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エピローグ 旅立ちの幕

あとがきに今後の予定を簡単に記載します

「初めまして冒険者レイン」


 アリアデュラン王国北西部に位置するローニヤ村。麦畑に囲まれた長閑(のどか)な村、その外れに二つの黒い影が伸びていた。

 一つはレインのもの。ローニヤ村が冒険者ギルドに魔物討伐を依頼し、それを受注したのが彼女だった。ここ数日の滞在で仕事はあらかた終わり、今日もまた村が用意した宿舎に帰る途中だった。


 それを呼び止めたのが二つ目の影だ。

 影の正体は仮面の男。黒い外装に身を包み、魔物でも模したかのような半仮面で目元を隠している。


「親愛を込めてレインくんと呼んでもいいかな?」


 男は口元に胡散臭い笑みを貼り付け、ブロンズの髪を揺らしながらレインに話を続ける。


「キミのことを探してたんだ。私は――」

「間に合ってるわ、結構よ」

「まだ何も言ってないじゃないか! もう少し興味を持ってくれてもよくないかい!?」


 見向きもしないレインに、男は焦ったように声を上げた。


「どうせ新手のナンパか宗教の勧誘に違いないわ。興味ないから他を当たってちょうだい」


 この手のやからは経験上ろくでもない人間だと相場が決まっている。レインも過去の教訓から相手にしない方が賢明だとわかっているので、適当にあしらうことにしていた。

 だが、


「――レイフォン・ジル・フリーク」

「!?」


 ずっと探し続けている実兄の名を聞かされては、立ち止まるよりほかなかった。

 

「……あなた、何者?」

「幻魔教」

「……噂で聞いたことがあるわ。幻魔を崇めている狂信者たちが世界各地にいて、その集団の名が何の捻りもなく『幻魔教』だって」

「わかりやすくていいだろう?」

「そうね。今度からはあなたみたいな格好をした人を見かけたら避けて歩くことにするわ」


 レインは喋りながら男に気づかれないようにローブの内側にある短剣に手をかけた。護身用のために魔法以外の攻撃手段は服の至る所に隠してある。


「それで? まさか本当に宗教の勧誘に来たの? あいにく妖精は連れていても幻魔と仲良くなれるかはわからないわよ」

「ははは、キミのような有望な魔法使いには是非とも私たちの仲間になってもらいたいところではあるんだけどね、教祖様の御意向でその選択肢は却下された」

「よくわからないけど、その決定には喜んでおくわ。で? 勧誘でもないなら幻魔教の信者がいったい私に何のよう――」


 言い終わる前に仮面の男は堪えきれなくなったように笑い始めた。ニタニタしたりケラケラしたりと笑いの絶えない男だ。まるで怒りを買うために挑発しているようなわざとらしさを感じる。


