第一話
如月弥生です。新作になります。ドキドキハラハラしながら見ていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
【旧日本・東京】
「……よし。お前ら……行くぞ」
とある一室にて、七人の少年少女が最後の覚悟を決めていた。
偵察機から見える景色は、夥しいほどの数の化け物が城壁の周りに群がっている地獄絵図だ。
だが、どれほど多くても、どれほど強くても、彼らは退かない。
その背に民がいるから、彼らは負けるわけにはいかない。
……最後の戦争が始まる。
…………
2×××年。終末は、突然訪れた。
八月三日:ロシアで、原初の“腐死者”を発見。一般人が手を出し、数人が腐死者となる。
八月四日:警察が鎮圧に向かうが、腐死者達に手も足も出ない。この時点で、世界各地で腐死者が発見される。
八月十一日:世界各地の研究所が動き始める。各国の政府が色々なところへ協力を仰ぎ、“世界対腐死者連合”を結成。各地の腐死者たちの鎮圧に向かう。
八月二十日:世界人口の五分の一が腐死者になる。すでに公共機関は機能せず、迅速な判断をしたものが生き残っている。
九月二日:腐死者達が突然変異し、堕者となる。殆どの腐死者は堕者になり、上位互換として世界を支配する。
九月十五日:世界の三分の二が堕者達に落とされる。
―――――記録無し
現在十月三日。
たった一か月余りで世界が荒廃してしまい、各地には瘴気が漂うようになった。
瘴気は、吸った者を堕者に堕とす効果がある。なので、その区域では生存できない。
ってか、腐死者と堕者って何が違うんだろうな。
今、世界中で生存している者は何人いるだろうか? 六桁以上いるのだろうか?
それすら分からない。情報を得る方法が無いのだ。
恐らく、皆地下シェルターに籠っているか、瓦礫の中で籠城しているだろう。知らんけど。
ならば……
「よし……生き延びるために必要なことを……考えて動け」
そう呟き、白崎 悠は覚悟を決めた。
白崎 悠。特に誇れるようなことも無く、いたって平凡な高校二年生だ。今は、近くの倒壊した一軒家に身を潜めている。
今の持ち物といえば、誕生日に父親から貰った超超高性能な腕時計型端末と、缶詰十個、懐中電灯くらい。
……圧倒的に食料が足りない。缶詰十個では、めちゃくちゃ節約して三日くらいか。
あとは、拠点かな。雨風凌げる場所が欲しい。と言っても、圧倒的に頑丈な場所じゃないと堕者に破壊される。だから、今はいろんな場所を転々としている。
この荒廃した世界に安全な場所は無い。
「やっぱステルスプレイだよな……見つかったら一撃で殺される。いろんな建物が倒壊してる……道端に都合よく銃も落ちてないし……というより、あいつら銃効かないんだったか」
自分の家はとっくに倒れたが、なんだかんだ中身は意外と無事だ。しかし、長居すると堕者に嗅ぎつけられて壊されてしまう。
まずは、災害用に置いておいた非常用食料を取りに帰る。それが第一優先だな。それ以外に欲しいものがあれば持ち出すか。
プルルルルル……プルルルルル……
「ん、誰だ?」
腕時計から音が鳴る。電話だ。
ピッ
『はい、もしもし』
『あ、悠だよね? 私だよ私! 沙紀!』
『ああ、沙紀か。どうした?』
『えっと、元気? じゃなくて、まずは合流したいんだけど……昔遊んでた公園とかどう?』
『今、公園とか堕者の巣窟になってるしな~。自殺しに行くようなもんだぞ?』
『えっ……じゃあ、どこに集まるの?』
『いい。こっちから行く。現在地を教えてくれ』
『自分の家の地下に籠城中』
『いやマジかよ。まあ、これから行くから、動くんじゃねえぞ』
『了解した!』
ブツッ……
……さっきまで電話していた女子、紅月 沙紀は、俺の幼馴染だ。小学校から、高校までずっと一緒という珍しい奴だ。
夏休み遊ぼうと約束していたのだが、腐死者及び堕者騒ぎのせいで、遊べなかった。
お互い、中学時代に親が他界している。うちは母親が、あっちは両親が。なので、助け合いながら生きてきた。家も隣だしな。
さてさて……あいつの家の地下か……道中も堕者がいるだろうな。
対抗手段なんか持ってないし、一回も見つからずに進むしかない。
だが、俺はあいつらについて何も知らない。例えば、どのくらいなら見えるのか、とか、音はどれくらい聴き取れるのか、とか。
色々実験しながら進んで行くか……
【悠の家付近】
「ちっ……堕者どもがうじゃうじゃ居やがるな……ちょっと待つか……」
文字通りの化け物。元が同じ人間だとは思えない。
というか、なんでこんなやつになるんだ?
よく分からないな……
数分後―――
「よし。家の前にいるのは一体だけになったな。俺の後ろはいい感じに瓦礫で隠れてるから、今はあいつに集中できる。ん~、どれくらいの範囲なら聞き取れるんだ?」
とりあえず、石投げてみるかな。えいっ。
カツンッ……
石は堕者の背後二メートルほどに落ちた。
「! ア?」
「っ!? ……っと、あっぶねえ……こっちには気が付いて無いのか。でも、意外と聞き取れるんだな。流石は元人間か。人間と同じくらいの聴覚を持っているわけだ。ということは、見た目を隠すだけはダメなのか……厄介だな」
ただのステルスプレイでもいけるか? 物は試しだ。挑戦回数は一回。
「まずは、遠くに石を投げる!」
反応しろ!
「ア? ンン??」
「今だ」
音が無いように背後を駆け抜ける。大丈夫。ばれてない。今のうちに家に入って……って、うん?
