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世界が滅ぶ前に平和を願って何が悪い?  作者: 如月 弥生
第一章 建国編
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第三話

「オオオオッ!」


「まずはっ! この攻撃を避けないと……な!」


 連続して襲い来る拳。夕方でだいぶ見にくいが、ギリギリで回避し、反撃のチャンスを―――って、殴っても体が硬すぎてダメージが通らねえ……!


「回避で時間稼ぎか……いや、こいつを振り切らないとなんねえな……」


 さてさて、どうしたものか……

常にこいつを視界に収めていないと、一瞬で死んでしまう。

かといって、この場から動かなければ状況は変わらない。

いや、体力に限界があるこちらが不利か。


 ここら辺で使える障害物と言ったら、建物くらいか……

仕方ない。腹をくくるか。


「来いよ」


「オオオオッ!」


 長い腕を振り回し、俺を殴り飛ばそうとして来る。

退いては変わらない。ここはっ!


「勇気の前ステだ!」


「!?」


 堕者(ロスト)が腕を振り回すと同時に、俺は堕者(ロスト)の方へステップを踏んだ。

一つ間違えれば俺は命とおさらばだ。だが、命を賭すだけの価値はある。

そのステップにより芸術的な空振りをした堕者(ロスト)

ってか、この距離でも普通に風を感じる……

っ、そんなこと言ってる場合じゃない!