「何がおかしいの?」

「いや、失敬。お兄さんのことを聞きたくて聞きたくてしょうがないって顔をしているのに必死に隠そうとしているのが微笑ましくてね」

「……っ」

「キミのように顔に出やすい子は仮面を付けるといいよ」

「あなたみたいに?」

「そう、私のように。まぁこれは幻魔教の祭具だから着けてきたんだけどね。この国は仮面に寛容だから動きやすくて助かってるよ」


 レインのちょっとした意趣返しは軽くいなされ、男の軽口は続く。


「話が進まないから勝手に喋らせてもらうよ。私はせっかちなんだ。今から4日前に王都の方で事件が起きたことを知っているかな?」

「……」

「その日は第一王女の生誕祭でね、15歳の誕生日を国でお祝いしていたんだ。そこで我らが王、幻魔王様が降臨なされた」

「幻魔、王……?」


 初めて聞く敬称にレインは戸惑いを隠せない。幻魔という化け物たちに王様という存在がいたなど初耳だ。

 幻魔教の言葉が嘘でなければ世界を震撼させる事実である。


「キミが探しているレイフォン・ジル・フリークの行方は幻魔王様が把握しておられる」

「……話の流れが見えないわ。根拠は?」

「簡単だよ。レイフォンくんは7年前に幻魔教の信徒だった」

「!?」

「そして彼は幻魔王様と行動を共にした後、行方不明となったんだ」

「……」

「信じる信じないはキミの自由だが、キミのお兄さんが我々の仲間だったというのは心当たりがあるんじゃないかな?」


 確かにレインには過去に兄レイフォンが怪しげな連中と仕事をしていた記憶がある。あれが幻魔教の人間だというなら納得したくはないが辻褄が合う。

 しかし、それを認めれば兄は幻魔教という邪教に身をやつしていたことになる。妹として男の言葉を素直に信じることなどできなかった。


「お兄さんを探したければ王都に向かうといい。そこにキミが探し求めていた答えがある」

「……急に現れて勝手なことばかり、あなたに直接聞くと言うのはどう?」


 短剣を取り出し刃先を幻魔教の男に向ける。

 制止の声は意外なところから上がった。


「ダメだよレイン」

「カレア?」


 ローブのフードから飛び出した相棒の妖精カレアがレインの眼前で浮遊しながら両手を広げた。


「こいつ、得体が知れない。戦わない方がいい」

「私たち二人がかりでも?」

「うん、やばいと思う」


 交戦的なカレアが珍しく真面目な顔をして立ち塞がっている。当の本人は「ふふ、照れますね」とふざけたように首をすくめていた。それが強者の余裕なのかどうかレインにはわからなかったが、カレアの長年の経験は当たる。無理に自分の行動を押し通す理由はない。


「一つ聞きたいんだけど」

「なんだい?」

「どうして今なの? 私がいくら探しても兄のめぼしい情報はまるでなかった。それが今日は情報の方からわざわざ歩いてきた。不自然よ。それに私を動かすことであなたにメリットがあるとも思えない」

「質問が二つに聞こえるけど?」

「……」


 レインの無言の圧に男は肩を竦めると、人差し指をピッと立てた。


「どうして今か。それはもう“時が来たから”としか言いようがないし、それ以上答えるつもりもない」


 続けて中指が立った。


「メリットに関しては……あえて言うなら昔のよしみのために一肌脱いだだけだよ」

「……あなたは兄と仲が良かったってこと?」

「ん? はは、どうだろうね?」


 仮面の奥で、男はレインの言葉に目を丸くすると、掴みどころのない笑みで応えた。

 何か変なことでも言っただろうか、とレインは眉を顰めるが、これ以上有益な情報は得られそうにもないので短剣を仕舞うことで返事とした。


「健闘を祈ってるよ、ディエナ・ジル・フリーク。……いや、妖精使いのレイン」


 男は踵を返し、二つの影が離れていく。

 レインが王都に着き、幻魔王の予告状を読むことになるのはそれから10日後のことだった。


 ±


「妖精使いレイン改めディエナ・ジル・フリークよ。つまりお主は幻魔教の信徒ではなく、やつらの情報を頼りに王都を尋ね、兄であるレイフォン・ジル・フリークを捜索するために身分と『加護』を隠し、城内に潜入していた、と。これに相違はないな?」

「ありません」


 王国の大臣の言葉にレインは素直に頷いた。

 舞台はアリアデュラン王国の王城。その玉座の間である。

 マクゼクト王と二人の王妃が鎮座し、その周囲には王によって厳選された宮廷魔法使数名と二柱の騎士がレインを見下ろしていた。

 (ひざまず)きこうべを垂れるレイン。そんな彼女もまた己の両手首を見下ろしていた。

 細腕に似つかわしくない無骨な魔導具の手錠がはめられ、彼女が罪人であることを証明している。


 仮面舞踏会の夜。幻魔王と邂逅を果たしたレインに待ち受けていたのは尋問だった。

 衆目が集まる場で幻魔教と関わりがあること、そして加護持ちであることを公表してしまった冒険者の少女。重要参考人として拘束されるのは必然であり、事情聴取を名目に地下牢に囚われ、取り調べは三日間にも及んだ。


