第十三話
まぁたやってしまいましたァ! すいませんでしたァ!
「んっと? ここで青酸カリを溶かして……?」
「あ? 次に高アルカリ性の液体を320g投入だと……?」
今俺たちは、澪と稲盛の開発した醸造専用機械、エラルにてポーションを作っていた。
どうやら、毒物、劇物をエレクテレスのエネルギー照射や発酵……何を言ってるのか分からない。
たしかに、誰でも稲盛のポーションを作れるというのはいいんだが……いささか効率が悪すぎる。いずれは自動化されるのだろうか。
まあ、何はともあれ完成した。めっちゃ苦労したが。
そして、それを試験管に移すと、いかにも毒々しい紫色の液体が現れた。
ドポッ、ドプッという音が鳴っているが気にしない。
「まあ、効果はいいかもしれないし……。ひっ、ひとまず飲んでみるな……」
「状態異常無効とはいえ、大丈夫か? 血成を飲む時より覚悟居るだろ」
「んぅ? なんでそんな色に……? 私達の時はちゃんと薄緑になったのに……」
「いただきます……」
口に触れ、喉を通り、胃に入る液体。
その液体は―――
ボゴッ、バキバキッ、ドゴッ
「!? 悠!? 大丈夫!? かっ、体が!」
「ゆ、悠……」
「状態異常無効が状態異常になる薬ってやばくねえか? 最強の劇物じゃねーか」
「っがぁっ、めえっ! ……ハア、ハァハァ……ハ、あ゛あ……命を刈り取る味がしたわ」
首、右肩、左腕あたりが一瞬で膨張し、破裂しそうになった。
一瞬にして味覚を破壊し、あらゆる可能性を滅しても、“状態異常”ではなく“回復”として認識されてしまった。本当に最強の劇物だ。
「……これを人に使ってくれって言うのは、もうそこにあるのは思いやりじゃない。明確な殺意だ」
「「「「それな」」」」
なんだよ、身体苦痛付きの回復薬って。本末転倒じゃんかよ。
あのあと、海翔が覚悟を決めて飲むと、一秒と持たず死んだ。出ていく前、全員にかけた、小柳の〈リカバリー〉が無ければお陀仏していた。カワイソウ。ウン。
「いや~、普通この超素能力はそんなに使うはずじゃなかったんだけどなぁ……」
「『一回だけなら生き返れるよ!』をもう二回使ってるもんな。一回目は稲盛、二回目は海翔」
「あぁ……あれが……死……」
「あっ、初めて死を味わってトラウマになってる。ほんと海翔カワイソウ」
「……海翔、ごめん。私の発明のせい。これから改良を重ねる。本当にごめん」
「……いや、大丈夫だ。ゆっくり頑張ってくれ」
……お通夜みたいな雰囲気だな。マジで。
ウィーン……
っと、三人が帰ってきたか。
「海翔どうしたのぉ!? 私の〈リカバリー〉が反応したんだけど!? 死んだの!?」
「死んだ。自分達で作ったポーション飲んで死んだ。チクショウ」
「とりあえず……もう一回かけとくわ。〈リカバリー〉」
銀色の光が海翔に内包され、一度は死んでもいい祝福を受ける。
あれ? 第三段階をこんなに連発してなんでこんなに余裕なんだ?
すげえなこいつ。
「あっ、生存者なんだけど」
「おう。どうだったんだ?」
「ああ、『生きてる方いらっしゃいませんかー! 返事をしてくれたらうちの国に招待しますよー!』って俺が叫んで、探した」
「いやー、亮太が急に叫び出すからさ~、周辺の堕者が当然襲ってくるわけよ。めっちゃ頑張ったわ」
「はっはっは!」
「「「「「……は?」」」」」
ちょっと待て、非戦闘系超素能力で堕者と戦ったのか!?
確かに小柳は武器、アレストイージ(槍)を持ってるが、それでも戦闘向きの超素能力を持っていないため、一方的にボコられると思ってた。
そういえば、亮太の武器は?
