第二十四話
はい! またミスりました! すんません!
澪はリビングに六皇と悠を集め、会議を開いていた。
「なるほど? つまり、血成結晶は色々な加工を施すことで、強化素材になりえるということか」
「ん、そういうこと。だけど、今はそんなことしてられない。数が足りないから。会話内容から察するに、アーザレイルから転送されたものではない。ならば、どこからきた?」
「はい!」
「はい、稲盛」
「敵国だと思いm」「恐らく違う」
「いや速いんすけど」
いやいや、なんで敵国が俺達に強化素材を渡して来るんだよ。余程のアホだろ。そいつ。
まあ、送られてきたのはよく分からん。だから、考えるだけ無駄じゃなかろうか。
「というわけで、この血成結晶の入手と敵国の把握を並行して進めていく。まあ、血成結晶はケカルセルトの力を借りてどっかから輸入するかな……」
「明日からでも始めるか? 俺と澪は敵国の把握に移ってもいーぜ?」
「……ん? (なんで? なんで私となの?)」
「そうか。まあ、もし把握出来たら海翔に偵察に行ってもらうから。よろしく」
「おう」
さて、ここからが本題だ。
「今んとこ敵国について分かっていることは三つ。東北の方の国だということ。堕者を作る技術があるということ。特殊個体を使役しているということ。この三つだ」
「ほーん……。東北の国って幾つあんの?」
「五つ。で、一番近いのが福島県辺りのアレルデネラっつーとこ。というわけで第一容疑者」
「容疑国?」
「いや、呼び方はいいから」
アレルデネラ。大した情報を持っていないため、どういう国かは知らない。アーザレイルの六皇たちも、みな口をそろえて「何も知らない」と言っていた。あの虹夢さんでさえだ。
自分たちで調べるか……。
「だいぶ仕事も減ってきたし、そろそろ国交を増やすかな……。いや、まずは内情を調べてからにするか」
「おっ! 俺の出番か?」
「そうだな。一応海翔と……俺も行こう。完全に決めたわけじゃないけど、容疑者だし、偵察みたいなもんをするだけだ。あんまりすることも無いしな」
「あ、私も行く。他国の技術を見てみたい」
「澪! 来てくれるのか! (やっぱり俺のこと……!)」
「分かった。他に来たい奴ー」
「あ、私も行きたい! 体動かしたい!」「ちょっとついでに爆弾の素材集めたいから俺も行くわ」「うへへへへ。お出かけお出かけ~!」「あ、俺一人になりそうだからついてくわ」
「……つまり、全員来るのか」
なんだこいつら。すぐ引っ付いてくるじゃん。ちょっと嬉しい。
でも、大人数すぎるのも目立つし、なにより……
「侵攻を受けたら防御機構の薄いこの国じゃ突破されちまうのがな……どうしたもんかな」
「やっぱ私残る~! よく考えたら行く意味ねえ~! あっはっは!」
「お、おう……」
「小柳ちゃんが残るなら私も残ろうかな! なんか不安だし」
「お、おう……」
「あ、倉庫に在庫あるわ。じゃあ俺もいいや。行く意味ねえ」
「あ、おう……」
「一人じゃねえならいいや。俺も残る」
「何なんだよお前ら」
まあ、これでメンバーは決まった。
偵察組が、俺、海翔、澪。
居残り組が、沙紀、小柳、稲盛、亮太。
偵察って言いながら、まったく関係なかったらクソ申し訳ないけど。それでも、疑うだけの価値はある……と信じたい。
というわけで、残り少ない仕事をちゃっちゃと押し付け、軽く運動をし、一日を終えた。
明日の偵察へ向けて、しっかり休息を取る。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「おーっ! 超曇りだぁ!」
目が覚めたのでカーテンを開けると、思いっきり曇っていた。なんなら雨が降りそうだ。
いいじゃないか。自然に紛れるにはちょうどいい。
「さて、じゃあ荷物纏めて二人呼ぶか」
軽く用意をし……と言っても俺の持ち物はディヴァルくらいだ。
あとはいつもの服装を羽織る程度。
……なんだこの虚しさは。
まあいい。身軽なのはいいことだから。うん。
謎の寂しさを覚えながらリビングへ行くと朝食が用意されていたので、いただきます、と言い、食べる。今日の料理は沙紀がしてくれたようだ。美味い。
沙紀、小柳の二人は料理が上手い。あと、稲盛も。あいつ見た目に寄らず料理上手いんだぜ。
ちなみに、俺と澪は壊滅的に料理が下手なので、厨房出禁を喰らってしまった。悲しい。
ゆっくり食べていると海翔と澪も来たので、そのまま三人で食べる。特に話すことも無い……ハズだったのだが、海翔が異常に澪に話しかける。かまってちゃんなのか?
