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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 前編  作者: ボヌ無音
第三章 幕間 それぞれの思い
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人を捨てた者2

 ウレタの首都に、激しい爆発音が響き渡った。程なくして住民が叫ぶ声が響く。

時間は深夜。誰もが眠る夜中の真っ只中に、襲撃されたのだ。

まだ被害にあっていない王の城も、同じ頃にみなが目覚めた。

 すぐさま外へ目をやれば、その惨状に誰もが絶句した。

 それは王であるリュディガー・アスラク・ウレタも一緒で、みなが集まる大広間にやって来て疑問を投げかけている。

一緒にやって来た妻であり女王であるキャロル・ノーラ・ウレタも、心配そうに外を見つめている。


「なんだ!? 何があった!」

「ドラゴンです!」

「ドラゴンだと!? このウレタでか!?」


 この世界の国である以上、魔物の存在は否めない。

しかしながらウレタには、ドラゴンが存在しない。あるのは隣国から飛んでくる砂嵐ばかりだ。

だからそんな報告を上げた兵士を疑ってしまう。

 そして何よりも、そんな事態になるなんて〝お告げ〟はなかったのだ。


「姫の予言にはあったか!?」

「い、いえ、ありません!」

「一体どういうことなのだ……」


 リュディガーは頭を抱えた。疑おうとも、目の前に広がる火の海は現実。

街から少し離れた城にすら、悲痛な声が届いてくるほどに。

そして上空に群がるはドラゴン。話に聞いた通りの姿で、人々を街を襲っている。

 王の視界の端では、兵士達が忙しく動いていた。

真夜中だというのに戦いに向かうのだ。大臣らが必死に指揮をとり、各兵士に武器を渡したりと忙しない。


「街が既に火の海です! 国王、あなただけでも……」


 兵士の一人が言った。

王であるリュディガーは逃げるべきだ。国の宝である国王は、守られるべきだ。

 まだ城には攻撃の手が伸びていない。気付かれずに逃げるなら、今このタイミングだ。

もし見つかってしまっても、残された兵士で必死に抵抗してやる。それくらいの思いでいた。


 しかし、リュディガーから返ってきた言葉は、その兵士の逆を行くものだった。


「……ならん」

「ですが! 我らの光であるあなたが死んでしまっては!」

「私はお前達と共に戦う。代わりに娘のマリルを、()()()()()()()()()()()()()()。キャロルもそれで良いな」

「ええ、あなた」


 兵士はこの状況で言い放ったリュディガーの言葉を、その言葉に含む本当の意味を理解した。

この状況で、他国にまで援軍を頼みに行けば――戻ってきた時どうなっているか。そんな事誰だって分かるだろう。

だから何も言わずに黙っていた。

 しかしこの場でそれを否定したのは、誰でもない娘の――マリル・キャロル・ウレタである。

彼女はリュディガーの言葉を理解していたが、それでも否定したかった。


「な、なにを仰っているのですか、お父様!? わたくしも最期まで共に戦います! わたくしは聖女です!」

「マリル……」

「どうしてそんな残酷なことを告げるのですか、わたくしが何か……」


 聖女として国の為に尽くしてきた。王女として国の為に頑張ってきた。

それはマリルが良くわかっていることで、ここにいる兵士ですら知っていることだ。

だからマリルが一緒に戦いたいという気持ちは、とても良く分かる。

 しかし、リュディガーもキャロルも、国王と女王以前に、一人の親である。娘が愛する国のために戦うことは、とても良いことだろう。

国を統べるものとしては、喜ばしいことだ。


 しかし愛する娘を持つ親からしてみれば、辛く苦しく悲しいものだ。

いくら国のためとはいえども、命を落とす娘を見たくない。望めるのであれば、自分よりもうんと長生きして欲しい。

孫に見守られて、笑顔で、後悔しないまま。

 ただのわがままであった。しかしそれを望んで良いくらいには、国から愛されていた。

リュディガーも、キャロルも、そしてマリルも。


「マリル。私たちはあなたに生きて欲しいの。お願いよ」

「お、お母様……」


 涙を流すまいとマリルは、震えていた。

いつも強く国民を支えていた少女は、ここで見せる親の(わがまま)を聞いてしまった。


「最後の星よ、最後の聖女よ。ウレタが潰えようとも、お前が生きていれば再び輝く。我らの命を背負って、どうか」

「逃げ延びて、生きて」

「……………わ、わがりました。援軍を呼び、戻ってまいります……!」


 マリルは両親を見据えていた。しかし視界がぼやけてよく見えていなかった。