「一対二なら戦えたぞ。まあ、さすがに二対二は無理だけどな」
「ちょっと待て。お前の武器ってなんなんだ? そういえばまだ見てないぞ?」
「ん、私も知らない。あの研究所で三番目に遺伝子確立したはず。ならば、武器の受け取りも早かったはず。何を選んだの?」
「俺の能力を十全に活かせるもの」
そういうと、亮太は〈ディメンション〉を発動。目の前に巨大な球が現れた。
? 〈ディメンション〉って時空の穴みたいなの開けなくても使えるんだったな……。その場に転送みたいな感じで。
そして、転送された球が地面に触れた瞬間、ドシンッ! という音がした。なんて重量だ。
「これが俺の武器。デラメラ」
「でらめらぁ……」
「これは……エレクテレスの塊? ということは……ッ! あれを持って行ったの!?」
「はい。代表に持って行っていいって言われたんで」
「……いつの間にか無くなってたと思ったら、まさかあなたが持って行ってたなんて……」
「はは、おかげで結構な回数命を救われましたよ」
「ちょっと待て、二人で話を進めるな。俺達五人が混乱してるだろ」
知らねえ話が出てきたぞ。代表? っていうと、WWSのトップか。
んで、この球はなんだ? 重いだけ……?
「んーっと、この球は、エレクテレスの集合体だ。武器製造の過程で失敗したものを集めただけなんだけど、重すぎて持ち運べないんだよ。ほれ」
軽くデラメラを持ち上げ、こちらへ投げてきた。
重すぎて持ち運べないを軽々と投げるとは……?
ああ、亮太の超素能力第一段階、〈ポーター〉で持ち上げてんのか。どんくらい重いんだ?
そして、俺の手が触れた瞬間、俺は本能的に〈インフィニット〉を発動。〈可能性現滅〉により、潰れないように持ち上げるのに最適なフォームを求め、反映。同一世界に、『少しズレた位置で受け止める』もう一人の俺の可能性を展開。二人の力で受け止めようとする。
ズンッ!! という音を鳴らす俺の足元。メキィと不吉な悲鳴を鳴らす俺の体。〈インフィニット〉を体幹と腕、脚に使い、全力で持ち上げ、ゆっくり下ろしていく。
ズドオンッ!!
「……お前な? 俺殺す気だろ? 今ディヴァル本気で振り抜いてやろうか? あ゛?」
「……亮太。これは擁護できない。謝って。今すぐ謝って」
「ごごごごごごめん! めっちゃ軽い気持ちでやった! スマン!」
「これ、どのくらい重いの?」
「たしか、十トンくらいだったはず……『ブンッ!』ひいっ!」
「……要するに、お前は十トンの半破壊不可物質をぶつけてきたってことか。そうかそうか」
「……あ、あの? 悠さん? その殺気を抑えてくれません? あのー……」
「死ね」
ディヴァルを取り出し、〈インフィニット〉を再発動。〈可能性現滅〉で退路を塞ぐ。
発生したエネルギーを周囲にまき散らし、その威圧にて亮太の動きを止める。
ゴゴゴゴゴゴ……という音が出てきそうだ。そろそろ俺もきつくなってきたので全てを解除すると、全員が「ふう……」と息をついた。
「まあ、キレ散らかしたから満足した。次はもうすんなよ」
「いや……すまん。ほんとスマン」
「えっと……それで、脱線したんだけど話戻すよ?」
「ああ、亮太が大声で呼んで、どうなったんだ?」
「見つけたよ。五人ほど」
……。
「「「「「ま?」」」」」
ちょっと待て、生きてる奴いたのか!? この終末世界、特に堕者達が強力な東京で!?
