第二話
「ぜ、零から? 新しく、文明をやり直すってこと?」
「もちろん、今この世界にある物資を有効活用してな。逃げ続けるってのも俺の性に合わない。それに、一生鬼ごっこも嫌だろ? だったら、安心して暮らせる場所を作った方が早いってわけだ」
「へえ……面白そう。だけど、そんなこと私たちにできるの?」
「多分無理」
「だめなんかい」
そりゃあ二人だけであいつらの猛攻に耐えられるだけの国は作れんわな。
城壁、食料問題、自衛方法。全部ない。
……仲間か。探すか~
いや、食料はある程度あるし、建国の準備を始めるか……?
よし。
「決めた」
「?」
「あいつらを呼ぼう」
「あいつら?」
…………
「よっ、久しぶりだな。海翔、小柳、稲盛。無茶言ってすまん」
「いやいや、いいって。俺たちも三人集まってたしな。これからどうするか話し合ってたところに、お前からの誘いがあったからさ。ちょうどよかった」
「お前、化け物たちが歩いてる世界で、徒歩三十分の距離を歩かせんなよ。めちゃくちゃ怖かったわ」
「そうだそうだ。堕者に殴りかかるこやっちを止めてた俺達の気持ちにもなれよな」
「は? こいつ、殴りかかりに行ってたのかよ? マジか」
「行ってないわ! そんな血に飢えたやつみたいな扱いすんなぁ! ガルルルルル!」
「飢えてるじゃねえか」
相変わらず変わってないな。仲がよさそうで何より。
中学の頃同じクラスで、特に仲が良かった三人だ。まあ、もう一人いるんだけど、そいつとは今連絡が取れなかったからこの三人を呼んだ。
竜前 海翔 当時肩書がとても多かった完璧野郎。生徒会長・陸上部部長・成績表オール5・元学級委員……数えたらきりがない。小柳のことを「こやっち」と呼んでいる。
稲盛 大輔 筋トレ部として有名だった水泳部の副部長だ。クラスではいつもツッコみ役に回っていた。特に言うようなことは無く、強いて言うなら頭が……頭が悪かった。何気に歌が上手い。
小柳 明日香 常時狂っているクレイジー少女で、竜前と一緒に学級委員をしていた。稲盛の対になる、ボケ担当。なんだかんだ周りに気を配れる優しいところもある。
「それで、何のために俺たちを呼んだんだ? お前のことだから、顔が見たくて呼んだとかじゃないんだろ?」
「ああ、俺達で、新しい国を作ろうと思ってな。国? 基地? まあ、そんなとこ」
竜前「は?」
稲盛「ん?」
小柳「え?」
「そうそう。悠が、零からやり直そうって言ってさ。私たち二人じゃ無理だよね、ってなった時に、三人の顔が思い浮かんだの」
竜前「国? 楽しそうじゃねーか! 任せろ!」
稲盛「国ぃ? 無理だろ~俺達だけだったら。俺らまだ子供だし」
小柳「自分たちの国!? めっちゃかっこいいやんけ! やるやる!」
反応は三者三様だった。
乗り気の海翔、日和る稲盛、いつも通りの小柳。性格がよく表れてる。
だが、このメンツならば行けると思う。
「別に嫌なら嫌でもいい。泥棒生活を始めるだけだからな。だが、このまま逃げ続けるのはなんだか癪だし、迎え撃つための『国』を作ろうと思っただけだからな」
「別に私は泥棒生活でもいいけど、悠と同じ意見かな。死ぬまで怯え続けるって言うのは嫌だし」
「そうか……俺は手伝うわ。まあ、暇だし、どうせなら面白いことしたいじゃん?」
「あー、じゃあ、海翔が手伝うんなら俺もやろうかな。やることも無いし。小柳は?」
「やるぅ! 主に戦闘するぅ!」
「いやお前ら……本当にいいのか? 自分で言うのもなんだけど、将来性は大してないぞ? 迎え撃つってことは、命の危険もあるし、危ないしな」
「将来性も何も、俺も面白そうだからやるだけだしな。ま、不謹慎っちゃあ不謹慎だが、お前、今の世界と似たようなゲームしてるだろ? だから大丈夫だ」
「俺達、オセロとか将棋、チェスで勝てたことないしな~。お前、そういう方向で頭良いし」
「ね、皆もこう言ってるし、やろう? 国造り!」
「……もう一度聞く。命の危険もある。他の国からも襲われるかもしれない。それでもいいのか?」
「「「「もちろん!」」」」
……みんな賛成してくれるとはな。ったく。ほんといいやつらなんだからよ。
「分かった。やろう。俺たちの国造りだ」
…………
「よし。ここら辺でいいか。ここを俺たちの仮拠点にしよう。つっても一時的に身を隠すためのものだが」
「結構狭いね。でも、一定の設備は揃ってるから生活はできるか」
「だけど、長居していれば堕者に嗅ぎつけられる。急いで色々準備しなきゃな。んー、悠、まずはどうする?」
「そうだな……まずは、基地の防壁を準備したいから……あいつらに壊されないための素材が必要だな……誰かそんな素材知ってる奴いる?」
「私知らない……ゲームで出て来る黒曜石も、実際は水と溶岩だけで作れないし……」
「俺もあんま聞いたことねーな……コンクリとか鉄とかじゃあ破壊されるしな」
「俺も知らね。ダイヤモンドとかは材料費が高いし」
「あ、私知ってるかもしんね」
「「「「!?」」」」
「えっと、たしかね……『消すヘリウム』って言ったっけな。確かそんな名前のやつ」
「消すヘリウム……? ……メステリウム?」
「そう! それ!」
「いや全く違うじゃねーか!」
