第十六話
時は戻り、悠達が出発した後
【海翔サイド】
「さて……行ったか。いい結果を期待するよな~」
「我らが王の話術と預言者の行動によるよね! は~、こわこわ!」
「じゃっ、怒られないように仕事に戻りますかぁ」
「「「「は~い」」」」
俺は城壁に上り、外周を周る。これはメンテナンスだ。劣化しないが、堕者たちがつけた傷で壊れたら一般市民が皆殺しにされる。
だから、これも立派な仕事だ。
全体を駆け抜け、ざっと見回る。よし、傷はねえな。
次の仕事はなんだっけな~? と考えていると、ガリガリガリッ! という不快な音がした。黒板を爪で引っかくような。あんな感じだ。
「あ? なんだ……?」
ドォンッ!
音のした方に目を向ける。
チッ。あいつは……
俺は意識を耳元のイヤホンに向ける。悠と澪以外の四人に向けて発信する。
『緊急指令。緊急指令。六皇全員戦闘準備!』
『どうしたの!? 何かあった!?』
『えー、もしかして堕者来た? だっりぃな』
『稲盛ぃ。そんなこと言うなよ~。俺もデラメラでボウリングするからよぉ』
『久しぶりに暴れれる……! 血が滾るぜぇ! うぇっふぇっふぇ』
『まあ、ミスクレイジーは置いといて、今南門に約五十匹の堕者が、北門に約七十匹の堕者が集まってる。東西にも結構集まってるっぽいぞ。警報装置も反応してるし、南は肉眼で確認した』
『なるほど……あー、じゃあ、沙紀ちゃんと私で北門行くよ? いつか言ってた“無敵の破壊神大作戦☆”の出番だよ!』
『了解。じゃあ、俺が南行かせてもらう。亮太と稲盛はどうすんだ?』
『仕方ないな……俺が西行くわ。近いし』
『じゃっ、俺が東な! 任されたし! ハッハッハ!』
さてさて。悠と澪がいなくても国が守れるってのを証明しねーとな。
…………
グルルルルル……
グワハハハァ……
「勢ぞろいじゃねえかよ。直剣持ちにハンマー持ちに、銃持ちに……厄介ったらありゃしねえ」
首をパキッ、パキッと鳴らし、伸脚を始める。背中側の腰につけているガレルを取り出す。
……こういう短剣だったら二つあった方が便利じゃね? というか太くね? ガレルって。
まあ、いいか。
「さあ、行くぜ」
〈俊足〉を発動し、堕者の大群へ突っ込む。手前のやつから順々に切り裂いていく。戦闘技術などなくても、その身体能力と超素能力で乗り切れる。
しかし、あまりに奥深くまで踏み込めば囲まれてしまう。悠や紅月さんのように回数制限のある武器ではないが、それでもキツい。
なので、集団の手前側。こちらに面している奴らだけを相手する。
背後に迫った剣を半身になることで間一髪回避すると、ハンマーを振り下ろす堕者を視界に捉えた。
〈ゲイル〉にて風と共に離脱。ハンマーを回避した。
だが、その風ごと射貫かんとする矢が迫ってきたので、〈ゲイル〉を解除。ガレルにて弾き返す。
右から迫ってきた直剣持ちを蹴りにより後退させると、その反動で大群から離脱した。
「チッ、埒が明かねえな……確かに全部倒せるだろうが、時間がかかる。ったく、こんな数どこから連れて来るんだよ……」
仕方ない。そう呟き、俺は〈イフェット〉を発動。
重ねて、〈俊足〉も再発動。それにより、〈イフェット〉の循環機構が起動。無限に加速し、無限に走る。
すでに目で追えていない腐死者から順に倒し、まだ視えているやつはさらに加速することで対処。さらに、〈ゲイル〉にて風と同化。音速に肉薄している俺だ。一瞬でも風と同化してしまえば、目で追うのは不可能。
誰一人として俺を認識できなくなったので、全員を順に切り裂いていく。
ジグザグに駆け抜けた海翔の背後には、大量のエレクテレスが転がっていた。
【沙紀サイド】
「うっわ~。めっちゃいるじゃん! こんなにいるのって、あのスーパーぶりじゃない!?」
「確かに。あの時はホントにピンチだったからね……悠なんか噛まれたみたいだし」
「ほんとびっくりしたわー。ってか、噛まれても大丈夫な悠ってなんなの?」
「澪ちゃんが勝手に血液検査して調べてるらしいよ」
「……わ、私、聞かなかったことにする」
呑気な会話を繰り広げている、見かけだけはか弱い女子二人。
その実、頭のオカシイやつと、破壊神。
「さ! 行こう!」
「あいあいさ~!」
〈身体強化〉をし、大群に肉薄する沙紀。プルヴェイズの横薙ぎ(ラヴェージ付き)により数多の堕者を吹き飛ばす。
しかし、彼女は身体能力を強化しているだけで、反応速度等は上がっていない。そのため、回り込んできた速度重視の堕者が剣を振りかぶるが反応できない。
そこを、遅れて到着した小柳が槍にて受け止め、跳び箱の要領で飛び越える。ふらついた堕者へ沙紀の振り返りざまの一撃が辺り、消失する。
いくら〈最終殲滅時間〉×〈プロンプトリー〉といえど、この数は全て対応できない。なので、ある程度減らしておく必要がある。
力の沙紀と、手数の小柳。互いの短所をかばいあう。
「あんよいしょー! どっせぇい!」
「明日香ちゃぁん……ちょっと声のボリューム下げようねぇ!」ドゴォンッ!!
