第二十六話
最近なろうのログイン画面にエラーが出て、入ることができませんでした。ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
ウイーン……
「え、ホントにこれでできるの? え? 明らかに精密な機械だろ?」
「………………大丈夫、な、はず」
「なんて恐ろしい」
今、澪に義眼を作ってもらっているところだ。昨日抉られた右目の。
そして、素材。普通の義眼はポリメチルメタクリレートというプラスチックでできているらしいのだが、今回使うのは記憶体。そう。澪の開発した記憶用媒体である。
「え? それって加工できるの?」と聞くと、「この素材こそが記憶媒体だから」と返答された。
いや、そうじゃない。そうだけどそうじゃない。
「まあ、全ては澪に任せる。というか、六皇に。俺は寝とくから」
「あ、うん。おやすみ」
部屋を出て、自室に帰ろうとした。その瞬間「ふふっ、魔改ぞ」と聞こえたので、魔改造されそうということだけは分かった。
ゴンッ!
「……片目じゃ距離感が掴めん。しかも全面真っ白の壁だったら特に」
壁に激突してしまった。痛い。
というわけでさらに休息。次に目を開けた時には、三時間ほど経っていた。
寝すぎたな……と頭を振る。もうそろそろだろうか。
……というか、今更ながらに思うが、澪って天才すぎないか? 未だ高校生なんだよな?
遺伝か……。そういや、室長が澪の父親なんだっけ?
永遠桜の研究に携わった室長。しかし、永遠桜の歴史と澪の年齢から、どうしても違和感を感じる。え、なに。澪のお父さんって百歳超えてから子供作ったのか? マジで?
あいつの名字のこともある。真白、と呼ぶ亮太。つまり、澪の本名は真白澪ということになる。
……いつかは聞かねえとな。
コンコンコン
「あー、どうぞ~」
「へへっ! 見舞いに来てやったぜ! 感謝しな!」
「はーい。ありがとねー」
「なんかムカつく」
「なんでやねん」
入ってきたのは小柳。こいつ、いつものクレイジーさで忘れてたけど、なんだかんだ見舞いに来るタイプの人間だったな。
「ほい! 片目を失って苦しんでいる悠にこれを与えよう!」
そういって渡されたのは、赤い果実。リンゴによく似た、赤い果実だ。
俺が何故これをリンゴだと断言しなかったのか。それは、その色にある。
「……なにこれ。血でも塗ってあんの? 赤色じゃねえじゃん。血じゃん」
「(多分)美味しいよ! (瘴気が満ちた森にあった)木にぶら下がってたから取ってきた! さあ、食ってみろ!」
「……まあ、いただくわ」
「えっ」
「えっ?」
口に入れた瞬間に「嘘!?」みたいな顔すんなよ。めっちゃ怖いじゃねえか。
さて、必要なのは食レポか。うーむ。
「美味い……が、これ、毒混ぜてあるのか? 俺の〈可能性現滅〉が全力で浄化してんだけど? しかも、青酸カリとかじゃなくて、腐死者に噛みつかれた時のあのタイプの毒。どうだ? あっているかね?」
「うーん。瘴気いっぱいの森で採ってきたから、もしかしたらあるかもしんね。ま、いいじゃんいいじゃん。毒無効なんだから」
「ぬぅ……解せぬ」
こいつ……暗殺か? もしや暗殺なのか!?
ま、それは無いか。
「あーそうそう。聞いて聞いて! 最近さー、発動できなくなったんだよね。あれが」
「いやどれだよ」
「あれあれ……あ! 〈リカバリー〉!」
「ああ。蘇生な。確かに、前特殊個体と戦った時に使ってなかったな。みんな死にかけたのに」
「そうそう。あれが無いとみんな死ぬ可能性あるから怖いんだよねー。なんでだろ?」
「今、誰かに使ってるとか分かるのか?」
「いやー? 〈祝福領域〉とかは分かるけど、その人の何かに働きかける力だからかも。というか、今はもう誰にもかかってないはずだよ。使えなくなったの最近じゃないし」
「……」
そうだ、こいつ学年トップクラスの成績を誇る天才だった。ちゃんと力を理解して、かみ砕いていやがる。
「……そういえば、アレルデネラに行った時に、警告で言われたな……」
「なんて?」
「未知のコアを発見、って」
「おぉ~! ……つまり?」
「あー、つまり、お前の〈リカバリー〉はコアという何かに働きかけてるんじゃねえかって話だよ」
「なんで急にそんなに話が飛んだ!?」
警告で、未知のコアと言った。ならば、コアと言うのは一人一人違うもので、識別可能な物ではないのだろうか。指紋のように。
そしてそれは、超素能力にも関連しているのではないのか?
