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巡愛〜お試しからはじまる運命の結婚  作者: 猫の玉三郎


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22/22

22話

 葵がすぐに駆け寄ってすすきを抱き上げる。


「よかった、無事でよかった」


 強い抱擁は苦しいけれど、今はそれすらも嬉しい。口に噛まされていた布はすぐに取り払われた。


「葵さん」


 安心感から涙がこぼれる。腕を回したかったけれど、拘束されてそれができなかった。葵はそれに気付くと抱えて素早く移動した。それはシルバーのセダン車で、葵が普段運転していたものと違う。警察のものらしい。後部座席へ運び込まれるとハサミで結束バンドを切り落とした。


 手が使えなかったせいで涙は拭えず顔はぐちゃぐちゃ、髪だってボサボサだ。それでも葵に抱きついた。なによりもまず葵に会えたことが嬉しかった。


「葵さん、わたし」

「うん」


 どんなに脅されても、心を預ける相手は間宮じゃない。ぜったいに間宮なんかじゃない。


「わたし、葵さんの奥さんです」

「……うん」


 言っているうちに堰を切ったように涙があふれ、声を出して泣いてしまった。葵はそれを優しく包み込み、背中をさする。その時に首すじの噛み跡に気付いてしまったらしい。葵の声が一段低くなった。


「ごめん、怖い思いさせてしまった。もっと早く気付いてれば」


 ううん、と頭を横に振る。葵は何も悪くない。間宮に着いていったのは自分だ。むしろどうしてここが分かったのか不思議でたまらない。


 飯島が濡れたタオルを持ってきてくれたので、葵にされるがまま顔や体を拭かれ、あちこちにあった小さなケガを手当てされた。そうしていると応援で呼ばれたパトカーが数台来て、現場がどんどん賑やかになっていく。しばらくして疲れた顔した神谷が煙草を吸いながら車へと戻ってきた。間宮はパトカーで移送されるらしい。


「あとで君にも署で話を聞かなきゃならん。つらいと思うが勘弁してくれ」


 眉間のしわを深く刻みながら神谷は言った。間宮には他にも嫌疑がかけられていて、これから取り調べが行われるそうだ。


「事件の経緯は葛葉がよく知っているから後にでも聞いておけ。どうしてこの場所がわかったのかもな」


 暮れかけた空に神谷の紫煙がゆらりと浮かぶ。


「送ってく。ふたり仲良く昼寝でもしてろ」


 後部座席で揺られていると、一度だけ葵がキスをしてきた。前の二人から隠れるようにこっそりと。でもすぐに神谷が咳払いをしたから、きっとバレバレだったのだろう。



 ◇



 ビルの三階、葵の部屋まで戻るとすぐさまお風呂に入れられた。間宮からされたことを話したせいか、消毒だなんだと言って頭から足先、指の間まできれいに洗われてしまう。


 それから潤の作ったご飯を食べて、二人並んでソファに座った。すすきはくったりと背もたれに身を預け、今日あったことをぼーっと思い出す。


 芽衣には葵から連絡してくれたそうだ。待ち合わせ場所に現れないからかなり心配していたらしい。すすきは無事だと連絡をしてあるから、明日改めて謝ろうとすすきは思った。間宮に捨てられたスマホは葵がすでに手配してくれたそうで、明日こちらへ届くようになっている。本当に葵には頭が上がらない。


「ごめん、すすきちゃんの場所が分かったのはこれなんだ」


 葵はそう言うと、すすきの首から下げた小さなお守りへ手を伸ばした。巾着の中から出したのはいつもの白い人型の紙、そして見慣れないシールのようなものだった。巾着の中に入れられるくらいに小さくてペラっとしている。


「これGPS。前に、すすきちゃんひとりで買い物に行った時あったでしょ。あの時どこに行ったのか本当に心配で、次の日お守りの中に一緒にGPS仕込んだの。……ごめんね」


 ううんと首を横に振った。これがあったから早く見つけてくれたのだ。感謝しこそすれ、怒ることなんてできない。事前に言ってくれたらもっとよかったが。


「あの時……ダメかもって思ったんです。犯人を怒らせたから、捕まったら乱暴されるって。でも白い蝶が現れたとき、すごく安心しました。葵さんが来てくれたんだと思って本当に嬉しかった」