「ちっ、これは想定外。まさか、玄関の扉が歪んじまって開ないとか……マジ最悪」
やっべ、ここでグダグダしてたら堕者に見つかっちまう。
って、あいつもう来てんじゃねえかっ!
急いで裏口に回る。とりあえず、あいつからの視線を切った。ひとまずは安心……はできないけど、まあ、時間はできた。この間に入れるところを探し出す。
いや、先に沙紀に会いに行くか? 隣だしな。よし、そうしよう。
というわけで、さっきと同じ方法で堕者を別の方へ動かし、隣の紅月家に向かう。
確か、地下にいると言っていたな。まあ、沙紀がいるのなら入れるだろうな。
チャイムはダメだ。なら、ちょっと連絡するしかねえな。
プルルルルル……ピッ
『悠だよねえ!? 助けて! 堕者が玄関のドアを叩いてる!』
『いや、叩いてるのは玄関じゃない。裏口のドアだ。今玄関にいるのは俺だからな』
『よかった! でも、怖いから助けてぇ!!』
『何とかこいつを動かしてみる。地下から出てきて、すぐに動けるようにしといてくれ。荷造り済ませて、食料の用意』
『りょりょりょ了解ぃぃぃ!! 『ドン!』ひゃあっ!』
プツッ
「……こりゃあ、ちょいと急いだほうがいいな」
まずは裏口のあいつ……あいつを動かさなきゃなんねえな。石で動かすには限度がある……パッと見デブだな。耐久力と攻撃力に振ってるタイプのやつだろう。ならば、道は一つ。
プルr……ピッ
『何ぃ!? 家がミシミシ言ってるんだけどぉ!?』
『もう玄関に来い。俺が裏口のやつを引き付けて逃げる。その間に、脱出しろ』
『ひ、引き付ける!? 追いつかれて殺されちゃったらどうするの!? ねえ!』
『陸上部舐めんなよ。大丈夫だ。いいから、お前は離脱の準備をしとけ。いいな』
『分かった。電話は切らないでね!』
『ああ』
……さてと。命がけの救出作戦を始めますか……
家の前にいた堕者はどこかに行った。運がいい。あとは、このデブだけだな。
「……Are you ready?」
静かに自問自答する。答えは一つだ。
「……Go!」
「! ウオオオオオッ」
デブに石をぶつけ、こちらに注意を向ける。俺に気付くデブ。ハンマーを片手に突進してくる。いや、なんでハンマー持ってるんだよ。おかしいだろ! しかもめちゃくちゃメカメカしいハンマーだ。絶対に誰かから与えられたに違いない。
そんなことを考えながらも、体を必死に動かす。大丈夫。思った以上に速くない。このペースだと、振り切れるだろう。
『沙紀! もう出ていいぞ! 早く逃げろ!』
『分かった! 気を付けてね!』
『ああ!』
プツッ
「あ、切っちまった。まあいい。あとは、こいつを振り切るだけだな!」
「オオオオッ!」
プルルルルッ……プルルルルルッ……
さらにスピードを上げる俺。体力なんてものが存在しない腐死者及び堕者だが、足の速さに限界がある。相手の足より、こちらが速かったらいいんだからな。
プルルルルッ……プルルルルルッ……
着信音うるせえ! こちとら必死に走ってんだよ! 沙ァ紀! 少し黙ってくれ!
って、うん?
「オオオオオオッ!!」
「ゴオオオッ!!」
「ガアアアアッ!!」
「……なんか増えてんだけど!?」
せこいぞ! 三対一とか!
だが、変わらす三匹とも見た目からして速そうには感じない。このままのスピードで逃げ切る!
そのまま三十秒ほど走り続け、何回も角を曲がり、ようやく振り払った。
「easy……」
焦ったのは、曲がり角を曲がった先に堕者が居た時だ。即座に引き返し、バレる前に逃げることができた。心臓が口から出るかと思った。
だが、これで沙紀と合流することができる。
プr……
ピッ
『大丈夫!?』
『ああ。生きてる。というわけで合流するか。荷物も取りたいし、やっぱり俺たちの家周辺に集合で』
『早く帰ってきてね! 私、ほとんど動いてないからまだ近くにいるよ!』
『ああ、あんま動くなよ! じゃあ、一旦切るわ』
『あ、待って! そういえば聞きたかったんだけど、今のこの世界で電話の機能が使えるの? 私はスマホだけど、悠に関しては腕時計でしょ? なんで?』
『ん~? 言ったことなかったか? 誕生日に父親から貰った俺の腕時計、三か月前に打ち上げた人工衛星と繋がってんだよ』
『ッふぁ!? どういうこと!?』
『俺もよく分かってない。けど、この端末から連絡したら、相手の端末とこの端末が人工衛星を通して繋がるんだ。んで、まだ宇宙にある人工衛星は落とされてない。だから連絡できるって言ってた』
『へえ~……お父さん、なんてものを持ってるのよ……』
『ホントそうだよな。まだまだ機能も多いし……っと、着いた』
プツッ
「見える見える! おーい! ここここ!」
「聞こえてるし見えてる。久しぶりだな。沙紀」
「そうだね! あの大厄災以降会えてなかったからね。それで、これからどうするの?」
「そうだな……うん。これから、二つの道を示す。どちらを取るかはお前が決めてくれ。俺は、お前の判断に従う」
「う、うん……」
「1,このまま、どこかから食料を盗み続けながら逃げ続けることか」
「……うん」
「2,俺たちで……」
将来性は無い。確実性もない。だが……
「俺たちで、零から始めることだ」
これが、俺たちの物語だ。
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