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世界が滅ぶ前に平和を願って何が悪い?  作者: 如月 弥生
第二章 戦争編
22/33

第十九話

二話同時投稿一話目です。

 大量の堕者たちが侵攻を始めた。前よりもはるかに出力が上がっている。しかし、それだけではない。如何せん量が違う。今回は約千。この知らせを聞いたアーザレイルは、応援を出そうかと問うた。しかし、悠と海翔は首を横に振り、こう言い放った。


「軍事面での同盟はまだ組んでいないでしょう?」


 この回答に思わず渡辺は笑ってしまった。約千を超える堕者の集団に対し、七人のみで対抗するというのだ。それも、子供が。

五大臣は全員素晴らしい超素能力を持っているため、出力の落ちた堕者千くらいならば容易く殲滅できる。

彼らの超素能力を実際に見たわけではないが、それでも心配だった。

……まあ、本人がいいというのだから良いのだろう。そう割り切り、次の会議へ向かった。



【リレイス周辺】



「おっ、いるいるー! ひゃっほー! 前より強いように見えるんだけど、私だけ?」


「うんにゃ? 俺にもそう見えるぞ。前戦ったやつよりも威圧感があるしな。まー、数が多いからかもしれねえけど」


「でもでも! 葵さんが改造してくれたおかげで強くなってるんでしょ! 使ってみよ!」


「デラメラ()してもらえなかったけどな」


「亮太のデラメラはエレクテレスの塊なんだろ? じゃあ解放も何もないじゃん? 可哀そうに~」


「ちっ、運転してるせいで殴れねえ……」


 目の前に大群が広がっているが、魔改造フェラーリは勢いを増す。亮太がボタンをいくつか押すと、ガシャンガシャン! という音を出し、車体の横から武器が出てきた。亮太はニッと笑い、「一斉掃射」と呟いた。

その瞬間、ババババババ、ゴゴゴォンッ! という轟音を鳴らし、目の前の堕者に銃撃、爆撃を始めた。

もちろん、弾丸はエレクテレス製だ。

侵攻方向の全ての堕者を薙ぎ払えていないが、そのまま更に勢いを増す。

亮太はまた別のボタンを押すと、「高密度障壁展開」と呟いた。

すると前方に薄い膜が展開され、数多の堕者を押しのけていった。

これが魔改造されたフェラーリの力だ。

 キキーッとフェラーリを城壁の前で停め、全員降りる。


「なんか、めっちゃいて気持ちわりいな」「んー、体がゴキゴキなるぅ! 血が滾るぅ!」「ん、久しぶりに未来視ずにやってみようかな」「私は治癒に専念するぜ! ぐえっふぇっふぇ。あ、みんな〈リカバリー〉使えないから気を付けてね」「ふっ……この右目に封印されし毒竜が暴れるときが来た!」「えーストライク取ろうと思いま~す」


「よし、行くぞ?」


 今回は前回と違い、各門に別れない。全員共闘だ。何気に全員、互いの全力の戦闘を見るのは初めてである。

 まず先陣を切ったのは海翔だ。今回もただ殲滅するのではなく、城壁を守らなければならない。なので、できるだけ離れたところで戦いたかったのだ。

〈俊足〉で駆けた海翔は第一波に到達。右から襲い来る直剣に対して垂直にガレルを構え防ぐと、逆に真一文字に切り裂いた。

しかし、前のように簡単には死なない。もう一撃振るってきた。それに対応しようとするが、背後からはハンマーが襲い来る。優先すべきはハンマーか、と振り返りハンマーを弾く。もちろん、直剣が海翔を切り裂く。


ザシュッ!


「ぐあっ。戦闘慣れしても痛いもんは痛いな!」


 即座に小柳の〈祝福領域〉を受け回復し、動き始める。その背中を堕者の弓が狙っているとも知らずに。

バァン! と放たれた黒い矢が海翔に到達し、その体を射抜かんとする瞬間、その矢を真横から撃ち抜く白い光の矢が。澪だ。


『後方支援は任せて』


『頼りになるやつだな! さんきゅ!』


 城壁の上から狙撃をする澪。その矢は寸分違わず堕者の頭を撃ち抜いていく。

「バーン」と呟く澪。ただ淡々と矢を放つ。しかし、一体の堕者により、放たれた矢は叩き切られ、防がれた。「!?」と澪が驚くと同時、斬った堕者もまた澪を睨んでいた。澪は無言で矢を放ち続けるが、それら全てが叩き切られる。

ここに、“預言者”澪と“実験番号02(ゼロツー):直剣”の戦いの火蓋が切って落とされた。



…………



「いよいっしょー!」


バゴォンッ!


「たぁまぁ……やぁー!」


バッゴオンッ!


