第六話
【旧市街地】
翌日、俺達(俺、沙紀、稲盛)の三人でエレクテレス集めへ。
要するに、堕者を倒しに行く。
先ほどもそうだったが、堕者や腐死者達は倒されると光の粒子となる。しかし、倒された場所。そこに結晶が落ちているのだ。その結晶がエレクテレス。
それを集めるわけだ。
「じゃ、始めるか。今はどいつにも気が付かれていないが、一歩でも動けばバレる。〈空間認知〉には、十二体くらいが引っ掛かってるから。一人四体ずつ。いや、二人で六体でもいいから、確実にいこう」
「「了解!!」」
今回、この二人を連れてきたのにはいろんな意味がある。
一つ。沙紀の破壊神系統の力が、どれほどまでに有効なのか。
二つ。稲盛の毒系統の力は、どれくらいまで有効なのか。
三つ。武器に慣れる。沙紀のハンマー、『プルヴェイズ』と、小林の銃、『バレッサ』。
この三つだな。
特に、上二つが重要。
沙紀の〈デストラクション〉とか、小林の〈デッドリー〉、〈ベノムフィールド〉。
あっ、〈最終殲滅時間〉……いや、考えまい。
というわけで、少しだけばらけて狩りを始めることに。
「ん~、俺も俺で、この力に慣れないとな……いちいち疲れるこれに」
「ギャヒャヒャ! ゴアアア!!」
「うるせえな。静かにしろ」
「ギャヒャ! ヒャヒャヒャ!」
「なに笑ってんだよお前!」
剣で斬り刻むが、一撃では死なない。仮拠点周辺にいたあいつらよりも強い。
いや、違うな。あいつらが弱かったのか。分からない。
「オオオオッ!!」
「! ハンマー持ちのデブタイプか!」
こいつらは一撃が重すぎる。剣であり俺の身体能力では潰されてしまう。
すでに、振り上げており、後は叩き潰すだけだぜぇ! みたいな体勢である。
このまま振り下ろされれば、潰されてしまう。
……と、思うじゃん?
「〈インフィニット〉」
グンッ! と俺の中でエネルギー量が増え、そのまま力へと変換される。
迎え撃ってやる。
「オオオオッ!!」
「おらあっ!!」
ドゴオンッ! という鈍い音が周辺に響き渡る。しかし、俺は潰れていない。
さらにエネルギーを供給し、力を増やす。
「オア!? ヌウウウウウンッ!!」
「あいにく、潰れないんだなぁッ!!」
うち払い、デブを斬り刻む。粒子となり消えていく堕者には目もくれず、エレクテレスを回収する。
ふ~っと息をつくと、とてつもない疲労感に襲われた。
「……! ガハッ……ちっ、代償か……俺だけだよな。これ。他の人はなってないからな……強い能力にはその分強い代償が付くってか……」
一旦休憩するか。と呟き、壁に背を預けた、その瞬間。
「! アブナァイ!」
寸前回避!
ドゴオン! と、先ほどまで身を預けていた壁に、堕者が突き刺さった。
その堕者は光の粒子となり消え、その場にはエレクテレスが残った。
「……一体何なんだ……」
本当に不思議なことが起こるもんだな…
【沙紀サイド】
「ふっふっふ……地味に楽しみだったんだよね……堕者達と戦うの!」
恐怖心が無いのかと問われれば、間違いなく、ある、と答えるだろう。
しかし、今はそれ以上にワクワクが勝っているのだ。
そんなタイミングで
「あっ、見っけ!」
「! ゴアハハハ!!」
喜々として堕者が走って来る。獲物を見つけたとばかりに。
しかし、それは間違いであった。
彼女は、捕食者であった。
「〈身体強化〉!」
「ガアアアッ!!」
彼女がハンマーを振り、その堕者に当たる刹那のタイミング。
沙紀は心の中で呟いた。
〈ラヴェージ〉と。
「?」
バゴオオオオオッ!!!!!