「だって全部そっちのドゴォン! で掻き消えるんだよぉ!」
「すいませんでしたね!」ドゴゴゴゴォンッ!!
「フルコンボ!」
「うるさい!」
互いに背後を預け、時には正面を任せ、確実に倒していった。しかし、まだ敵は多い。
よし。
「明日香ちゃん。やろう」
「おっ、やっちゃう? やっちゃうぅ!?」
「あっ、うん。やっちゃう」
「いっくぜぇ! 〈プロンプトリー〉!」
十秒間の無敵が始まる。そして、こちらも。
「〈最終殲滅時間〉!」
五秒間、最強の力が私を祝福する。
全てを消滅させる力がプルヴェイズに宿る。
さあ、暴虐の時間を始めるよ。
……数秒後、メキィ、や、シュウゥ、という音と共にすべての堕者がエレクテレスと化したのは言うまでもない。
【稲盛サイド】
「西門を任された身だ……しっかり守るに限るよなぁ!」
澪と共に改良した対堕者専用銃バレッサ。弾丸に稲盛の〈デッドリー〉による猛毒を圧縮・形成したものを使用し、発射の火薬は使用者のエネルギーに重ね、日々貯め続けたエネルギーを使うことで大量の体力消費を無くすことに成功。貯めることにより、武器の弱点、連続攻撃回数三回を破ることができた。
ちなみに、貯めたエネルギーはマガジンに、弾丸はバレルに直接装填という意味の分からない仕組みで対応した。(マガジンに火薬は来ないって? おだまり)
通常の拳銃よりも大きく、少し丸いバレッサだが、最初に堕者と相対したときよりも毒が洗練され、改良もされた。これにより―――
ドンッ! ドンッ!
「……? ア゛、ァ?」
「大体二撃で倒せるようになったわけだ。いやー、さすが澪さん。性能超アップ」
弓でもないものに遠距離から倒された堕者。それを周りで見ていた堕者達もまた、戦慄する。しかし、怯えはしない。
勇猛果敢に突進してきた数体の堕者達を十発ほどの弾丸で倒すと、横に広がっている堕者たちを眺め、バレッサを斜め左に向ける。
そこから、右へ振り抜く。その間撃たれた弾丸は三十発。とてつもない早撃ちだ。
毒による再装填、エネルギーを送るスパン。一連の動きが洗練されていた。
「なんせ、この動きのためだけに部屋をめちゃくちゃにしてまで練習したんだからな……」
後から聞いた悠は、「お前アホだな」と罵ってきた。やかましい。
「ん~……結構疲れて来たな……もう終わらせるか。来たれ毒竜! その禍々しき滅紫の肉体にて、全てを滅ぼさん! 〈毒竜顕現〉!」
もちろん、謎の詠唱は要らない。堕者達でさえ「なんだこいつ?」みたいな目で見ているが、稲盛は気にしない。いや、気にしたらお終いだ。
召喚者はともかく、虚空から出てきた毒竜は、地を這うように低空飛行し、残っていた全ての堕者を滅ぼしてしまった。跡形もなく融解してしまったので、そこにエレクテレスは残らない。最初にバレッサでちまちま削っていたのはそのためだ。
閑散とした荒野で、未だに毒竜が空を舞っていた。
【小坂田サイド】
「十、二十……あれ? 五十近くいるじゃん。うわー、やっぱ他にも誰か欲しかったかも。今からでも東門にヘルプ呼ぼうかな?」
直剣、曲剣、短剣、弓、ハンマー、銃、数多の武器が選べる中、俺が選んだのはただのエレクテレスの塊。それも、武器と化したものだ。半破壊物質となっている、十トンを超える重り。
なんでも持ち上げることのできる俺以外に扱うことのできない、最強のボウリング球だ。
いくら腐死者堕者といえど、結構簡単に潰れる。
「いっくぜぇ~! そぉいっ!」
ゴロゴロと転がっていくデラメラ。ただの鉄球では傷一つ付かないと慢心した……かどうかは知らないが、思いっきり喰らった堕者たちは皆平等に潰れ、もしくは吹き飛んだ。
〈レスタリア〉発動により、デラメラの通った後を通り、追いつく。受け止めると、さらにゴロゴロ。勿論城壁にぶつけるわけにはいかないので、細心の注意を払っている。
何回目かのゴロゴロをしていると、さすがの堕者達も避けるようになる。そのくらいは学ぶのだ。しかし、まだ終わらない。
「〈ディメンション〉でアレを取り出して……〈危険物注意〉!」
手元に爆弾(対堕者ver)を転移。即座に起爆する。通常ならば、ここで爆発する。しかし、爆ぜない。なぜならば、亮太の超素能力〈危険物注意〉は“どれほど危険な物でも安全に持ち運べるから”だ。
