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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 前編  作者: ボヌ無音
第三章 幕間 それぞれの思い
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アベスカの日常

幕間①開始です。

 アベスカは今日も平和である。

魔王がアリスに代わったことにより、さらなる平和を取り戻していた。

ホムンクルスによって働き手も増えて、ようやっと城下町の外へ出ていこうという考えも生まれてきた。


 人口が激減したことによって、衣食住が賄えるといっても蓄えには限度がある。

もうアベスカの人間を魔物が襲わないのであれば、外に出て土地を耕し生計を立てるべきなのだ。

 もちろん、全ての魔物が襲わないわけではないので、些か不安は残る。

しかしアリスも土地を()()()()()以上、国民に手を出すことは許容していない。

 もしも申請があるのであれば、魔族なりホムンクルスなり貸し出すつもりだった。……慈善事業ではないので、無料とは言わないが。

それでも最低限、民を守るつもりではあった。


 そんなこんなで、アリスとアベスカに常駐している二人の幹部は、アベスカ国民から圧倒的な支持を得ていた。


「今日から診療再開って聞いたから予約してたのに! パラケルスス先生は!?」

「今魔王城で療養中だよ」


 アベスカは今日も平和である。……一人を除いて。

パラケルススは一時的に〝出張〟していたのだが、それでも定期的に戻ってくるはずだった。

アベスカを任された以上、アフターケアをするというのも仕事の一つだ。

 そう。一国を回ったら帰国し、ホムンクルスのケアや国民の治療を行うはずだった。

しかし国民が予約した日になっても、王城は開放されなかったのだ。


「療養だって……? 何かあったのかい!?」

「ああ、先日まで他国へ行ってただろう? その時に勇者とその軍に、奇襲されたみたいでね」

「奇襲だァ!? 先生を!? なんて酷いことをするんだ……」


 いつまで経っても開放されないことに腹を立てた住民は、王城へとやって来て兵士に文句を言っていた。

しかしながら返ってきた答えに、男は絶望することになる。

 彼は先日、腰を痛めてしまった。町医者にかかってみたのだが、それでも良くはならない。

近日中にパラケルススが診療で戻ってくると聞いて、予約を入れたのだが――結果こうだった。


「一緒に出ていた方を守るために、体を張ってだいぶ怪我をされたらしい」

「そんな……。大丈夫なのかい!?」

「アリス様が間に合わなかったら、死んでいたかも――ともっぱら噂になってるよ」

「なん……アリス様、流石だな。俺の腰なんて、パラケルスス先生に比べりゃ大したことねぇな。みんなで回復を祈ろう」


 この男が酒場に行けば、あっという間にパラケルススの話題で持ち切りになるだろう。

そして時間のかからないうちに、街中に知れ渡るはずだ。

 別に箝口令をしいているわけでもないし、パラケルスス側としては診療が出来ないので、知ってもらった方がありがたい。


 しかしこの話題は、アベスカの民が勇者に対して――まるで魔王のような偏見を持っていく一因となるのである。

そしてそれに反比例するように、アリスの価値と好感度、忠誠心が驚くスピードで上がっていくのだ。

 そんな違った意味で広がっていくのは、まだ誰も知らないことだ。


「再開が決まったら、予約者には連絡するつもりだから。腰くらいなら、ルーシー様も治してくださると思うが……聞いてみるか?」

「おぉ、良いのかい!? 休みが明けたら、畑に行きたくてよ。出来れば頼みたい」

「ちょっと聞いてくるよ」





 城内、ライニールの書斎――


「パラケルスス殿が負傷、ですか」


 ライニールは真面目に事務作業をしていた。そしてその横には、メイド達が用意した菓子を美味しそうに頬張るルーシー・フェルがいる。

 ルーシーはパラケルススの件があって、余計にアベスカから離れられなくなっていた。

ライニールの監視もあるため、魔王城に戻る頻度も低い。


 パラケルススを治療の際は、アベスカへとわざわざ来てもらっていた。瘴気が漂う魔王城の環境が、今の彼にはいい薬となり得るのだが――光属性を上手く抜き取れるのはルーシーかアリスのみ。