調べる価値があるな。
「で、結局私はなんで使えないの?」
「知らねえよ。俺の能力が使えなくなった理由は、視る能力の延長であったくせに目を失ったからだ。なら、お前も同じじゃないのか?」
「癒す能力は何の延長?」
「いやだから知らねえって」
「お前から言い始めたんだろー!」
「うるせえな。身長三センチ縮めるぞ」
ぎゃーすぎゃーすと俺の部屋で暴れ始める小柳。マジで縮めてやろうか。そう思っていると、
「……今、どういう状況?」
救世主が来た。名を澪という。
「……義眼ができた。来て」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
あの場で小柳とは別れ、そのまま澪についてきた。今は研究室に向かっている。
「……本来、医療は私の範囲じゃないし、義眼とか作ったことないけど、一応は出来た。〈インフィニット〉のエネルギーを送ったりして疑似神経が作れるかもしれない」
「なるほど……これは、そのまま俺の右目に入れればいいのか?」
「うん。そのままガボッと入れていい。一度は往ったら肉体に馴染んで、本来の眼球と同じようになるはず」
「……ガボッとねぇ……。分かった」
始めてコンタクトを入れるような恐怖。というか、眼球を入れ直すって結構怖いわ。
球体を目にあて、そのまま入れようとする……が、それは叶わず、義眼はそのまま引っ張られるようにして俺の体に入っていった。
「ん……すんなり適合したみたい。素材に血とか髪とか入れたのがよかったのかも」
「えっ、俺の血、いつの間に採ってたんだよ……ちょっと怖いわ」
「……さあ、〈インフィニット〉で疑似神経を通わせて」
「こいつ……」
話を逸らされたが、言われた通りエネルギーを右目に送っていく。すると、いつもの感覚が戻ってきた。そのまま眼球がギョロギョロと動き回る。右目の視界も戻ってきた。
「おぉ、おおおおっ! すっご! 右目がまた見えるようになった! 右目が戻ったァ!」
「ん、じゃあ、〈絶対空間認知〉使ってみて。それが本題」
「了解!」
いつものように、国全体に範囲が行くように発動させようとする。それが距離限界だからだ。
確かに、発動できた。皆の動きが手に取るようにわかる。だが……
「……確かによく分かる。〈絶対空間認知〉がちゃんと発動しているようだ……が」
「が?」
「……範囲が広すぎる。リレイス全体を超えてカバーできるほどの効果は無かったはずだ。城壁の外の堕者の存在も、土の中に潜むミミズの動きも無意識によく分かる。なんだ、これ」
「ん……まさか、記憶媒体である記憶体を使ったことで、情報取得率が上がった? いや、どちらかというと効率の方が……? もしくは、一秒前の記憶を保持しているから、記録がよく残ってる……?」
「あの澪さん。科学者の脳みそから帰ってきてください。とりあえず、六皇会議を開くんで」
「……ん、分かった」
俺の眼が戻ったこともそうだが、アレルデネラの異常なほどの警備からして、嫌でも考えてしまう。
余程隠したいことがあるんじゃないのか? と。
堕者の研究をし、他国への侵略を企んでいます! だなんて、口が裂けても言えないだろう。世界を破滅へ追いやった腐死者と堕者を増やそうなど、言語道断。時間経過で強くなっていく奴らを育てていったら、どんな怪物が生まれるか分かったものじゃない。
まあ、まだ確定したわけじゃない。こんな世の中だからめちゃくちゃ警戒しています! というのかもしれない。だが、こちらはよく監視しておくに越したことはない。
確かに侵攻は受けているが、対処不可というわけでもない。住民のみんなには注意喚起をしておくなりなんなりするが、めちゃくちゃ急いでいるわけではないからな。一つ一つ選択肢を潰していく。
よって、アレルデネラの警戒を進める。
「で、今度は、メンバーを変える。レーダーの範囲とか、対策すべきことも分かったし」
「分かった。で、誰を連れて行くの?」
「んー、今回は隠密を基本としていこうと思ってるんだが……前の一件で警戒が上がってるだろう。もしかしたら、これは侵略だと言われてWRUGに訴えられたら、俺たちが悪役になるかもしれんからな」
「……先に、WRUGに報告しとく? 侵略を受けているかもしれないって」
「んー、どうかな。エレクテレスの成分表を見せる程度でよくねえかな。ほら、侵略の証拠はないんだし」
「確かに」
世界の新たな支配者たちも、証拠が無ければ動けないのはいつの世も変わらない。
そのために、今動く。
「で、今回は、俺、澪、沙紀、亮太。この四人で行く。何か異論は?」
「あるっ! なんで俺が入ってねえんだ! 足の速い俺は必要だろ!?」
「んー、まあそうなんだけど。それでも、前の警告を無視したからな。それに、今回は荷物持ちと制圧力の高い沙紀が必要だ。すまんが、国を守るためにも残ってくれ」
「チッ……」
「小柳もそれでいいか? 稲盛も」
「うぇっへっへ。任しといてくだしい! こぉの私に!」
「あー、まあ、大丈夫だ。いや、あれあれ。あれだけ置いてってくれん?」
「何を?」
「地雷」
澪の開発した対堕者用地雷。体内に含まれる堕者の遺伝子にのみ反応する地雷だ。人間が踏み抜いても問題ない。
「ああ、それなら出発前に澪が設置していくさ。防衛システムとも連携しておく」
「分かった。任せとけ」
これで、役割は決めた。あとは、多少の準備が必要だな。
「よし。じゃあ、取り敢えず今日は解散だ。侵攻を受けてるかもしれないことは国民のみんなに伝える。今晩くらいに。逃げる準備っつっても逃げる場所なんか無いけどな……」
「分かった! じゃあ、明日香ちゃんたちがピンチになったら私たちが急いで帰ればいいんじゃない?」
「まあ、そうだな。あ、侵略っぽい、と思ったら、すぐに連絡しろ。今回はフェラーリで行くから、すぐ帰ってこれるはずだ」
「オッケー! 任せときんしゃい!」
レーダーも、俺の〈インフィニット〉で妨害ができることが分かっている。だったら、車体を覆えば問題ないだろう、というわけだ。
勿論、澪様がステルス機能も搭載したし。
「よし。じゃあ、解散!」
それからは、各自ゾロゾロと自室へ帰っていった。海翔は澪に「相談がある」と言って研究室に付いて行ったが……。
まあ、プライバシーの話だ。〈絶対空間認知〉も使わない。
俺も、ディヴァルの訓練をしとこうかな。新しい眼のために。
受験が控えているので、二週間に一回程度の投稿頻度になるかもしれませんが、ご了承ください。