食べ終わったので出発準備をし、二人を待つ。二人もすぐ食べ終わった。澪はファルスのほかに情報記憶媒体も持って行くようだ。
まあ、確かに情報があっても持って帰れなかったら意味無いしな。
「準備は出来たな? 忘れもん無いな?」
「ん、行こ」
「っしゃ! 張り切っていくぜ!」
魔改造フェラーリを使おうと思ったのだが「レーダーに入ったらバレるから」という澪の一言でやめた。ならばどうする?
走るんですよねぇ……。
「さ、行くぞ」「え、待っ―――」
「んなッ!? 悠! 置いてくんじゃねえ!」
澪は俺がおんぶし、海翔と共に走る。
〈インフィニット〉の運用方法をアーザレイルの渡辺さんにアドバイスされたのでそれを実用している。
今までは、指定強化箇所が『腕』や『足』とあやふやだった。
しかし、それを『上腕二頭筋』と『上腕三頭筋』、『大腿直筋』、『外側広筋』などの詳細な筋肉を指定することで、出力を上げながら必要エネルギーを減らすことができた。
まあ、さらに効率を上げた必殺(?)もあるが……今はいい。
「それで? アレルデネラってどこにあんだよ! まさか知らねえのに出てきたわけねえよな!?」
「俺の時計の機能を忘れたのか?」
そういい、端末をガチャッ、ガチャッと動かす。
「モードⅢ、MAP」
ブオン……と目の前にナノマシンで地図を生み出す。方角はあっているので、全力で走り続ける。
普通ならばビル等が建っていて走りにくいだろう。しかし、この終末世界。建造物などないに等しい。そのため、ほとんどノンストップで走り抜けられる。
そのまま数時間走り続け、徐々にスピードを緩めていく。そして、その数分後には巨大な城壁を目に捉えていた。
「うん。あれだな。どう見てもあれ」
「ん、あの黒い城壁。あれはエレクテレスじゃない。多分新素材」
「登れなさそ~だな。っつーか、入口何処なんだ?」
と、ん~? と言いながら城壁に近づいていく海翔。おい、と止めるが、聞く耳を持たずにズカズカ進んでしまう。こいつ偵察って言葉知ってるのか?
って―――
「おい! 俺から十メートル以上離れるな! レーダーに見つか―――」
『未知のコアを発見。管制塔に連絡する。繰り返す。未知のコアを発見。管制塔に連絡する』
ウィーンウィーンと警報を鳴らすアレルデネラ全域。うん。マズい。
さっきまでは俺が〈インフィニット〉で発生させたエネルギーを妨害電波のように放出させることでレーダーから逃れていた。しかし、俺から十メートル以上離れてしまうと範囲外だ。見つかってしまう。
まあ、案の定見つかっているが。
ってか、どうしよ……。
「〈プレディクション〉」
澪が数瞬先の未来予知をする。いや、数瞬先というよりも十秒、二十秒先を視る。今数瞬なんか意味が無いからだ。
「……まずい。今すぐ逃げないと!」
「何を視た? お前がそこまで焦るなんて。特殊個体か?」
「いや……超巨大戦車」
「はあ?」
戦車? 今更? いや、大砲にエレクテレスが使用されているのならば威力は高いだろうが、それでもあっさり制圧できそうだ。
しかし、それでも尚澪の表情は変わらない。
「私の矢じゃ傷もつかない。海翔の素早さに標準を合わせて砲弾を撃てる。文字通り最強の戦車。どういう素材で作ったんだろ……」
「ところで、さっきお前が未来を視てから二十秒経ったが?」
「あっ……。海翔! 早く戻ってきて!」
「やっべぇ! なんか出てきた!」
「ほら言わんこっちゃない!」
ウィーンウィーンという警報音が消え、その代わりゴゴゴゴゴゴ……という地震のような音を鳴らしながら巨大な戦車が出てきた。城壁と同じ、黒色の。
巨大な砲身、キャタピラで移動するたびにググググググ……という圧がかけられる。
あれはまずい。
「逃げるぞ、海翔」
「は? あの程度俺達なら……」
「いいから逃げるぞ! 兵士相手しながらあれは無理だ!」
澪をおんぶし、全速力で逃げる。偵察もくそもない。こいつはダメだ。
〈絶対空間認知〉を発動し、周辺の兵士を見つけ、そいつらがいない方へ走る。
数秒で軽く数百メートルは離れた。まあ、ここなら安全だろ……と思ったのだが、俺たちが甘かった。
ドゴォオオオオオッ!!!!