 旅の経緯。幻魔教との関係性。貴族としての血筋の裏どり。加護の真偽と発生時期の確認。ついでに魔力測定と身体検査。妖精との出会いから幻魔王との邂逅まで、根掘り葉掘りと聞かれ答えられる全てをレインは話した。

 隠す様なことはすでになく、同様に囚われたカレアと牢屋で寝食を共にしながら、国の判決を待った。

 それも今日で終わる。


「なにも悪いことしてないんだからさー早く解放してよー」


 脇に置いてある鳥籠からカレアの声が聞こえてきたので、レインは「黙って」と小声で叱責した。

 それは魔導具でもなんでもない鳥型の魔物を飼うための小さな鳥籠だ。カレアのような妖精が魔法を使えば簡単に壊れてしまうような代物。捕縛としての用途すら満たさない。

 それはまるでレインが受けた三日間の尋問を体現しているかのような見せかけだけの拘束だった。


「フリーク卿に確認したところご息女は数年前に死亡し、加護もなかったと回答している。また、兄レイフォンも同じ年に行方不明になったと学園都市から報告を受け、死亡届けを提出したようだが……」


 大臣が報告書を読みながら気まずそうにレインに視線を送る。

 報告書の内容だけを読めばジル・フリーク家の子供は兄妹ともにすでに亡くなっており、ディエナ・ジル・フリークを名乗ったレインが嘘をついていることになる。しかし、この場にいる誰もが報告書の方に偽りがあると理解していた。レイン――ディエナには貴族だった時の教育の名残りと平民では知り得ない情報があったからだ。


 肉親に切り捨てられたという状況だ。

 ジル・フリーク家としては一族に幻魔教の信者がいたとは認めたくない。よって兄を探している妹もいない、ということにしたいのだろう。そもそもレイフォンに関しては国が運営する学園都市の通達をそのまま返答としているため付け入る隙はない。報告書の中にある明確な嘘はディエナの死に関することのみである。


「なにか異議はあるか?」

「……」


 レインにとって否定することは簡単だ。

 自分が生き証人なのだから「その内容は間違っています」と声をあげ正せばいい。だが、それをした場合ジル・フリーク家の立場が非常に危うくなることも知っている。

 兄を蔑ろにしていた両親をレインはあまり好きではなかった。でも好きではないというだけで別に恨んでいるわけではない。むしろ兄妹ともに行方をくらませ迷惑ばかりかけて心苦しいとさえ思っていた。


 風の噂では新たに男の子を産んで幸せに暮らしているとレインは耳にしていた。貴族として後継者を育てなければならない両親の苦労と、会ったことはないが血のつながった弟の未来を思うと答えに窮してしまう。


「いつまで回りくどいことをしている」


 沈黙を最初に破ったのはマクゼクト王だった。


「ここアリアデュラン王国ではノイシスの加護を授かった者は国に報告する義務がある。レインよ、そなたも知っているだろう?」

「……はい、存じております」


 レインは一瞬、加護持ちであることを隠していたことを責められるのだと覚悟した。だが、マクゼクト王が続けた言葉は意外なものだった。


数日前に(・・・・)突然加護持ちとなり困惑したのだろう」

「……え?」

「今やノイシスの加護は人型精霊を召喚できる可能性を秘めた証でもある。その力を狙う不届者も多いため加護持ちであることを隠していたことは理解できる。しかし、城を訪ねてなお隠す必要はなかったな」

「いや、あの……」

「ここへはアリアデュランの国民として義務を果たしに来たのであろう? 遠路はるばるご苦労であった――が、何か手違いがあったのか、亡き貴族の名を騙ったことでいささか問題になってしまった」

