第十二話
ウィーン……
「「「ただいま~」」」
「「「「おかえり~」」」」
帰ってきた~。ここがマイハウス~。
さてさて。一旦休憩……と行きたいところだが、今はそうもいかない。
まあ、まずは四人の成果を聞くか。
その成果というのは、1,ポーション、2,エレクテレス、3,ベースの強化だ。
特にベースの強化はありがたかった。
施設レベルが明らかに上がっている。使いやすい。
機械類は澪が造っていたが、セットしていなかった。それを、海翔が必死に頭を使い、セットしていたのだ。
これで、様々なことができる。
例えば?
……多すぎて分かんねえ。
その後、ミーティングをし、六人を休憩させた。今頃ぐっすりだろう。
さて、俺はというと、リレイスの城壁の外。門の近くに出ていた。
……ん。
「さーて……今度はなんだ? 情報を盗みにでも来たか? あ゛あ゛?」
「「「「ッ……!」」」」
「ん? なんか埋めてんな……結界でも張る気か?」
「「「……」」」
そいつらは無言で武器を構える。
直剣持ち男二人、弓持ちの女性一人、あと……爆弾持ってる男か。なるほど。めっちゃめんどくせえパーティーだな。
能力がレアとはいえ、一人でやるには分が悪い。俺だって最近までただの高校二年生だったんだぞ。
いや、直剣持ちの一人は構えていない……? 見ているだけか。初老の男性のように見える。
すると、金髪の直剣持ちが動いた。こちらに駆けて来る。
「……」
「! 殺る気だな!」
最初に首元を狙ってきた一撃だが、剣の腹を殴り、攻撃を逸らす。すると、〈絶対空間認知〉に二つの光の矢が引っ掛かった。
急遽〈インフィニット〉にて体を動かし、矢を斬り伏せる。
すると、先ほど回避した金髪野郎が背後から袈裟斬りをしてくるのが見えたので、〈可能性現滅〉にて斬り返す。
すると、今度は背後から光の矢が襲い掛かって来る。今度は二本。一人で二本か、超素能力か?
それと同時に金髪野郎が離脱。なんだ? と思っていると、爆弾が飛んでくる。
「アブナァイ!?」
ボンッ! という爆発音がし、背後の地面が抉れる。小規模とはいえ、俺を殺すには十分だろう。
チッ! きりがねえな! 同時に来るんなら対応の使用はあるんだが、こうも交互に来られたら反撃できないじゃんかよ!
「……」 ガキン!
「……いや、なんか、俺達みたいにガムシャラに振り回してるわけじゃなさそうだな。なんか、理に適ってるっていうか……いかにも剣術って感じがする。ということは、あそこで見てる人は師範みたいな存在か? 俺を訓練相手として扱うってことか?」
「……死ね」
そこで、金髪が初めて言葉を発する。忌々し気に呟いたそいつは、先ほどよりも攻撃を鋭くした。速く、重くなった一撃だが、本質的には何も変わらない。簡単に回避できる。問題はあの矢とのコンビだな……あれと交互に来られたら面倒だ。
と、そこで好機が。
(! 金髪野郎の太刀と矢の到達時間が同じ……ッ! ならば!)
〈可能性現滅〉にて「金髪野郎の右薙ぎと光の矢を同時に斬り伏せる」未来を選択。その瞬間俺は迷わず駆け出し、アーチャーと爆弾魔を潰しにかかった。
後ろでズバァッ! と、ガキイッ! という音が聞こえたため、成功しただろう。そりゃあ可能性を選択したしな。
そして、アーチャーだが〈インフィニット〉にて強化された俺の移動速度を肉眼で捉えることはできなかった。
突如として目の前に現れた俺に戸惑うアーチャー。反応できた爆弾魔が俺に爆弾を投げたが、逆に蹴り返し、爆弾魔の顔面にぶつける。
ディヴァルの柄でアーチャーを殴り、気絶させる。次に、顔面に爆弾をぶつけた爆弾魔も金的を蹴り飛ばし、気絶させる。
最後は金髪だが、こちらに走って来る。その瞳には、明らかに憎悪が宿っていた。
「オラァッ!」
「残念。俺に力で勝てると思うなかれ」
そのままディヴァルを振り抜くと、金髪はバゴオンッ! という強烈な音を鳴らし吹き飛び、城壁に激突。その痛みに耐えかね、意識を手放した。
残るは初老の男性だけだが……こちらに攻撃する意思はないようだ。
「実に見事! ぜひ、うちの流派に誘いたいほどだ。ったく、うちの若えもんにも見せてやりてえよ」
「そいつはどうも。だが、なぜ俺をつけてきた? 金霧さんの差し金ではないだろ?」
「アーザレイルのお役人に調べてこいって言われてな。まあ、単純な話戦力の把握だ。それで簡単に制圧できそうなら俺達の領地にしてやろうって思ってたみたいだぜ?」
「……ほう」
