虐殺テレビジョン
「二時間で二人。次の二時間でまた二人。次に一時間で一人。
一日で五人も。噂は本当だったんだな」
人を殺しまくるテレビがある。そんな噂が流れていた。
青年はその噂に興味を持ち、そのテレビの動向を探っているところである。
偶然にも青年は、その殺人テレビのある家の住民だったため、
これ幸いと調査をしている。
「今週、今日は水曜日。一週間で何人殺してるんだ、うちのテレビは?」
窓の外に視線をやって、青年は溜息をついた。
一週間の間で、いったい何人自分の家のテレビは人を殺しているのか、と。
「後四日か」
めんどうそうにつぶやいて、青年は気持ちを新たにした。
*****
「一週間、昼までで15人。ほんとに、虐殺テレビだな、こりゃ」
日曜日の昼間、調査終了とばかりに青年は苦笑いをし、
そして食事のためにリビングに向かった。
「ほんと、サスペンスとかミステリーとか見すぎだろ」
食事を始めて開口一番、青年は目の前の家族に愚痴るように発した。
「しょうがないじゃない、他に見る物お昼にないんだから」
母親に切り返されて、「それはいいんだけどさ」と青年が切り返す。
「ボリュームでかすぎるんだって。
『またあそこのうち殺人事件起きてるよ』って、ご近所さんの笑いものなんだぞ。
『人を殺しまくるテレビ』って、都市伝説みたいな扱いまでされる始末だし」
「ああ言うのは迫力が命だろうが、小さいボリュームで見てたら台詞聞き取りにくいし」
父親が軽口を返して来る。
「たしかに、音楽が無駄にでかいからその気持ちはわかるけどさ。台詞まででかいから、
ご近所さんになに見てるか丸わかりなんだって。俺なんか最近じゃ
パトカーの音が実際鳴ってても、またドラマかって思うようになったよ。
狼少年状態だよ。ほらぁまた人死んだー」
「で、お兄ちゃんはうちがいったい一週間に何本そういうドラマを見てるか
興味が出て調べてたってわけか」
妹が訳知り顔で納得している。
「そういうこと。とりあえず。五つはボリュームさげてくれ。
ご近所さんに見られると、『今日は再放送だったわねー』とか、挨拶代わりに
うちのチャンネル事情をネタにされて恥ずかしいんだよ」
息子にそう言われた両親、母親が先にリモコンを操作するため食卓を立った。
流石にご近所さんにプライベート丸聞えは、両親に羞恥心をうんだようである。
「これで都市伝説はおしまいだ」
「そっかー。ちょっと、この迫力が癖になってるとこが、
ないわけじゃないんだけどなー」
「バカ、そういうことはこっそり言え! ほらボリューム戻しただろう!」
悲痛な兄の叫びがリビングにこだまするのであった。
とある家には、人を殺しまくるテレビがある。
たとえ隣近所にそのテレビの動向がわからなくなったとしても、
その殺害件数が減ることは、なさそうである。
FIN