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魔王城の見回り

お留守番組、ベルとディオンの雑談回です。

「パラケルスス殿ってよ、人間のメンタルケアしてたアンデッドだろ?」

「そだね」


 魔王城にて、そう会話をする二人はディオンとベルである。

防衛を任された二人は、城の異常がないか城内をブラブラと散歩していた。当然異常などあるはずがなく、ただ談笑しながら散歩しているようなものだ。


「治癒師とも聞いたぜ?」

「そだよ」

「そんなんが、やられちまうってことか?」


 まだまだ新入りであるディオンは、幹部の名前を覚えるので精一杯である。

だというのに城の管理や、軍の管理も任されていた。そして早々に防衛任務にあたっている。

 やっと見つけた暇な時間に、その足りない知識を埋めようとベルへ質問攻めをしているのだ。

ベルもベルで、見目麗しい男勝りなダークエルフと会話出来るというのは、精神的にも良いことである。なので彼女からの質問を拒否することなく、全て丁寧に答えているのだ。


「今回はたまたま、相性が悪かったんだと思う」

「相性ねぇ……。アンデッドだから、光属性をぶち込まれまくったってことか?」

「そういうこと。あたしもディーさんも、魔術特化でこられたら太刀打ち出来ないでしょ」

「そうだな……。距離を詰められねぇなら終わるわ。俺の拳が届かねぇ範囲から、やられたら最後だな」


 その瞬間を想像していたようで、ディオンの表情は一気に凍りついた。

ディオンレベルの機動力であれば、遠距離攻撃をかわしきれないことだって出てくるだろう。相手が勇者の仲間なのであれば、もっとそうだ。

 ベルはディオンにわかりやすく説明をしていたが、正直言えばベルにかわせない魔術などない。

あるとすれば、アリスかルーシーから放たれるものだろう。それか辺り一帯を包み込むほどの、巨大な範囲攻撃くらいだ。


 コロコロと表情を変えるディオンを見ていたベルは、突然真面目なトーンに声を落とした。

これだけは、ハッキリ言わねばならない事柄だったからだ。


「……でもね」

「あん?」

「だからって、パラケルススを虫けらみたいに屠ろうとしたのは、絶対絶対絶対許さない」

「……ハハッ」


 ちらりとベルの前髪から見えた――虫の瞳。殺意を持ったその目は、どこにいるかも分からない勇者へと怒りを向けていた。

 そんな強大な怒りを目の当たりにしたディオンは、体を震わせた。

これは強者を見た武者震いなのか、それとも恐ろしさからくる震えなのか。ディオンには分からなかった。


「だけどよー、防衛って何すんだ? まだ城はバレてないし、安全だろ」

「慢心しないで。アリス様は最悪を想定しているだけ。何よりドナネキ不在のハインツおじさま不在で、城の警備はがら空きなんだから。誰かが守らなきゃ」

「あー、つまり、別に勇者だけを警戒してるわけじゃないんだな?」

「そういうこと。隷属契約を結んでいるならまだしも、ただの口約束で配下についたものはいつ裏切るか分からないし」


 ベルはディオンを一瞥する。その視線の意味をすぐに理解したディオンは、少しだけ腹を立てた。

これだけ仲良く話をしていようが、やはりお前は信じていないぞ。そう言っているように聞こえたのだ。


 ディオンとて裏切る予定などない。

アリスに対して、裏切るなどと――そんな無礼な行為を働けるだろうか。

 弟があんな失礼とだけでは形容できない行為をしでかしたというのに、弟を殺さずして罪を償わせるだけでなく、母親まで癒やしてくれた。

 アリスは圧倒的な強者であり、ダークエルフ程度その辺の石ころのような雑魚にすぎない。それだというのに、あそこまでの慈悲を見せてくれた。

そんな存在を裏切るなどというのは、ダークエルフでなくても仁義というものに反するだろう。


「俺はそんなことしねぇよ」

「ディーさんには言ってないよ。まー、裏切ったら殺すけど」

「おー、こわ」


 ディオンがムッとした態度で答えれば、ベルは陽気に笑い飛ばした。言っていることは物騒だが、アリスに忠誠を誓う部下の一人としては正しい意見だった。

 とは言えディオンの弟であるヨルクを、愛玩用の奴隷として受け入れる程度には気に入っている。

つまるところ同じ遺伝子で似た顔のディオンも、ベルは気に入っているということだ。

だから出来れば〝裏切らない〟という言葉が本心であって欲しいし、敵対などして欲しくないのだ。


「それに防衛がガラガラだとバレたらさ。配下になってないものも、奇襲してくるかもしれないからね」

