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世界が滅ぶ前に平和を願って何が悪い?  作者: 如月 弥生
第二章 戦争編
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第二十八話

テストが終わったので、喜びの投稿です。

「よし、この先、ずっと誰もいない。駆け抜けた方が安全そうだ」


「気を付けて。二十秒後に後ろから誰か入って来る。すぐに行かないと、バレちゃうかもしれない」


「なら、すぐ行かないとな」


 コクン、と四人で頷き、沙紀は〈身体強化〉を発動する。

亮太は、ジェットブーツをはき、俺は澪をおんぶした。


「……え? 私だけ、おんぶ?」


「行くぞ」


「いや、ちょっ、待―――」


 その刹那、〈インフィニット〉を発動させた俺が、勢いよく駆け出した。それに続き、沙紀、亮太が追い付いてくる。

 左に、巡回中の警備員が見えた気がしたが、俺は何も気にしない。



「……ん? 今なんか、バチッ、って聞こえなかったか?」


「気のせいじゃないか? ちょっと風が吹いた程度だ。何かと勘違いしたんじゃ?」


「……それもそうだな」



 ……あっぶね。


 何もすることなく駆け抜けること二分弱。とても長く、迷路のような通路にも終わりが見えてきた。

まさか、五層構造になっているとは思わなかった。一階一階階段を探し、一つずつ降りてきた。まったくもってまどろっこしいことをするものだ。


「つ、着いたぁ……この先に、研究施設があるの?」


「まあ、今までのも全部そうだろうが、一番重要なのはここだろうな。なんせ、こんなに深い場所にあるんだから」


「ん、国の中心かつ最深部。ここにないわけがない。悠の超素能力でさえ詳細が見えない機関。何かがあるのは間違いない」


「そういうことで、行くぞ。ここまで来たら隠密も何もない。顔を隠すだけ隠して、少し漁る。残るのはちょっとだけだ。いいな?」


「「「了解!」」」


 目の前の巨大な扉。これを開くと研究室があるのだろう……が、ばれるに決まっている。故に、隠さない。


「認証システムか……澪、解除できるか?」


「できない。生体認証があるから、どうにもならない」


「亮太。通り抜けフープ」


「あるわけねえだろ。青タヌキじゃねえんだぞ」


「猫な。いいや、下がってろ」


 天井を突破した時と同じように、蟒蛇によってぬるっとした穴を空けようとする。しかし、これは……


「……だめだな。傷が付く程度だ。穴を空けるまでにはいかない。これは、正攻法じゃないとダメだな」


「えっ、なんで開かないの? 防御無視の斬撃でしょ?」


「いや、あれは物体の分子と分子の間を切り裂いてるだけだ。だから、その間がギッチギチなものとかだったら斬れないんだよ」


「えっ、この壁、そんな硬度あるの!?」


「まあ、そうだな。硬度というよりは密度か……」


 うーん、と呟きながら澪がロックの解除へ向かう。やはり、第一段階、第二段階は容易に突破したが虹彩認証と指紋認証は超えられないようだ。……仕方ない。


「三人とも、俺がこれを解除する。だから、中から何か出てきたら対処してくれ」


「は? 今失敗したばっかじゃねえか。何か手段が?」


「無くはない。が、ありえない可能性を強引に顕現させるのはさすがにキツイ。だから、後よろしく」


「なるほど……」


 ロックの正面に立ち、これを解除する権利を持つ人を想像する。欠片も知らないが、「この人なら解除する可能性があるかもしれない。もしかしたらね?」というレベルの小ささで叶えるというのだ。流石に無理がある。


「〈可能性現滅〉……ッ!」


 バヂッ! バチバチッ! という音と共に、紫の電気が目の前に迸る。いや、これは電気というより……。


「空間が……歪んでる」


 澪が回答を出した。なるほどな。確かに、歪んでるわ……!