 ルーシーがアベスカを離れられないのならば、パラケルススに来てもらうしかない。

そういう理由もあって、ルーシーが転移の魔術で送迎をしているのだ。

 現在パラケルススは大方の治療を終え、魔王城にて休んでいる。


「うん! だからしばらく、魔王城でリョーヨーするって!」

「へぇー……そうなんですねぇ……」


 ライニールが意味ありげな返答をすれば、ルーシーがそれに気付く。

特に「裏切らないか、注意深く見ておけ」と周りから言われているため、疑心暗鬼――ほどではないが、ルーシーはライニールをさして信用していない。

 元々裏組織と繋がっていたこともあって、誰にも別け隔てなく接しているルーシーですら、彼を信頼するということは更に有り得ないことだった。


「あーしはいるからね? アリス様を裏切るような素振りがあれば……」

「そ、そそそそそんなことしませんって! 神に誓います!」

「神とかどーでもいいし。アリス様に誓えっての」

「誓います!」


 アリ=マイアの言う神など、ルーシーにとってはどうでもいい存在だ。

どうせいるかも分からない神である。

 それなのであれば、人々は〝アリス・ヴェル・トレラント〟という、現人神を崇め称えるべきなのだ。

――これは、幹部全員に共通する考えだ。


 慈悲深く、崇高で、この世の全てを凝縮せし我らが主。


 アベスカの人間は、殆ど同じような思考になっている。

……地位のある人間を除外して。

 ライニールを始め、大臣や神官はアリスを許容していない。

もちろん、いつの日だかに行ったライニールの公開謝罪の日に、ベルが実力を見せつけて脅したため従っている程度だ。

 しかしそれは武力で屈しただけだ。心の底から「アリスを尊敬する」と思わなければ、駄目なのである。


(でもでも、あーしにはそんな方法わかんないしぃ……)


 考えるのが苦手なルーシーには難しいことだ。

だから彼女に出来る最大限のことをやるだけ。とにかくライニールを監視して、アベスカの人間と仲良くなる。

 もちろん、後半においては完璧だ。既にルーシーによって、城の使用人達は懐柔されていると言っても過言ではない。


 そんな中、部屋の扉がトントンと鳴る。この部屋はライニールの書斎であるため、日中やって来る人間は多い。

仕事を持ってきた大臣から、今いるルーシー、兵士団のフィリップ達などなどだ。


「入れ」

「失礼致します。ルーシー様がいらっしゃると聞きまして……」


 入ってきたのは一般兵士だ。城の入り口の警備を担当しているものだった。

そして兵士が用のある相手は、ライニールではなくルーシーであった。

 パラケルススと違ってこれといった仕事がないルーシー。彼女にとって人に呼ばれるということは、珍しいことだ。

たまに使用人や、世話になった一般市民がお土産を持ってくることがあるが、その程度である。


「なになに? あーしに用事?」

「はい。治癒の魔術を使用できないかと思いまして……」

「んん?」

「その、パラケルスス様の診療待ち患者がおりまして。休み明けの畑仕事をしたいとのことで、痛めている腰を治して欲しいようです」


 一般市民の腰痛を治す程度、ルーシーには大したことない。

今一番辛いであろうパラケルススに代わってやれるならば、それを実行するのが当然のこと。

 ルーシーはお菓子を置いて、部屋を出ていく。もちろん、ライニールに釘を差すのも忘れずに。


「おけまる! 今行くよ~。じゃあ、あーしは出掛けるね」

「はっ、はい……いってらっしゃいませ、ルーシー様」


 ルーシーがヒラヒラと手を振って出ていく様を、ライニールは怯えながら見送った。

ようやっとこれで静かに事務作業が出来ると胸をなでおろす。暇な時にこうして書斎にやってくる彼女を、どうにか出来ないものかと毎度毎度考える。

 しかし文句を言えば首が飛ぶかもしれない。胃痛に耐えながら、ライニールは仕事をするしかないのだ。


 パラケルススが不在の中でも、こうしてアベスカは回っているのであった。

まだまだ終わらないのですが、次作のネタを考えつつあります。

次回は、前作(その悪魔は〜)寄りのサイコパス女が人を殺す話になるかもしれません。


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