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国外任務2

 パラケルススとシスター・ユータリスは、国を教えてもらうとすぐに部屋を出た。

善は急げということで、早速国を発つのだ。

 玉座の間に残っていたのは、二人を抜いた残りの面々だった。


「それでね。リーレイにも、調査任務に出てほしいんだ」

「僕が……調査任務、ですかぁ?」

「うん。そろそろもっと、外への見聞を広げないといけないし」


 現状――アリスが把握しているのは、アベスカとパルドウィン王国の一部だけだ。

アリ=マイアですらあと四カ国あるというのに、今回やっと二つ目の国に手を出す。

 それにもうすぐ戦争が近いパルドウィン、ジョルネイダとは違って――遠方のト・ナモミやリトヴェッタ帝国の情報は殆ど入ってこない。


「ですが……どぉして僕なんでしょお? ベルちゃんの方が〜、機動力隠密能力共に長けてますけどぉ」

「きついことを言うようで悪いけど、ベルは非常時のために手元に置いておきたい」


 先日の実戦テストでもそうだったが、近接戦闘とスピードに関して高いプライドを持っている彼女は、自分が負ける可能性が出てくると制御が取れない場合もある。


 ベルには悪いが――あの超スピードのまま、理性を失い蟲化したら収拾がつかない。

先日はアラクネ形態で済んだが、完全な蟲となったベルはアリスのことすら認識出来ず、暴走を続けるだろう。

 アラクネであれば、幹部何人かが集まれば何とか鎮静化できる。

しかし完全体になってしまったベルは、アリスが本気を出して相手しなければ止められない。

それこそ世界を脅かすレベルだ。

 だからベルは手元に置いておきたかった。


「で、お願いできる?」

「アリス様のお願いを断るなんて〜、幹部である以上出来るはずがありませんよぉ! 是非引き受けさせて頂きますっ!」

「ありがとう。それにあたって、守ってもらいたいことがあるんだ」

「はぁいっ」


 アリスは一呼吸おいて、約束ごとを話していく。

主人の命令をしっかりと覚えようと、リーレイも集中して話を聞いた。


「重きを置くのは、あくまで情報収集。不必要な戦闘は避けること」

「分かりましたぁ♡」

「もしも戦闘になるようなら、まずこちらに報告。それすら出来ない緊急事態なら、一度撤退。リーレイの機動力ならすぐに逃げられるでしょ?」

「もちろんですぅ!」


 寧ろ幹部のトップ2であるリーレイが、逃げきれない状況こそまずいのだ。

勇者を凌ぐ存在が顕現したということになる。

それはアリスにとって、非常に悪い事態になる。だからアリスはそんな事態は想定していない。


 アリスは〝神〟を自称する男に、直接言われて今の魔王をやっている。趣味も兼ねているがそれは置いておこう。

 先日のジョルネイダ公国における勇者召喚も、神としては想定外の事態。本来であればこの世界にあるべき勇者というのは、あのオリヴァーなる少年のみ。

 だから、アリスに危害を加えられる高レベルな存在は、いないと踏んでいるのだ。


「あと定期連絡を怠らないこと。長い目で見て一週間。もしもそれ以上かかるような難しい状況に置かれるようなら、私の方から即座に帰還させる」

「承知しましたぁ。……あのぉ、アリス様はご多忙だと思うので〜、もしもタイミングが合わなかったらぁ……」


 アリスは基本的にフリーの立ち位置だ。

なにか大きなことをする際は、事前に幹部に相談などするが――大抵は好き勝手に動いている。

 だから通信時にアリスと会話できない場合があるのだ。万が一アリスが戦闘中ならば、通信を特に取りづらいだろう。

当然、戦闘相手が雑魚であれば簡単に受けるかもしれないが。


「うーん。最初は私が連絡を取るよ。それで忙しかったら、誰かに回す。もしも連絡すら取れなかったら、エンプティかハインツを優先的に。あとは……エキドナかな」


 メンツ的には、基本移動を必要としない面々だ。魔王城にいて、なにか仕事をしている三人が候補に上がる。

 魔王城でやっている仕事は、外に出ている幹部と比べて中断しやすい。

大きな襲撃がない限り、一旦仕事を止めて通信に専念することが出来るのだ。


「魔王城に常駐されてる方を、優先すればいいですかぁ?」

「そんな感じかな。みんなもいいよね?」

「構いません!」

「問題ありませんわ」

「承りました、承りました……」


 候補に上げられた三人が返事をした。この三人であればリーレイから情報を受け取った際、意見交換を更にスムーズに出来るだろう。

 全ての命令を聞くと、リーレイは子犬のように目をうるませて、アリスを見上げていた。

