第十四話
「物を盗ろうとするとは、どういう了見だ?」
「……ト、トイレに行くといっていたはずです。つけて来たのですか?」
「超素能力について聞いたんだろう? 俺の能力に、【指定した全空間を認知する】ってのがあるんだ。そして、このリレイス内ではこの力が完全に働いている。お前が何をしていたかはよく分かる」
「……どうやって先に入ったんですか? 鍵はかかっていたというのに」
「眼球認証とパスワードで入って、内側から再度機能を展開した。内側からの操作だってできるんだよ」
「……完敗です。開けたのもわざとだったですね」
「あのままやってたら一年かかっても出来てねえよ。我らが天才科学者の力を嘗めるなよ」
『ふふん♪』
「まあ、不安感から犯罪の道に走るのも分かる。信頼感がないもんな。だからこそ、だ。これからこの国で暮らしてもらって、ダメだと思ったらそのままアーザレイルに行ってもいい。道中の安全は守るからな。自分で判断してくれ」
「……罰は無いのですか? 盗みを働こうとしたのですよ?」
「あいにく、今のリレイスには憲法が無いからな。罰そうにも罰せないだろ。それに、未遂だ。ギリギリ見逃せる」
「……高校生だと侮っていましたけど、やはり、“王”ということですか。分かりました。訓練場へ戻ります」
「おう。四人には黙っておこうか? 創設組の六人には言うが」
「四人には私自ら全て吐きます。ありがとうございました」
……まっ、よかったよかった。どこにも被害が無くて。
それに、さっきの罪と罰の話は本当だ。今現在、この国には秩序がない。最低限のルールとモラル程度しかないのだ。
……ああ、国として認められるには必要だったな……作らないと……めんどくせえ。
は~あ、安全の代わりに悩みが尽きぬ。
働かなきゃな~。あ゛~あ。
……数か月後……
あの対面式の後、家を見せ、それぞれの家を決定。内装を弄り、暮らしやすいよう、使いやすいようにした。
本当にここ最近は激動の数か月だった。
まず、澪の発明、『醸造専用機械エラル』を『自動醸造機械エラル』へと改良。材料を投入すると自動で稲盛と同じポーションを量産できるようになった。
これにより、アーザレイルとの取引が簡単にできるようになった。あの後、本当に大量の堕者が集まったアーザレイルにて、大規模な戦闘が開始。稲盛のポーションが重要視された。
開発中の澪は鬼気迫るものがあった。いつも、
『ここのα波の照射が長い……? いや、でも青酸カリを混ぜてる分、このくらいじゃないと……』
『違う、違う違う違う! ああもう! 違う!』
とブツブツ言ったり、叫んだりしていた。
それに、岩城さんの協力もあり、田畑が完成。シーレンスで澄んだ空気の中、汗水たらして働くのは楽しいな。
そして、完成した田畑にコルピアを起動。翌日には稲が刈り取れるわけだ。
デザートは欲しかったが、如何せん種も苗も持っていない。食えるのは米と魚だけだな。
あとは、遺伝子確立組で国民を探しに行くのも忘れていない。流石に十二は少なすぎる。というわけで、少し遠出してまで探し出した。
数か月で、俺たちは千を超えた。めっちゃ探し出したぞ。気合で。
〈絶対空間認知〉は強かった。どこにいても分かるし、ほとんど、いや、一切疲れない。便利だわ。
役所のようなものも設置、病院も設置、学校はさすがにまだだけど……
必要最低限の施設は揃えた。それも、メステリウムで建造。
各家々の素材はいまだコンクリや木や石だ。大工さんがいて助かった。
そして、アーザレイルのように、『六皇』(俺は王という立場があるからカウントしない)と呼ばれる議会を作り、創設組で話し合う場を作っている。
ひとまず、国として機能するようにはなった。これで、ようやく―――
「WRUGに建国を申請できる」
「え? もうしてるじゃん。どういうこと?」
「うぉ~い沙紀ぃ、前も言ったぞ。一定の条件を満たしてからじゃないと国として認められない。だから、これからWRUGに『条件揃ったよ~。国として認めてね♡』って言えるんだ」
「あっ、言ってたね。ごめんごめん」
俺は、創設組六人をベースのリビングに集め、会議を開いていた。
自国についてを見直し、これからについてを決めるためだ。
あれから数か月経ち、皆ただの高校二年生から、重鎮へとなっていた。
俺は、“王”として他国(アーザレイルだけだが)との交流。そして、エレクテレスを集めるために様々な場所を巡り、狩りをしている。それにより、明らかに堕者達が強くなっていることも判明。何回も死にかけた。胸元をズバアッと切り裂かれたり、背後からハンマーを叩きつけられたり、銃をぶっ放されたり。何度も瀕死の重傷を負い、何度もポーションと小柳の治癒に救われている。