……いや、落ち着こう。子供の俺達でも生きてたんだ。大人なら尚生きているだろう。
まあ、まずは、顔を合わせないとな。
…………
「初めまして。この国、リレイスの王を務めさせてもらってる、白崎 悠と言います。高校二年生です。みなさん、お名前を教えていただいてもらっても?」
俺達七人は、ベースの訓練場のような場所で対面式的なものをすることにした。
まずは、俺が挨拶し、のちに六人を知ってもらうつもりだ。ああ、亮太と小柳はもう知られてるんだったか。
今六人は五人の家を建てている。基礎的な部分をメステリウムで組み、他を木や石、コンクリートでなんとかする。
あくまで簡易的なものだが、いずれはメステリウムで全てを建てるようにするだろう。
……今は在庫不足だが。
っと、まあいい。今はこっちに集中だな。
俺が挨拶をすると、五人横に並んでる中の、右端。ボロボロのスーツを着た眼鏡の男性が真っ先に反応した。
「えっ、えっと……亮太君に誘われて来た、品川 空留です……。いや、まさか本当に、本当に高校生だったとはね……」
「ほう。高校生なんかに自分の生活を預けられないと?」
「いっ、いや、別に、そういうわけじゃ―――」
「大いに結構。信頼はこれから得るもんだしな。むしろ、急に誘われてついて来てくれたことに感謝するべきだ」
「あっ……はい。ありがとうございます」
「じゃ、次」
すると、次は左の二人が反応した。姉妹のようだ。制服を着ているので、学生だろう。
「中学三年生、花成 恵奈。よろしくお願いします」
「えっと、えっと……!」
「千奈、落ち着いて。ゆっくり、丁寧に話すの」
「う、うん……! 小学四年生、花成 千奈です! よろしくお願いします!」
「よろしくね」
少し背が大きく、頼りになるお姉ちゃんが恵奈。まだ幼い臭が漂うのが千奈、ね。
何か言いたそうな顔をしているが、後で聞こう。
と思ったら、あちらから質問してきた。
「えっと、悠……さん? 様? どっちですか?」
「さんでいいよ。それで、なに?」
「私たちは何のために集められたんですか? 完全なる善意ではないでしょ?」
「えっ……」
「何も考えてないんですか……? じゃあいいです」
集めた理由? なんだっけ。
人手……足りてるな。必要な物……増えるな。
あれ? 利がない? なんで国民が必要なんだっけ?
あーそうだ。国として認められるために必要なのだ。
国民が少なければ、世界に国として認められない。すなわち、ただの集団。他の国に制圧されても文句を言えない。
国になれば、他の国から“宣戦布告”をされないと、勝手に戦争を始めたらWRUGからの“制裁”をしっかり受ける。
ほら、真珠湾攻撃みたいな。
いや、あれは宣戦布告が遅れたことによって騙し討ちみたいになったんだったか?
忘れちまった。
っと、話が逸れたな。
チラッと視線を送ると、真ん中の男性が反応した。
「ん。俺ぁ岩城 隆だ。ちょっと前にゃあ農家をしてたな。若ぇ頃には漁師もしてた。最近、林業もたしなんでた。よろしくなぁ」
「あ、は、はい……よろしくお願いします。岩城さん」
「隆でええぞ」
「分かりました。隆さん」
農林水産業全てに対応してる猛者じゃん。これはうちの農業面を解決してくれそうだな……
パッと見四十代に突入している。しかし、若々しい。
そこで、右から二番目の女性が声を出した。
「うんうん! 面白いメンツだ! 私は柊 玲奈! 機械加工とか、メンテナンスが得意! その持ってる武器とかをメンテナンスとかできるかも!」
「柊さん。よろしくお願いします」
「うん! よろしく!」
元気な女性だな。それに、メンテナンスしてくれるのはありがたい。メンバーの全員そういうのはできないからな。これから結構お世話になるだろう。
「さてみなさん。自己紹介は終わりました。対面式の次は……まあ、この国に見せるとことかねえし……」
そうだな……
イヤホンに手を当て、会話を試みる。
『みんな、どうだ? 家のほうは。完成度どのくらいだ?』
『そうだな……見た感じ、全体的に、設計図の八十パーセントは出来てる。あとは仕上げだな』ガキン! バキン!
『そうか。もう対面式的なものは終わったから、家を見せようとしたんだけど、いけるか?』
『見せるくらいはできると思うー! いいよー!』キュイイイインッ!