「そうキレなさんなって。今回の話は一部の上層部が暴走した結果だ。五大臣も王も関わっちゃあいねえよ」
「……そうか。昇進を狙う者の独断専行か」
「そういうこった。んで、さっき仕掛けようとしてたのは、諜報用結界を発生させる機械だ。あれを四つ置いたら、その間に膜が広がって中は完全に覆われる。そしたら、そんなかの情報はこっちに筒抜けになるってもんだ。覆われた側は結界に干渉できねえし、面倒なもんだよ」
「そんな重要な任務でも簡単に動かされるってことは、大変な場所にいるようだな。お前ら」
あっさり尻尾の切れるやつらか。可哀そうに。
うちも戦力が増えたらそういうことをするんだろうか。
……いや、考えまい。
「そうだな! 本当にいいように使われてムカつく。なにより、年下に敬語を使われねえってのもちょいとムカつく。お前みたいにな」
「今は敵だ。相手がどんな善人であろうと、あいつらを守るためならば斬る。命の重みを背負う。それが、王冠を被る者の責務だ」
「なるほどねぇ……かっこいいじゃねえの! それに、今は、か」
「ああ、安全だと判断したら敬語になるさ」
「だからその武器を仕舞ってないのか?」
「そうだな。万が一攻撃してきても反応できるように」
「お前、本当に高二か? 狸が化けてねえか?」
「高二だ」
金霧さんみたいなこと言うじゃんこの人。だが、実際俺もこいつを疑っていない。
なんだが、相手に敬意を表しながら話している気がするのだ。
あくまでそう気がするだけだけどな。
「まあいい。帰って役人に伝えろ。『宣戦布告をするならば堂々と応じよう。だが、後悔はするなよ』ってな」
「ひゅ~、怖い怖い。分かりましたよっと」
「それと、この件は金霧さんにも報告する」
「? 商談で一回会ってからは二度と会わないあの女狐にか? どういう風の吹き回しだ? あいつめ……」
「……女狐?」
「あいつの呼び名だ。一部の層はそう呼んでる。まあ、普通の国民は言えんわな。狡猾で結果的に自国の損になることは絶対にしない性格の悪い奴だ」
「ひどい言われようだな。まあいい。もう帰れ、そして手を引け」
「分かりましたよっと。じゃあな、小僧」
「じゃあな……もう来ないでくださいね」
「! へへっ、お前なっかなかにいい性格してんな!」
そう言い、彼は一瞬で三人を攫い、荒野に消えていった。
……速いな。違う。いや、速いのか? 純粋に真っ直ぐな道をよーいどんで走るなら、〈インフィニット〉で強化した俺の方が速い……のか? だが、なんだ? なぜこれほど速い?
……謎だ……
…………
「えーっ! 悠、襲撃受けてたの!? 私達起こしてくれたらよかったのに! 最近体鈍ってるんだよ!」
「つっても一日だけだろ。それに、今回の相手は沙紀にとって分が悪い。スピード勝負には向かないだろ。あいつらは速いうえに連携が上手い。堕者なんかとは比べ物にならないくらいに」
「だが、一人で行って死んだらどうするつもりだったんだよ。悠。お前の命はお前だけの物じゃねえ。俺達全員の王なんだ。簡単に命を賭すんじゃねえよ」
「悪いな……全員疲れてるだろうから、休ませようとしたんだ。次からは全員と協力させてもらう。よろしくな」
あの襲撃の後、軽くシャワーを浴び、倒れるように眠った。
流石に〈インフィニット〉と〈可能性現滅〉の連発は体にきた。体からミシミシ音が鳴っているのだ。ほんとに死ぬかと思った。
で、次の日、朝起きるとリビングに全員揃っていた。満面の笑みで。
なんとなく察すると、即座に土下座した。
『すいまっせんでした! 今度はちゃんとみんなと相談してから戦いまっぁっす!』
すると、全員息を合わせたように言い放った。
『『『『『『ギルティ』』』』』』
……なんだかんだみんな優しいよな。
ちゃんと俺のご飯も用意してくれてたし。
「さて、こっからが本題だな。流石に毎食魚介類は心が折れる。そこで、我らが澪様がアレを開発してくれました!」
「「「「「アレ?」」」」」
「ん、私の自信作。この瘴気を払う機械、『シーレンス』。簡単に言えば超空気清浄機。これで、リレイス内で農業と畜産ができるようになった」
「おお~! さすが澪ちゃん! すごい!」
「この苦しさともおさらばできるのか。嬉しいわ~。サンキュー、澪」
澪がシーレンスを起動。下のメーターが『dangerous』から『safe』へと動き、赤色の光が緑色の光へとなっていく。澄んだ空気だ。久しぶりに美しい空気を吸った。ほんとに澪すげえな。
