第二十五話
「ハハハハハ! おいおい! ビビってんじゃねえぞぉ!? オラオラ!」
「チィッ! 無駄に速い上にコイツ全部回復しやがる! どんだけダメージ与えても無駄じゃねえか!」
「……解放」
ガシャンガシャン! と外装が広がり、朱色の光を放つエリエル。そこには五本の矢が。
「穿て」
ピッ……という空気を裂く音を鳴らし、目にもとまらぬ速度で射出される光の矢。瞬時に兵士の体に風穴が空く。しかし、ボウッ! という何かが燃える音と共に、全ての傷口が塞がっていた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ァ! そんな攻撃じゃ意味ねえよ!」
「どこのD〇Oだお前! ってか、あれでも傷が治るのか……」
「ん、ムカつく。『超熱矢』」
「おっとぉ!? 熱いねぇ!」
超熱量の光の矢が兵士に襲い掛かる。今度は肉片一つ残らずに消し飛ぶ……と思っていたのだが、違った。
「不死鳥は回復だけじゃないんだぜぇ? 〈フレイムファザー〉ァ!」
背中から、ゴオオオッ!! という音を鳴らしながら、超熱量の矢を上回る熱を出し始めた。
フレイムファザー……炎の羽か。なんというか……そのままだな。と思う海翔。
しかし、何気に今の二人が出せる最高火力の超熱矢を防いだというこいつ。やばいのでは? となっていたが、海翔は澪にいいところを見せようと頑張る。
「斬り刻めばいつか死ぬだろ!」
解放に重ねて〈イフェット〉を発動。あと〈俊足〉も。
無限に上がり続ける速度に相手の兵士も反応できなくなってきた。が、それで死ぬような兵士ではない。ニィ……と笑うと、腕を自分の前でクロスすると、「〈エネルギーボム〉」と呟いた。
次の瞬間、ドクンッ……! という音と共に、兵士の胸から熱い波動が放たれた。
「んなっ!? あっぢぃぃぃぃぃっ!?」
「ハーッハッハッハッハァ! 再生のエネルギーを凝縮して開放する! それだけで最高火力の爆弾の完成だァ!」
「ん……っぷはぁ。あ゛~っぶねえ。稲盛の高濃度ポーションがあってよかった……。肉が焼けてたし……」
「……こいつ、強い……。悠のサポートに行けない……」
「オイオイオイオイィ!? もう終わりかァ!? そんなんじゃ味気ないぞぉ!?」
「ッ! うっぜえなぁ!」
何度も挑む海翔。しかし、腕を前に組んだ時点で距離を取らなければ、全身が焼かれてしまう。
このままだとジリ貧だな……。と、イラつくが、澪にいいところ見せるために活路を見出す。
超高所から落とす……そうすると、再生もさせず一発で殺せるだろうが、高いところまで運べる気がしない。どうしたものか。
「来ねぇのかァ!? こっちから行くぞぉ!?」
「くっ!」
二つに成ったガレルを正面に構え、来る衝撃に耐えようとする。が、
ズルッ……
「は?」
困惑の声は海翔からか、それとも生首からか、それは分からない。しかし、目の前まで駆けていた兵士は滑り落ちるように首が跳んでいた。
そして、その背後に。
「悠! お前戦車は!?」
「破壊してきた。一刀両断」
「なんだこいつ。死ねよ」
「ひでえ。ところで、お前があいつ如きを倒せないとは思わないんだが……なんでだ?」
「! そいつのモチーフは不死鳥! 何度でも再生するぞ!」
「……へえ」
「ククッ、クックックックック……その通りィ! 何度斬られようと意味がなァい! だから……死ねぇ!」
さらに〈エネルギーボム〉ゥ! と叫び、体から超高温の波動を出す。
こういうタイプは『凪嵐』が使えないからめんどいな、と考えながら〈インフィニット〉で発生させたエネルギーを身に纏う。それにより、熱を防いだ。
「まあ、再生するってことは細胞が働いてんだろ? なら、話は簡単だ」
さっきは〈陽炎〉により無音かつ最速で首を斬った。しかし、そこは再生してしまった、と。
ならば、こうしよう。
「! 抜刀術の構え……? ということは、『白冥』……でも、それは斬るだけ。何かの重ね掛け?」
