第四話
「これが、私の四つの超素能力のうちの一つ、〈プレディクション〉。その名の通りの数瞬先の未来予知。大したものじゃない」
そういうと、彼女は部屋の片隅に目を向ける。そこには明かりのついたスタンドライトが置いてあった。
すると彼女は、「消える」と呟いた。
その瞬間、明かりのついていたスタンドライトが消えた。
……これは、「ラプラスの悪魔」ってやつか……? それを人間が? それが超素能力ってことか? まあ、完全に信じるわけにはいかないが、まだ信用に値する。
「……生身の体で未来予知とか、すごいなって……。ん、あれ? ってことは、お前はDNAが完璧に働いてるってことか……?」
「たしかに、言ってたもんな。遺伝子情報が完全に送られたら超素能力を得られるってよ。えっ、どういうことだ? というか、今更だけど、お前、何者だ?」
「……澪。名字は捨てた。この研究所で働いてた一人。高二」
「「高二ィ!?」」
まじかっ! 背丈で言えば俺達より少し低いくらいだけど、あまりにも天才すぎて年上かと思った……なんか申し訳ねえな……
つーか、しれっと言ってたが、名字は捨てた? どういうことだ?
……いや、根掘り葉掘り聞くことじゃない。
「……そんなことはいい。大事なのは、旧世界の人間では成しえなかったことができるようになったということ。この力で腐死者、いや、堕者を圧倒する」
「……生身で? さすがに、見た目からしてごついあいつらと殴り合いはな……怖いっつーか、嫌だ」
「たった今逃亡を決意しました。ハイ」
「……生身で殴り合いなんて、腐死者までしか無理。堕者になると、生身の攻撃は効かない。だから……」
彼女は、「ちょっと待ってて」というと、部屋を出た。
待つこと約三十秒。彼女は、弓を持ってきた。それも、とてもメカメカしい。全体的に黒く、何本かチューブが通っている。
……沙紀の家の前にいた堕者の持っていたハンマーを彷彿とさせるのは何故だろうか。
「こういう武器を使う。私の場合は弓」
「ファルス?」
「武器ってこと。あいつらを倒すための武器だから、相応の力が必要。遺伝子情報が完全に送られていないと使えない。持ってみる?」
そういうと、彼女は持っていた弓を床に置いた。
パッと見軽そうだが、彼女が言うのだ。重いのだろう。
「んじゃ、俺から行くぞ、悠」
「おう。持ち上げてみろ」
「せーのっ! うおおおおおっ! ふぬうううううっ!!」
一ミリたりとも動いていない。演技ではなさそうだ。
俺達より腕の細い彼女が余裕の表情で持ててたことを考えると、資格の話は本当っぽいな。
一応俺も持ってみるか……
ふっ!
……ダメだった。
「これで分かったと思う。遺伝子の話」
「ああ。もう信じるしかないよな。で、急かすようで悪いんだが、俺たちはもう仲間のもとへ帰らなきゃならないんだ。エレクテレス関連の話もしてくれると助かる」
「そうか~。もうそんな時間なのか。あいつらも暇してるだろうな」
「……分かった。じゃあ、こっちに来て。エレクテレスの話は帰りながら話してあげる。だから、この研究所でしかできないことを」
「えっ、帰りながらって……」
「……私も付いて行く」
…………
まさかの付いてくる宣言されてから数分。案内されるまま俺たちは、『立入禁止』と書かれた看板をどかし、とある一室に入った。
そこは、巨大な円柱形の水槽がいくつもあったり、中央の巨大な四角の机の上には資料が散らばっていたりと、いかにもな研究室であった。
そして、その深奥へ。
「? なんもない壁の前だぞ? 何かあるのか?」
「おっ、隠し扉とかか? 研究室の隠し扉とか、楽しみだな!」
「……そう、隠し扉。ちょっと下がってて」
バツが悪そうに眼を逸らす彼女だが、そういわれたので、男子二人は壁から離れる。
認証式の扉か? とか、鍵とかあんのかな? と考えていると、彼女はあろうことか先程の弓を取り出した。そこには、光でできた矢がセットされていて、彼女はめいっぱい弓を引き―――
「「は??」」
「……えいっ」
バアンッ!!