みんなで、「うっへ~」「さいこー!」とはしゃいでいると、海翔が質問をぶつけてきた。
「でも、悠。農業って言ったって、一年かかるんだぞ? そんな猶予あるか?」
「その点も抜かりない。澪がシーレンスと並行して作ってくれてた装置がある」
「いや、澪さん何でもできるじゃん……」
「ん、これが、生物成長促成装置『コルピア』。指定した空間内の植物を急成長させる。範囲が広くなればなるほど効果は薄くなるから、改良の余地あり」
「んー、澪。それって、今日米を植えたら、どんぐらいで刈り取れるんだ?」
「ん、だいたい半年分を一日に圧縮されるから、一日ちょっとくらいで収穫できる」
「「「「「「マジで???」」」」」」
さすがに驚きなんだけど。いや、科学の発展した地球だ。食料自給率の解決にはこの機械があったのかもしれないな。
というか、澪のこの発明は食糧難を根本的に解決する。確かに、国民が増えたら足りなくなるが、今の七人が食べるには十分な量を育てることができるだろう。
神かよ。
しかし、そんな俺たちを尻目に、澪は悲し気に呟く。
「……コルピアは、堕者にも用いられている遺伝子干渉技術を使っている。この技術は人々を救い、そして滅びへ向かわせた。私達科学者が目指した未来は間違っていたのだろう。血成もそう。遺伝子に干渉し、その力を無理やり引き出している。私たちは、生物の神秘に触れてはならなかった」
「澪……」
澪は後悔しているのだろうか。自分たちが発展させてきた技術によって、何十億もの人が死んでいったことを。遺伝子干渉という実験を始めなければ、人類は破滅に向かわなかったことを。
……ん? ちょっと待てよ?
メステリウム及びエレクテレスは、腐死者実験からの副産物だ。ということは、先に始まっていたのは腐死者の方。
そして、エレクテレスを最初に発見したのはWWSだ。つまり、真っ先に腐死者実験を始めたのもWWS。
……なにかありそうだな。あそこの代表は何を考えていたんだ?
俺が思案していると、海翔が口を開いた。
「俺は……遺伝子干渉とかエレクテレスとかよく分かんねえ。ただ、これだけは言える。お前は悪くねえ」
「え……?」
「たとえお前達が進めた研究だろうと、始めたのは大人だ。たかが高校二年生に頼ってる奴らが悪い。だから、お前は気にすんな」
「海翔……」
「海翔って、極稀にいいこと言うよn……ででででででっ!」
「おいこやっち、痛い目にあいたいか?」
「もうしてるやんけ! ぐりぐりすんな! 痛い痛い!」
ああ、楽しい。こんなクソみたいな世界でも、変わらないものがある。そのことをよく実感し、その日はダラダラ……するわけがない。一日一日が忙しいのだ。
悠と沙紀、それと海翔は、コルピアを活かすため、田畑を作り始めた。まだまだ時間がかかりそうだが、確実に作っていく。海翔が一度経験したことがあるらしいので、それに習って作っていく。
稲盛と澪は、ポーションの大量生産と新種の開発に勤しんでいる。ほんと、稲盛も澪も忙しそうだ。その頭脳と超素能力の特異性のせいではあるのだが、いつかは労ってやりたい。
小柳と亮太は、周辺の捜査。住む場所に困ってる人、生きていくのに困ってる人etc……
つまり、国民になってくれる人を探すってことだ。
まあ、瘴気が漂ってて、堕者も強い。そんな世界で生きてる人がいるかは謎だけどな。
…………
「あ゛~、疲れた~」
「おう、お疲れ! 初めてなのに結構進んだな! すげえわ!」
「ふふっ! すごいでしょ!」
「いや、紅月さんは手元が器用だからなー。裁縫とか美術も得意でしょ?」
「そういや、トイレとか風呂とか直してたもんな。車も直してたし」
「手先が器用な破壊神……?」
「なんか変なもんに目覚めてねえか?」
手先が器用な破壊神というパワーワードを聞き流しつつ、ぐでぇ~っと潰れていると、とてつもない勢いでリビングに飛び込―――む前に扉に激突する少女が。
名を澪という。
「聞いて! みんな! ついに、稲盛のポーションを量産することに成功した!」
「えっ……てことは……!」
「大量に受注しても大丈夫! やった!」
「おつかれ! よく頑張ったな!」
「ん!」
ここまで喜ぶ澪を初めて気がする。まだ数日間しか一緒に過ごしていないが、もうちょっと感情が無かったはずだ。なんだか、見ているこちらが嬉しくなってくる。
例のはしゃぐ姿に「新鮮だな~」と思っていると、稲盛が、醸造専用機械『エラル』を持ってきた。
さあ、神秘の力が作り出した液体を、科学の力で再現しようか!