「俺、白冥の存在を知らねえんだけど。なにそれかっけえ名前だな」
さて、澪はよく分かっているな。ただの白冥じゃないって。
「お? どうしたどうした? カッコつけかァ? 笑えちゃうねェ! そのくらいの歳になると、そういうの作っちまうよなァ……!」
「……『白冥』重ねて」
ゴウッ! と踏み込んだ音を聞いた瞬間、兵士の首は跳ね跳んでいた。
澪どころか海翔も視認できない速度だった。
兵士は、再生しようとする……が
「なっ!? んで、再生、が……できねっ!? ガハッ」
「『泣別』
「はあ!? 再生させねえとかありかよ! どうやったんだよコラ」
「……もしかして、細胞の完全破壊? いや、そんなまさか……」
泣別。相手の細胞を完全に破壊し、再生をさせない技だ。これも蟒蛇と同じく集中しなければならないが、まだ楽だ。というか、原理は蟒蛇とさして変わらない。
「はい、死亡。これで全部殲滅した。とりあえず、帰ろ―――」
「ジネエエエエッ!!!」
「!?」
後ろから、ボウッという何かが燃える音と共に、赤い槍が背後に迫っていた。
死んだと思っていたのに、しぶとく生きていやがったのか!
「ッ!」
速攻で対処しようとした。しかし、ディヴァルが間に合うことは無かった。
ブシュッ!
「ッ……が、あっ……」
「クハハハ……もう未練はねェ……! さらばだァ!」
そのまま死にやがった兵士。その手が握る槍は、俺の右目をしっかりと抉っていた。
ひとまず、槍を引き抜き、地獄のような痛みを味わいながら、耐え抜いた。それから、〈インフィニット〉で生み出した無限エネルギーを全て再生力に振り切り、眼の回復をする。
あわあわする海翔とイヤホンを通して六皇に連絡する澪。
大至急亮太に迎えに来てもらい、そのままリレイスに引き取られていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「……! っと、ここは……」
「ん、起きた。前もこんなことあった気がする」
俺はいつの間にか気絶していたようだ。ベースの病室で寝かされていた。相変わらずの澪の看病だった。
右眼には包帯が巻かれており、体はアルケイドにつながれている。これチューブみたいなのあったんだ。
って、うん?
「え、包帯? 小柳の力で治せなかったのか?」
「うん。〈癒しの手〉でも治せなくて、〈リカバリー〉を発動して殺そうかと思ったけど、明日香はもう〈リカバリー〉発動できなくなったって言って、稲盛の超高濃度ポーションも治らず、で、治す手段が無かった。ごめんなさい」
「いや、まあ、不死鳥の呪いってところか。普通に細胞が破壊されたか? あいつの炎で? ……まあ、その可能性はあるか……」
「ところで悠。今、〈絶対空間認知〉使える?」
「は? そんなの使えるに決まっ―――」
普通に発動させようとしたが、いつもの感覚が無い。情報が頭に入ってこない。
目の前にいる澪の存在ですら、認識できない。
「これは、どういう……」
「……〈絶対空間認知〉は、視る力の派生。それも右眼の。だから、右眼が潰されれば使えないんじゃないかと」
「なるほどなァ……」
だが、それはかなり困る。索敵、国の安全、無崩流の使用。全てに使う超素能力なのだ。手札が一つ封じられた以上の痛手だ。
どうしたものか……。
「でも」
「?」
「義眼を作ることはできる」
「義眼か。でも、義眼で超素能力って使えるのか? ほら、人体の全力だろ? 科学が介入したら流石に無理だと思うんだが……」
「普通の義眼なら無理だと思う。でも、私が創る義眼……素材をアレにすれば、普通に使えると思う。いや、もっと強くなる」
「アレ?」
とりあえず右目が抉られてしまったので、治すことを優先する。他国との交流は六皇に任せる。
アレルデネラの監視、ケカルセルトとの繋がりを持つ。この二つを並行して進めよう。と、六皇に指示し、ひとまず俺は寝ることにした。
来週は少々用事があるので、投稿を休ませていただきます。




