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転移、ご対面

「な、何だこれは!」


 誰もがそう声をあげた。

 勇者一行を乗せた王国の船たちは、まばゆい光に包まれていた。一隻残らずすべての船が、謎の光に覆われていたのだ。

 乗組員達も、王国兵士も、オリヴァーも、誰もが混乱している。

 一体どこから仕掛けられているのか。術者も見えなければ、魔術の展開した様子もわからない。そしてオリヴァーも大魔術師であるマリーナでさえも、その魔術を知り得なかった。

 だから対策のしようがなかった。回避をしたくとも、魔術を知らない以上何も出来ることはない。


「攻撃されているのか!?」

「わかりません!」

「くそっ、全員戦いに備えろ!」


 わけも分からずに武器を構える。兵士の中にいる魔術師も、キョロキョロと見渡すだけで何も理解出来ていないのだ。

 中には怯え始めるものも出てくる。得体のしれない魔術に、突然かかってしまった。

 攻撃を受けているのかも分からず、勇者と元英雄も何も対処していない。あぁ、こんな船の上であっけなく死ぬのだと、覚悟を決めていた。




「……仕掛けてきたのか」


 そう呟くのは、ヴァジムだ。

 船の上が混乱に包まれるなか、彼は腕を組んで仁王立ちしている。歴戦の猛者だけあって、肝が据わっているのだろう。

 魔術を理解できなくても、ここで死ぬことはないと勘が言っているのだ。


 だが宣戦布告をされたときのように、今回も魔王側から仕掛けてきたのには変わりはない。

 先手を打てなかったことに、ヴァジムは酷く顔をしかめている。

 全てが魔王軍のペースで動いているようで、彼としては不服なのだろう。


「そうだね、父さん。そういうことになる」

「お前が恐れるほどの魔王か。気を引き締めないとな」

「……うん」


 そんな会話をしていると、船を包んでいた光は、目を開けていられないほどに大きく輝きを持った。



「……くっ」

「なんだ、ここは……?」

「おい、船は!?」


 次の瞬間、まだ光に当てられて視界が白くぼやけていた彼らは、転移の魔術で移動をさせられていた。

 今の今まで船に乗っていたはず。だが彼らが立っているのは、知らない森の中だった。


 兵士達は混乱しつつも、状況を確認しようと周りを見渡す。

 この場所に転移させられていたのは、王国軍の兵士全て。そして力のある魔術師や騎士など数名。

 周りを見渡せば、勇者たちが一緒に転移してきていないことに気づく。もっとも希望があるといえる彼らがいなければ、相手にする化け物によっては、絶望の結末が待っている。

 

