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補填1

「……と、言うわけで彼らが新しく加わったメンバーだよ」


 魔王城、玉座の間。

アリスは全員を集めていた。アベスカに出張していたルーシーとパラケルススも含め、幹部全員がその場に会していたのだ。


 それはもちろん、新たに手に入れた部下の情報を共有するためだ。


「はじめましてぇ、みなさん。僕はリーレイって言いまぁす♡」


 リーレイ。

可愛らしい少年でもあり、少女の可憐さを併せ持った〝男の娘〟である。

 斜めに切り揃えたぱっつんの前髪は淡いブルーをしていて、サラサラのセミロングヘアだ。

キラキラと輝く瞳はガラス玉で、彼が人形であると主張する。陶器のような白い肌は、ほんのりと各所が赤く色づいている。

 大きなフリルのシャツに、グレーのスカパンを纏っている。ちらりと覗く関節は、人形によくある球体関節だ。


「リーレイはみんなと一緒で200レベルだから。ステータスは……まぁ各自で見てくれればわかると思うけど、機動力高めかな。あと変装が得意なんだ」

「はぁい! いっぱいお着替えできますよぉ」

「アリス様! あたしより速いんですか!?」

「ベルよりは遅いよ~」

「よ、よかった……アイデンティティが……守られた……」


 焦っているベルを横目に、残りの一人の紹介をすすめる。


「じゃあ次ね」

「はい。シスター・ユータリスと申します」


 淑やかにニッコリと微笑む顔は、どうも不気味で胡散臭い。

――シスター・ユータリス。

 その名の通り修道服を纏った女だ。ウィンプルから覗く頭髪は、きらきらとしたプラチナブロンドである。

深い青の瞳が、何でも見透かすように周りを見ている。


「彼女のレベルは180。拷問官で知識人だよ。ヨナーシュ達が知らないことも知ってるから」

「お任せくださいませ」

「ではあの雑魚共は解雇ですね?」


 微笑んで嬉々として喋るエンプティに、少し呆れながらもアリスは否定する。

貴重な高レベルの人員を「はい、さよなら」と切り離せるほど、アリスも有能ではない。


「ヴァルデマル達にも使い道はあるから……」

「失礼しました」

「それじゃあ、みんな二人と仲良くねー」

「御意」


 紹介が終わると、アリスは玉座に腰掛けた。

リーレイとユータリスも各々の場所へと戻り、アリスへ傅く。

 久々に幹部全員が揃ったのだ。ここで少し情報共有をしておくべきだろう、とハインツが口を開く。


「しかしッ、ジョルネイダも勇者を手に入れるとは! 我々の存在を感づいたのでしょうか!?」

「んー、そうでもなさそうだけど?」

「それよりは純粋な戦力として召喚したようですぞ」

「というと?」


 アリスもオリヴァーから、詳しい話を聞いたわけではない。

新たな勇者が戦争に参加する可能性がある。それくらいで、魔王の存在を見たとかそういう話は言っていなかった。

 そんな中パラケルススが民から聞いた話を、みなにわかりやすく喋り始めた。


「パルドウィンはそろそろ戦争が近いですからな。パルドウィンの勇者どもは棄権するそうですが、ジョルネイダはそれを知りませぬ。ジョルネイダはパルドウィンの勇者が参戦する前提で、調達したんではないですかな」