「んなっ!?」
なんと瓦礫を薙ぎ払いながら猛烈な勢いで巨大な弾丸が迫ってきたのだ。
あんなの掠っただけで体抉れるって!
「伍式! 凪―――」
右眼を紅く染めながら、ディヴァルを目の前に突き刺す悠。
そのまま刺したディヴァルを強引に右にひねった。
「嵐ィ!」
最強の遠距離防御術を使用し、逆に弾き返す。
ギャリギャリギャリ! という破壊音を鳴らしながら戦車に返っていく砲弾。それはしっかりと戦車に着弾した。
戦車はズドォオオオオンッ! という轟音を鳴らし、装甲の一部のみが抉れた。
あの攻撃を喰らってなお、あれしか削れない弾丸に呆れるべきか、アレに耐えれる戦車に感動すべきか。
ひとまず、もうこちらの位置はばれているは分かった。応戦するしかない。
「……うん。これって逃げたらリレイスごとボコボコにされるタイプだな。うん」
「ほらみろ! やっぱ応戦した方がよかったじゃねえか!」
「そもそもバレなければ問題なかったんだがな? 誰がレーダーに身を晒して居場所がバレたんだっけな? あ゛あ?」
「……二人とも、落ち着いて。今は対策をすることに脳を割くべき」
確かにそうだ。ついカッとなってしまった。落ち着け落ち着け。
今のところ認知しているのが目の前の超巨大戦車と兵士二十人。そして、その二十人から溢れる殺気が尋常じゃないことも認知している。
「……俺が戦車を担当しよう。二人は兵士をやってくれ。そんで、そっちが早く終わったらこっちの応援に来てくれ」
「おおおおっ! (ついに俺と澪が共闘するときがッ! フッ、悠もよく分かってるじゃないか)」
「ん、了解。頑張って」
「海翔。何があっても澪に従えよ? じゃないと命は無いと思え」
「分かってらぁ! うおおお! やってやるぜぇ!」
「……まあ、やる気がありそうで何よりだ」
なんか異常にやる気が出てる。なんこいつ。
まあ、預言者と疾風が組めば二十の兵士くらい何とかなるだろ。問題は俺が相対する硬度が異常な超巨大戦車だ。
よし、無崩流大放出だな。
「じゃあ、頑張れよ!」
「ん、任された」
「おう! 任せろ!」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
二人と別れた悠はそのまま城壁に沿って走り、国の反対側まで逃げる。時折後ろを見ると、しっかり戦車が追いかけてきているのが確認できる。
時々後ろからドゴォオオオオンッ! というアウトな音が聞こえるので、いつか当たるのでは、と冷や冷やした。
ズザァッ……
『対象を視認。排除する』
「まあ確かに近づいたのは俺達だけど、それでこれは無くない?」
『一斉掃射』
「ゑ?」
ズガガガガガッ! バキッ! ドゴォーンッ!
「ほんとの一斉掃射ァっ! 伍式・凪嵐!」
一瞬の攻防。二百を超える砲弾や爆弾が悠に襲い掛かるが、逆に勢いを増して弾き返す。
とんでもない轟音が鳴り響くが、それでも戦車は無傷だ。ということは、さっき受けた一撃は特別威力の高い一撃のようだ。
まずは装甲の硬さとディヴァルの鋭さの差を確認する。
ウィーン……とこちらに砲身を向けるため、相手に撃たれる前に切り裂く。
「弐式―――」
陽炎のように静かに最速で殺す方法ではない。ただ最速ですれ違いながら切り裂く抜刀術だ。
「白冥」
ディヴァルの鋭さにものを言わせて切り裂こう……と思ったのだが、軽く傷が付いただけで大したダメージは見られない。うん。純粋に切り裂くだけじゃだめだ。ってか
「近ぁい!?」
『排除する』
ゴゴゴゴゴゴッ! という音を鳴らしながらこちらに動いてくる戦車。轢死は嫌だ!