エンプティが心配性の長女気質ならば、リーレイは甘え上手で調子のいい末っ子なのだろう。

アリスからの言葉を待機しているのだ。


「……ちゃんと守って情報も手に入れられるなら、ショッピングしたりしてていいからね」

「わぁい! ありがとうございまぁす♡」


 ほしかった言葉を聞けてリーレイはご満悦である。

 リーレイは人形という設定なので、もちろんその能力に〝着せ替え(へんしん)〟も存在する。

その影響なのか、ファッションやコスメティックスが大好きなのだ。

その点からすればルーシーととても気が合うだろう。

 だから異国の地のそういった文化を、見て回りたくてウズウズしているのだった。


「それでぇ、どこに行けば〜?」

「川の向こう、リトヴェッタ帝国だよ」


 アリス達にとってまだ未開の地である、帝国・リトヴェッタ。

パルドウィン王国とジョルネイダ公国が、毎年のように戦争を繰り広げているのにも関わらず、まるで高みの見物をするかのように話題に上がらない。

それに、何と言ってもリトヴェッタは――


「世界最大の国、でしたっけぇ?」

「そうそう。えーっと、ほらこれ」


 アリスが魔術空間から取り出したのは、丸めてある世界地図だ。

現代の地図に比べれば荒くて雑なものだったが、あるとないとでまた変わる。

 そんな地図を空中に放り投げると、宙でピタリと止まる。ひとりでに地図が開いていき、ふわふわと浮いている。

座っている幹部にも見やすいように、地図を垂直に立たせて説明をする。


「確か一番山脈とかも多くて、なおかつ森林地帯や雪山もある。居住区だけを考えればパルドウィンとさして変わりないらしいけど……でも、大きな国だよね」

「アリス様。あの、愚かな私に教えて頂きたいのですが……」

「うん? どしたの、エンプティ」

「未知の国であるならば、どうしてト・ナモミではないのでしょう? 巨大な河川がありましても、距離的には近い気が致します」

「うーん……」


 ト・ナモミは、ある意味メインディッシュだ。

恐らく神が娯楽で作成した、明らかに日本文化の垣間見える国である。

だからそんなある種母国とも言えるト・ナモミならば、リーレイの遠征ではなく、アリスの訪問として情報を得たかった。

 ハッキリ言うならば、自分で行きたいからリーレイには別の国を与えたのだ。


「私がこの世界の人間じゃないのは、言ったよね?」

「はい。全員が存じております。……いずれ、行ってみたいです」

「ふふっ。ト・ナモミはね、その世界、国の――昔の姿に似てるみたいなんだ。だから、出来れば自分で行きたいなぁって」

「……な、なんと……!」

「おぉ……!」


 アリスがそう言うと、幹部の全員が声を上げた。

感動しているものもいれば、ソワソワとしているものもいる。行ってみたい、と言ったエンプティはキラキラと目を輝かせている。


「だから、リーレイは帝国をお願いね」

「はぁい! まっかせてくださぁい♡」



 ◇◆◇◆



「アリス様」

「んー?」

「新人にそんな重大な仕事を、任せてよかったのですか?」


 リーレイも布教チーム同様、命令を賜るとすぐに部屋を出ていった。

残った魔王城常駐組との予定調節も終わり、玉座の間にいるのはアリスとエンプティだけだ。

 エンプティは至極不安そうに、アリスに尋ねる。


「私が作った子だよ? 大丈夫でしょ」

「ですが、あの少年……。言動も軽々しいですし、いささか不安です。実戦テストでも、すぐに頭にきていたようですし」


 その点を突かれたら痛い。

アリスだって、ベルが正気を失いかけるくらいに白熱するとは思わなかったのだ。

 あの戦闘においては、ベルが自身についてこれる存在に興奮したこと、それによりリーレイが大好きな洋服を汚されたことが原因だ。

幹部達の衣装は基本的には低レベルの攻撃には耐えられる上に、ちょっとやそっとでは傷がつかない。

 だから200レベルであるリーレイが傷つけられることなどない。つまり、リーレイが無闇に激怒する場面がないのだ。

そういった理由で、アリスは大丈夫だと判断していた。


「まぁ、ね……。でもベルならまだしも、リーレイだから万が一があっても対処できる。手元に最速のベルがいれば、〝もしも〟があった時にリーレイに対処できるでしょ?」

「なるほど、確かにそうですね」

「……でもま、リーレイはベルの完全な下位互換ってわけじゃないから。〈僕を抱きしめておくれ(ラガディ・アンディ)〉もあるし……油断はしないでね」

「はい!」

口内炎が治った箇所に、また口内炎ができました。

ボヌです。

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