起爆済みの爆弾でもこの手にある限り、爆ぜることは無い。
まあ、手を離れた瞬間に爆発するのだが。
「さらに~。これ!」
用意したのは、数秒だけ飛べるジェットパック。澪の失敗作だが、使えると思い〈ディメンション〉に入れておいたのだ。
それを使い、上空五メートルへ上昇。そこから、先ほどの爆弾を思いっきり地上へ叩きつけた。
起爆済みだった爆弾は手を離れた瞬間に爆破。大群のど真ん中、空中で爆ぜた。そのまま霧払いされた地へ飛び降り、今度はデラメラに鎖をつける。二、三回しか振りまわせないが十分だ。(デラメラが重すぎて)
ブゥンッ! という音を鳴らし空気を切り裂く鉄球。触れた腐死者は消し飛び、堕者は吹き飛ぶ。
「オラオラオラァ! ふっとべぇ!」
そうやって暴れている亮太の背後に、幾つもの黒い矢が殺到した。堕者の物だと悟った亮太は、回避不能と判断し、背後に〈ディメンション〉を展開。全ての矢は異空間に吸い込まれた。
「お返しだぁ! 喰らえ!」
逆に時空の穴を展開。その中から、先ほどの黒い矢が同速度で放たれた。先ほど矢を放った堕者達は自らの矢によって倒れた。
さらにデラメラを振り回す亮太。三回ほど振り回すと鎖が千切れるため、新たに引っ付ける。
それを繰り返し、数多の堕者達を駆逐する。
小さな嵐が通り過ぎた後、地は抉れ、エレクテレスの山が積み重なっていた。
…………
「……みんな、お疲れ!」
「「「「おつかれー!」」」」
「いや~、きちんと防衛出来て良かったな! 悠にブチ切れられなくて済んだし!」
「ま、今回の堕者達は弱かったけどな。いつもはこんなに早く終わらねーし。でも、十分だろ。あの数を無傷で終わらせたんだから」
「数か月前からじゃあ、想像もつかないよね~! 一対一でも危うかったのに、今は多対一でも勝てるんだよ!? 強くなったよね~」
「澪ちゃん曰く、『ん、血成で解放された力に慣れてきたんだと思う。飲みたてよりも強くなってるはず』だって! つまり、本来の力のさらに限界ってことだよ! かっこよくない!?」
「うおおおおお! かっけぇっす! 限界を超えた力……ロマンやんけ!」
「小柳ィ……限界は超えてないぞ。あくまで限界の限界を引き出しただけd『フン!』あっぶな!? おいこらぁ!」
「いや~、手が滑っちゃった! アッハッハ! ごめんごめんw」
「ぶっ飛ばすぞテメエ」
まだ悠達は帰ってきていないが、祝勝会的なものを始めた。防衛は何回もしているが、この規模は初だからな。
さっき、悠から、『もうそろそろ帰る』という連絡があった。
しかし、その声色は喜色を隠せないようで……
「さて、もうそろそろだな」
「あー、悠達が帰って来るんだっけ? これは私たちの功績も自慢しないとね!」
「国防衛自慢! ひゃっほーい!」
「へえ、この国を守ってくれたのか。さっすが」
「ん、わざわざ連絡もしないで、こっちに集中させてくれた。ありがと」
「「「「「エッ!?」」」」」
背後に現れたのはこの国の王、悠と、超天才研究者、澪だった。
…………
「さて、みんなお疲れ! ありがとな、この国を守ってくれて。すげえじゃん。こちら側に一切の被害を出さずに一方的に殲滅してさ」
「ん、堕者達も強くなっているのに、よく頑張った。みんなすごい」
「ふっふ~ん! でしょ! もっと褒めて!」
「お、おう……すごいすごい」
「適当にあしらうな!」
シャーと威嚇する沙紀を無視し、みんなに建国申請が受理されたことを報告する。
「「「「「いよっしゃ~ッ!!!!!!」」」」」
みな、ここ数か月の努力が報われたことでとても喜ぶ。一部超素能力を発動させて。
そりゃそうだ。寝不足になりながら他国に提出する資料作成に時間を割いていたからな! 六皇も俺も全員頑張ったわ。
原初の国民達にも頑張ってもらったしな。
…………
マイクを左手に、生茶を右手に持ち、大きく掲げた。
もちろん、
「それじゃ、建国達成記念にィ……乾杯!!」
「「「「「「かんぱぁ~い!」」」」」」
質素倹約を続けていたリレイス初の祭り。限られた資源だが、最大限騒ぐ。
それが祭りってもんだろ!
今日は騒ぐ! 決めた!
その日、リレイスでは深夜まで大騒ぎだった。どんちゃん騒ぎだ。
……まあ、俺達は音を聞きつけて寄ってきた堕者達の対応に負われたんだけどな……
無双回でした。