シュッ! と飛び退き、ディヴァルを戦車に向ける。
また方向転換し、こちらに近づいてくる戦車。いい感じに距離を測り、トッ……と戦車に触れる。
「肆式」
今度は、戦車の表面をなぞるように、蛇が動くように斬る。
すると、先ほどまで最強の硬度を誇っていた装甲が滑っと落ちてしまった。
「蟒蛇」
…………ズリッ。
ズドォン……。
『!? なぜ……』
「蟒蛇。確かに隙も多いし、陽炎や凪嵐ほど使用頻度が高くない。でも、どんな硬度でも無視して切り裂けるという反則級の力を有してるんだ。って、これって外の声聞こえてんのか?」
もちろん、これもまた〈絶対空間認知〉を発動させ、分子と分子の間を切り裂くことで分離させている。意味わからんほど全力で発動させてようやく使える技。隙がほんとに多い。
「まあ、とりあえず中のやつは出てこい。大丈夫。何もしなければ殺しはしない。俺たちはここに近づいただけだ。見逃してくれるといいんだが」
「……排除する!」
「! 出て来たな……! で、排除するってことは敵対するってことだな? いいんだな?」
「排除する」
ファルス製の槍を構え、こちらに突進してくる男。軍人のような恰好をしている。
見た感じあまり威力が高いようには見えないので、簡単にいなし、返す刀で首を狩ろう、と思っていたのだが、それほど甘くなかった。
「〈オンソラート〉ッ!」
「! んなッ!?」
ガキン! と二つのファルスが衝突する音がした。突然手前で加速し、距離感を狂わせてきやがった。
そのまま猛攻は続き、若干こちらが押され始めてきた。
この男、戦闘経験が多いな……!
「ふっ、はっ、疾ッ!」
「あっ、ぶっ、なぁい!」
強引に飛び退き、距離を取る。あのままではいつか斬られるか、突かれてしまう。一度体勢を立て直す。
そして、姿勢を低くし、抜刀の構えに移る。
まー多分、
「弐式・白冥ッ!」
反応できないだろ。
バヂッ!
「んな……が……」
上半身と下半身が分かれた兵士はドサッと倒れ、そのまま生命活動を終える。
悠は、そのまま澪達のいる方を見ると、「急いで向かわねえとな」と呟いた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「どっからこんなに人が増えてんだよ! 多すぎだろ!」
「一部クローンが紛れ込んでるみたい。だから、ほぼ際限なく出て来る……と思ったけど、需要と供給が間に合わないから、あと三十体くらいだと思う」
「じゃああと三十体&数人殺ればいいんだな!」
「まあ、そうだけど……(海翔は人を殺せるの?)」
「しゃぁ! 行くぞ! 解放!」
海翔の持つガレルが一部朱色に光り、二つへと成る。そして、そこから発生したエネルギーは海翔へ送られ、圧倒的なスピードを得た。
「遅い遅い遅いィ! はっはっはぁ! 誰も止められねえなぁ!」
「なっ、速、い!」ガキン!
「おい! フォーメーションM-4だ! 全員、あの少年を狙え!」
「あちらの弓使いも頭入れとけ! 脳天ぶちまけるぞ!」
そのままスピードを増やしながら相手を錯乱していく海翔。そして、クローンは全て破壊し、防衛用ロボットも全て破壊した後、海翔は対象を兵士にのみ絞っていた。
「終わりだぁ! 死ねぇ!」
圧倒的速度での突進。反応のできない相手の首にガレルが触れ、そのまま跳ね飛ばすかと思われた。
「……? どういうことだ……?」
しかし、何秒経とうともそれが起きない。いや、違う。跳ね飛ばしてはいる。しかし、断たれない。
「ククッ……クックっク……」
突如として笑い始める兵士。こいつの超素能力か! と勘ずく澪と海翔。そのモチーフは―――
「不死鳥! 絶えることなき再生!! 終わることなき生命!!! 死ぬことも負けることも無いんだよ! ハハハハハ!」
こうして澪と海翔は、モチーフ不死鳥の兵士と相対することになった。




