発動させ、黄金の光に包まれた沙紀が駆け出した。
〈プロンプトリー〉の時間制限は十秒。〈最終殲滅時間〉の時間制限は五秒。速攻で終わらせなければならない。
「オアアアッ!!」
ガンッ!
「効かぁないっ!!」
「行けー! 沙紀!」
〈身体強化〉も発動させ、〈最終殲滅時間〉も発動。
どのような攻撃も彼女には通らず、ただ進む。
そして、その時はやってきた。
「オオオオッ!!!!」
「破壊神、嘗めんなあぁぁぁっ!!!!」
ドゴオオオオオオッ!!!!
「ぐあっ……」
「きゃっ!」
核が落ちたのかと錯覚するほどの爆音が辺りに鳴り響き、周辺は爆風が発生した。
そして、その中心地にいた沙紀は―――
「……勝ったよ!!」
「「……おおおおおおっ!!!!」」
「やっぱり、触れただけでどんどん消滅するのは卑怯だわ」
満面の笑みでグーを突き出していた。
三人が倒れたのは言うまでもない。
【悠サイド】
ドゴオオオオオオッ!!!!
「うわっ!? なんだ!? 核でも落ちたか!?」
「多分、沙紀が本気出した。それより、集中。成功させなきゃ、彼らに申し訳が立たない」
「あ、ああ……」
俺はさっきからエネルギーを送り続け、澪は端末とにらめっこしている。
エネルギー総量でいえば、いくつかの街の電力を補えるくらいには送っている。
「辛いか」と聞かれれば「そんなことはない」と答える。
これを我慢するだけで国を守る壁が作れるのなら……
「もうちょっと……頑張って、悠」
「ああ……! ぐっ! ぐあっ! があっ!!!」
「!? どうしたの、悠!?」
「ぐっ……いや、問題ない。続けてくれ」
「……分かった」
あっぶねえ……一瞬、心臓を鷲掴みされたような痛みが襲ったぞ……
おそらく、澪も気が付いている。しかし、そのうえで無視をしているのだろう。俺の想いを汲んで。
ならば、俺がここで挫けるわけにはいかない。
「形成率80%……! あともうちょっと!」
「おう! もうちょっと頑張ってみる……!」
もうちょっと……! もうちょっとなんだ!!! 耐えてくれ、体ぁ!! 心ぉ!!!
「形成率90%……!! イケる! 頑張って!!」
「……ああ゛っ!!」
あいつらの……想いに報いなければならねえんだよ……倒れるわけにはいかないんだよ!
そう心の中で叫び、無限のエネルギーをさらに送る。
能力発動による代償と、莫大なエネルギーが流れていることでいたぶられる俺の体。
それでも、倒れることはない。
そして、遂に―――
「……形成率100%。もう、いいよ」
「そう、か……」
その瞬間、澪が言った「ありがとう」という言葉を聞きながら、俺は意識を失った。
…………
「ん、んぅ……んあっ!?」
俺は目を覚ました。最悪に汚れた空気で。
「なんだ? この嫌な空気は。というか、ここはどこだ? 仮拠点じゃないみたいだが……」
「ん、おはよう。ようやく起きた」
目を覚まし、最初に見たものは、布団のしわを直す澪だった。
「あ、ああ……澪か。俺は、どれくらい寝ていた? それと……ここは何処だ?」
「寝てたのは三日。ここは東京」
「んなぁ!?」
そんなに寝てたのかよ!? ってか、東京!? どうやって来たんだ……
「ん、海翔がおんぶして運んだ。すごく速かった」
「にしても、この空気の悪さは……なんだ? なぜこれほどまでに……息苦しいんだ?」
「これが、『瘴気』。遺伝子確立をしている私達なら大丈夫だけれど、していない普通の人たちならば時間経過で腐死者化する」
「なるほどな……瘴気を払う方法は?」
「今私が開発中。待ってて」
「すげえなお前」
ガチで何でも作れるじゃん。こいつ。
で、今は何をしてるんだろうな? 東京に来たはいいが、壁を建てたのか?
