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世界が滅ぶ前に平和を願って何が悪い?  作者: 如月 弥生
第二章 戦争編
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第二十七話

翌晩


「っし、行くぞ」


 今朝、国民のみんなには侵攻を受けているかもしれないとは伝えた。こういう場合の情報秘匿はあんまり意味無いからな。

 勿論、皆混乱していた。そりゃそうだ。ようやく安全な場所を築いたはずなのに、新たに侵攻を受けているかもしれないだなんて、恐ろしくてまともに聞けないだろう。

 だが、そこは野生のクレイジー(小柳)が頼もしかった。

空気のためにおちゃらけたのか、はたまた平常運転なのかは知らないが、うちの医療部門長はみんなの心をしっかりと癒してくれた。

 混乱も落ち着いたようだ。多少の警戒感は持ちながらも、いつも通りの生活を送れるまでには落ち着いた。


 そして、今晩。俺たちはアレルデネラへ向かう。まあ、視察? なりをしておくために。

侵入して多少の情報を得ようとは思う。国家機密レベルの情報を盗むのは争いの火種なので、こっそり抜き取って、こっそり帰る。それだけだ。

 抜き取ったら履歴が残ると思う君たち。甘いな。うちの澪の最高傑作は、そんな甘いもんじゃない。

情報記憶物体(ルービックキューブ)は、記憶体(メモリ)よりも性能が高い。ケーブル等を接続せずとも、かざすだけで内部のディスクから情報を抜き出す。そして、情報記憶物体(ルービックキューブ)は直接的に世界情報記憶装置(ガイアキューブ)と繋がっている。全ての情報は世界情報記憶装置(ガイアキューブ)に送られる……らしい。


「いぃ~ってらっしゃい!」


「さっさと帰って来てくれ。俺、頭おかしい奴二人と一緒なの嫌だから」


「おいおい。俺のどこが頭おかしいって?」


「全部」


 妙にすっきりしたような顔の海翔と、漫才を繰り広げる稲盛。まあ、大丈夫そうだ。

それより、さっきから澪の顔色が少し悪い。なぜだ?


「なあ、澪。どうしてそんなに顔色が悪いんだ? 体調崩したか?」


「……遺伝子確立した私たちはそもそも風邪をひかないし、感染病にもかからない。だから、大丈夫」


「いや、より一層心配になったわ……」


 体調が悪くならないのに、そんな顔されたらこっちが不安になる。沙紀も小柳も、みんな心配そうだ。


「……大丈夫だから。早く、行こ」


「……お前がそう言うなら、分かった。行くぞ」


 三人に見送られながら、俺たち四人は出発した。

運転席に亮太、助手席に俺、後ろ二つに女子組だ。なお、後ろの席にはボタンが付いており、亮太が車に乗ると自動的に発動される〈ディメンション〉から、自走式爆弾『ル〇バ』を出すボタンだ。これは、俺や澪が乗っているだけでは出てこない。四次元ポケットは強いな。


……というかこんな状況で、よく曲が流せるな……。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「亮太。ここから先は俺が〈インフィニット〉で車体を覆う。レーダーにかかるからな。あと、速度を落としてくれ。高速で動く物体があったら、さすがにどう足掻いてもバレるだろ」


「了解。百キロぐらい?」


「お前速度を落とすの意味分かってんのか?」


 確かに現時点での瞬間速度は三百キロほどだ。だが、ゆっくりと言って百キロは馬鹿だろう。

出来なくはないが、本当にやめてほしい。


 と、そんなことを軽く言いあっていると、黒い城壁が見えてきた。アレルデネラだ。今回は、城壁の外に見回りの兵がいるようだな。


「悠、どうする? 制圧してから入るのか?」


「いや、わざわざ争いの火種を作らなくてもいいだろ。まして、制圧してから入るなんて戦争勃発じゃねえか。こいつらが侵略してようがいまいが、真っ向勝負になっちまう」


「それもそうか。じゃあ、こっそり?」


「ああ。こっそり」


 亮太がゆっくりとフェラーリをしまう。なんて便利な四次元ポケットだ。

俺の発生させるドーム内にいる限りは、レーダーに察知されることはない。しかし、直接見られたら厄介だな。


「澪。未来を視ていてくれ。現在のことは俺が視る」


「ん、分かった」


「沙紀、プルヴェイズを構えておけ。いくら俺が見ているからと言って、相手の敷地でさらには妨害電波付きだ。あんまり影響はないと思うんだが……まあ、出会い頭にどーんと。よろしく」


「分かった。どーん! と行けばいいんだね!」


「静かにな」


「静かにどーん……?」


 少し矛盾した言葉に「うん?」となる沙紀を尻目に、城壁の奥を視る。


「亮太。みんなにアレ(・・)配ってくれ。そんで、澪。何秒後に動けばいい?」


「アレ……? ああ、潜入スーツか」


「ん、悠。あと十二秒で誰もこっちを視界に入れない。そのタイミングなら行ける」


「了解」


 潜入スーツ。澪が昨日作った……いや、改良した? 服だ。

 もともと失敗作として捨てられそうだったらしいのだが、海翔が見つけ、改良したらしい。

血装化したことで耐久力は文句ないし、なにより、澪の小型開発品を多量身に着けている。「まだ救いようはあったんだ……」と呟く澪のへえ~という顔と、海翔のドヤ顔が並んでいてなんかムカついた。