だがそのぼやけた視界のなかでも、二人が優しく微笑んでいるのは、しっかりと見えていた。



 ◇◆◇◆



 ジョルネイダ王国、城――

兵士が血相を変えて部屋に飛び込んでくる。


 現在は国の長であるテオフィル大公直々に、召喚に成功した勇者への各種説明を行っていた。

召喚によって人員が圧倒的に減ってしまったことと、勇者様を相手できるのは自分だけだというテオフィルによって、この役割となったのだ。

 だから緊急事態が発生した場合、こうして大切な話に割り込まねばならない。


「大変です、大公様!」

「騒がしいぞ。今は私とオーレリアンで、勇者殿にご説明を――」

「イザーク・ゲオルギーが、逃亡しました!」

「……何?」


 不躾な兵士を叱ったテオフィルだったが、兵士の言葉で全てが変わった。

()()()()()()()()()のである。

 名前を知らない勇者三人は、その言葉にお互いの顔を見合わせた。


「イザーク?」

「誰なんですか?」

「あ、あぁ……。そうだな……。オーレリアン、彼らに説明をしてあげてくれ。私は詳しい状況を聞いてくる」

「か、かしこまりました……」


 顔面蒼白でテオフィルが退室する。これから胃痛と頭痛に、悩まされる日々がやってくるのだ。

オーレリアンも同情と、己の胃痛の心配をする。


「で、誰なんだよ。オーレリアンのおっさん」

「はい、イチノ様。イザーク・ゲオルギーとは、我々ジョルネイダ公国が危険とみなした――魔術犯罪者です」


 豊成に問われて、オーレリアンが丁寧に答える。

いずれは彼らに伝えねばならない内容だったため、ここで伝えるのも何かの運命なのだろうと腹をくくる。

 そしてその話を聞いた三人は、驚いたり怯えたりと様々な反応を見せた。


「マジ?」

「そ、それが逃げたってことですか?」

「ええ……そのようです」


 兵士が嘘をついているとは考えづらい。この戦争前のタイミングで、そんな冗談をわざわざここに来てまで言うなどというのは、想像も出来ないくらいの馬鹿しかいない。

だから彼の話は本当であり、これからジョルネイダは戦争と逃げた犯罪者の始末に頭を抱えることとなるのだ。

 オーレリアンは、施設の説明も含めて彼らに話始める。


「居住地区とは遠い、砂漠にある牢獄に入れていたのです。万が一逃げたとしても、数日は砂漠を彷徨うことになりますから。大抵の犯罪者はそこで死んでしまうのです」

「サラっとコエーこと言ったな……」

「じゃ、じゃあイザークという人も?」


 少しホッとしながら、新菜がオーレリアンに問う。

もしもイザークが砂丘を彷徨って死ぬのであれば、それはそれで安心とも言える。

 しかし兵士の焦り具合と、オーレリアンとテオフィルの疲弊具合から考えれば有り得ないことだ。

新菜にはそこまで考えが至らなかったようで、苦笑いしながらオーレリアンが答える。


「それが……。イザークは我々の想定しているレベルよりも、遥かに高いレベルでして。…………もしかしたら、勇者様がたには、戦争よりも先にイザークの処理に向かっていただくかもしれません」

「えぇ?!」

「でも高いレベルなんですよね?」

「俺らじゃ無理じゃね?」


 うんうん、と豊成と健斗が頷く。

相手が高レベルなのであれば、三人で処理するのは難しいのではないかと。


「いえ、高いとは言っても勇者様と比べれば、関係ないレベルです。我々一般人にとっては脅威ですが、勇者の加護があるあなた方ならば問題ないでしょう」

「えっ、でも、戦争は? どうなるの?」

「戦争といっても……大した規模ではありませんから。どうせ例年通り我々が敗北するだけです」

「……」


 自虐も含んだようなオーレリアンの言葉に、新菜は呆れながら黙った。

 そんなタイミングで、外へ出ていたテオフィルが部屋に戻ってくる。

扉の方へ目をやれば、至極疲れた表情のテオフィルが立っていた。もう既に頭痛もしているのだろう。表情だけでなく体調も悪そうに見えた。

 オーレリアンもそれにつられながら体調を悪くしつつ、テオフィルに状況を尋ねる。


「如何でした?」

「……すまない。三人には、砂丘に入り捜索を願いたいのだ」

「!!」


 三人に衝撃が走った。先程まで聞いていたこれからの説明と、真逆を行くことを言われたからだ。

北で行われる戦争ではなく、南の砂丘へ犯罪者の捜索をしてほしいと。

 別段断る理由もない彼らだったが、あまりにも異なる願いに驚いていた。


「イザーク・ゲオルギーは、禁忌とされる魔人化の魔術を用いたとのことだ」

ウレタの名前の付け方は、名前・親の名前・苗字です。

親の名前の部分には、男ならば父方、女ならば母方が入ります。

ロシアみたいなモンですね。変形はしませんが…。


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