沙紀は、エレクテレス収集専門として常に出回っている。彼女のおかげで澪の研究も滞りなく進み、建造物も増えている。俺が出向くときも、一緒に行くことが多い。不定期だが、城壁に堕者の群れが来る。その制圧に六人が向かうのだが、女子組で国民からの人気トップなのが沙紀だ。ハンマー片手に突進。ぐるぐる振り回し、殲滅。その姿に憧れをいだく女子も多いとか。
澪は、研究者、発明家としてリレイスを救っている。新たな発明はまだしていないが、超素能力の研究、血成の研究を進めていた。そして、意外だったのが、猫が好きだという。クールだけど可愛い一面もあるというギャップにやられる男性は多いそうだ。白衣を纏い、顕微鏡と精密機械と共に過ごす彼女だが、戦闘となると空気が変わる。エリエルを巧みに使い、視た未来をことごとく潰す澪。女性のファンも増えた。
海翔は、様々な分野の手伝いをしている。数多の才能を持つ海翔だ。どの分野でも引っ張りだこ。研究に関しては、澪のじっけんた……協力者として犠牲になっている。エレクテレスを収集するにもあいつの速さは必要だし、食料の収穫にも人では必要だ。足が軽い海翔はすごく役に立っている。時々俺と模擬戦のようなものをし、鍛錬を欠かさないようにしている。
小柳は、病院の院長として数多の怪我人を治している。しかし、六皇としての仕事もあるため、長時間病院の仕事はできない。そこは、最初の国民の一人である恵奈さんが婦長として病院を引っ張っている。驚いたのが、彼女は小柳に強い憧れを抱いているようだ。たくさんの怪我人を治し、病気の人も〈リカバリー〉をかけた状態でピーーしてピーーーした後に、ピーーーーーーーーーーー……をすることで治している小柳に。彼女は、我を通す小柳を尊敬しているようだ。
稲盛は、新種のポーションを開発、自身の〈毒竜顕現〉の力で堕者達を融解し、リレイスの防衛に努めている。あいつのポーションは、ものすごく薄められることで、風邪薬として使われることがある。なお、原液をそのまま接種したら急性ポーション中毒で死ぬ。あっ、俺たちは遺伝子確立をしているから大丈夫だぞ。
亮太は、周辺を探査し、使えるものを探している。特に半導体系統は今の俺達じゃあ作る技術が無いので、だいぶ重宝する。アーザレイルとの関わりも、亮太と俺で担当している。そろそろ他の国とも貿易を始めるかー、となっていたのだが、アーザレイルと条約を結ばね? という話に持って行かれた。それも一考の余地ありだ。
ああ、本当にやることが多い。しかし、やることは決まっている。
まずは、リレイスが国だと全世界に発信するのだ。
そのために、WRUG日本支部に行かねばならない。警視庁にもあるはずだ。
ちなみに、国を拡張している時にその支部と場所が被ったら、支部が別の場所に移転することになる。結局、大切なのは国で、WRUGは全てをサポートするための組織だからな。
「よし、意外と近いから、パッパと行ってくるか。誰が一緒に来る?」
「「「「「「俺(私)が行く」」」」」」
「全員!?」
まさか全員に言われるとは思わなかった。地味に嬉しい。
だが、さすがに全員で行くと国を開けることになる。制圧されるのが怖い。なので、ある程度の人数を防衛に割く必要がある。
その理論でいけば……
「対人間、それに集団殲滅ができる稲盛と、沙紀&小柳で『無敵の破壊神大作戦☆』。亮太は、集団戦闘のサポートをしてくれ。デラメラでボーリングをしてもいい。それと……海翔は、どっちがいい?」
「ん? 俺? ……まあ、せっかく築き上げてきた俺たちの国を他のやつらに制圧されるのは気に喰わないな。よし、残る」
「了解。てことは……行けるのは、俺と……」
「ん、私。研究も一段落着いたし、今は作るものはない。だから行ける」
「二人か……まあ、俺と澪なら大抵の戦いはできるな。よし。さっきの役割でいいな?」
「「「「「「了解!」」」」」」
「じゃ、解散!」
さて、まずは澪と会議か……
ベース内の廊下を澪と共に歩き、彼女の部屋に行く。俺の部屋よりも広いからだ。研究機材や資料が溢れかえるので、彼女の部屋だけ広くしたのだ。
さて……
悠(……女子と二人きりか……澪が俺のことをどう思ってるかは分かんねえけど、嫌だろうな……)
澪(んんん……悠と二人きり……! それも、デート! これは、頑張るしかない……!)