「……ん、行こう」
「思った以上のパワープレイッ! 破壊して進むとは思わなかった……」
「弓って銃よりも弱かったよな? あれ? 何この破壊力」
こ、これが武器か……すっげ。
「この先が、大事な研究施設。遺伝子の働きを完璧にする液体がある」
「え、液体……」
「ちょいと嫌な予感がするの俺だけか……? 悠?」
壁を破壊して入ってきた部屋は、先ほどの部屋より施設レベルが減ったように見える。しかし、内容は最先端だ。
……ところどころに飛び散っている血は見なかったことにする。そもそも俺達、街中の血で見慣れてるしな……
少し奥に行き部屋を漁っていた彼女が帰ってきて、俺たちに二つの雫を渡してきた。
いや、今の言い方は語弊があるな。雫の形をしたケースだ。
収束している方に銀色のキャップがしてあり、丸い方にも銀色のカバーが付いている。
トマトジュースみたいだ……
「……じゃあ、飲んで」
「は?」
「え?」
「さっき言った。遺伝子の働きを完璧にする液体があるって。それが、これ。血成」
「け、血成……見た目、もうちょいどうにかしてくれよ……」
「見た目は……んー。味は……うん。効果は確かだから、飲んでみて」
「見た目と味、濁すなよ」
すっげえ躊躇ったが、飲むしかない。覚悟を決めろ。
……これで嘘だったらこの女マジぶん殴る。
「いただきます……んっ、ぷはあっ……」
「うおっ、飲むのかよ!? じゃ、俺も行くわ……ごくっ……ぷはっ……」
「……どう?」
「「……まぁっずぅ!?!?!?!?!?!?!?!?」」
なんだこの不味さ!? 全身が暴れるほどに不味いぞ!?
脳が拒否するくらいにはマズイ! でも吐き出せない!!
食器用洗剤をがぶ飲みしたくらいに胃が悲鳴上げてるっ!!
ああああああっ!!! まっずうううううううう!!!!!!
…………
のたうち回ること約一分。
「はあ、はあ、はあ、はああああああ……」
「うっが……。ぼあ」
「……落ち着いた?」
「ああ。海翔……は、聞くまでもなくダウンしてるな。大丈夫か?」
「れんれんらいひょうぐりゃれえ! ろいら!」
「なんて?」
「……まあ、頑張って。で、問題はこれで力が手に入ったかどうか。だから、はい、持ってみて」
そこで渡された彼女の武器。さっきならとてつもない勢いで落ちただろうが、地獄を乗り切った俺達なら……!
「あっ……! も、持てる!」
「おめでとう。これで、身体能力も上がっているはず。それは後でいいとして、一番は超素能力の有無」
「使い方分かんねえ」
「使っている姿をイメージする。その力によってもたらされる結果を思い浮かべる」
「どんな力か知らないっす」
「……ごめんなさい。じゃあ、こっちに来て……そういえば、あなたの名前は?」
「ん、ああ。俺が白崎 悠。まだ死んでるのが竜前 海翔。そういえば名乗ってなかったんだな」
「分かった。悠、海翔、来て。この機械に手をのせて」
「了解」
「あ、があ……」
「ほんとに大丈夫か? 海翔」
言われた通り、タブレットほどの大きさの端末に手を乗っける。先に海翔が置いた。
すると、連動したように大きな画面が出現し、結果を見せてくれた。
【超素能力】
俊足:移動速度の上昇。
ゲイル:風となる。
レスタリア:無限の体力を得る。
イフェット:速度が上がるほど、体力が増える。体力が増えるほど速度が上がる。
「……なるほど。解説がこれ以上ないほどに分かりやすくて助かる。モチーフは『韋駄天』ってところか? 常人からしたら考えられねえな……で、ご本人の感想は?」
「しょぼくねーか?」
「だそうです澪さん」
「……〈イフェット〉が強い。通常、これの表示は下から順に強いものが出る。だから、一番下はその人が持つ超素能力の中で最強のものになる」
「おーん……で、それを聞いたうえで、どうですか、海翔さん」
「俺には走ることしかできないんでぇ! 走ろうとぉ! 思いまぁっす!!」
「そいつはよかった。んで、カタカナと日本語混ざってるのなんなんだよ? それに、〈ゲイル〉とか、効果から考えるにGale(疾風)だろ」
「どこでその超素能力が発見されたかによって変わる。〈俊足〉は最初にWWSが見つけた。でも、〈ゲイル〉、〈レスタリア〉、〈イフェット〉は違う国が見つけた。それだけ」
「え、WWS以外でも同じような研究してたn……そういや、全世界で腐死者実験してたんだったな」
「そう。一応、例として私も見ておく?」
「あ、澪さんの預言者か……見たい」
「分かった。それと、澪でいい」
そういい、彼女は端末に手を置く。
【超素能力】
インステイント:本能が働き、危機を知らせる。
プレディクション:数瞬先の未来を視る。
分岐点:起こる確率が二分の一のとき、その片方の事象を確定させる。
限局:一つでも可能性があるのなら、その可能性を現実に反映する。
「……あー、思った以上にぶっ壊れだった。〈分岐点〉と〈限局〉って何なんだよ……ようするに、未来を確定させる力と、可能性の顕在化だろ? 化け物かよ。遺伝子君頑張りすぎだろ」
「俺の能力走るだけだったってのに……これが、格差、か……」
「おい? 海翔? 元気出せ? おい?」
「……圧倒的な疲労感が存在する。だから、戦闘ではあんまり使えない。元気出して」
「うぅ、まさか励まされるなんてよぉ……」
「さあ、悠もやって」
「あっ、はい……」
やべえ、地味に緊張する。ここですっげえしょぼい能力だったらどうしよう……
まっ、この二人は笑うような奴じゃないだろ!
