第二十話
二話同時投稿二話目です。まだ見ていない方は第十九話を見てください。
【澪サイド】
「ん、解放」
そう呟いた澪。すると、その言葉に呼応するようにエリエルが光を放つ。
ウィーン……ガシャン! という音と共に、エリエルの外装が広がっていく。
一回り程大きくなったエリエルの外装。その内側からは朱色の光が。
「……」
「ん、秒で終わらせる」
「……」
いつものように弓を引く澪。しかし、そこに装填された光の矢は一本ではなく五本。しかも、弓を引く速度がいつもより素早い。それを幾度も繰り返し、何十発も撃つ。
「喰らえ」
いつもとは違い、ピッという音を鳴らし飛んで行く光の矢。言葉にするのは簡単だが、実際のところは数百を超える超熱量のレーザーを撃ち乱れているに等しい。
解放によってエリエルが得た能力が『エネルギー集束』、『超速再装填』、『同時装填』の三つだ。
周辺からエネルギーを集め撃ち出していた元のエリアルの能力を強化したものだ。
内部のエレクテレス自体に含まれている、エネルギー循環機構。そこでエネルギーが循環しているのだが、その循環によって発生した熱を使い、矢を強化する。朱色の光はそれだ。
「グッ……ゴォ……」
「これでお終い。穿て。『超熱矢』」
今度は蒼い光の矢になり、射出される。その速度は約時速三十万キロ。光の速度だ。
バチインッ! という音と共に、堕者の体を貫いた。
そして、貫通し飛び続けた青き光の矢は廃ビルに着弾……せず、それも貫いた。
遠くの山にようやく着弾。ゴオオオオオッ!! という爆裂音を鳴らし、山の一部を抉り取った。
「ん……想像以上の出力。これは練習が必要。あっ」
バタン! と倒れた澪。初めて大量のエネルギーを使ったため、体が耐えきれなかったのだ。
それでも、澪は満足げな顔をし城壁の上に寝転がった。
【沙紀サイド】
「解放!」
その瞬間、相対していた堕者が一歩退いた。そう。目の前の少女が出す圧倒的な力の奔流に退いたのだ。正確にはファルスから出たものだが、使用者の沙紀にもその恩恵は与えられる。
プルヴェイズの解放は、単純明快。『重量増加』、『打撃集束』だ。
ハンマーの頭の部分が広がり、一段階大きくなる。広がった隙間からは朱色の光が。
これにより得られた『重量増加』。これは、周辺のエネルギー含め、内部で造り出したエネルギーをそのまま溜め続け、重量として変換したもの。
さらに、『打撃集束』。これは、攻撃を加えた瞬間に分散するあらゆる力を一点に収束させるものだ。
さて、そうするとどうなるか。
こうだ。
「いっくよ~!」
そう言い、沙紀はプルヴェイズを思いっきりスイング。いつもならば衝撃が撒き散らされるが、解放したプルヴェイズは違う。
衝撃を、力を一点に集中させるのだ。なので、今回は核が落ちたような破壊音ではなく、ドゥッ……という静かな音になる。
しかし、その威力は桁違いで―――
「オ、オオオ……」
「へっへ~。いくら装甲が硬くても、体内は脆いでしょ!」
衝撃を一点に集中させるため、装甲の防御力を一部無視して打撃を与えることになる。これが、プルヴェイズの解放である。
幾度も打撃を受け、堕者はフラフラしていた。
だが、そこは無慈悲な沙紀。
「叩き潰す! 『終幕』ッ!」
堕者の懐に潜りこみ、アッパースイングで上空へ。そこで、先ほどのように飛び上がり、ギュルルルと回転。その遠心力を余すことなくプルヴェイズに伝え、堕者ごと地面に叩きつける。その際、プルヴェイズの内部は500℃に達しており、発生した熱を即座に使用者のエネルギーに変えることで爆発的な攻撃力を生み出す。
叩きつけられた衝撃ごとダメージを与える最強の一撃だ。
「ガ、フ……」
「ふぅ~……。うん。疲れた!」
沙紀はプルヴェイズを杖のようにし、「あ゛~」と大きく息を吐いた。
……ちなみに、しれっと出て来た技術、エレクテレスから発生したエネルギーを使用者のコアエネルギーに変換する技術は解放時にのみ可能である。なぜなら、エレクテレスから強引にエネルギーを引き出しているため、通常ならば使用できないからだ。あの状態ならば、悠、沙紀、小柳の三連撃制限も解除されたりする。
【稲盛サイド】
「解放ぅ!」
バレッサがギュインギュインという音を鳴らし、外装を反転させる。
その面は朱色の線が走っており、サイズも一回り大きくなった。
『集束』し、『圧縮』し、『解放』する。
その先端から放たれるのは紫色の弾丸……ではなく、赤い光線だった。
バヂイッ!