「それが一番聞いた中で、もっともらしい理由だねぇ……」

「では〝神〟という存在は、いずれ牙を剥くであろう新たな勇者に備えて、我々にも新たな戦力を与えたということですねッッ!」

「そうみたいだねー」


 あの場で神と会話した限りでは、今回の勇者召喚は本当にイレギュラーであったように思えた。

しかしながらあまりにもベストタイミングすぎるせいで、それも信じて良いものか分からなくなる。

 兎にも角にも、アリスは新たな部下を得られた。

この世界での強者を手に入れるのが難しい中で、そういった部下を増やせたことは貴重であり大事なことだ。

何よりも永遠に超えられない――1レベルを突破した部下を得られたのは、強みの一つだろう。


「アリス様、発言をお許しください」

「ん? いいよ、エンプティ」

「その二人の、身体検査をされては如何でしょう?」


 エンプティの発言に、アリスは感心する。

エンプティの言う〝身体検査〟というのは、身長や体重をはかることではない。

与えられたスキルを使いこなし、習得済みの魔術の発動、戦闘能力を始めとする有している能力のテストだ。

 別にアリスを、部下を疑っているわけではないが、生み落とされたタイミングが異なるがゆえに心配なのだろう。

新しいことには、エンプティの心配性がつきものだ。


「創造されたばかりの身、これからなにか任務に当たるとしても、十全に動けなければ大問題です。我々も当初は手探りでしたから、事前に確認出来たらと……」

「そうだね。じゃあ移動しようか」

「アリス様! あーしとパラケルススは、アベスカに戻っていいですか~?」


 アリスが玉座から腰を上げると、ルーシーが挙手して発言する。

アベスカ組は時間を空けさせてもらい、わざわざ魔王城へ戻ってきてもらっていた。一時的とは言え時間を割いてもらっていたのだ。

 ルーシーはまだしも、パラケルススには仕事があるのだ。

 部下の能力テストなんて全員いなくても滞りなく進むわけで、アリスが二人の帰還を拒否する理由にもならない。


「仕事中に呼び戻したんだっけ。いいよいいよー」

「ありがとです!」


 パラケルススとルーシーは、頭を下げるとそのまま転移の魔術でアベスカへと戻っていった。

 残った部下達は、テストのための舞台へ移動するべく立ち上がる。


「じゃあ行きましょお~!」

「私も戦闘テストがあるのでしょうか? あまり得意ではないのですが……」


 歩き出そうとするリーレイとシスター・ユータリス。

だが残っている他の面々は動こうとしない。むしろ歩いていく二人を不思議な目でみていた。

 誰も扉へ向かう二人を止めないので、口を開いたのはアリス。


「ちょっと待ちなさいな、お二人さん。この城はアホみたいに広いんだから。バカ正直に徒歩なんて駄目だよ」

「アリス様はよく迷子になられるから、いちいち歩かれないのよ。大抵は〈転移門〉を使われるわ。覚えておきなさい」

「エンプティさんは一言多いぞ?」


 アリスは血色の悪い白い肌を真っ赤にしながら、エンプティの肩を叩く。

図星だったからに他ならない。せっかく格好良く〈転移門〉を見せて驚かせようとしているというのに、エンプティが事実を言ってしまうのだから。

 アリス以外、幹部は部屋を把握している。全てとは言わないが、アリスよりもこの城を歩き回る時間が長い故だろう。

エキドナ、エンプティ、ハインツは特にそうだ。城の改築と防衛を任されている以上、知らない施設があるのはおかしいのだ。


「もう。……ごほん。じゃあ行こうか」


 アリスは改めて〈転移門〉を召喚した。慣れた様子でみながそこに入っていく。

通った先は格闘場。アリスも他の幹部もよくお世話になっている、練習場だ。



「じゃあまずユータリスね。スキル2つは……今は使えないから、捕虜の上級悪魔にでも使って試して。〝本〟は使える?」

「少々お待ちを――〈教典(リベレーション)〉」


 シスター・ユータリスがスキル名を告げると、どこからか分厚いハードカバーの漆黒の本が現れる。

シスター・ユータリスの前でふわふわと浮いているその本は、彼女からの次の動作を待っている。

 そして彼女が表紙を指でゆっくりとなぞれば、なぞった部分から血液のような赤色が広がっていく。全体が真っ赤に染まると、今度は本がひとりでに開き始めた。


「作動はするみたいだね。それじゃあ……ジョルネイダで一番偉い人は?」

「はい。えぇと、テオフィル・ル・シャプリエ大公ですね」

「よしよし、大丈夫そうだ」


 〈教典(リベレーション)〉はシスター・ユータリスのスキルの一つ。

この世界に関する知識が全てそこに書かれている。

アリスは知識人としてヨナーシュを買っていたが、それは彼の知見したことのみにすぎない。

アリスの本当に知りたいことを知らない可能性だってある。それをどうしても避けたかった。

 今後シスター・ユータリスは、幹部の知識人として重宝されることだろう。

それはアリスに限った話ではなく、エンプティやハインツなどもよく関わってくることだ。だから誰もがシスター・ユータリスのスキルを見て、関心を寄せていた。


「というわけで、このスキルは世界のすべてが詰まってる。もしも分からないことがあったら、ユータリスに聞いてね」

「了解致しました!!」

「かしこまりました、アリス様」

「あー、あと、彼女の他のスキルは拷問向きだから……、ハインツ。後でテストしてもらえる?」

「なんと! 承知しました!」

「じゃあ次はリーレイかな。ベル、おいで」


 リーレイが前に出て、呼ばれたベルも前に出る。

シスター・ユータリスは戦闘向きとは言えないので省いたが――リーレイは戦うことが出来る。

なんと言ってもベルに次ぐ機動力を持っているので、相手にできるのはベルかアリスだけだ。

 他の幹部は邪魔にならないよう下がっていく。全員が下がったのを確認すると、アリスが口を開いた。


「スピードがちゃんと出るか確認するだけだから。武器は禁止ね」

「はいはーい」

「わっかりましたぁ♡」

「それじゃあ――はじめ!」

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