ここで小柳からまさかの言葉が。そうだ、腐死者騒ぎで忘れていた。つい最近発見された最新の合成素材(合金?)。異常な硬度を持つため、防災施設の建設に使うという話が出ているところだったそうだ。
ただ残念なことに、この話し合いが終わる前に腐死者騒ぎが始まってしまったため、それ以上の進展はなかったが……
この素材に関しての研究は殆ど終わっているはずだ。そして、その研究成果は全世界に共有されているはず……ならば。
「ここから一番近い研究所っつったら……あれだな。日本最大の研究所。『WWS』か」
「そうだね。近くて大きいとこって言ったらあそこだね。え、今から行くの? 早くない?」
「いや、善は急げって言うし、それにここがいつあいつらに落とされてもおかしくない。だったら、さっさと行動を起こすのが一番だ。ついでにいろんな情報を持ち帰れたらいいんだがな」
「そうか……全員で行くのか? それとも、少数精鋭か?」
「ああ。何人かはここに残ってもらう。人が多かったらそれだけでリスクが増えるってのと、普通にここの点検をしてもらいたい。一番心配なのはトイレとか風呂だな。あとは、ベッドとか、作れるものはつくてもらえるとありがたい」
「分かった。それで、誰が残ればいいの?」
「んー、そうだな。本音を言うと海翔に残ってもらって色々作ってもらいたかったけど、研究所組に動けるやつが必要だからダメか。んー、沙紀、小柳、稲盛で残ってくれ」
「おい待てコラ。なんで俺も残る側なんだよ。しかも女子二人と」
「そういう役回りはお前だろ」
「そーだそーだ稲盛ぃ~。お前の役だろうがぁ~!」
「おいこらお前ら、ぶっ飛ばすぞ」
「「かかってこいや」」
ふっ、中学の時から女子と一緒にいるのは稲盛だろうが。
まあ、それはいいとして。
「海翔、行くか。じゃあな、行ってきます」
「おう。じゃ、行ってくるわ」
「「「いってらー」」」
…………
「で、実際『WWS』は何処にあるんだ? 地図とか持ってないし、方向も分からないぞ?」
「ふっふっふ……この悠様に任せなさい!」
そういい、左手を掲げる。そこには、美しい腕時計が!
「てってれー、超超高性能腕時計~」
「語呂悪くねーか?」
「やかましい。これの機能の一つに、マップ機能があるんだよ。だから、どこら辺にあるかは分かる」
「おお~。かっこいい~」
端末をガチャッ、ガチャッと動かし、Ⅻの文字がⅢの位置に来るように合わせる。こうすることで、モードが『MAP』に切り替わり……
フオン……
「うおっ! なんか出てきたぞ!?」
「ホログラムで空中に投影してるんだ。3Dだな。おもしろいだろ」
「めっちゃ面白いじゃん! うへえ~実際にホログラムとか見るのは初めてだわー」
「だろ~。んで、マップによると、ここから東に一キロほど行ったところだな。でかいからよく目立つ……と思ったが、もう倒壊してるか」
「まっ、一キロくらいなら俺達ならすぐだろ」
「だな。まあ、道中堕者共に絡まれなければだが……」
「そうか~、あいつらもいるんだったな~。やっぱりステルスしながらだから遅くなるか」
「まあ、確実に行こうぜ。命より大切なものはないからな」
「だな」
というわけで確実に一歩一歩進んで行った。
歩いていると、様々な種類の堕者達がいた。
さっき逃げ切った、ハンマーを持ったデブ。直剣を持った普通のやつ。斧、銃を持ってる奴もいた。
……なぜだ?
「なぜ堕者達が武器を持っているんだ……?」
それも、とてもメカメカしいものを。
日本刀や西洋の剣みたいに単調なものではなく、いくつも管が繋がっていたり、サイズが普通の人間が持てるものではなかったり。なんなんだ、あれ。
そうしてだいぶ進み、工場みたいなのが散らばっているところへ着いた。
色々なところに工場があり、障害物の多いところだ。
「さて、問題はあいつだな。海翔」
「どうみても他のとは違うよな~。蒼く光った角……角? があるし」
「いわゆる変異体……突然変異した一種だな」
「いかにもやばそうだなー。こええな……」
「そんなこと言ってられねえ。研究所に行かなきゃいけないからな」
「しゃあねえな」
「こっえ~……」と呟きつつも、伸脚を始める海翔。やる気は満々のようだ。
「ふー……さーて、行くぜ?」
「……Are you ready?」
……
「「Go!」」
互いに示し合わせたように二方向に分かれる俺達。どっちにも注意が向かなければいいんだが……
という俺の願いは届かず、こちらに注意が向いた。
「オオオオッ!!!」
「こっちかよ! チクショウ! ッ、海翔! お前は先に行っとけ! このまま真っ直ぐ行ったら看板みたいなのが見えるはずだ!」
「分かった! また後で会おうぜ!」
……こんなこと言うのは死亡フラグになるかもしれんな。
だが、死ぬわけにはいかない。
「さあ……攻略させてもらうぞ!」
そうして俺は、蒼い角の生えた堕者と相対することになった。
第一章の間は腐死者、堕者等にルビを振ります。鬱陶しいと思われるかもしれませんが、よろしくお願いします。
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