「!? ア、ゴァ……」
「はっはっは! 痛いだろう! それはなぁ……えっと……忘れたけど、強くなったんだ!」
先二人と同じくエネルギーを発生させ、そのエネルギーを圧縮し、指向性を持たせて開放するだけ。それにより、とてつもない熱量を持った光線が放てる。
通常状態でそれをすると、そもそもバレッサが機能しなくなるので使わない。
バヂイッ、バヂイッという音を鳴らすたび、堕者の体に風穴が空く。
焦った……かは分からないが、突然銃を乱れ撃つ。これでは、城壁の方に飛んでしまうじゃないか。そう思い、稲盛は必殺を解禁する。
「『開放的な地獄』ッ!」
何もない空間へ光線を放つ稲盛。しかし、それは乱れ撃たれた銃弾全てを撃ち抜き、さらには急に屈折し、一本の太いレーザーへ。
それは堕者のもとへ迫り、エレクテレスだけ残し、地面ごと抉り飛ばした。
「お、おぉ……つええ……。これは、俺が最強になる未来もありえるのでは……?」
という戯言は置いといて、何気に解放した状態の銃を連発したがために疲労困憊の稲盛。〈毒薬〉にて超強力な融解性の毒を生成。〈ベノムフィールド〉に重ね掛ける。
最強の引きこもり領域完成。したところで、稲盛は爆睡し始めた。
【亮太サイド】
「さてさて……解放」
〈ディメンション〉から取り出した小さな球体。これは、ファルスと成った爆弾。バルデットだ。
銀色の球体。ものすごく球体。これが爆弾だと言われても信じてもらえないだろう。
しかも、正式にファルスへと改造されたものだ。“解放”されると……
「『追尾』し『拡散』し、『増殖』する。そんな爆弾だぞぉ~? たっぷり喰らってくれ!」
取り出した爆弾も解放すると、金色へと光る。その爆弾を堕者へと投げるが、パシンと弾かれる。
しかし、亮太に焦りはない。
弾いた球体には目もくれず、こちらに駆けて来る堕者。拳を振り上げ、叩き潰そうとして来るが―――
ガンッ!
「オ?」
先程弾いた爆弾が帰ってきたのだ。「フン!」と弾くが、何度も帰って来る。
その瞬間、俺は全力で離脱。ジェットパック、ジェットブーツを使い、瞬間的に逃げる。だが、堕者に追われることは無い。
なぜならば、
「フン! オオオオッ!」
弾かれても何度も何度も戻って来る球体。うざったいと思ったのか、全力の一撃にて粉砕しようと思ったのだろう。確かに爆発はするだろうが、一つならば大したダメージは無いだろう。
とてつもないダメージを受けたことにより、球体は粉砕。すると、グルン! とこちらを向く堕者。さっきもこんなことあったな。
そして、また駆けようとしたのだが―――
ボン! ドォン! ドォォンッ!!
「!? ガッ! ゴハッ!」
「ごめんなー。それ、破壊したら増えるんだわ。そんで、破壊された時のダメージが蓄積されて、その分の威力も爆弾に乗る。それを何度も繰り返すと……?」
「アッ、ガガアッ!」ドォンッ! ドォンッ!
