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世界が滅ぶ前に平和を願って何が悪い?  作者: 如月 弥生
第一章 建国編
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閑話 マジック

もうそろそろ第二章なので。

 ようやく仕事が落ち着き、余裕ができたある休日。

ベースのリビングにて、悠と小柳がゲームをしながら遊んでいた。

これは澪に作ってもらった、AR式のホッケーだ。意外と楽しい。

 そしてそこへ、海翔が飛び込んで来た。


「みんなー! ちょっと見てくれねえ!?」


「どしたー、海翔。お前が興奮することって珍し……くはないか。で? どうした?」


「隕石でも落ちてきた? 堕者が食べられるようになった?」


「こやっちは何言ってるか分かんねーけど……見てくれ!」


 そういうと海翔は懐からトランプを取り出した。そして机の上にざっと広げると、俺をチラッと見てから小柳に言った。


「この中から好きなカードを引いてくれ」


「はーい♪」


「今俺を見たよな? おい?」


「で、それをこの束に戻して……はい、OK。で、ここで俺が束を切る」


 小柳が引いたカードはスペードのA。それを広げたトランプに戻し、海翔がそれを纏め、シャッフルした。

そして、海翔は「じゃあ、お前の引いたカードを当てるな?」と言った。

まあ、なんとなく予想していたがマジックか。


 微妙な顔をしている俺に気付かず、海翔は何回かシャッフルした束をダンっと机に置き、一枚目をめくった。

すると、そこに現れたのはスペードのAだった。

そう、小柳の引いたカードだった。


「すごーい! え、なんで!? ええっ!? さっき私が引いたやつだよね!? で、シャッフルして……なのに一番上!? なんで!?」


「へっへっへ~。すごいだろ。ここ一週間ずっと練習してたんだぜ? これは誰にも見破れな―――」


「お前シャッフルするとき戻したカードを一番上にしてそれ以降動かしてねえだろ」


「ギクッ」


 結構簡単な話だ。一番上に置いたスペードのA。それは右手の中指と親指で固定し、それ以外をシャッフル。そして、シャッフルしたものをAの下に置く。それだけで一番上にさっき引いたカードが来る。単純だ。


「やっぱお前にはバレてたか……でも、マジックができるってだけですげえだろ!? 褒めてくれよ!」


「すごいよ! 今んとこリレイスの中にマジック出来る人いないし、これで特技増えたね!」

「うん、すごいすごい」


「てめえこら悠。もうちょっと感情込めろや」


「だってマジックなら俺も出来るんだもん」


「「は?」」


「やってみようか?」


 前ちょっと遊んでたら出来るようになっちまった。何気に日常でも役に立つ技だ。


「種も仕掛けもございません」


 そう言い、目の前の空間を触る。空振りするだけで何もない。本当に種も仕掛けも無いからな。

疑い深く海翔はこちらに手を伸ばすが、ひらひらするだけで何も無い。


「では、ここに水を出して見せましょう。あ、コップとかは大丈夫ですよ」


 俺は人差し指を立て、クルリと小さな円を描く。

そして、その円と被るように指でOKマークを作り、左に傾けた。

すると、その円から唐突に水が流れてきた。まるで水筒から水が流れるように。

流れゆく水はその場にコップでもあるかのように空中に留まっていた。


「「???」」


「種も仕掛けもございません」


 そして不可視のコップを掴み、中に入っていた水を飲んでしまった。


「ど、どういうこと? 空中から水が出て来たよ!? なんで!?」


「澪の発明品……? じゃねーな。それらしいものも見当たらない。じゃあ、なんだよ?」


「いやー、これホントに種も仕掛けも無いんだよ。超素能力は使ったけど」


「は!?」

「え!?」


 〈可能性現滅〉にて『水筒をこの場に持ってくる』という可能性を顕現。そして、その顕現した水筒(空間)から水を流したというわけだ。

あの指の輪っかは、『水筒の出口』をしっかりイメージさせる必要があったのでさせただけだ。

コップは、『流れ出る水を受け止めるコップを持ってくる』という可能性を顕現した。無駄に疲れるけど、どこでも水が飲めるようになるマジックだ。


「いやずりいよ! 能力アリとかさぁ!」


「そうだそうだ! 見破れないじゃあ~りませんか! ふざけるなこんちくしょうめ!」


「え、じゃあ普通のマジックが見たいか? トランプの」


「見たい!」

「見る」


 まずは束を上からバララララ……と指で弾く。

「好きなところで止めてください」「STOP!」

そこでピタリと止め、そこから上の束を左手に、下の束を右手に持ち、タン、タンとカードを揃える。

 そして、左手の束から一番上のカードを渡し、カードを覚えてもらう。「覚えましたか?」「覚えた!」

 そのカードを一番上に置いてもらい、「じゃあこれを真ん中あたりに動かしましょうかね」と言い、束の半分ほどをとり、上の束の一番上のカードをスライドさせ()()()()()()ながら下の束に移動させる。

 そしてそのまま束を一つにする。


「よし、じゃあ、お前の引いたカードを当てようか」


「何だと思う!?」


「指を鳴らせば分かる。3・2・1……」


 パチン! という音を鳴らすと、束の一番上からカードが飛んできた。

そのカードはハートのK。さて、


「どうだ?」


「あ、合ってる……なんで!? さっき山札の真ん中に入れたよね!?」


「つーか、どうやって飛ばしてきたんだ……?」


「別に難しいことはしてないぞ? えっと……」


 それから軽くマジックの解説をした。

一番上のカードを真ん中に入れた時、実際には、上の束の一番下のカードを取り出したのだ。

あとは、カードが飛んだやつだが、専門用語で『トップショット』という。これはぜひググってくれ。


「ゆ、悠がマジック出来るとは……。お前すげえな」


「これでマジック見放題じゃん! いぇあ!」


「そこまで種類はないぞ。トランプとコインくらいだな。ああ、あとはペンとか」


「十分じゃねえかよ。ったく、器用はいいな」


「私もしたい~! 教えて!」


「時間が空いたらな」


「今教えろぉ!」


 その後、小柳が簡単なマジックを覚えるまで開放されなかった。


……必要時間、六時間……





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