「それもそうだな」


 ヴァルデマル達だけがこの城を守っていた頃と違って、大森林には噂が流れている。

あの城には勇者を凌ぐ強者がいる、ヴァルデマルはそれに屈しているのだ――と。

 それが抑止力になっているのか、当初よりも奇襲という奇襲は減っている。

当たり前だがある程度知恵のある魔族が来なくなっただけで、頭の悪い魔物や魔獣の襲撃は定期的に起こっている。

 レベルは大したことのないものばかりなので、いつも簡単にあしらっているのだが――現在はその幹部も数が減っているのだ。

隙をついて強襲されてしまえば、多少の打撃があるというもの。


 アリス不在のこのタイミングで、城への損害が出る。それはどうやったって避けるべき事柄だ。

何よりもベルはアリスに対して数度か〝失態〟をおかしている。

戦闘時に己を制御できずに、アリスに迷惑をかけてしまっていた。

 だから今回はそれを挽回する――ではないが、期待に添えるように頑張りたかったのだ。


「ま、城の中はトマスとハリスを飛ばしてるから。大抵は大丈夫だよ」

「うげっ、あの気持ち悪いのか……」


 アベスカに常駐させていた片割れも回収し、今は両方とも魔王城内の防衛に当たらせている。

レベルは低いほうだが、大抵の魔族であれば簡単に殺せるだろう。

 城内にあの二匹が飛んでいるのだと知ると、ディオンはあからさまに顔を歪めた。


「なに? ディーさん虫嫌い?」

「いやっ……苦手でも嫌いでもねぇよ……。ただ……あの黄色い方、気持ち悪い」

「あー……」


 黄色い方――つまり、ハリスの方になる。

ハリスの種類は、現代で言う〝ヤママユガ〟である。ただの黄色い蛾ならばともかく、その模様は不気味である。

 目玉のような丸い模様が付いている羽根は、流石のディオンであっても気持ち悪く感じるのだろう。

 何と言っても普通の蛾と比べて、倍以上のサイズを誇る。

己の顔や手のひらよりも大きなサイズの蛾が、自由自在にそのあたりを飛んでいれば誰だって驚くだろう。


 とは言えこれをこう〝設定〟したのは、他ならないアリスである。

申告すれば思案ののち、何かしらの改良を施してくれるかもしれない。しかし〝蟲〟であるベルとしては、気に入っているのだ。

 だから彼女としては、あまりディオンに〝変えてもらうね〟とも言えない。


「慣れて?」

「……努力する。――ところでよぉ」

「うん?」

「こいつは……?」

「…………っ」


 ディオンに指をさされた青年は、話題にされたことと、恥ずかしさで顔を歪める。

こいつも何も、ディオンが一番よく知っている親族であり弟である――ヨルク・ヒミネ・スライネンである。

 違うところがあるとすればそれは――執事の服を着せてあるということ。

もとより美しかった顔には、ほんのりと化粧が乗せられている。そのせいか余計にコスプレ感が強まっている。


「やだなぁ、ヨルクだよ。ディーさんの弟でしょ。にしてもスタイル良いからさぁ、何着せても似合うんだよね。これもアリス様に頼んで作ってもらったんだ。なんかね! 今アベスカの洋服職人が、色々と作ってくれてるみたいで――」

「あー、おう。わかった、ワカッタ」

「そう?」

「おう。アリス様が言っていたことは分かった」


 ディオンはあの日にアリスが言っていた「ある意味強制労働や拷問、肉体奉仕に当てはまる。人によっては苦痛で嫌なこと」という言葉を思い出していた。

そういう意味だったのか、と小さく心のなかで納得する。特にプライドの高いヨルクにはもってこいの刑罰だった。

 ベルとヨルクは隷属の契約を結んであるから、ベルがどれだけオモチャにしようとも反論すら出来ない。

 今も、実姉であるディオンが目の前にいるのに、文句すら言えない。

屈辱で死にたいくらいに苦しんでいるのに、引きつった笑顔を見せるしか残されていないのだ。


「メイド服もあるよ! 顔がいいから女装も捗るんだよねー!」

「………………そうか」

「あ、ディーさん……見たい?」

「見たくねぇよ!」


 謀反を企てた弟が罰を与えているのだから、配下となったディオンとしては当然の報いとも言えることだ。

しかしながらどうにもこうにも、居た堪れない気持ちになるのであった。

ディオンとヨルクはよく似ています。

髪の毛が長いか短いか、くらいでしょうか。

あとは、ディオンが結構前線に出まくっているので、傷がめちゃくちゃ多いくらいですね。


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