「……」


 レインは黙り理解した。

 自分は今、言いくるめられているのだと。

 マクゼクト王が用意したストーリーに乗っかり、この危機を脱出しろと説得されているのだ。


「そなたは冒険者『妖精使い』のレインであり、ディエナではない。それを潔く認めるのであれば貴族を騙った罪は不問としよう。ノイシス様の加護に免じて、な」


 要約すると加護持ちを罰したくないので嘘をつけ、ということらしい。この場では真実を語ることが罪であり、嘘をつくことが正義なのだ。

 そして彼女はもとより名を捨てている。幻魔王に兄のことを問うために仕方なく正体を明かしたのだ。今更躊躇う理由は何もなかった。


「はい、申し訳ありませんでした。幻魔王を前に気が急いてしまい、心ともなく昔の友人の名を借りてしまいました。私はレイン以外の何者でもありません」

「うむ」


 王が頷き大臣に目配せすると、大臣は懐から鍵を取り出してレインの手錠を手早く外した。そしてカレアを閉じ込めている鳥籠にも別の鍵を向けるが、


「あ、もう出ていいのね? まったくまどろっこしいだから……っと!」


 鳥籠の柵を難なく壊して自分から飛び出していた。

 驚くものは誰もいない。

 妖精の傍若無人な態度は有名であり、誰も本気で拘束していたつもりもないからだ。


「いつの時代も人間は面倒で仕方ないわ! 最初から許すつもりならこんな茶番いらないじゃない」

「ははは、森の守り人には退屈な時間を過ごさせてしまったようだ。こちらの定式に付き合ってもらい感謝する」

「本当よ! もう少し長かったら爆発するところだったわ! そのままの意味で!」


 本気とも冗談ともとれる妖精の発言にマクゼクト王は笑みを崩さなかった。若干一名、粉々になった鳥籠を見下ろしていた大臣が身震いをしていたが、気に掛ける者はいなかった。


「さて、レインよ」

「はい、マクゼクト王の寛大な処置に感謝し――」

「おべっかはよい。取り繕う必要もなければ礼も不要だ。ここからは本題に入ろう」


 マクゼクト王が頬杖を突き気を緩めたことで場の空気が弛緩したが、逆にレインは緊張したように身を固めた。


「貴様も知っているだろうが加護持ちの人間は我が国が運営する魔導都市の学園に入学することになっている。本来であれば魔法科に入学していてもおかしくない年齢ではあるが……貴様の場合は編入という形になるだろう。そこで少なくとも三年以上は勉学に励み、ゆくゆくはここにいる宮廷魔法使と肩を並べてもらうことになる。異論はないな」

「……はい」


 有無を言わせぬ決定事項の提示。レインが今まで逃げていた加護持ちの義務だ。アリアデュラン王国の最高教育機関に無償で入学でき、宮廷魔法使という出世街道まっしぐらの約束された未来。

 誰もが羨む好待遇と好条件のオンパレード。

 普通の国民であれば飛びつくし、そもそも拒否権はない。

 だが、


「このままでいいの?」

「……! カレ、ア?」

「レインはこれでいいの?」


 レインは兄を捜すために義務から逃げていた。そしてたどり着いた先に待っていたのは兄が死んだという情報のみ。しかも幻魔王がその手で自ら殺したと自白したのだ。

 兄を捜すために旅に出て、その目標のために今まで頑張っていた。

 目標を失ったレインを襲ったのは深い悲しみの感情――ではなく、虚無感だった。やっと兄の手がかりを見つけ危険を冒してまでここまで来たのに「すでに死んでいる」と言われて「はいそうですか」と引き下がれるほど単純な生き方はしてこなかった。


 あまりに現実味がなく、泣くことすらできていない。

 そもそも腑に落ちないことばかりなのだ。兄が幻魔教の仲間であることから始まり、幻魔王が一介の魔法使いでしかない兄のことを覚えていて、その兄を殺す理由も不明瞭だった。