そう覚悟を決め、端末に手を置く。
【超素能力】
空間認知:周辺の空間内の様子を完全に把握する。
可能性平衡:自身が動いたことで生じた可能性の消失を、同時使用により戻す。
インフィニット:無限のエネルギーを生成する。
Ws3にgえdu:hgp0whヴぉぺうおcjづえgjぉねりdghvふぉdhとぺhf
「一つ言っていいか? 悠」
「……どうぞ」
「ざっけんなこの野郎!! 俺走るだけだったんだぞ! なんだよ、〈空間認知〉って! なんだよ、〈可能性平衡〉って!! なんだよ、〈インフィニット〉ってぇ!!!」
「こっちが聞きてえわ! 最後に関しては機械嘗めてんだろ! なんだよ、Ws3にgえduって! 最強の部分が読めねえんだぞ!」
「知るか! 走るだけよりいいだろうが!」
ギャースギャースと騒いでいると、澪の冷たい視線が突き刺さったので、一気に黙る。
だが、おかしいな?
空間を把握する能力、可能性に干渉する能力、エネルギーを生み出す能力、あと一つは分からんが……それでも共通点が見出せない。
澪の方に目線を向けるが、「知らない。分からない」というふうに首を振られてしまった。
「……まあ、使っていけば慣れると思う。それより先に、武器を選んで」
「あ、はい」
「ちくしょうめ! なんだこの感情ッ!」
部屋の片隅にあったガラスケースを見てみると、中には武器が入っていた。
剣、短剣、槍、戟……。あっ、弓……の部分は開いている。澪が持ってるからか。んー、直剣が多いな。だが、全部造形が違う。
ってか……
「全部でかくね?」
「確かに。百五十センチくらいはあるよな~」
「……堕者達にダメージを与える機構が含まれてるから、大きくなってしまうのは仕方ない。でも、感じる重さは変わらない。私たちが進化してるから」
「なるほどぉ……。あ、海翔先に選んでいいぞ。俺後でいいや」
「え、マジで!? じゃ、お言葉に甘えて~っと」
右往左往し、色々な武器を見て回る海翔。速さを活かせそうなのは、まあ短剣か? ま、本人が何を選ぶかだよな。
「んじゃっ、俺はこの短剣で。めっちゃ速い動きで撹乱しながらどんどん傷をつけていくってかっこよくね?」
「かっこいいと思う。韋駄天のモチーフに恥ずかしくないセレクトだと思うぞ」
「じゃあ、次は悠」
「んー、俺は~どれにすっかなぁ……」
剣の方がいいと思うのだが、少しばかりロマンが欲しいん……ゲフンゲフン! 口がスライディングしてたぜ……危ない危ない。
って、うん?
ふと研究所内のガラスを見る。すると、そこには右眼が紅色に染まった俺の姿が映っていた。どうやら、無意識のうちに〈空間認知〉を発動させてしまっていたようだ。だから異常に頭の中に情報が入ってきてたのか。
……じゃあ、おかしなことがあるな。
この超素能力は、俺の周辺であり、一つの空間にしか作用しない。仕切られていると別の空間として認識されるからだ。さっき歩きながら実験した。
だが、俺の後ろ。つまり壁だが、その先にほんの少しの空間があるのだ。
つまり、この部屋の一部である。
つまり、小さい空間の中に入っている物を、俺は認識している。
「……!? 悠、なにするつもり!?」
「? え、お前なんかすんの?」
〈プレディクション〉により俺の未来を視た澪が、俺の行動を止めに動いた。
そして俺は拳を振り上げ―――
「オラァ!!」
ドゴォン!!
「いや、なにしてんだよ、悠! 壁破壊しやがって……って、なんだこれ!?」
「……超素能力といい、あなたちょっとおかしい。何かを引き付ける能力がある」
「めっちゃディスられた」
俺だってちょっと悲しくなるんだぞ。
だが、壁を破壊した甲斐はあった。
なぜなら―――
「……剣」
メカメカしさを残しつつ、美しさも忘れない剣が安置されていたからだ。
短剣は与えるダメージが少なくなる代わりに、軽量化と縮小化に成功しました。
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