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平和にとはいかなかったが食事を終えたユナは宿屋の庭に向かった。バーンは当然のようについてくるが、追い払おうとしても無駄の為放っておく。
庭で今日買ったレイピアを抜くと木に向かって突き立てる。
城では剣の師匠はつけて貰えなかったが、兄達の練習を盗み見ていた。兄達の練習相手の中にレイピアを使っている者を見かけた事があった為、何となくではあるが扱い方はわかっていた。
ユナに無視されるので黙って練習をみていたバーンだったが、あまりの拙さに流石にみていられなくなった。
「その武器を扱うのは初めてのようだが、型が酷い。それで魔物を狩りに行ったら間違いなく死ぬな。」
「う、わかってるわ。だから練習してるじゃない。」
素直に自分の剣の実力をわかっているユナはバーンの言葉に少し拗ねながらも練習をつづける。すると、バーンが近づいてきてユナの手の位置や姿勢を直し始めた。最初は触られた事に不快感を感じて殴りかかろうとしていたユナだったが、バーンの顔は真剣なものだったので黙って従った。
「うん。基本の型は少し良くなったな。」
月が真上に来る頃、バーンの指導のおかげで良くなった自覚のあるユナは「ありがとう。」と一言だけ伝えて部屋に戻った。
部屋に入ると汗を流しベッドに横になりながらユナはバーンについて考えていた。先程指導を受けた時、凄く分かりやす師になって欲しいと思った。しかし、出会いも最悪でバーンの性格も最悪。
今のところ剣以外のところで尊敬出来ない。
考えた結果やはり別の師を探すしかないかという答えにいきついた。
一方、バーンはユナが部屋に戻った後も宿屋の庭で月を見ながらユナの事を考えていた。
バーンはユナの事を冷静に分析していた。
昨日ユナが着ていた服は一般人にしては良い生地の物で、ユナ自身も肌も髪も綺麗に磨かれ剣の扱いもあまり知らない様子から、身分ある家の出の可能性が高いと当たりをつけた。今日の服装は一般的なものになっていたので自分で気づいたか、アドバイスした者がいるのか定かでは無いが一人で居させるにはいささか不安がある。
「しばらく一緒にいるか。」
バーンは暫くユナのストーキングをする事にし、まずは宿屋の親子の買収に向う事にした。母親のヘレンはともかく、娘のカレンなら良い協力関係が築けるだろうとバーンはニヤニヤしながら宿屋の中に戻った。