すると、俺の顔を見て察したのか、壁のカーテンを開けた。すると、俺の視界に広がったのは、四方を壁で囲まれた空間だった。
…………
「お~悠、起きたのか! すっげえ眠ってたな! 安心しろ! お前の計画はだいぶ進めた!」
「大人になって味わう、ブラックってのが分かった気がするよ……でも、楽しかった!」
「ふっ、ちゃんと私も働いたんよ? 槍で突進して」
「あの時の鬼神のような小柳は止められなかった……」
「みんな……ありがとう」
五人とも、俺が寝ている間にある程度終わらせていた。
まず、壁の建設。堕者達が入ってこれないように、結構な広い範囲をメステリウムで囲った。これは、素粒子化したメステリウムを場所を選択して設置。及び連結させるだけだから簡単だったらしい。そして、海翔たちはメステリウムで囲ったこの領域を『リレイス』と呼ぶことにしたらしい。かっこよ。
次に、この国の中心であるこの建物。全ての中心地。しかし、三日のうちにどうやってこの基地を作ったのか。
そこで登場するのが、澪。澪様が作ったエネルギー生成器、『ゼネライト』により動くようになった『メレルトレト』にてメステリウムを生成。そして、そのメステリウムにて基地を作ったとか。これは、場所も形も考えなければならないので、大変だったそうだ。設計は海翔がした。めっちゃ使いやすい基地ができたらしい。さすがっす。
おっと、服は全員分海翔が回収したとのこと。全員分の家を周って。澪の服は、沙紀や小柳と一緒に使ってるらしいけどな。
最後に、エレクテレス収集。これが一番大変だったらしい。なんと、ここら辺の堕者には一対一で歯が立たな過ぎて、瘴気の漂っていない場所を探して狩りをしたまでに。
やはり、瘴気の影響もあり、堕者達が強くなっているようだ。沙紀が〈身体強化〉と〈ラヴェージ〉を同時に使用し、最大威力で撃ったのにも関わらず、相手は滅ばなかったとか。仮拠点を襲撃してきたあいつみたいなのが一般的になっているらしい。
そして、澪が発見した、最悪な情報。それが、『堕者達は時間経過で強くなるということ』だ。
瘴気云々関係なく、普通に時間経過で強化されることが確認されている。
だから、最初に発見された腐死者は今、とてつもなく強い堕者になっているだろう。
ったく。めんどくせえ特性を持ちやがって……
…………
その後、俺たちはベース内のリビングのような場所に集う。それぞれご飯を持って。
豪華じゃないし、美味しいわけでもない。しかし……
「ひとまずは、安心して飯が食えるようになった。それだけで十分じゃないか?」
「確かに……最近、常に周囲を警戒しながらご飯食べてたもんね。というか、悠ご飯食べてない……」
「うわっ、ほんとじゃねーか! お前、今日はめっちゃ食えよ! お前の復活兼、リレイス完成を祝う会なんだからよ~」
「はっはっは~! じゃあ、私もめっちゃ食ったるでぇ~!!」
「小柳、あんま食ったら太r……すみませんでした」
「……六人全員が揃っているだけでも奇跡。こんな世界でみんな生きてる。こんなに素晴らしいことが他にある?」
「無いな! というわけで! 今日はめいっぱい楽しもうぜ!」
「「「「「お~!!」」」」」
食後、俺たちは色々なことをして遊んだ。
TVゲームのようなものは無いが、トランプや、人生ゲーム、将棋、オセロ、チェス……いくらでも残っている。
……ババ抜きで全て澪が勝ったのは、絶対能力を使っていると思う。だって、左目光ってたし。蒼色に。
まっ、負けじと人生ゲームでは全部勝ってやったけどな! 可能性を乱用して! この身を犠牲にして!!
……そして、十分に遊戯を楽しんだ俺たちは、それぞれの寝室で眠ることにした。
こんなに安心してに眠れるのは、いつぶりだろうか……
常に堕者の咆哮を聞きながら、腐死者の影に怯えながら寝ていた。
だからこそ、このひと時があまりにも幸せに感じるのだ。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。人生ゲームで〈可能性平衡〉を乱用したせいで、疲れが……
そして、俺の意識は完全に遮断され―――る前に、何かが俺の布団に入ってきたのが分かった。
堕者か!? とも思ったが、眠気に支配されているこの頭では何も考えられず、体も動かせない。
今度こそ、完全に意識を失った。
仮拠点を襲撃した堕者ですが、沙紀の最初の一撃でだいぶダメージを受けています。
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