 まだ、何も終わっていない。

 まだ、自分の旅は終わってはいないのだと、心と相棒が訴えかけてくる。


「どうやら『妖精使い』のレインには不服があるようだ」

「それは……」


 マクゼクト王に見透かされレインは言葉に詰まる。かろうじて「兄が――」と声を上げるが、


「兄? 貴様には兄がいたのか?」


 しらばくれるようにマクゼクト王がレインの発言をかき消す。ディエナはすでに死んでおり、ここにいるのはただの冒険者レインしかいないのだと強調してくる。


「それとも幻魔王が語っていたディエナ嬢の兄のことか。死んだのだろう? 納得していないのか?」

「……わかりません」

「わからない?」

「言い捨てられた言葉だけでは、何もわからなかったので……私は幻魔王を追う旅に出たいと考えています」

「つまり義務を放棄すると?」

「はい」


 素直に頷いてしまうレインに王はため息をつき「不器用な娘だ」と人知れずぼやいた。

 やはり勝手は許されないのだとレインは諦めかけるが、助け船は意外なところからやってきた。


「マクゼクト様、進言してもよろしいでしょうか」

「許可する。申してみよセルティア・アンヴリュー」


 雪のように白く、氷のように冷たい表情を持つ宮廷魔法使がレインを見据えた。


「クララ様奪還のために編成している討伐隊に彼女を加えてみるのはいかがでしょうか。『妖精使い』であり『加護持ち』である彼女なら戦力として申し分ありません」

「ふむ、元加護持ちの言葉は説得力がある。……レインよ、討伐隊に加わるつもりはあるか? 取引に応じるのであれば我の私兵として貴様を雇おう。当然、その間は加護持ちとしての責務から解放しよう」

「……取引の内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」


 レインの慎重な回答にマクゼクト王は静かに頷くと、彼はレインの手――正確には左手の甲の紋章を指差し口を開いた。


「ノイシスの加護を我が預かる。貴様は精霊を召喚できる歳を過ぎても、我の許可なしに召喚魔法を使用してはならない」

「『加護持ち』であり続けろ、ということでしょうか?」

「そうだ。それが我が提示する条件だ。我の私兵となるか?」

「……謹んで拝命いたします」


 うやうやしく頭を下げるレイン。

 なんとなく王の計略に乗せられた感は否めないが渡りに船の状況であったため拒む理由もない。もしかしたら最初からクララ姫を助けに行きたいと申し出れば同じような話の流れになったのかもしれないが、レインはあくまでも兄が第一目的でありクララを出しに使う予定はなかった。


(今更ララのことを助けたいって言っても白々しいだけ……。でも、助けられるならこの手で彼女を助けたい)


 決意を胸にレインが面を上げる。


「良い目だ。しかし、そなたが加護持ちであることは我らだけでなく他国の人間にも知れ渡ってしまった。今頃、欲深い身の程知らずたちが加護持ちと未来の召喚獣の力を手に入れるため画策していることだろう。そこで――」


 マクゼクト王の合図を受け、一人の宮廷魔法使が一歩前へと進み出た。


「我が国最強の宮廷魔法使である『氷の仮面』セルティア・アンヴリューを護衛兼討伐隊の一員として連れていくがいい」


 レインとセルティアの視線が交差する。


「……」

「……」


 凍えるような冷たい視線だ。出会った時と同じで表情に変わりはない。だが、レインはなぜかセルティアから複雑な感情が込められているような錯覚を覚えた。形容し難い不思議な感覚でそれが何なのか見当はつかない。

 ただ、護衛とはいってもセルティアには宮廷魔法使としての立場があり、レインが逃げ出さないための監視役も兼ねている。ゆえに色々と思うことがあるのだろう、とレインは結論付けて納得することにした。