「はっはっは! これを聞いてもなお爆弾を壊そうとするか! いいじゃん。じゃあ、一時爆発を止めるぞぉ?」
パンパンと手を鳴らし、爆発を止める。しかし、堕者は爆弾を壊そうとする。正気か? あ、言葉を理解できないのか……
「そこまで威力の高い爆発を喰らいたいのなら、思う存分破壊しろ。そしたら準備が整うからな」
そして無我夢中に破壊し続け、爆弾が増殖しきったころ。
亮太は「そろそろか」と、笑みを浮かべ、指を鳴らした。
「『無制限花火』」
ズドドドドドドォンッ!!
百を超える超威力爆弾が爆発する。無限に増殖し、威力が上がり続ける爆弾。爆ぜるまで追尾し、逃げ切れない爆弾。
堕者のエレクテレスの装甲をも破壊するほどの超威力に晒され続け、数分後には巨大なエレクテレスの結晶のみが残っていた。
【海翔サイド】
「解放」
海翔が持つガレルが朱色の光を発す。そして、あろうことか真ん中で半分に分かれたのだ。
一本の短剣は双剣へと成った。
その面には朱色の線が。
「行くぜ」
「!」
解放したガレルの能力。それは、双剣へと成り、『収集』し、『譲渡』する。
大気中から集めた微かな瘴気を吸い取り、中で浄化。その際発生した余剰エネルギーを使用者へ与える。〈イフェット〉との併用により、海翔は音速を突破。
その軌跡に朱色の光を残し、堕者を取り残す。
「ッ! ッ!」
「見えないだろ! 追いつけないだろ! そんで、お前の周りを走り続けるときに生まれる風は竜巻へと成る! 捉えろ! 『超連撃』ッ!」
ビュンビュンビュンビュンと風切り音を鳴らす海翔。そして、一歩を刻む度に二十を超える斬撃を打ち込む。それを連続して行うとどうなるか? 答えはこう。
刃の竜巻が対象を斬り刻む。
「ガッ、ガガッ、ゴッ!」
身動き一つとれず、ただ斬撃を浴び続ける堕者は、その姿を視認することも出来ず消えていった。
……。
「ア゛ァ゛~ッ! 調子乗ったッ! 体がぁ!」
しっかり苦しんだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「どうだ? 全部殲滅できたか?」
「こっちはいないよ~! みんなどう?」
「こっちにもいねえ……俺の毒竜g」
「こっちも全員やったぞー。真白さんのとこは?」
「ん、こっちも無し」
あれから皆倒れ、数分後に復活。海翔がムクッと起き上がり、呼びかけると、全員起きた。
とりあえず全堕者が消失したのを確認し、集合。品川さんに連絡し、防衛機構Ⅰを解いてもらった。
「ふ~。まぁ、俺たちなら余裕だな! 最強だもんな!」
「何言ってんだ海翔ォ! わぁたしの治癒が無ければてめぇ何回死んでたんだよぉ! うらぁ!」「それはマジ感謝」
「ん、でも、解放が無ければ私たちは負けてたと思う。あの超出力が出せるなんて」
「葵さんマジスゲーよな。科学の結晶を人の手で強化するんだから、簡単じゃあないだろうに」
「ねー! 後で感謝の連絡入れとかなきゃ!」
「そうだな」
ワイワイと盛り上がっている六人。さて帰るか~、と海翔が言った瞬間。
「ウオオオオオオッッ!!!!」
「「「「「「!!!」」」」」」
空気が揺れる。魂が怯える。なんだこの咆哮は。
その音のした方向に体を向けると、赤い目をした堕者がこちらを睨んでいた。
「なんっだこいつ……やべえ匂いがする……」
「真白さん。人が堕ちて腐死者に。それが変異して堕者になるけど、人がここまで大きくなることってあります……?」
「……無い。突然変異でもこれはない。だから……」
澪の頬に冷や汗が流れる。
「これは、特殊個体。他の堕者とは何もかも違う化物」
千を超える堕者を殲滅した後は、化け物との戦いのようだ。