 なお、俺は着ない。と言うか着れない。一着足りないからだ。これ、なんと三着しかない。まあ、澪が俺の服をだいぶ強化してくれたんだけどな。そんじょそこらの鎧よりも堅い。


「行くぞ」


 ダッ! と駆け出し、すぐさま建物の陰に隠れる。ひとまず接近は成功。あとは、城壁を登って上から侵入する。〈絶対空間認知〉にて城壁の上を確認し、その後の通路も確認する。とくにこれと言って罠はなさそうだ。


「先に、三人で行っていてくれ。イヤホンを通じて指示は出す。その前に、ちょっと仕掛けて(・・・・)行くから」


「仕掛けて?」


「……うわぁ」


 澪から、「こいつ外道か?」のような視線を浴びる。だが、そんなこと俺はどこ吹く風だ。

分かった、行くからな。と亮太はスーツの能力の一つである壁走りを発動させ、そのまま城壁を駆け上がった。沙紀も、まあ、いいや。と言いながら〈身体強化〉を発動させ、壁を走っていった。なんで走れるんだよ。


「というわけで、二人を頼んだぞ」


「……ん、任された」


 やはり、未だに顔色が悪い。いや、一応元気に振る舞ってはいるのだが、なにか体が重そうだ。

本人が言わない限り干渉しないつもりだが、どうしたんだろうな?


「さて……まあ、ほんの少し蒔くだけだし。大丈夫大丈夫」


 気配を消すようにしてゆっくりと扉を開く。誰にも見られてはいない。

そして、幾つか小さな球体をポイっと投げ、俺も城壁を駆け上がった。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「あっ、来たー。本当に何してたの?」