ハンマーに触れた瞬間、喰らった堕者が視界から消えた。
否。見えぬ速度で飛んで行ったのだ。
「……あー、私、破壊神だわ。なんか悲しい……というか、あの堕者どうしよう。飛んでっちゃったんだけど……まあ、あっちには悠がいるからいっか。って、疲れた~。これが、代償である倦怠感かぁ」
身体能力を三倍にまで引き上げる〈身体強化〉と、瞬間的とはいえ、武器による攻撃力を五倍にする〈ラヴェージ〉により、普通に彼女がハンマーを振るだけでは得られない、ありえない攻撃力が生み出された。
ただの攻撃力強化だけでこれなのだ……消滅させたり、その状態で暴れまわったりするのは少しマズイだろうと思い、〈デストラクション〉と〈最終殲滅時間〉は、二人がいるところでやろうと思った。
……彼女が事も無げにやった、〈ラヴェージ〉。武器と対象が触れる刹那の瞬間に発動させなければ、すぐ解けて不発に終わる。ただ無駄に疲労感を味わうだけだ。
しかし、初発で成功させた。これが意味することが分かるだろうか……
【稲盛サイド】
「おおぅ……堕者めっちゃいる……あ゛あ~、帰りたい! 帰りたいぃ……」
なぜか武器を持たない状態で堕者と相対する悠とか、いい笑顔でハンマーを振りまわす沙紀ではない。つい最近まで堕者や腐死者達に見つからないように逃げてきた一般人だ。戦えるわけもない。
と思ったら大間違いだ。
彼はとても重い病気に侵されていた。
厨二病という病に。
軽度とはいえ、侵されている。
「オアアアッ!!」
「おっ、来た来た……! さあ、ぶっ放そうぜぇっ! バレッサ!」
「アアアアッ!!」
通常、バレッサにはエレクテレスを使用する弾丸が必要となる。しかし、稲盛は自身の超素能力の〈デッドリー〉により生成した毒を圧縮して込め、自身のエネルギーを使用して撃つ。
ものすごく燃費が悪く、威力も大してない。
しかし、“毒”という属性が付いている。それだけで役に立つのではないだろうか。
ドンッと放たれた弾丸は、禍々しいオーラを放ちながら目の前の堕者に当たった。
タンッという軽快な音を鳴らし、弾かれてしまった。
「……」
「……ア?」
「……すいまっせんでしたぁ!!」
すぐさま踵を返し逃げる稲盛。一瞬戸惑った堕者だが、追いかけ始める。
毒の弾丸では全くダメだった。対抗手段の一つ、武器が封じられたのだ。逃げたくもなる。
しかし、彼は気がついた。最強の超素能力があると。
「〈毒竜顕現〉んん!!」
「……ア!? アア!?」
堕者は、突如として目の前に現れた毒竜に驚き、動きが止まった。
その瞬間、稲盛は指令を出し、毒竜が堕者を飲み込んでしまった。
……エレクテレス、落ちてない……
いや、それよりも生きていたことを喜ぶべきだ。そう、安堵したその時、とてつもない疲労感が稲盛を襲った。
「あ、もう動きたくない。だるい」
一旦座り込んでしまうともう駄目だ。立ち上がれない。
稲盛は、そのまま、泥のように眠ってしまった。
「起きろ寝坊助ェ!!!!」
「ぷげらっ!」
ったく。こんな危険地帯で寝やがって。俺たちが全員倒してなかったらどうしてたんだ。
まっ、俺と沙紀でめっちゃ倒しまくったからだいぶ集まったがな。
もうそろ帰るか~と話していると、俺の時計から連絡が来た。
プルルルルルッ……プルルッ ピッ
『はい、もしも~し。どちら様ですか~』
『私、澪。メステリウムを生成する機械が作れたから、帰ってきてほしい。エレクテレスはいくつくらい手に入った?』
『ん~、大体合計四十ちょっと。足りるか?』
『二メートル×二メートルの壁が二十枚ほど作れる。簡易的な拠点は作れそう』
『そうか。じゃあ、言われた通り帰るな』
『ん、待ってる』 バキバキッ ドゴーン 「おいしょー! おらあっ!」
『……ちょ、なんか聞こえ―――』
プツッ
「あ、切れた……なんか、やばい破壊音が聞こえたんだけど……ま、いっか」
「えっと、どうするの? もっと狩るの?」
「いんや、帰る。なんか、澪が発明したらしい」
「へえ~っ! さ、早く帰ろ!」
「おう」
早く帰ると言いつつ歩いて帰っていると、堕者達が寄って来る。そいつを狩りながら帰ると、エレクテレス総量は七十を超えた。これで三十五枚ほど作れるんじゃないか?
