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「兄さん、上手くいきましたね。」
「そうだな。こんな作戦を思いつくとは流石はレイバン、自慢の弟だ。」
「そんな、僕はただ少しでも兄さんの…家族の助けになりたかっただけです。」
アルベール国の街を出た街道を走る馬車の中、互いを讃え合うガラガ王国の二人の王子は上機嫌だった。
ガラガ王国を離れた事で毎日死にそうになりながらしていた魔力の供給から解放されて身体の調子も良い。
帰国すればまた死にそうな日々は戻って来てしまうが、それも直ぐに改善される。
「態々この俺が出向いたのに結局アレが見つからなかったのは腹立たしい気持ちもあるが…。」
「兄さんの手を煩わせるなんて許されない事ですからね。まったく困った方です。」
「もし連れ戻されたら俺自らお仕置をしてやらなきゃいけないな。」
「なら僕もお手伝いさせて下さいね。」
二人の王子の笑い声は馬車の外まで聞こえる程だったが、馬車が乱暴に停められ大きく揺れた事でそれは途絶えた。
「うわっ!」
「何事だ?!」
状況を確認しようとルデウスが馬車の扉を開けて外に出ると兵達がわらわらと前方に集まっていた。
前を開けるよう命令し兵達をどけると丸太が横たわり道を塞いでいるのが確認できルデウスは溜息をついた。
「道の整備も出来ないとは、アルベールもたかが知れてるな。」
ルデウスがあまり得意ではない魔法で丸太を切り裂こうと右手を突き出したその時、ふと後方に何かを感じ振り向く。
ルデウスはいつの間にかそこに立っていた存在を憎々しげに睨みつけた。
「お前…。」
「お久しぶりです。私を探していたのでしょ?逢いに来てあげましたよ。」
「はっ!馬鹿め!!自分からのこのこと出てくるとはな。」
「愚兄の貴方に馬鹿呼ばわりされるなんてとても遺憾ですね。ああ……愚かなのは弟もでしたね。
馬車の中にいるのでしょう?出てきたらどうですか。」
馬車の中で会話を聞いていたレイバンはノロノロと馬車から降りてくるとユナに向き直った。
「兄さんを馬鹿にするような態度は許されない。」
「馬鹿にするようなじゃなくて馬鹿にしてるんですよ。貴方を含めて。」
「調子にのるなよ~!レイバンどけっ!!」
怒り狂う兄の言葉にレイバンは素早く馬車の影に隠れる。
それを確認すること無くルデウスは腕を突き出し風の刃をユナに向けて放った。




