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次なる候補

 リーベとディオンが、ウレタ・エッカルト魔術連合国に遊びに行った、同時刻。魔王城ではアリスと幹部が、今後の話し合いを行っていた。

 と言うものの、いつもの玉座の間に、全員が詰めているスタイルではない。一部の面々は仕事があるため、通信にて参加していた。アリスは幹部の執務室にて、寛ぎながら参加している。お菓子を頬張りつつ、紅茶を飲む。重要な話し合いの間、それが許されるのはアリスだけだ。

 視界の端では忙しなくハインツやエンプティが動いているが、アリスはだらけているのだ。


「オベールですか!」

「うん。ただし、今回は友好は無理かな」

「なんと!」


 アリスの次なる目的地は、オベールであった。オベールと言えば、マイラのプロパガンダで使われた国だ。相当盛りあがっていたと聞いているし、魔王軍であるアリスからすれば好印象は抱けない。

 アリスは目を細めて、不快そうに表情を作る。

 彼女は今の今まで、〝制圧〟と言うよりも、もっと優しい方法で国を手に入れてきた。

 アベスカは手中に入れるまで大層時間をかけた。ウレタやエッカルトも滅ぼしたのはアリスではないし、その滅んだところを新たに作り上げている最中だ。

 アリスは、手に入れた国でひとつとして魔王のような素振りをして来なかった。たまには悪役になることが必要だ。そもそも、本来悪役としてこの世界に顕現したのだ。


「パラケルススのこともあるし、あんまりいい印象がないから。もちろん、投降するなら受け入れるよ」

「流石はアリス様! ご寛大な対応です! それで、誰をつけて行きますか!」

「んん〜〜」


 ハインツに供回りを聞かれ、ふと考える。誰がまだ一緒に行動していないだろう、と。

 ハインツは初陣で、共にアベスカを制圧した。エンプティも先日、一緒に出かけたのは記憶に新しい。かと言ってパラケルススは暫く魔王城もしくは、アベスカから動かしたくはない。

 ルーシーは魔術連合国で大忙しだ。

 となると、出る答えはひとつ。


「ベルかな」


 アリスがそう言うと、沈黙が降りた。ベルはこの場にいるはずなのに、返事がなかったのだ。幹部たるもの、アリスの言葉には即座に反応すべきもの。

 作業や敵に追われているのならばまだしも、忙しく動き回るハインツやエキドナに比べればベルは暇だ。


「どうしたッ、ベル!」

「あのー、えっと。あたし、辞退しても?」

「えぇ?」


 不思議に思ったハインツが声を荒げれば、ベルからやっと返答が来る。しかしそれは、幹部が考えていた返答とは真逆だった。

 アリスからの誘いであれば、みなが喜んで了承するだろう。エンプティを見ればそれはよくわかることだ。

 アリスの子供たる幹部は、ハインツやパラケルススですらもアリスを愛している。供回りに選ばれるということは、相応の信頼を寄せられているという証拠だ。


「アリス様の前で何度か失態をしてますし、他国に出てどうなるか分かりません……」

「あ、そう……」


 彼女の自覚している通り、ベルはミスが目立つ。アリスは気にしていなかったが、本人としては気になっていたのだ。

 初めてこの世界にやってきた――魔王城を侵略する時もそうだ。己の武器たる〝蛾〟に敵の追跡を任せておきながら、肝心の本人がそれを見失っていた。リーレイのテストでの暴走や、故意ではないとはいえアリスを刺してしまったこともある。

 何よりも〝侵略〟に向かうのであれば、戦闘は必須。ベルが戦うことにはなんの問題がなくとも、〝気分〟が乗ってしまった彼女を止めるのは難しい。

 だからアリスも強く言えなかった。慎重さを求める作戦ではないが、かと言って暴走を許容できる作戦でもない。オベールの人民を全て殺すわけではないのだから。


「エキドナは如何ですか?」


 悩んでいるアリスに声をかけたのは、まさかのエンプティだった。一同がエンプティを見つめる瞳は、驚きに染まっている。誰もが「ありえない」という表情を作って、エンプティに視線を注ぐ。