〈インフィニット〉で出した無限エネルギーも〈可能性現滅〉に使い、強引に可能性を生み出す。


「通してっ、もらうぞっ!」


 バチバチッ! という音が、最大限に達する。途端、バシュッ! という音と共に電気が消えた。


ピピッ


「……開いた?」


「お、そらく、な……」


「悠! 大丈夫なの!?」


「……一時的に無茶な使用をしたから疲れてるだけ。少し休んだら大丈夫だと思う」


「そうだな。初期の頃を思い出すわ……まあ、歩くくらいならわけない。行くぞ」


 多少頭痛がし、体が重いが問題ない。それよりは、早く脱出することが大事だ。優先順位を間違えてはいけない。


「へえー。凄いいっぱい機械があるね! どんな情報を見つけ出せばいいの?」


「情報を見つけ出すというより、腐死者を生み出す実験をしていないかの確認。だから、沙紀は亮太とあっちの方を調べてきて。私と悠は、こっちを調べる」


「ん、分かった!」「了解っす」


「さ、行こ」


 澪が手を取り、先導してくれる。なんか、ちょっと恥ずかしいな。


「にしても、誰もいないんだな……。たまたまか?」


「悠、周辺に人は?」


「……今はちょっと超素能力が使えない。かろうじて半径一メートル程度の情報を得られる程度だ。悪いな」


「ん、分かった」


 さっきはガチで無茶したからな。

どれくらい無茶かというと、澪が、「二年前の未来は去年やろ」とか言いながら未来視を発動させるくらい。本来想定されていない使い方をしたようなもの。

あと十分くらいすれば〈インフィニット〉で再生できるんだが……。

 と、その時、沙紀&亮太ペアから連絡が入った。


『おーっす、聞こえる?』


『ああ。どうした?』


『いや、ちょっと怪しいんだけど……なんの力も感じないエレクテレスと、その……堕者の破片? みたいなのがあるんだよね……』


『堕者の破片? 鎧の一部みたいな感じか?』


『そうそう! それそれ。だから、ちょっと見てほしくて』


『分かった。すぐ行く』


「というわけだ。澪、行ってみるか」


 振り返り、澪に呼びかける。しかし、反応がない。

 見てみると、左手をイヤホンに当てている。誰かと連絡を取っているのか? だが、亮太と沙紀はたった今俺たちに連絡した。それよりも先に、個人連絡でかかってきた可能性が高い。

とすると、小柳、稲盛、海翔か……この中で連絡するとしたら誰だろうな?

っと、終わったか。


「終わったか?」


「……ん。それで、どうしたの?」


「いや、沙紀と亮太が怪しいもの見つけたから見てみてだってさ。だから言ってみようぜ、って」


「……ん。分かった」


……はあ。


「―――で、誰からかかってきたんだ?」


「…………」


 数秒間躊躇い、澪は答えた。


「………………海翔」


「海翔から? それまた何用だ? まさか、侵攻を受けてるとかじゃ」


「……そんなのじゃない。いいから、行こ」


 妙な威圧を感じ、おとなしく引き下がることにした。さて……。少々分かってきたかもな。

今朝からの顔色の悪さ。海翔からの連絡と、その内容の秘匿。情報の欠片は集まってきた。

だが、今は干渉しない。


 というわけで、二人のもとへやってきた。

 

「で? どれだ?」


「あ、これこれ。これが、堕者の欠片っぽいやつ。で、これが力の入ってないエレクテレス」


「……へえ。こっちのエレクテレスは、うちでもちょくちょく見かけるな。ほら、血装化とかで」


「ああ、確かに。エネルギーを抽出した後とかか」


「で、澪はどう見る?」


「……さっき見た工場。あれで、エレクテレス内のDNA成分を搾り取って、堕者を生成しているのかもしれない」


「そんなことできるのか?」


「できない……ことも無い。多分、うちでもやろうと思えばできる。正気の沙汰じゃないけど」


「なるほどなるほど。じゃあ、本格的にデータ抜き取るか。その瞬間バレるだろうけど、全員速攻で離脱するぞ」


「分かった。どこから?」


「来た道を少し戻って、地下二階程度から天井までぶち抜く」


「なるほど。じゃあ、準備しとくね。扉とか」


「ああ、頼む」


 澪と共に巨大なパソコンまで接近し、データをコピーする。映画では結構時間がかかるものだが、そんなことはない。二秒で済む。

 そして、コピーしたデータを情報記憶物体(ルービックキューブ)へ転送。まあつまり、世界情報記憶装置(ガイアキューブ)に転送されている。


 その瞬間、ウィーン、ウィーン! とサイレンが鳴り響く。

ここからは勢いで乗り切る。


「逃げるぞ!」


 既に沙紀は駆け出し、扉を開いていた。亮太も、トラップをいくつか設置している。

またも俺は澪をおんぶし、「ひゅおっ!?」という謎の鳴き声を聞きながら疾走した。


『沙紀、亮太。そこを左だ』


『来た道と違うよ!? いいの?』


『ああ、いいから走れ! 追い抜くぞ!』


『先導してよ~!』


 それもそうだな、と思い、一気に二人を追い抜く。よし、このまま次の階段を上がって、地上までぶち抜く―――と、考えていると、ザザザッ! と軍隊のような動きで通路を塞いできた。


「即座に停止せよ。我々は、貴様らを制圧する武力を保有している」


「そっちがどけ! 死ぬぞ!」


「……再度警告する。即座に停止せよ。我々は―――ッ!」メキョッ!