「いやー? 大したことはしてないよォ?」


「……」


「いや、うん。そんな目で見んなよ、澪。みんなのためだから。仕方ないから。うん」


「ふっ」


「ふっ、じゃねえよ」


 今俺たちは城壁の上にいる。こうすれば、アレルデネラを俯瞰できるものと思っていたのだが……


「まさか、マジもんのブラックボックスだとはな……。こういう国って多いのか? 亮太」


「いや……普通は吹き抜けが多い。なんせ、素材がメステリウムだ。それを作るのにはエレクテレスを使うからな……」


「空を覆うには量が足りないもんね。それでも、守りたい秘密があるってことでしょ?」


「……でも、メステリウムは純白になるはず。こんな黒色はありえない」


 確かに、そうだ。うちのベースの壁は白色。外壁も、さらに外装をつけているから灰色に見えるだけで、本来は白色だ。こんな黒色にはならない。


「じゃあ、そもそもこれはメステリウムではない、という線は?」


「……あるかもしれない。これは、メステリウムよりも硬度が高い。多分、沙紀の〈ラヴェージ〉状態で傷が付くかどうか」


「試してみる?」


「お前、こっそりの意味知ってる?」


 わざわざばらすようなもんじゃねえか。せっかく静かに侵入しようとしてんのに。

まあ、それはいいとして。


「ここから研究室の中枢までの距離はだいたい二キロほど。それも、直線距離で、だ。実際の道とか、敵に会わないように迂回するとしたら、結構時間がかかる」


「ん、ルートは悠が割り出して、接敵の可能性は私が視る。沙紀は出会い頭に注意して、亮太は退路を作っといて」


「「了解!」」


 まあ、それが妥当だろうな。むしろ、それ以外無い。

 〈絶対空間認知〉で先を視て、最短ルートを割り出す。しかし、それにはいくつかの関所を通る必要があるので、迂回する道を選んだ。


「よし、これなら行けるな。俺が、二秒だけ穴を空ける。そしたらすぐさま入ってくれ」


「えっ、私の〈ラヴェージ〉で亀裂が入る程度なのに、悠が開けれるの?」


 少し疑惑の目で見て来る沙紀。確かに、二人でやったら確実だろうな。だが


「あいにくだが、俺は防御無視があるからな。多分、切り裂ける。だが、前回の戦いで学んだことがある。この壁には修復能力があるようだ。だから、二秒ほどしか持たない」


「分かった! じゃあ、期待しとくよ!」


 天井の中心より少し西よりの地点に集まる。


「落ちたら、即座に右に走ってくれ。その通路に少しの窪みがある。そこに入れば、バレることはない。と思う」


「……私が視ておく。最初に入るから、すぐに来て」


 ディヴァルを天井に当て、〈絶対空間認知〉を全力発動。


「無崩流、肆式―――」


 ぬるんっ、と刃が滑る。すると、無音で天井に穴が開いた。


「蟒蛇」


「んっ」「よっと」「落下ぁ!」


「上手いこといったな……」


 そう呟きながら、俺たち四人は小さな穴に入っていった。

 すると、眼前に広がったのはゴウン、ゴウンという音を鳴らしながら稼働する工場だった。


「これは……何を作ってんだ?」


「あ! 大量のエレクテレスがあるよ! 何かを搾り取ってるみたいだけど……?」


「なるほどなァ……そういうことか」


「ん……破壊しとく?」


「いや、できるだけ大事にはしたくない。密かに侵入して密かに帰るだけだ……が、これはちょっとな……いくつか情報だけ持って帰ろう。澪」


「ん」


 その異様な光景に情報記憶物体(ルービックキューブ)を向け、カメラとしての機能を得る。そして、記録は世界情報記憶装置(ガイアキューブ)へ転送されて、永久に保存される。


「ちょうどいい。その映像、一応俺の時計にも送ってくれ」


「分かった」


 文字盤を動かし、ⅫをⅪまで動かす。モード、メモリだ。通常のパソコンより少し多いくらいの量の情報が入る。


「いや待て待て。なんでそんな機能があるんだよ。つーか、久しぶりに時計以外の機能を見たわ。確かに超超高性能だったな」


「悠のお父さん、マジで何者なの……?」


「……転送完了。次、行こ」


 奇妙な工場見学を経て、今度は中枢へ潜る。


 ここの研究所は、この国の中心かつ地下にある。そこへ潜るには一つのエレベーターを使わなければならないので、正面突破しかない。


「常に警備員がいるようだ。会員証のような物が無ければ通れないみたいだな」


「再現は出来ない。ケルドを溜めるカードみたいな単純な機構ならメレルトレトに素材を放り込めば作れる。でも、あれは一つ一つ手作り。海原さんクラスの手作りじゃないと」


「あぁ、アーザレイルの……。えっ? 一つ一つ手作り!? めっちゃレアじゃん! じゃあ、どうやって入るの?」


「制圧する」



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「俺が二人を制圧する。そしたら、すぐにエレベーターに飛び込んでくれ。俺が飛び出したら来てくれればいい」


「「「了解!」」」


 グッ! と身を低くし、左足に力を溜める。


「行くぞ」


 無崩流、弐式


「白冥」


 〈インフィニット〉も併用して身体強化し、爆発的な加速を用いて警備員二人に急接近。こちらに気付くこともなく、腹を切り裂かれた。

「う、ぐごぁ……」と呻き声を漏らす二人にポーションをかけてやり、腹の傷を治す。しかし、きっちり気絶はさせる。


 そして、流れるようにボタンを押していたので扉が開く。そこに、三人が殺到した。

シュタタタタタッ!! ガタン!

四人が入った瞬間、エレベーターの扉が勢いよく閉まり、下降し始めた。


「……え、大丈夫なの……? これ、気付かれたらマズいんじゃ……?」


「だから、気付かれる前に全て終わらせる。巡回の周期的に、大体一時間以内に終わらせれば大丈夫なはずだ。そこのところ、澪、どうだ?」


「ん……あんまり正確性は無いけど、悠の予想と同じくらい。大体、一時間から四十五分がリミット」


「よし。じゃあ、最下層に着いたらすぐに左右の壁に隠れろ。正面は真っ直ぐ開けているが、左右の凹凸が身を隠してくれるはずだ」


「私のプルヴェイズ、隠せるほどの幅はある?」


「いや、少し足りないな。もしかしたらバレるかもしれないから、亮太にでも預けておいてくれ」


「りょーかーい」


 ほいっ、という軽い感じで鈍器を投げ渡す。あぶねえ! 俺じゃなかったら死んでんだろ! という声が聞こえたが、大して気にはしなかった。


 ドゥンドゥンドゥン……と減速していくエレベーター。改めて俺たちは気を引き締め直した。

ドゥン……と完全に停止したので、開くのを待つ。


「隠れろ!」


 ババッ! というような効果音が付きそうなほどの高速移動で四人は壁に隠れた。ちょうど、研究員の一人がこちらに来たのだ。

 悠は、三人へ指示を送る。


『とりあえず、引き付けてから気絶させる。そしたら、亮太がそちら側に隠してくれ。澪と沙紀は俺が殴った瞬間に飛び出して構わん。向こうの通路に入ってくれ』


『了解。敵がいた場合は?』


『速やかな制圧。最悪殺してもいい』


 コツ、コツ、コツ、という足音が響き、研究者が近寄って来るのがよく分かった。というより、〈絶対空間認知〉で全部手に取るように分かってんだけどな。


「! 誰d―――」


「フン!」


 柄で殴りつけ、すぐさま気絶させる。

そして、亮太が軽く持ち上げ、自分のいる場所に置いた。

この間に、二人は通路への侵入に成功。クリアリングしてもらってから、俺たちも続いた。


 嫌な気配がするが、本当に大丈夫だろうな……?


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