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ルデウスの放った風の刃はユナの剣によって払われレイバンが隠れた馬車を切り裂いた。
「うわっ!」
「レイバン!くそっ!!なんて奴だ。」
刃が馬車に向かってきた事で驚いたレイバンが尻もちをついたがその身に傷はない。
だがルデウスは自分の魔法が払われた事とレイバンにそれが向いた事に更に腹を立てた。
「忌み子の分際で調子にのるなよ。お前なんか魔力しか利用価値の無い存在のクセに何様のつもりだ!」
「調子にのってるのはお前だろ。」
ルデウスの背後から聞こえたその声は震える程の怒気を含みルデウスの身体の自由を奪った。
「な、なん……かか身体が……。」
「バーン、お疲れ様。」
「ああ、まったく骨のない奴らばかりだったから楽だったが…あの国大丈夫か?」
ユナが引き付けている間に全ての兵を無効化したバーンがルデウスの背後から顔を出した。
ルデウスは目を動かしいつの間にか足元に倒れている兵達に驚愕の表情をみせ顔色がみるみる真っ青になっていく。
「まあ、楽に片付いたなら良かったって事で。」
「そうだな。」
ユナは転がっている兵達とルデウスを木に巻きついていた蔓を操作し拘束していく。
馬車の影でしりもちを着いていたレイバンがそっと顔を出すと尊敬する兄に蔓が巻きついてる様子が目に入る。
「兄さん!」
飛び出したレイバンは護身用に持っていた短剣を取り出し蔓を切ろうとするが、バーンによってその手をひねりあげられ地面に叩きつけられる。
「うぐっ…。」
「レイバン!!くそっ!」
「心配しなくても殺しはしませんよ。」
ユナがイヤーカフでハルバードに連絡すると直ぐに数人の兵を連れたグロースライダーとハルバードが現れた。
「このような再会となるとは残念ですね。お二方には来た道を戻っていただきます。
もちろん荷物に紛れ込ませた我が国の宝を救出させていだいた後になりますけどね。」
地面に這いつくばるルデウスを馬に乗ったグロースライダーが見下すと、ルデウスはグロースライダーを睨みつけた後にユナに視線を移し蔑むように笑った。
「なんだ…そういう事か。他国の王子を垂らしこんでいたとは…この売女めっ!」
ルデウスの暴言にユナはまったく反応しなかった。しかし、レイバンを縛り終わったバーンと馬から降りたグロースライダーがルデウスの顔の数ミリ前に剣を突き立てる。
視線で殺せそうな程の鋭い目つきの二人は顔面を蒼白にしたルデウスに一言だけ言い放った。
「「黙れ。」」
ユナは自分の為に怒ってくれる存在に心の中で「ありがとう。」とそっと呟いた。