「あ、ごめん。今の俺に蹴られたら死ぬに決まってるよな。うん」


 ふん! と立ち塞がったやつを蹴り飛ばし、道を切り開く。ちゃんと、三人分開けてあるから安心だ。

 第三の階段を駆け上がり、地下二階に到達。ここから、地上までぶち抜く。


「じゃあ、行っくよ~! 〈ラヴェ―――」


「まあ待て。俺が何のために突入を遅らせたと思ってるんだ」


「え?」


「せっかく爆弾を設置したんだ。今使わずにいつ使う?」


 ピッ! という軽い音と共に、仕掛けた爆弾が起爆する。

ところどころで爆発音が聞こえる。そして、それは頭上まで来た。

 ボォン! という音と共に、天井が開ける。よし、ここからなら地上までいける。


「さあ、上がれ。天井一枚なら沙紀も粉砕できるだろ」


「任せといて~。今度こそ! 〈ラヴェージ〉ッッッ!」


 刹那、先程の爆弾とは比にもならないほどの爆音が響く。それは、地下一階の天井を破壊し、地上までの道を開く。


「先に出とけ。亮太はフェラーリ出して、すぐ出れるようにしといてくれ」


「了解。お前は?」


「ちょっと足止め。しとく。ほら、背後から三百人ほど来てるみたいだし。もしかしたら、離脱先にもいるかもしれないから、覚悟は決めといて」


「えっ、こわっ」


「まあ、いいからさっさと行った行った。俺が引き付けてやるんだから」


「……分かった。死ぬなよ?」


「死ねたら死ぬわ」


「……死なねえやつだな」


 三人を先に行かせ、背後へと目を向ける。ここまでくれば肉眼でも見える。約三百人ほどの大隊のようだ。


「武器を捨てて投降せよ。我々は、貴様を制圧する武力を保有している」


「あ、ちょっとセリフが変わったな? あと、それはできない。ここで足止めして、仲間を安全に逃がさにゃならんからな」


「貴様の仲間の命も長くはない。我々とは別の大隊が外壁周辺に集合している。もう、逃げ場はない。大人しく投降せよ」


「断る」


「ならば」


 三百人、その全員がこちらに突進してくる。最前列は、何やら硬化系統の超素能力を使っているようだ。


「死ね」


「断ると言った」


 抜刀の姿勢へ。


「「「「「「〈硬化(ガグダ)〉!」」」」」」


「白冥」


 硬化した奴らに、神速の刃が迫る。しかし、ガキンッ! という硬質な音を残し、逆にディヴァルが弾かれてしまった。まさか、ディヴァルの鋭さが負けるとは。


 猛烈な勢いで駆けて来る男たち。白冥にて超接近していたため、緊急離脱する。

ずっと動いているので、蟒蛇も使えない。

こういうシンプルなタイプが一番厄介だな。


「っと、確かに、肉体の強度は素晴らしいな」


「言ったはずだ。武器を捨てて投降せよ。我々は、貴様を制圧する武力を保有している」


 左右から先ほどの突進が、正面からは沙紀のプルヴェイズに似たようなハンマーが迫る。


「こちらも言ったはずだ」


 〈インフィニット〉で爆発的なエネルギーを生み出し、ハンマーを弾き返す。そして、突進を回避してあまりの軍隊に突撃した。


「断る、と」


 二百人を超えるやつらからの一斉掃射。しかし、その弾幕に突撃すると、一点をディヴァルで突く。


「凪嵐」


 ピンッ……と、空気が凪ぐ。そして、それは嵐の如く勢いで奴らに返った。


「ッ!? 総員、退避ッ!!」


 ギャリギャリギャリッ! という音と共に向かったエネルギー弾は、次々と奴らに着弾。さて、避けられたのは何人いるんだ?


「で? このまま退くんだったら、俺は何もしない。このまま続けたら、もっと被害が大きくなるぞ~? さあ、どうする?」


「武器を捨てて投稿せよ。我々は、貴様を制圧する武力を保有している」


「……あ、まだ言うんだ。まあ、いいけど。最後まで付き合ってやるし」


「……気が付いていないようだな」


「……何?」


「時間稼ぎをされているのはお前たちの方だ」


「は? 何を言って……っ!」


 連絡が無いのはまだ分かる。だが、先程こいつらは言った。別の大隊が向かっていると。まさか、交戦中か……?


「リレイス最大戦力、白崎悠。保有する『インフィニットコア』は様々な可能性の塊であり、王の器(・・・)。先に六皇である真白澪、紅月沙紀、小坂田亮太。この三人を制圧せよ。これが、我々に出された指示だ」


「……!!??」


 身元がバレているというレベルじゃない……。俺の知らないような情報まで出てきた。最大戦力であるという点は否定しないが、俺一人とあいつら三人はさすがに負ける。投じられてる戦力が違うはず……。


「どうした? 助けに向かわないのか?」


「…………先にお前たちを制圧する。それから救助に向かう」


「おいおい。我々はお前を助けようとしているんだぞ? ここに残り、今立っている者は、全て私の味方だ。この国の反逆者である、私の、な」


「はぁ? ほんとに何を言ってんだよ。反逆者のくせに、この国の味方してんのか? 意味が分からん」


「まあ、いずれ分かるだろうが……。今は、仲間を助けてやれ。でなければ、後悔することになるのはお前だ」


「……チッ。背後から襲う算段じゃないだろうな?」


「断じて違う。いいから、行け」


 指示されるのは癪だったが、確かにあいつらのことは心配だ。そうやすやすと制圧はされないだろうが……。



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