 いつもの彼女をよく知る面々だからこそ、ここまで驚愕してしまうのだ。


「え!?」

「え?」

「え、エンプティが……他人を勧めている……? 私に……?」

「もうっ!」


 そしてそれを口にしてしまったのは、もちろんアリスだ。アリスが口にすれば、エンプティは心外だと言わんばかりに怒っている。本気で怒らない――怒れないのは、アリスが相手だからだろう。

 頬を膨らませて、可愛らしく怒ってみせている。


『あ、あの……わたくしで宜しいのでしょうか、でしょうか……』


 そんな話の中で声を上げたのは、エキドナだ。彼女は彼女で、別の仕事があるため別室にいる。通信魔術で、みなの声を聞きながら参加していたのだ。発言こそなかったが。

 元よりエキドナは同じ場に会していても、めったに発言をしない女だ。通信であろうとなかろうと、さして変わりはない。そんな彼女が申し訳無さそうに口を挟んだ。


「エキドナが働き詰めなのは、誰もが知ってるわ。たまにはアリス様と出歩きなさい」

「ふむふむ……」


 アリスは感動していた。この世界に来てから〝生きて〟いる様子は、全て彼らの意志によるもの。アリスが性格や見た目を設定すれど、あとは彼らの自由だ。好みの服が出来ればそれでいいし、新たに別の性格になってもいい。

 アリスの補助をして邪魔さえしなければ、なんだって良かった。

 だから、こうして〝良い意味で〟成長しているエンプティに、感動したのだ。今までアリスに対する過保護が働いていたが、ここにきてエキドナを労うような発言をしている。普段のエンプティからは考えられない行為だった。

 エンプティが珍しくそんな言動を取っているが、エキドナはまだ落ち着きがなく、納得していない様子だ。


『で、ですが……その……お城は……』

「安心しろ、エキドナ! 大森林に住む魔族は殆どこちらについている! 勇者が来ない限り心配はないッ!」

「そうよ。アリス様もご不在になるのだから、その時は呼び戻すわ」

『御二方……』


 エキドナが心配していたのは、城に関して。絶対的で圧倒的な防御を誇る彼女は、それを理由にほとんど城から出ていない。本人もそれに納得していたし、エキドナの代わりが出来る幹部がいないこともみんな分かっていた。

 だが当初とは状況が変わっているのだ。今や大森林に住む魔物や魔族達は、アリスに従属している。それに調査の結果、大森林にはアリス達に勝てるような存在はいない。幹部最硬を誇るエキドナがいなくとも、奇襲には耐えうるのだ。


「リーベも連れてくけど……いいよね?」

「我々に許可を求められているのですかッ!?」

許可(そんなもの)不要です。アリス様のお好きなようになさってください♡」

「ありがと」


 とはいえ、リーベに〝食事〟を与えられるのは、アリスとルーシーくらいだ。だから少年のためにも、連れ回さざるを得ない。

 帰ってくるのが何時になるか分からない作戦のため、リーベと長く離れることは彼を死に追いやるも同然なのだ。せっかく手に入れたものを、そんな離れただけで失うなんぞ笑いものである。


「どちらにせよ、連れていかないとリーベが死んじゃうもんね……」

「それも一理ありますねッッ!!」


 アリスの魔力が大量に流れるリーベは、もはや幹部にとって大切な存在だ。頭では忌々しい勇者の子供だと分かっていても、体や本能が〝アリスのもの〟だと認識している。

 そんなリーベを見殺しに出来るような幹部はいないのだ。


「じゃあリーベが帰ったら、すぐにでも発つよ」

「はッッッ!!!」

「畏まりました」


 各々が返事をすれば、今回の話し合いは終了した。アリス率いる新たな魔王軍は、アリ=マイアを手にするべく動きだしたのだった。

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