 プルヴェイズを振りまわし、タイミングよくラヴェージを発動させるだけで吹き飛ぶ堕者たちに爽快感を覚え始めた沙紀。その姿は鬼神の如く。その力は破壊神の如く。

背後に迫る槍持ち。振り返り、迫る槍を叩き潰す。そのままプルヴェイズを突き出し、吹き飛ばしていく。


「ふっふーん! これが破壊神の力だぁ!」


 もはや自身が破壊神だと認めたことになるが、そんなことお構いなしに殺戮を繰り広げていく沙紀。目の前に現れた堕者を滅さんとプルヴェイズを叩きつける。通常ならばそれだけで消し飛ぶ。しかし……


「!? 生きてる! あ、いや、堕者だから死んでるんだけど」


 目の前の個体はピンピンしていた。ダメージを負った気配もない。

ただ堕者がハンマーを盾として挟んだだけだが、それまでの堕者とは明らかに雰囲気が違う。

反応速度、力、なにより出力。純粋に強い。

“破壊神”沙紀と“実験番号03(ゼロスリー):ハンマー”の戦いの幕が上がる。



……



「行くぜバレッサ!」


 戦闘時にのみ中二病になる稲盛は、愛銃であるバレッサに毒を込め、撃ち出す。やはり、前のように二撃で溶けることは無い。五発必要だ。


「じゃあよぉ……〈毒薬〉重ねて〈デッドリー〉!」


「「「「「ア゛!? アアアア……!」」」」」


 〈毒薬〉にて大地を溶かす毒を生成。それを、〈デッドリー〉に重ね掛けし、周辺の大地を溶かし、あらゆる生命体を飲み込む『毒沼』を生成。大量の堕者は飲み込まれていった。

しかし、その中にも溺れず、さらに反撃してきた堕者が。


ドパァン! ブシャァッ!


「いっでぇぇぇぇぇぇ!! ポポポポーションんんんん!!!」


 堕者の放った弾丸により腕を射抜かれた稲盛。懐からポーションを取り出し、一気飲みする。

すると、二の腕に空いた穴はどこへやら。完全に治癒されていた。


「……へっ、お前、なかなかに強いな……滾るぜぇ!」


 稲盛はこんなキャラではない。もう一度言う。こんなキャラではない。


まあ、“毒使い”稲盛対、“実験番号04(ゼロフォー):銃”の泥試合が始まる。



…………



「行っくぞ~。オラァ!」


ブシャッ、ブチブチ! グシャッ!


「はいストライク~! 今度は……爆弾フェスティバルだぁ!」


 亮太は〈ディメンション〉による物体の転移を無差別に展開。亮太の視認する領域で爆弾が降り注いだ。

なお、この爆弾は澪の特注品。もう使えなくなったエレクテレスの残骸を用いた高性能爆弾だ。

そこかしこで爆発音、炸裂音が鳴り響き、堕者も残骸へと成り果てる。

だが、


バ……グシャッ!


「んえ!?」


 転送した爆弾が爆発する直前に握りつぶされた。それも、一体の堕者によって。

その個体は何もファルスを持っていない。いや、違う。その体の鎧そのものがファルスなのだ。

まあ、本当にファルスならば破壊する手立てはないわけだが……所詮はファルスになり損ねた物。破壊出来ないことも無い。


「さ、殺るか!」


“荷物持ち”亮太と“実験番号05(ゼロファイブ):装甲”が衝突する。



…………



「うわっ、皆とんでもねえスピードで殲滅してやがんな……こちとら走るだけだってのに」


 悪態をつく海翔も、音速に迫る速さで敵を斬り刻む。戦闘開始直後から〈イフェット〉を使用し、無限に加速していた。

しかし、いくら遺伝子確立をし肉体を進化させたといえど、所詮人の体。音速までは到達できない。

それに、ファレルは一本。攻撃力も低いという不遇なファルス。その速さが無ければあまり役に立たない。

それでも


「遅い遅い遅い遅いィ! 誰も追いつけてねえなぁ! オラァ!」


 海翔の到達した速さは十分だった。他の六皇が広範囲殲滅をしているのに対し、海翔は単騎で全てを駆逐している。一部の堕者は、風が吹き抜けたようにしか感じないだろう。

実際に海翔は、無風状態では使えない〈ガレル〉を自身の走った時に発生した風に乗って発動している。よって、今の彼は音速に近しい風だ。

だが、そんな風を斬らんとする堕者が。


「!? ガフッ!」


 急いで〈ガレル〉を解除した海翔。その瞬間堕者の短剣を腹に喰らう。

血が飛び散り、内臓が見えそう、というところで小柳の治癒が。ありがたい。


「なんだてめぇ……」


 俺の速さに対応してきた? と警戒する海翔。体勢を低くし、ガレルを構える。すると、相手の堕者も似たような体勢を取り、相対する。

“疾風”海翔対“実験番号06(ゼロシックス):短剣”のスピード勝負が始まった。



【澪サイド】


「ん……こいつ……めんどくさい」


 なんだこの面倒くさい個体は。私の矢を全て斬って、その上剣を振るって衝撃波みたいなものを飛ばして来る。

明らかに他の個体とは違う。これだけ様々な実験の集合体のような……

仕方ない。ここは一度〈限局〉で空振りさせて―――


ガキン!