「俺の仕事ね、世間じゃだいたい拝み屋って言われてるの。仕事はいろいろだけど、たまに警察と協力して事件解明に協力したりするんだ」


 呪いや結界などの呪術に詳しく、白い蝶のように形代を自由に操ることができる。その腕は方々から買われており、先日の鹿見家で殺人事件があった際に警察から協力依頼がきたのだという。というのも香奈の部屋から父親を呪う呪物が出てきたので事件の関係があるのか調べてほしいとのことだった。


「代々そういう仕事してるから陰陽師って名乗れなくもないんだけど、自分からはあんまり言わないな。幽霊退治みたいなのはしてなくて、その代わり企業や国の相談に乗ってる」


 失せもの探しもできるらしい。以前ひったくられたすすきのバッグもそうやって探し当てたんだそうだ。


「客観的に見てうさんくさい商売ってのは自覚があるから中々言い出せなかった。収入はそこそこあるから……その、すすきちゃんに苦労はさせないよ」


 言いながらだんだんと葵の声が萎んでいく。代わりにほんのり頬が赤らんだ。


「俺と、結婚してほしい」


 お試し結婚最終日の夜。改めて送られたプロポーズに、すすきは「はい」と頷き葵の胸に飛び込んだ。



 ◇



 数日後、すすきは芽衣と一緒に潤の喫茶店へと来ていた。心配をかけたことを謝り、近況を語らうためだ。芽衣は事件に巻き込まれたことを「大変だったね」と労いつつも、よく知らない男の人には気をつけろと口酸っぱく注意をされた。素直に聞くしかない。


「その間宮ってやつ、あのやばい女のストーカーだったんだね。フラれて激昂した元交際相手がお父さんをぐさり、そんでその元交際相手を間宮がぐさり」

「……ラッキーだって言ってた。わたしのことも、鹿見香奈さんのことも、突発的な犯行だったって供述してるんだって」

「殺人にラッキーも何もないよ、イカれてる。そんなヤツに目を付けられるんだから、すすきもやっぱり不運だわ」


 そして話題が葵に移ると芽衣は声を潜めた。


「拝み屋さんってようは霊能力者みたいに除霊や占いするんでしょ。葵さんはまたちょっと違うっぽいけど」


 ちょっと怪しさ感じちゃう、と芽衣は不安そうに息を吐いた。確かに葵のことを何も知らない状況で聞かされていたら不安に思ったかもしれない。でもすすきは葵自身からきちんと説明を受けたし、それが人を騙すような商売じゃないと分かる。


「すすきは葵さんのそういう不思議な力、見た?」

「うん。それでいろいろ助けてもらったの。それに不運を代わりに引き受けてくれるお守りもらってから、今まであったようなことなくなったよ」

「それはすごい」


 芽衣が感嘆な声をもらしていると、潤がまだ湯気の出るナポリタンを運んできた。すすきには黄色いくてツヤツヤのオムライスだ。潤は涼しい笑みを浮かべ、ふたりの会話に混じった。


「葵はあんまり言わないけど、あいつの家系はすごく古い時代からあって、それこそ平安時代の陰陽師に繋がるんだよ。実家も由緒正しいお屋敷って感じ。警察に依頼されるくらいには信用あるし、そこらの胡散臭い人たちとは一緒にしないでほしいかな」


 じゃあごゆっくり。そう言うと潤はキッチンの方へ戻って行った。後ろ姿を目線で追いつつ、芽衣は腕を組んで考える。


「うーむ、ガチの能力者ってことか。もしかして自分の前世がどうだったか聞いたら教えてもらえるかな」

「聞きたいの?」

「うん。もしかしたら私、前世で美味しいナポリタンを食べれないまま死んだんじゃないかと思うの。私が今世でナポリタンを求めるのは運命なんだよ」


 大まじめに言うものだからすすきは思わず笑ってしまった。芽衣がナポリタンをフォークに絡めながら、目を輝かせる。


「前世で成しえなかったから、今世でことさら惹かれる。これは運命と言っていいわ。魂が求めているのよ」

「じゃあ最高のナポリタンを作ってくれる人がいたら芽衣の運命の人になる?」


 芽衣がちらりと潤を見た。ぷうっと頬を膨らませる彼女がとても可愛らしい。


 葵との縁が前世からのものなのか、すすきにはわからない。でも、葵がたくさん助けてくれたから今こうやって友人と笑っていられる。


 感謝してもし尽くせないし、葵にどうやって恩を返そうか今でもわからない。だからまずは側にいよう。


 定められた道を歩むことが運命と言うのなら、その道を葵と一緒に歩いていきたい。そう思ってすすきは柔らかい笑みを浮かべた。

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