妙に燃えている澪を尻目に、思案する。
(服装、どうしよう。今んとこ俺たちは二、三種類しか服を持っていない。なぜなら、ユ〇クロも、自宅も滅んだから)
フォーマルな服とか持っていない。俺が持っているのは黒いパーカーとか、ジーパンとか。まあ、要するに私服だ。
今の科学の進んだ世界では、夏服も冬服も全て長袖だ。なぜなら、そちらの方が体温管理が完璧にできるから。そういう服があるからだ。数百年前の、夏は半袖、冬は長袖というのが理解できない。
まあ、それは置いといて。そういう服を持っていないのだ。皆さんの中に服を作れる人はいない。残念なことに、そういう系統の仕事をしていた人がいないのだ。
ちょっと澪に相談。
「なー、澪」
「……WRUGの支部へ行くルートはだいたい五十通り。その中で、美しい景観があるルートは……いや、もう荒廃している……?」
「おーい? 澪?」
「いや、“永遠桜”なら……」
「もっしもーし!」
「!? なに?」
「いや、服装について話し合おうと思ったんだが……フォーマルな服なんか持ってねえじゃん? どうするんだ? さすがにこの服は……威厳が無くないか?」
「……前、金霧さんと話したことがある」
「なんて?」
「『あんたら装備はそれでええんか? 一撃喰らっただけで瀕死に持ってかれるのに、防御力は求めへんの?』って」
「なるほどな……でも、宇宙服みたいなのを着るわけにはいか無いし、軍人みたいなものもな……(というか、澪の関西京都混合弁可愛い……)」
「ん、それなら、アレが使える」
「アレ?」
その後、彼女はメレルトレトのある部屋―――『作業室』まで連れてきた。莫大なエネルギーを使うが、メステリウムを作るのに活躍してくれている。
久しぶりにゼネライトを起動し、莫大なエネルギーを生成。俺の〈インフィニット〉に引けを取らないエネルギーを生成する。
そのエネルギーにて、メレルトレトを起動。中に少量のエレクテレスを入れ、さらに俺の私服も投入された。フードの付いた黒色の上着と白色の服。
「!? なにやってるんだ!? 俺の服をミンチにする気か!?」
「大丈夫。ちゃんと見て」
めちゃくちゃ焦ったが、澪は端末を操作する。そこには、エレクテレス内容量、俺の服のモデルが出ていた。
いくつかボタンを押しピッ、ピッ、ピッとなった後、いつもならばメステリウムが出て来る場所から、俺の服が出てきた。
いつも通りだ。何の変化も見受けられない。
何をしたんだ? そう思い澪を見ると、大変満足気だ。
「うん。バッチリ。ちょっと着てみて」
「? 分かった」
言われた通り先ほど機械に投入された服に着替える。特に違和感はない。いつも通りだ。これがどうしたってんだ?
「ん、何をしても怒らないで」
「? 何をするつも―――」
キュイインッ!
「!?」
直ちにその場から飛び退き、それを回避しようとする。しかし、未来を読んで……いや、視ていたように放たれたその光の矢は俺に直撃した。そう、澪がエリエルにて俺を撃ったのだ。
通常ならば俺を貫通していてもおかしくない。澪の本気ならばそうだ。しかし、貫通しなかった。
考えられることは二つ。俺の肉体が強くなっているということ。まあ、遺伝子確立及び全能力の解放をした俺達はだいぶ強くなっているのだが、それでも傷一つつかないというのはありえない。となると……
「ん、大成功」
「どういうことだ? まさか、この服にエレクテレスを混ぜたのか?」
「正解。様々な素材を混ぜることで最強の硬さを得る合成素材メステリウム。でも、エレクテレスのままでも十分な硬度と、エネルギー発生ができる。なんなら、メステリウムにしたらエネルギーが生まれないから、エレクテレスの方がいいまである」
「なるほど……どうやって染み込ませたんだ? エレクテレスはその性質上液体にはならないはずだろ?」
「染み込ませたんじゃなくて、織り込んだ。エレクテレスの結晶を、超細い繊維にして、シャツに織り込んだ。これで、とてつもない硬度を出すことに成功。というか、これは私の発想じゃない」
「というと?」
「世界中で私達戦闘組が着るのは、“服”から“装備”になってきた。でも、日常的に着れる服がいい。だったら、私服を改良しよう。となったらしい」
「なるほどな……私服が戦闘服とか正装になるってことか」
「そういうこと」
面白い。防御性能の高い私服か。めっちゃいいじゃん。
六皇のみんなの分も作ってやんないとな。
というわけで全員集合し、お気に入りの私服を持参。それぞれの私服を、澪に“血装”化(さっきのこと)をしてもらい、全員防御力が上がった。
洗濯とかできるの? と沙紀が聞くと、水をドバっとかければ完璧に洗われるらしい。便利な服になったもんだな。
ま、これで全員血装化出来たな。みな自身の仕事に戻り、俺たちも片づけを始める。
さ~て、荷物の準備でもするか~
基本的な装備になります