そんなことを考えていると、あっさりついた。
仮拠点以外が破壊されていたが。
「あっ、おかえり」
「お、おう。それはいいんだけどさ。どうした? 周り。全部壊されてんじゃん。何かあったのか?」
「いや、海翔と明日香に周りの家を破壊してもらって、素材を集めてもらった。壁とかの素材」
「なるほどな。まっ、建国はちょっと離れた場所にするけどな」
「? どこに建てるの?」
「この国の旧首都。東京だ」
「なぜ? 要塞都市にするならば、もっといい場所があるはず」
「あそこにはまだいろんな機械が置いてあるってのが大きな理由。あとは、東京に誰も国作ってないからかな。北海道に三つ。東北に五つ。中部に四つ。近畿に二つ。中国に二つ。四国に一つ。九州に二つ。関東には誰も建国していない」
「……どこから仕入れた情報? 確証はあるの?」
「あの研究所で人工衛星にアクセスして見てきた」
「え、待って。お前、ちょっとパソコンいじってたけど、人工衛星にアクセスしてたの!?」
「まあ、開かれたままだったしな。簡単に見れた。難しいことはしてない」
「……あなたが何をしようともう驚かない。分かった。ここから東京まではだいたい何キロか分かってるの?」
「大体二百キロほどじゃないか? 俺と海翔が先に行って準備しようかと思ってる。機械とかを持って走ったら時間かかりそうだからな……まあ、高速道路に沿って行けば迷わないだろうし、ゆっくり来ればいい。」
「分かった。でも、機械の心配はない」
「なんで? デカいんじゃないの?」
「ん、見てもらった方が早い」
そういい、彼女が案内してくれたのは元寝室だ。そこに、布の掛けられた物体があった。そして、彼女は布を掴むと勢いよく取った。
そこには、大体一メートル×一メートルほどの大きさのいかにも工場においてありそうな機械があった。しかし、だいぶ小さい。上、横には穴が開いており、何かを入れるもののようだ。
「これが、私の発明……といっても、元あるものを再現したものだけど。『デモンタージ』って呼ぶことにした。上から何かを入れると、横から素材となって出て来る。俗にいう分解機。見てみる?」
「おう! 見せてくれ!」
彼女は近くにあった金属製の椅子を分解機に放り込むと、ピーッ……という音を放ち、横からいくつかの塊が出てきた。
鉄の塊や、布の塊。文字通りの素材となって出てきた。
「なるほどな。だから、分解機か。そんで、あいつらに周辺を破壊させてたわけだ。素材を集めるために」
「そう。それで、もう一つがこれ」
「? なんだ、それ?」
そちらは、少し大きめな機械だ。横から素材を入れて、違う場所からまた出てくるタイプのようだ。
「『メレルトレト』簡単に言ったらエレクテレス加工機。これで、メステリウムが作れる……んだけど」
「? なにか問題があるのか?」
「……発電設備がないから、エネルギー不足で作れない。作ると、不可視の粒子型になってその空間に存在するから、メステリウムの持ち運びは簡単。そして、私の作った機械たちは、相変わらず素粒子になって重量がほぼ消えるから、持ち運びが簡単」
「なるほど。じゃあ、作ってみるか」
「……今、作れないって言ったばっかり。これを動かすには、発電所丸ごと必要。そんなエネルギー、どこから持って来―――あっ」
「無限のエネルギーを使おうじゃねえの」
…………
「じゃあ、始めてくれ」
「ん、分かった」
「入れるぞー」
海翔がエレクテレスを入れ、他にも様々な金属を投入していく。
澪は機械に近寄ると、端末を操作。設定をし、メステリウムの製造に移る。
ここからが本番だ。
「……危険だと感じたら、即座に中止して。機械は直せるけど、人は治せない。特に、超素能力を使った代償は明日香でも治せない」
「その忠告が聞けるかどうかは進行度によるな。まっ、見てなって」
俺が機械に触れ、〈インフィニット〉によってエネルギーを流し始めたその時。
「ガアアアアアアアッ!!!」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
「ウオオオオオッ!!」
外で堕者が暴れ始めていた。
澪は天才ではなく、“大天才”です。
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