「ま、まて、勇者様達は……!?」

「本当だ、オリヴァー様がいない!」

「落ち着け!」


 ビリビリと響き渡る大声。その声の主は、ブライアン・ヨースその人だった。普段は穏やかな彼だが、この緊張感の漂う戦場では一変する。

 騎士団を率いるに相応しい人物へと変わるのだ。

 ブライアンの声を聞けば、ざわめいていた兵士達は沈黙する。不安だった心も、多少は落ち着いたようだ。

 それもそうだろう、一緒にこの場に転移してきたのは、あのヨース夫婦だった。


「まずは状況把握からだ。この場所を知るものは?」


 返ってくるのは何もない。ここを知る人間は、だれもいないということだ。一同は黙り込んでしまった。

 ブライアンもそれを分かっていた。

 禍々しい雰囲気、辺りに充満している瘴気。前回の魔王戦争の際にここまで来たことはなかったが、ここが魔王城近郊だと分かるには十分すぎる情報だった。


「……だろうな。この瘴気の様子からして、きっと魔王城付近に違いない」

「となると、先程の光は転移の魔術でしょう」

「そのようだ。ノエリアの知識には……」

「……ないわ」


 二人の知識に、先程魔王軍に使われた魔術は、存在しない。騎士団として部下を率いて、魔術師としてその知識と魔術を振るってきた。

 けれども、そんな彼らも知り得ない魔術。

 あんな膨大で巨大で、王国から来ていた全てを飲み込んだ恐ろしいものを、二人は知らなかった。

 それはいうなれば、王国の全ての知識を持ってしても、解明できないということだ。

 ブライアンはその事実に震えながらも、これから始まる戦闘に覚悟を決める。


「既に戦いは始まっているのだな……。よし。みな、固まれ! 気を抜くな!」

「いつでも展開できるようにしてください!」


 ブライアンはノエリアと共に、部下に指示を出した。

 ここはもう既に敵の領域。いつどこから、攻撃が降り注ぐかも分からない。

 それに、アイテムなどで補完しているとはいえ、いつまで兵士達がこの強い瘴気の中耐えきれるのか。その問題もあった。

 相手の好き勝手にされている上に、時間にも縛りがある。長期戦はより不利となるのだ。


「――良い判断だッッッ!!!」


 突如としてこの場所に、先程のブライアンの声を遥かに上回る声が響いている。空気が振動し、地面が揺れる。木々がザワザワと音を立てて、とまっていた鳥達は一斉に飛び出した。

 何もかもを揺らすその怒号は、その場に居た誰もが驚愕していた。

 そして何よりも、誰もその声を――その声の主を知らなかった。


「!!」


 声の方へ振り向けば、そこにいたのは巨大な男。身長もさることながら、筋骨隆々の体格はあのヴァジムが並んでも引けを取らないだろう。

 黒と灰色が基調の容姿は、地味な色ながらも、彼の人柄がそれらを払拭させる。

 まるでそこに巨大な龍でもいるかのように、錯覚させるのだ。凡人であろうとも、彼からひしひしと伝わるオーラは、そのように感じ取れた。

 それはもちろん、〝まるで龍のように〟という言葉が、ただの比喩ではないのだ。

 人の姿になっているものの、彼はれっきとした竜人である。


 彼こそが、アリス率いる魔王軍の幹部が一人。ハインツ・ユルゲン・ウッフェルマン。


「……ッ!」


 ヨース夫婦が驚いたのも無理はない。ハインツの後ろには、大量の魔獣や魔族が並んでいたのだ。

 秩序もあり、統率も取れている。ハインツの指揮を待ちつつも、勝手に飛び出そうとしていない。

 しっかりと訓練された者達なのだと、一瞬で理解が出来た。


 それはまるで、王国軍にも似た兵力。指揮官と、大量の兵士。

 ブライアンは完全に〝こちら側〟の戦力を理解し、戦う場所に配置されたのだと分かった。

 いくつも上手を行く魔王軍には、もはや驚きという感情より恐怖が勝る。果たしてどれほど、こちらの戦力を知っているのか。


「貴様はヨース一族の現当主だなッ!?」

「……魔物に名乗る名などない! 行くぞ、お前達!」

「そうか、それは残念だ! ではこちらも――行けッッ!」


 ハインツが叫ぶと、ずっと待機していた魔物達が一斉に飛び出した。

 彼らは口々に「ハインツ様のために!」「アリス様のため!」と声を荒らげている。

 ブライアンが過去に聞いた話では、前代の魔王は統率が十分に取れていなかった。だが今はどうだろう。

 誰かのために命を張って、魔物達はいきいきとしている。恐怖による支配というよりかは、仲間意識に近かった。

 たかが魔物。それだというのに、まるで人間にも近い団結力。

 統率が取れているのは分かったが、ブライアンにはどうしてソレが可能なのか、理解が出来なかった。


 大勢の人間の兵士と、魔物達が激しい音をあげてぶつかり合う。魔術が飛び交い、剣が引き裂く。

 盾役が守りながら気を引きながら、アタッカーが攻める。

 ――それは、魔王軍も同じだった。


 長い年月をかけて、ブライアンは兵士達を育成してきたはずだった。

 けれど、人間という種族はとても弱い。

 人を捨てて高みを得るために、魔人となってしまう人々に同意をする気はないが、この場において人間が遥かに弱いのは即座に証明された。


 パルドウィン王国は、ただの一般兵士にも武器の配布を惜しまなかった。しかも安物の壊れやすいものではなく、貴族や上官が纏うような鎧に武器、魔術師にはアイテムを授けた。

 それは、あの勇者が焦って常識も忘れるほど急いで訴えてきたことが、大きい。

 だからこの場において、誰もがパルドウィンきっての戦士だった。

 だが森の中に響いているのは、その武器が呆気なく砕け散っていく音だけだ。


「ふむッ! 魔族というだけあって、やはり少しは有利だな! まだスキルの付与は必要が無さそうだッ」

アリス戦はもう少し先です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハインツや幹部達の活躍が楽しみです! [一言] ps5でしたか笑 ps5すごく高くないですか!?
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