「は、っやい!」


 エリエルを剣として使用。軽く打ち合う。


 というか、ここ城壁なんだけど。ひとっ飛びでここまで来たの?

それはマズイ。こういうやつが量産されたら城壁の意味がなくなる。

ならば今のうちに滅する。


「ん、仕方ない。あれ使うか」


 その瞬間、堕者は感じた。

溢れ出るエネルギーの奔流を。


「ん、解放」



【沙紀サイド】



「んぬっうう……!」


 〈身体強化〉と〈デストラクション〉発動しても力は拮抗してる……! なんか新鮮だ!


「ウオオオッ!」


「! きゃっ!」


 痛ったいな、も~。結構吹っ飛ばされちゃった。

あっ、じゃああれ出来るじゃん。前考えた、威力を底上げする方法。

まあ、結構簡単なんだけどね。

行くよ!


「っしゃおら~!」ダダダッ


「ウオオオッ!」


 勢いよく駆け出し、飛びあがる私。それに対し、ハンマーの振り上げで吹き飛ばそうとする堕者。

そこで―――


「おりゃっ!」グルン!


「!?」


 プルヴェイズを振り、遠心力で一瞬耐空。そして、その回転のままプルヴェイズを叩きつける。もちろん、〈ラヴェージ〉付きでね。あと、〈デストラクション〉も。

ドゴオオンッ!! という強烈な音を鳴らし、地面には罅ができる。しかし、


「ウオオオッ!」


「!? なっ―――」


ゴガアンッ!


「がっ!」


 ゴロゴロと転がっていく私。地味に擦り傷が痛い。

ん~、既存の力じゃあ対抗できないなぁ……あっ、そうじゃん。葵さんにファルスの性能を上げてもらったんだっけ。

早速使ってみよっか!


「解放!」



【稲盛サイド】



「はあはあ、っはあ~。ったく。なんだこいつ。めんどくせえな」


 やっべ~。全身ボロボロ。

〈毒竜顕現〉は一回使うとめっちゃ疲れるしな~。しかも、当てられる気がしない。

! やっべ!


ドパァン! ドパァン! ドパァン!

ブシャアッ! ブシャアッ! ブシャアッ!


「げっ、ごへっ、がはっ。ぽ、ポーション……」


 まさかの全弾ヒット。こいつ銃撃つの上手すぎねぇ……?

ポーションを飲もうとした瞬間、俺の体が癒された。小柳ィ……マジありがとぉ……。

さて、こちらも負けてられないな!


「バレッサ!」


 ドパァ『ドパァン!』ンッ!


「んなっ!? 相殺されたぁ!?」


 こっちが先に撃ったのに後から撃って相殺されるとか! ざけんな!

こうなったら! 科学力の限界突破に頼るしかねえ!


「解放ぅ!」



【亮太サイド】



「ぬぅ……。全身硬い上に、動体視力が半端ない。それに、爆弾も爆発する前に握りつぶして、デラメラも止められる……」


 あれ? 詰んでる?

とりあえず、〈ディメンション〉から様々なものを取り出す。

まずは、澪がついに完成させたジェットパック。しかし、数十秒のみだ。

ならば、その数十秒でケリをつける。


「よいしょっと。これ、デラメラ持った状態で飛べるのすげえよなぁ……」


 そこから、遥か上空に飛んでいく。地上にいる堕者が小さく見えるようになったので、デラメラを地面に叩きつける。

ゴオオオオオッ! っという音を鳴らしながら地面に接近するデラメラ。その下には全身装甲の堕者が。


バアッゴオオオンッ!!!!


「……やったか? ……って言っちゃダメだったわ」


バリインッ!


「っは!?」


 粉砕されたのだ。デラメラが。エレクテレスの塊で疑似ファルスであるデラメラが破壊されたのだ。

……マジか。


……でも、この程度で諦めてちゃリレイスの一員じゃねえんだよな。

〈ディメンション〉の時空の穴に腕を突っ込み、あるものを取り出す。小さく丸い物質だ。


「さてさて……解放」



【海翔サイド】



「がっ! げっ! ごはっ!」


 痛ってぇ……全身傷だらけじゃねえか……。

ッ! はっええ!


「〈俊足〉! アーンドッ! リターンッ」


 俊足の加速にて離脱し、バク転の要領で堕者に蹴りを叩きつける。

~ッ! 硬いなぁっ!


「……」


「来い!」


ガキン!


 相手の短剣をこちらも逆手に持ったガレルにて打ち合う。いかにもスピードが速い奴っぽいだろ?

ギッ、ギャギャッ! と短剣同士が擦れる音がするが、剣同士離さない。離してしまったら力で持っていかれるからだ。


「おらっ!」


 相手が力を入れる前に胴体に蹴りを叩き込み、その反動で離脱する。


「ちいっ……埒が明かねえ……いや、このままだと俺が負ける。仕方ない」


 葵さんに見てもらったガレルを握りしめ、「ふぅ~」と息を吐く。

さて


「解放」



 ……己のファルスを『解放』し、その力を十全に発揮する。

殲滅の時間だ。





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