「じゃーな! 化け物!」


「オオッ!」


 そう言い、俺は駆け出す。無論、それで距離が引き離せるはずがない。あいつの方が俺の三倍は速いからな。

だが、一瞬を積み重ねる。


「今度はこっちだ!」


「! オオオッ!」


「やっぱこっちだわ!」


「!? オッ、オオッ!?」


「悪い! こっちだった! じゃあな!」


「ア、アア?」


 障害物を巧みに使い、距離を引き離す。そしてっ、


「おいしょっと。んー、もう一段っと」


「ンンン……」


「ははっ、届かねえだろ。お前には。見たところお前は知能が足りねえ。この段差をこえるための体の使い方を知らねえんだろ。だから、お前たちは段差さえあれば完封できる」


「オオン……」


「じゃあな!」


どうやら、人間だったころの知能は足りないようだ。目の前の生者を殺すという渇望に動かされているような、おぞましさを感じる。

完璧に振り切る。一瞬たりとも姿は見せない。周辺にいた堕者(ロスト)達には気付かれてはいない。


「easy……待ってろよ、海翔。すぐ追いついてやる」


 そう呟き、俺は海翔の向かったWWSの方へ駆け出した。



【海翔サイド】


「ここが、研究所か……」


 研究所は全体的に白く、入った瞬間に大きなホールが俺を出迎えた。まあ、ところどころ壊されているが。

 数多の扉があり、研究室Ⅰ、研究室Ⅱなどのプレートが見える。そこで、身近な研究室Ⅰに入ることにした。


 入ると、真っ先に出迎えたのは紙の束だった。さまざまなところに資料が散らばっており、とてつもない数の文字が書かれている。

手に取ってみてみると、初っ端からγ線の話が出てきたため、読むのをやめた。


「んー……分っかんねーな……メステリウムの研究結果って、どこにあるんだ?」


 先ほど読んだ資料も、メステリウム関連の資料ではなかった。

まあ、最初に大きく『遺伝子設計図の確立について』って書いてあったからな。

数分漁っていると、それらしきものを見つけた。


「えーっと? 『合成素材メステリウムについて』……これだ!」


 喜々として読み始める海翔。しかし、


「……だめだ。ぜんっぜん意味が分からん。なんだよ。エレクテレスって。わけわかんねえ素材が出てきたぞ」


 頭を抱えた海翔は、「こういうのは悠の仕事だろ」と呟き、他のものも漁り始めた。

その一つに、『腐死者(ゾンビ)及び堕者(ロスト)の増殖原因について』という紙を見つけ、読み始めた。ギリギリ理解できるレベルだった。


「ふむふむ。つまりあいつらは、文字通りのゾンビってわけだな。怖い怖い」


「お? いいもん見つけてんじゃん」


 振り返るとそこには、何食わぬ顔でパソコンをいじっている悠がいた。

めちゃくちゃナチュラルにいるじゃん。なんだこいつ。


「いや、ビビるからやめろ……ってか、逃げ切れたんだな、悠。流石だ」


「ああ、あれくらいなら逃げれるな。段差さえあれば。段差さえあれば」


「強調すんじゃねえ」


 いつの間にかと現れた悠に驚く海翔。信頼しているとはいえ、あの化け物から逃げ切れるとは思わなかったのだ。未だ交戦中かと。

「ふっ」と、自慢げな悠の眼を俺は正面から見つめ返した。



…………



「……まあ、資料系は俺が詳しく読む。それで、何を見つけたんだ? いくつかまとめてあるだろ?」


「あーっと、そうだった。取り敢えず……これを見てくれ」


 そういい、海翔が持っていた紙を渡す。さんきゅ。


「なるほど、腐死者(ゾンビ)堕者(ロスト)についての研究結果か……あ? 『遺伝子の融和』だと?」


「ああ。それが、あいつらが腐死者(ゾンビ)って呼ばれる所以じゃねえかと思ってる」


「そうだな……」


 あいつらの増え方か。

噛みつくでも爪で切り裂くでも何でもいいが、取り敢えず、人の皮膚さえ突破すれば何でもいい。そういう系統の攻撃をし、その際同時に自身の細胞を混入させるそうだ。

そして、腐死者(ゾンビ)のDNAと被害者のDNAが融和。被害者のDNAが腐死者(ゾンビ)と同一のものになるんだってさ。


 要するに、この世界に存在する腐死者(ゾンビ)たちは皆同じのDNAを持っている。

増殖することに特化した奴が腐死者(ゾンビ)ともいえるな。

そして、変異して戦闘能力に特化したやつが堕者(ロスト)という。


「まあ、要するにあいつらの攻撃は一個も受けるなってことだな。あれ? そう考えたら俺とんでもないことしてる?」


「馬鹿だなw。というか、一撃喰らったら俺たち死ぬって、だいぶ危険だったんだな……」


「俺たちの強化もしたいけど、如何せん銃が効かないっていったらなあ……」


「……ひとまずは、メステリウムについて調べねーか? って言っても、俺は分かんないんだけどな!」


「自慢げに言うんじゃねえよ。ま、見せてみろ。一応俺も目を通しておくから」


「あいよ」


「さんきゅ。さて……んー……ふむ……ん? ん?」


 資料に目を通す俺。そこに書いてあるものに、俺はかなりの衝撃を受けた。

どういうことだ……?


「え、ど、どうした? 何が書いてあるんだ? 簡単に説明してくれー」


「海翔。この世界で初めて腐死者(ゾンビ)が発見されたのっていつだった?」


「え? えーっと、たしか三月三日、ロシアで発見されたのが初のはずだ。そっからいろんな人に感染していった……ハズ」


「だよな。俺の認識は間違っていない。大体一か月前が最初の発見のはずだ」


「? そうだな。なんもおかしなことはねーけど」


「……メステリウムについて発表があったのはいつだった?」


「ん~? 確か二、三か月前じゃなかったか? それがどうした?」


「……メステリウムを作るためには、エレクテレスっていう素材が必須だ。それはお前も分かってるよな?」


「そうだな。そこは読んだ。まっ、何の話か分かんなくなって読むの止めたけどな!」


「……エレクテレスの入手条件、分かるか?」


「んなもん知るわけねーだろ。逆にお前は知ってるのか?」


「今知った」


 机に散らばっている資料のいくつかに同時に目を通しながら、悠は言う。

ささやかな違和感に気が付いたのだ。


「エレクテレスは、腐死者(ゾンビ)堕者(ロスト)を倒すと手に入るものらしい」


「……は?」



…………



 あのあと、研究所を探り、様々な情報を仕入れた。

①,メステリウムを作るためにはエレクテレスという素材が必須。しかし、それは腐死者(ゾンビ)達を倒さねば手に入らない。


②,WWSのやつらが腐死者(ゾンビ)を作り、研究していた可能性がある。


③,メステリウムの研究は世界中で行われていた。すなわち、ロシアで発見されるよりも前に世界中に腐死者(ゾンビ)達はいた。


④,世界中で生まれている国。その国に、一人は必ず研究者が協力している。


 今はこれくらいだ。

確かに、この研究所に入って一体の腐死者(ゾンビ)も見ていない。研究結果の一つなのだろうか。


 だが、肝心な、腐死者(ゾンビ)の倒し方が分からない。どこにも書かれていないのだ。


「くそっ。どっかの国が持ち出したのか? もしくは、研究者たちが始末した……」


「これほどまでに完璧に何も残ってねーってことは、余程重要だったのか? 動き出しが遅かったか……」


「まあ、メステリウムの作り方が分かっただけでも収穫か……仕方ない。帰―――」


ガタッ


「!?」


「あいびっくりしたぁ……」


 何かがいる。それも、ある程度大きい奴が。人か?