『……ちょっと沙紀。勝手なこと言わないで。まだ外装が終わってないところがある』ペタッ、ペタッ
『やっぱだめだったー! ちょっと待ってねー!』キュイイイイインッ!
『了解』
「みなさん、少し休憩していてください。もう少しであなたたちの仮の家が完成するので。それまでは、どうぞ自由に」
「あっ、あの……トイレってどこにありますかね……? おなかが痛くて……」
「この訓練場を出て、右ですね。結構すぐ見つかると思います」
「は、はい。ありがとうございます。すみません。遅くなると思います……」
「……ええ」
他の四人はくつろいだり、話したりしている。岩城さんはグゴー、グゴーという鼾をかきながら寝ている。もう少し静かに寝てくれると助かる。
ここで一つ言っておくのだが、俺の〈絶対空間認知〉は常時発動している。リレイス内をだ。
つまり、この国において『誰が』、『どこで』、『何を』しているのかはよく分かる。右目が紅く光っているのは、“視る”という能力が超進化しているという意味だろうかと思う。
まあ、最近は遮光コンタクトレンズをはめているけどな。もうやめようか。光ってる方がかっこいいし。コンタクトの意味無いし。(遺伝子確立で本来の視力まで覚醒。及び固定された)
おっと、何故今こんなことを言うかって? 簡単だ。
…………
「はあ、はあ。やっぱり高校生には任せられない……! 食料をあるだけ盗んで、そのまま逃げる……!」
あの堕者とかいうのは怖いけど、自分の生活を彼らに任せるのも怖い! 自分の力で生き延びる!
なので私、品川 空留はこのベースと呼ばれる場所の倉庫へ向かっている。
ここから食料を奪い取り、逃げる。まだ新興の国というので食料は少ないだろうが、背に腹は代えられない。せめて他の国まで逃げよう。もっと、大人が支配する安全な国へ。
能力云々もどうせ嘘だろう。信じられない。
道中亮太君や小柳ちゃんから聞いたけど、あんなもの種や仕掛けがあるに決まってる。数瞬先に何が起きるかの予測なんて事前に仕込めばできるし、すごく重いように見せかけただけの発泡スチロールでできた鉄骨を持ち上げたりもできる。
彼らも、結局は信用に値しない。
「! あった! 倉庫!」
警備も無しに人を入れるなんて不用心だな。だから信用できないんだ。
そして、勢いよく倉庫の扉を開けようとすると、ここの扉は全て自動ドアということに気が付いた。開くのを待ったが、開かない。当然だが倉庫は鍵が掛かっていた。パスワードと眼球認証式のようだ。
やはり倉庫。他の扉とは違い、大きく、頑丈そうだ。扉を開くしか侵入できないだろう。
「そこまでざるじゃなかったか……でも、所詮は子供だましだ。こんなもの……」
持ってきた、太陽光充電式のノートパソコンとタッチパネルを接続し、ハッキングにて侵入を試みる。
あまり専門の知識は無いが、少しくらいは齧っている。高校生には負けない自負があった。
しかし、十分、三十分経とうと解錠は出来なかった。
高度なウイルス対策システム、一度間違えると振り出し及びコードのシャッフル。さらにはこちらのPCを破壊してくるウイルスを送ってくる。これほど小さな端末に一体いくつの機能が搭載されているというのだ。まったく。
できない、できない……と思い悩んでいると、突如ピピッという音が鳴り、解錠された。セキュリティを突破した覚えはないのだが、何にせよ開いた。これは盗るしかない。
ゴゴゴゴゴゴ……ガタンという音が鳴り、完全に開いた。
勢いよく駆け込むと、そこには人影があった。
少年はこちらへ口を開くと、右目を紅く光らせた。
「んー、及第点ってとこか? まっ、澪のセキュリティを突破できるわけねえよな。お疲れ」
「な……な……なぜ君が……?」
そこにいたのは、この国の王。白崎 悠だ。
「物を盗ろうとするとは、どういう了見だ?」
ああ、本当に私は彼らのことを見縊っていたようだ。
この五人は後に役に立ちます。