「本来であればここにいる『灰騎士』か『紅騎士』のどちらかを討伐隊に加えるべきなのだが……あいにく防衛と遠征で国を離れることはできない。よってもう一人、用意していた我の私兵を紹介しよう」


 入れ、というマクゼクト王の言葉と合図とともにレインの後方にあった玉座の間の扉が開いた。


『いつから俺は貴方の私兵になったんですか? 俺はただの万屋で、雇われただけじゃないですか』

「……!?」


 背後から聞こえてきた男性の声に、レインははっと我に返る。まるで仮面に遮られているようなくぐもった声は懐かしさすら感じる。数日会ってないだけで大袈裟だとはレインも思う。だが、死んだものだと諦めていた彼が生きていたのだ。感傷的にもなってしまう。


「細かいことを言うな。我と貴様の仲ではないか、グレイよ」


 レインが振り返る。

 そこにはいつもの黒コートに身を包んだグレイの姿があった。

 幻魔王に吹き飛ばされたのにも関わらず、負傷しているような素振りは一切見せない。相変わらず得体の知れない男だと呆れるべきなのか、それとも素直に再会を喜ぶべきなのか。判断ができなかったレインはとりあえず「生きてたのね」と隣に立ったグレイを見上げた。


『それはお互い様だ。無茶ばかりして、いつもこんな冒険をしているのか?』


 なぜか説教が返ってきてレインは思わずムッとする。


「私のことはもう知ってるでしょう? あそこで日和ったら何も得られなかった。なりふりなんて構っていられないし、そのおかげで少しだけ兄に近づけた」

「ごめんねーうちの娘はブラコン?ってやつだからお兄ちゃんのことになると暴走しちゃうの。持病みたいなものだしあたしは慣れたわ! なにしろレインが小さかった頃からずっと見守ってきたんだからね!?」


 何故かグレイに向かって誇らしげに鼻を鳴らすカレア。

 護衛として雇われるグレイに対し張り合いたかったのだろう。

 当の本人はそんな相棒の対抗意識もどこ吹く風と思っているようで、適当に相槌を打ってカレアの言葉を流していた。


『これからは俺とセルティアも旅の仲間だ。レインがブラコン冒険者だろうがカレアがマウント妖精だろうが問題ない』


 淡々と語るグレイに「ちょっと」「マウ――」とツッコミかけるが、


『俺が守るよ』


 素朴だがどこか決意に満ちた言葉を聞かされては押し黙ることしかできなかった。


「感動の再会は済んだようだな」


 マクゼクト王が立ち上がり、どこか芝居がかった調子で手を突き出した。


「冒険者レインよ! 幻魔王を倒し、その手からクララ姫を取り戻すのだ! 大召喚士ノイシスに選ばれしそなたなら必ずや幻魔の王を打ち倒すことができるだろう!」


 まるで勇者を送り出す国王のようにマクゼクトは台詞を吐いた。

 二柱の騎士と他の宮廷魔法使たちが見守る中、護衛の役についたセルティアとグレイは静かにその場で膝をつく。

 カレアはそんな彼らを観て楽しそうに拍手を送った。

 そして彼女は――


「加護に誓って、果たしてみせます」


 左手の紋章を胸に掲げ、加護持ちの『レイン』を演じ続けるのだった。




白黒物語 第一章 ―完―



ということでずっと放置していた灰騎士物語の後編(白黒騎士物語)の一章部分が終わりました。

活動報告に書いた通り、次はちょっと灰騎士物語の方に戻ってそっちをメインに書いていきます。

白黒騎士物語の方は主人公をルダージュに戻してちょくちょく書けたらいいな、と思ってます。

今後の予定や細かい話などは近日中に活動報告に載せる予定です。気になる方は覗いてみてください。


では、

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


少しでも面白いと思った方はブックマークと広告下の☆で評価していただけると嬉しいです!

ポイントによる応援があると作者のモチベーションが上がり励みにもなるので、なにとぞ応援のほどよろしくお願いいたします!!



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