堕者(ロスト)かもしれないので、警戒を怠らず、音のした方へ近づいていく。

するとそこには―――


「……人間? 女子か」


「うわ、ほんとだ。迷子か?」


「…………」


「違うな。迷子ならこの部屋に来るわけがない。この研究所の一人だろうけど……。いや何か喋れよ」


「連れて帰るにしても、あの三人なら許してくれるだろーな。で、どうすんだ?」


「……腐死者(ゾンビ)達に対抗するには、あなたたちの肉体を強くしなくてはならない」


「! 喋ったな。で、んー、肉体を強くって、どういうことだ? 筋トレとかか?」


「筋トレだけで腐死者(ゾンビ)達が倒せたら楽だなw。なんか、薬使うんじゃねーの?」


「薬物乱用?」


「無法の世界で薬物乱用もくそもねーだろ」


「それもそうだな~。それで、話戻すけど、どういう意味? 肉体強化って」


「あなたたちは、腐死者(ゾンビ)達がどういう生まれ方をしているか知った」


「ああ。自分たちのDNAを相手に流し込んで、自分たちとまったく遺伝子構造をしている奴を作るんだってな」


「大雑把に言えばそう。だけど、一撃で死ぬハンデなんて、命がいくつあっても足りない」


 だいぶ落ち着いてきたみたいだ。話せるようになってきた。

にしても、訳知り顔で話すな。何か知っているのか?


「で、結局どうするんだ?」


「……相手が遺伝子改造をしてくるんだったら、されない体になればいい」


「「は?」」



 ……それから、彼女は情報をくれた。なかでも興味がわいた話、遺伝子確立。なかなかに面白い話だった。

腐死者(ゾンビ)達がこちらの遺伝子を塗り替えて来ると言うなら、何色にも染まらない遺伝子になればいい、というものだ。


 DNA(ゲノム)は、その人の設計図。最近の研究でだいぶ明かされてきたが、まだまだ未知のことは多い。

そんな中、WWSで見つけたことは面白いものだった。

それは―――


「……何もしていない状態だったら、DNAは完全な力を発揮できていない。不完全な状態で生まれ、死ぬ」


「完全な力を発揮できていない? どういうことだ?」


「俺達不完全な存在だったんだな。でも生きられる」


「……私達生物は、数多の要素で構成される。その『数多の要素』に情報を送るのがDNA。でも、完璧に情報を送れたら、生物はこれほど脆弱じゃない。世間に天才って言われる人がいたのがいい例。他の人よりも情報が送られてるから能力が高かった。」


「だから、不完全な状態ね。で、完全だったらどうなる?」


「……いくつかの恩恵を得られる。一つは、肉体進化。腐死者(ゾンビ)と渡り合えるくらいにはなる」


「銃も重火器も効かねえ敵と生身で渡り合うとか……肉体の強化というより進化なんだな。いや、元の力を引き出してるんだったな……」


「頑張ってもっと情報を送ってくれよぉ! 遺伝子ぃ!」


 ……要するに、遺伝子君がもうちょっと頑張ってくれたら人間は滅びにくかったということだ。

だが、本当なのか? そんな漫画チックな話あるか?

……いや、もうすでに腐死者(ゾンビ)とかが出てきた時点で日常ってものは消えてたな。本当だろう。嘘をつく意味もないし。


「……二つ目は、さっき言った遺伝子確立。完全に情報の送られたDNAは、他とは違う。他者に干渉されない身体をつくる」


「完全に独立するってことか。完全に独立したDNAは、腐死者(ゾンビ)とか堕者(ロスト)の攻撃を加えられても、一撃では死なないってことか?」


「おおっ! そしたら、一応戦える条件が揃うじゃねーか! やり方知らねーけど!」


「……やり方は後で教えてあげる。三つ目は、超素能力が付与されること」


「「……超素能力??」」


「……うん。さっき、遺伝子情報が完全に送れると~って話した。それで、完全に送られることで得られる能力が『超素能力』」


「どういう能力なんだ?」


「……人それぞれ。その人がどんな能力を持って生まれ落ちたかによる」


「個人差ってやつか……」


 個人差も何も、能力を持っているだけで十分に強いだろう。ましてや、肉体の進化もしている。今の人間という生物から、大きくかけ離れるだろうな。


「……よくあるのが身体強化系統の能力とか、攻撃系、防御系、治癒系、色々なものがある」


「治癒……人知を超えた力ってことか。いや、元から人間の中にあった力が覚醒したって状態だな」


「んー俺とかだったらどんな能力なんだろうなぁ……やっぱ、走る系か?」


「そうだろ。お前足速いし」


「理由が脳筋だな、オイ」


「……どんなのか、見てみる?」


「「えっ!?」」


 超素能力。漫画とかアニメみたいな話だが、直に見れるとは思わなかった。

ん? どこで、誰のを見るんだ? まさか……


「ん……私の超素能力。()()()()()()()()


「? モチーフ?」


「……一人が覚醒する超素能力は四つある。その四つ全てに共通しているものがモチーフ。まあ、モチーフは私たちが勝手にそう呼んでるだけだけど」


「なるほど……で、お前のモチーフは預言者、と」


「そう。見せてあげる」


 そういうと彼女は一言呟く。


「〈プレディクション〉」


 その瞬間、彼女の左目が蒼色に光った。




遺伝子確立の話はあくまで設定なので、詳しい遺伝子の話は分かりません。ご了承ください。


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